第66話 フィルランカの噂話


 フィルランカの学校を辞める騒動が、ひと段落する頃になると、学校の様子が変わってきた。


 それまで、思い思いの衣装で学校に来ていた生徒達に変化が起こったのだ。


 その変化は、女子生徒に限ったことだったのだが、徐々に、フィルランカと同じ衣装を着る生徒が増えてきたのだ。


 時々、色違いも居たが、基本は、紺、濃いグレー、エンジ色など、濃い色の服を好んで着るようになっていた。


 そして、その下には、白のブラウスを下に着る。


 フィルランカのウエストを絞る衣装が、ウエストの脂肪を上に押し上げてくれることで、その押し上げられた脂肪は上へと押し上げられ、その結果として、胸が大きく見える効果が出たのだ。


 その衣装が、とても周りには魅力的に写ったので、高等学校の女子生徒達は、こぞって、ミルミヨルに頼みに行ったのだ。


 入学式の日には、ショウウインドウに飾っておいた衣装も、他に数着準備をしていた衣装も、サイズが合った生徒が買っていってしまったが、他の女子生徒は、ミルミヨルに頼んで、自分用に作ってもらったのだ。


 その衣装を着る前と後を確認していた上級生達が、その生徒達の変わりようを見て、どこで買ったのか問い詰められたのだ。


 新入生達からミルミヨルの店の話を聞きつけた上級生達も、続いて、ミルミヨルの店を訪れるのだった。


 ミルミヨルは、注文は聞くが、完成は、3ヶ月後になってしまうとなり、困ったミルミヨルは、取引が始まっていたイスカミューレン商会に相談に行った。


 ミルミヨルの話を聞いてくれたのは、イスカミューレン商会の会頭の息子である、スツ・メンサン・イルルミューランだった。


 イルルミューランは、ツ・レイオイ・リズディア殿下の留学の際、一緒に南の王国の大学へ進学しいている。


 その際に一つ上に南の王国のやり手商人と言われている、ジュエルイアン・ヒメノス・トルハイマンと面識があり、ジュエルイアンを武者修行と称して、イスカミューレン商会で働かせた経緯もある。


 物静かな男ではあるが、人を見る目は一流と言われている男が、ミルミヨルの話を聞いて、二つ返事で自分の工房区の縫製士を貸したのだ。


「ミルミヨルさん。 この衣装は、とても素敵ですね。 とても学生達だけに着させておくのは勿体無い。 どうだろうか? このデザインをうちの商会でも使わせてもらえないだろうか? 当然、このデザインを使う権利を、うちの商会で買わせてもらうよ」


 ミルミヨルは、自分の店で売る事も可能となるようにして、デザインをイスカミューレン商会に売り渡したのだ。


 ミルミヨルは、思いがけない報酬を得る事になった。


 そして、イスカミューレン商会は、工房区の縫製士を総動員して、ミルミヨルの注文を1カ月で捌いてくれたのだ。


 だが、その際に、イルルミューランは、同じ物を追加で作らせていた。


 それを自分の傘下の店に置くと、こぞって、その衣装を貴族達が買っていったのだ。


 イスカミューレン商会は、ミルミヨルのデザインを応用したファッションを流行らせた。


そして、それを、北の王国でも流行らせ、更に他の国にも売りつけたのだ。


 その衣装は瞬く間に広がっていった。




 ただ、イスカミューレン商会は、大きく流行り出した頃には、このデザインの服を作らなくなっていた。


 それは、イスカミューレン商会が出した服を真似て作る縫製店が出始めた頃には、生産を中止していたのだ。


 その後は、売れ筋に乗った店が増えたため、供給量が多くなり、値崩れを起こしてしまったのだ。


 それを見越して、イスカミューレン商会は、生産を中止したのだ。




 そんな、大人の話は、フィルランカの知るところでは無かった。


 ただ、フィルランカとしたら、自分と同じ服を着ている女子生徒が多くなったと思った程度で、それ以上の事を気にすることは無かった。


 フィルランカにしたら、自分の着る衣装は、学校に通うための制服以外のものではなく、それよりも、朝、カインクムの顔を見られる事の方が嬉しかったのだ。


 フィルランカが、何で24歳も上のカインクムに思いを寄せているのか、それは、6年前にフィルランカを孤児院から引き受けた時からなのだが、6年経った今でも、いまだに、その思いは健在であった。


