第67話 モカリナの思惑
フィルランカは、モカリナが言った皇帝陛下の落とし子について、自分がそうなのだという話が、理解できない様子だ。
モカリナは、ここまではっきり言っても、理解できてないフィルランカを見て、ヤレヤレといった様子で見る。
「あのね、噂の内容は、フィルランカという皇帝陛下の落とし子を、侯爵家の四女である私が、護衛していると言われているのよ」
フィルランカは、モカリナの話を聞いて、なんとも言えない表情になり、前を向くと上の方を見る。
少し時間は掛かったが、今の話を考えると、やっと、話が理解できたのか、モカリナに顔を向ける。
「そうなの、皇帝陛下の御息女様も、私と同じ、フィルランカという名前なのね。 何だか、光栄だわ」
それを聞いて、モカリナは、流石に力が抜けて机に伏せてしまった。
「どうしたの? モカリナ」
(あーっ、1ヶ月近く付き合ったけど、ここまで、天然とは思わなかったわ。 何で、フィルランカという名前を持つ生徒が、他にも居るとなってしまうのよ)
流石に、もうダメだと思ったようだ。
「あのね、皇帝陛下の御息女と言われているのは、あなたなのよ。 今、私の目の前に居るフィルランカが、皇帝陛下の落とし子だと言われているのよ」
そこまで、言われると、フィルランカは、困ったような表情をする。
そして、その表情が、だんだん強張った表情に変わる。
「ねえ。 なんで、そうなるのよ。 私は、ただの孤児よ、父親どころか、母親の顔だって知らないわ。 皇帝陛下が、そんな訳のわからない女性に子供を産ませる訳ないでしょ」
そう言ってモカリナに食ってかかる。
「こうしてはいられないわ。 その噂話を否定しなくちゃ」
そう言って、立ち上がろうとしたフィルランカの腕を、モカリナが持って、止めようとする。
「ああ、やめた方がいいわよ」
「なんでよ。 そんな噂話が、流れていたら大変なことじゃないの」
「だめ、無理よ」
「なんでそうなるのよ」
「きっと、否定したら、真実を隠すために本人には、そう言うようにと言われているんだとなるわ」
「じゃあ、どうするのよ」
「どうもしないわ。 言いたいなら言わせとけばいいのよ。 周りは、要するに面白ければいいのよ。 持て余した時間を潰せればいいのだから、真相は何でもいいのよ。 要するに私たちは、娯楽なのよ。 ご・ら・く」
フィルランカは、困ったような表情をする。
そんなフィルランカを、何でこうなるのかと思ったようだ。
「だって、あなたは、ミルミヨルさん達の店の宣伝をしたのだって、あなたの噂話がきっかけでしょ。 あなたは、てっきり、自分の噂話なんて、全く気にしないのかと思ってたわ」
「えっ!」
フィルランカは、あっけにとられる。
「あなた、5・6年前から、あちこちのお店に行っては、色々、食べていたでしょ」
「ええ」
「あなたは、花嫁修行のため、お店の味を味わっていたでしょ。 それを自分でも作れるようになって、未来の旦那様のために料理を作ってあげるためだったでしょ」
「ええ」
フィルランカは、カインクムのために料理を作れるようになろうと、美味しい料理を覚えるために、食べ歩いていたのだ。
それをモカリナに指摘されると、恥ずかしそうに顔を赤くしたのを、モカリナは、面白そうにフィルランカの顔を覗いている。
「未来の旦那様のために、美味しい料理を食べさせたいと思う少女が、色々な、お店の料理を食べて、味を覚えている。 そんな噂話が、あったから、ミルミヨルさん達は、フィルランカに、色々、用意してくれたのよ」
フィルランカは、なんでと思ったようだ。
その様子を見て、また、理解できないのかとモカリナは思ったようだ。
「そんな噂のフィルランカが、新しい衣装を着て、靴を履いて、髪の毛も綺麗になって、食べ歩いていたのよ。 その間、どれだけ、人に話しかけられたのよ」
(ああ、そうね。 みんなから、色々、聞かれたわね)
フィルランカは、納得したような表情をしていた。
「あなたの噂話に、ミルミヨルさん達が乗っかったのよ。 もし、あれが、私だったり、あなたのところのエルメアーナだったら、意味は無かったの。 あなたの噂話があったから、ミルミヨルさん達は、あなたを使ったのよ。 噂話があったから、あの人達は、それに乗っかったのよ。 だったら、今度も、それを使えばいいのよ」
(あら、ミルミヨルさん達は、そんな事を考えていたの。 私は、ただ、言われた通りの事をしただけなのだけど、でも、言われてみたら、その通りなのかもしれないわね)
フィルランカが、ボーッと考える様子をしているのを、モカリナは、覗き込むように見ている。
(フィルランカったら、本当に分かっているのかしら? あーっ、でも、絶対に、フィルランカったら、ふーんだけで終わっているわね。 これからの事まで、全部、伝える必要がありそうね)
モカリナは、フィルランカの様子を見て、軽くため息を吐くと、諦めたのか、真面目な様子になる。
「だから、あなたは、その噂を否定も肯定もしないでおくのよ」
「えっ! なんで?」
フィルランカには、噂話をそのままにしておく必要がなんであるのか気になった。
「だって、ここの生徒達って、半数は貴族で、半数は、商会関連の人たちなのよ。 そんな中で、フィルランカのように、大きな商会に所属してないお店の子供で、なおかつ、孤児院出身となったら、いじめの対象になりかねないわ。 だったら、このまま、否定も肯定もせず、ほったらかしにしていたら、今の状況を維持できるわ」
「はぁ」
フィルランカは、よく分かってないような返事をする。
「とにかく、あなたのためだから、この噂話は、知らん顔で、放置しておくの。 もし、何か聞かれたら、“何の話ですか?”とか、“仰る事がよくわかりません。”とか、そう言うのよ。 絶対に否定も肯定もしないのよ。 分かったわね」
「はぁ」
フィルランカは、何でなのか理解できない様子で聞いている。
「いいこと、あなたは、目立ち過ぎているのよ。 その噂話を利用するのよ。 今の噂話なら、あなたに危害を加える人はいないでしょ」
(目立ち過ぎる? 皇帝陛下の隠し子みたいな話より、目立つ話って何なの? 私の食べ歩きって、そんなに目立つ事だったのかしら?)
フィルランカは、何のことなのかと気になった様子でいる。
(もう、フィルランカったら、自分が次席入学だったのよ。 主席は、そっちの隅の机に座っている人だけなのよ。 首席は貴族だけど、あなたは、ただの帝国臣民なのよ。 妬みや嫉みがあっても可笑しくないでしょ。 でも、それに私としたら、周りが遠巻きにフィルランカを見ている、この関係を維持できるから、都合がいいのよ)
フィルランカは、皇帝陛下の落とし子と囁かれるようになり、そのお陰で、周りの生徒は、遠巻きにしているのだ。
それは、フィルランカと友好を深めたいモカリナにしてみたら好都合な状況なのだ。
モカリナとしてみれば、今年度の次席と友好的な交流を持てて、卒業後に帝国大学へ進もうと考えている帝国臣民であって、貴族からも商会からも大きな影響下に無いフィルランカなら、自分のこれからの将来には、大きな助けになる。
ならば、ここで、フィルランカを利用しようと考える生徒達に牽制となる、この皇帝陛下の落とし子という噂話は、モカリナにも都合が良いことなのだ。
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