モカリナの家、初めての貴族の家

第70話 モカリナから食事のお誘い


 フィルランカが、入学して3ヶ月が経過した頃、入学当時に言われていた、フィルランカが、皇帝陛下の落とし子と言う噂話は、終わりを告げていた。


 そして、その噂話の真相を、フィルランカに直接聞いた生徒は誰もいなかった。




 中間考査も終わり、順位が掲示板に書かれると、フィルランカは、学年2番をキープしており、そして、モカリナは、9位から7位に順位を上げていた。


 そして、フィルランカとモカリナは、モカリナの勧めもあって、1年生の授業が終わった後、1コマだけ、3年生に混ざって、2年時の補講に入っていた。


 高等学校では、通常の授業の他に、救済措置として、授業の後に補講が行われていた。


 1学年で単位を取れなかった生徒のために、翌年にもう1度授業を受けることが可能なのだ。


 そんな中、フィルランカとモカリナは、早く単位を取得するために、3年生が2年の補講を行なっている授業に参加したのだ。


 その授業もフィルランカとモカリナは、順調にこなしていた。


 もし、補講で単位を取得できれば、2年次にその授業は受けなくて済むので、その空いた時間に今度は、3年生の授業を受ける事が可能となる。


 2人は、それを利用して2年で飛び級して卒業を狙っているのだ。


 2人は、お互いに授業内容を確認しつつ、理解を深めていたので、モカリナも成績を上げていた。


 ただ、フィルランカの次席は、変わる事がなかった。




 そんな、日々を送っていた週末に、いつものように、2人で授業後に、簡単に授業の復習をしている時、モカリナが、フィルランカに声をかけてきた。


「ねえ、フィルランカ。 明日は、学校が休みなのよ。 それでね、うちの料理長が、新しい料理を覚えたので、試食会をしたいと言うのよ」


 モカリナは、ニヤリとしながら、フィルランカに話をする。


「へーっ、そうなの、羨ましい話だわ」


 フィルランカは、授業の内容を確認しつつ、モカリナに答える。


「フィルランカは、食べてみたいとは思わない?」


「ええ、貴族の方の料理って、どんなものなのか、食べてみたいけど、私は、貴族の方々のマナーなんて知らないから、無理ね」


 その答えにモカリナは、やっぱりと思ったのだろう、フィルランカの答えを知っていて聞いたようだ。


「フィルランカは、第1区画のお店で、テーブルマナーを教わっているでしょ」


「ええ、一番最初に入ったお店の副支配人さんが、丁寧に教えてくれたので、しっかりと覚えてます。 それから、他のお店でも、テーブルマナーで注意を受けた事は無いわ」


 モカリナは、意地悪そうな笑いを浮かべる。


「その、フィルランカが、一番最初に入った、お店の副支配人だけど、その人、私のテーブルマナーの先生だったのよ。 その人の事は、殆どの貴族が知っているし、貴族の生徒も多いのよ」


「あら、モカリナも、副支配人さんから、テーブルマナーを教わったのですか。 知りませんでした」


 すると、フィルランカは、視線を上に上げて、何やら考える様子をする。


 そして、考え事をしつつ、フィルランカは、モカリナに聞く。


「ねえ、モカリナも副支配人さんから、テーブルマナーを教わったのよね」


「そうよ。 あなたと私は、同じ人からテーブルマナーを教わったのよ」


 モカリナは、面白そうにフィルランカを見る。


「だったら、私は、いつものように食事をしたら、貴族の方々と同じテーブルマナーになるのかしら」


「そうよ。 あなたのテーブルマナーなら、どこの貴族と一緒でも見劣りはしないわ。 先生もそう言ってたわよ」


 それを聞いて、フィルランカは、また、考え込む。


「フィルランカ。 私の家で、うちの料理人の新作料理を食べてみたいと思わない?」


 フィルランカは、その一言で上に向けていた視線を横に居るモカリナに向ける。


 そして、モカリナの手を取る。


「モカリナ、いえ、モカリナ様。 お宅の料理長の新作料理を、私にも食べさせてもらえないでしょうか?」


 フィルランカは、真剣にモカリナに頼んだ。


 モカリナは、嬉しそうにフィルランカを見る。


「ええ、もちろんよ。 明日の昼食にご招待するわ。 だから、明日、あなたの家に、うちの馬車を迎えに行かせるわね。 それと、エルメアーナも一緒でも構わないわ。 私と3人で一緒に食事をしましょう。 そしてお喋りもしたいから、その後は、お茶会ね。 ああ、ちゃんと、夕食の準備ができる時間には帰しますから、安心してね」


 フィルランカは、モカリナの手を持ったまま、うんうんと頷いていた。


「ありがとう、モカリナ。 私、一度でいいから、貴族の方々の食事を食べてみたかったのよ。 絶対に行くわ。 本当にありがとう」


 モカリナは、そのフィルランカの真剣に聞く様子を、少し、申し訳ないような様子で聞いていた。


 モカリナとしたら、フィルランカともっと、親しくなりたいと思ってなのだが、あまりに、フィルランカが、乗り気で迫ってくるので、なんだか申し訳ないような思いになってしまった。


 しかし、フィルランカとしたら、カインクムに食べさせる料理のメニューが増えると思えば、こんな嬉しいことはないのだ。


 モカリナからの申し入れは、とてもありがたいことなのだ。

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