 カインクムとしてみれば、自分の娘が2人になって、しかも仲が良く、良い姉妹だと思っているのだが、お互いに自分の思いは、伝わっていない。


 まるで、小鳥が最初に見た者を親と思うように、フィルランカは、カインクムとの約束を大事にしているのだ。




 学校では、常にモカリナがフィルランカに連んでくる。


 特に、授業内容をフィルランカに確認しにくる。


 そして、常にフィルランカに話しかけていた。


 その様子は、周りの生徒達の間でも噂になり始めていた。


 何で、侯爵家の四女であるモカリナが、フィルランカに、ベッタリなのか、その理由が、尾鰭を付けて、飛び交っていたのだ。


 侯爵家ともなれば、皇族と血縁ではない貴族の中では最高位に当たる。


 皇帝の血縁を守るための御三家と言われる大公家、皇帝と血縁が深い公爵家、血縁ではないが、建国からの献身によって任じられた家柄となり、名門家が多い。


 ナキツ家も、そんな建国からの家系である。


 そんな侯爵家の四女であるモカリナが、フィルランカと常に一緒にいる事が、憶測を生んで、また、新たな噂話となって、学校内を駆け回っているのだった。




 フィルランカは、教室では、一番前の席にいる。


 休み時間には、2列目に座っているモカリナが、フィルランカの横に来て、前の授業の内容を再確認しているフィルランカの横に来て、他愛もない会話をするのが、日課になっていた。


「ねえ、知ってる?」


 フィルランカにモカリナが声をかけてきた。


「ん? 何を?」


 モカリナは、ニコニコしながら、フィルランカに聞くのだが、フィルランカは、モカリナ、話の内容を言わずに、聞いてきたので、フィルランカは、何のことか分からなかったので、聞き返した。


「ねえ、皇帝陛下の落とし子が、この学校に来ているらしいのよ」


 モカリナは、ニヤニヤしながら、フィルランカを見ながら説明を始めた。


 フィルランカは、自分には関係無い話だと思い、聞き流している。


 その姿が、モカリナには、面白く写ったようだ。


「ねえ、それがね、ただの臣民として、この学校に入って、とある、貴族の令嬢が、常に寄り添っているって話なのよ」


「ふーん。 凄い人が、入学していたのね。 驚いたわ」


 フィルランカは、自分には関係の無い話なので、軽く流している。


「ねえ、その帝国臣民の女子生徒と、それに寄り添う侯爵家の令嬢なんだって」


「へー。 何だか、どこかで聞いたような組み合わせよね。 ……。 ん。 ああ、私たちも、侯爵家の令嬢と帝国臣民ね。 同じような組み合わせなのね」


 フィルランカは、よく分かってない顔で答えた。


「ねえ、フィルランカ。 このクラスには、侯爵家の女子は、私だけなのよ」


 何も分かってないフィルランカを面白そうに見る。


「ああ、そうね。 モカリナが、その皇帝陛下の護衛をされているの。 まあ、私には縁の無い人だから、頑張ってね」


 フィルランカは、他人事のように答える。


 そんなフィルランカをモカリナは、面白そうに見る。


「ねえ、私が、いつも一緒にいる人って、誰なのかなぁ」


 モカリナは、意地悪そうにフィルランカに言う。


 それを聞いて、フィルランカも不思議そうに思い、モカリナを見る。


「そう言えば、モカリナは、いつも私の横にいるわよね。 それだと、皇帝陛下の御息女様の護衛はできないのではないの? それだと、モカリナは、自分の仕事ができないのではないの?」


 そのフィルランカの答えを聞いたモカリナが、思いっきり吹き出した。


 モカリナは、フィルランカが、ここまで、鈍感だとは思わなかった様子で、ツボにハマった様子で、お腹を抱えて笑っていた。


「ねえ、モカリナ。 なんで、そんなに可笑しいの? 私には何の事か分からないわ。 それに、そんなに笑ったら、皇帝陛下の御息女様に失礼ではないの?」


 その一言にモカリナは、更に可笑しくて仕方がない様子になる。


 しばらく、モカリナは笑いこけていたが、落ち着いてくると、フィルランカに聞く。


「ねえ、私が、なんで、いつもフィルランカと一緒なのか、今の話を聞いても、分からないの?」


 モカリナは、笑い過ぎて目を擦りつつ聞く。


「ねえ、モカリナ。 ここに居たら、その御息女様に失礼よ。 私の事は構わないから、御息女様のところに行ってあげて」


 フィルランカは、真剣にモカリナに言う。


 モカリナは、流石に、そろそろ、話の真相を伝えなければ、フィルランカには伝わらないと思ったようだ。


「あのね、フィルランカ。 その噂の内容に出てくる、皇帝陛下の御息女と言われている人は、あなたのことなのよ」


 フィルランカは、キョトンとした様子でモカリナを見つめている。


「あのー。 どういうことなの?」

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