第65話 退学を宥められるフィルランカ
フィルランカが、入って1ヶ月も経たずに、学校を辞めると言い出した。
それには、2人も驚き、直ぐにエルメアーナが、フィルランカを宥めに入った。
「フィルランカ。 ごめん。 私が悪かった。 これからは、ちゃんと食事をするから、学校を辞めるなんて言わないでくれ」
「……」
フィルランカの学校を辞めるが、衝撃的だったのか、カインクムは、言葉を失ったようだ。
「父! 父も、何とか言ってくれ」
エルメアーナが、困った様子でカインクムに言うのだが、カインクムは、唖然とした様子で固まっていた。
カインクムが、固まっているので、エルメアーナは、焦り出した。
「父! なんで、何も言ってくれないんだぁ! フィルランカが、学校を辞めてしまうぞ」
「あ、ああ」
カインクムも困ったような表情を浮かべるが、カインクムは、ただ、固まってしまっただけでは無かった。
「なあ、フィルランカ。 お前、歩いて学校に通うには、少し遠くないか?」
フィルランカは、学校を辞める決意をするのだが、エルメアーナには、それとどう関係があるのかと思ったようだ。
「ここから、第1区画の学校だと、歩いていたら2時間はかかるだろう」
フィルランカは、カインクムに指摘されて考えた。
(確かにそうよね。 歩いて通うから、時間がかかるのよ。 その時間のために、私は早起きをして、朝食と昼食の用意をして、2人が寝ている間に、学校に行くのよ。 そんなに時間が掛かっているから、私は、朝、2人に顔を合わすことなく、家を出て行くのよ)
「なあ、フィルランカ。 お前、地竜の馬車を使う気はないか? 乗合馬車を使うようにしたら、通学時間は、半分になるだろう」
カインクムに言われて、学校に通うのに、少し早足で歩いてはいるが、2時間は掛かっていた。
フィルランカは、通学にかかる時間が長いこともあって、早く出ていたのだ。
それが、半分にでもなれば、カインクム達が起きる前に家を出る必要はなくなり、起きた後なら、たとえわずかな時間でも、2人の朝食に付き合うことはできる。
朝食の用意をして、食べさせた後、学校に行くことも可能になる。
フィルランカの様子が、今までの般若のような顔から、いつもの顔に戻ってきた。
「そうよね。 通学時間が短くなったら、こんな事にならないのか」
フィルランカが、納得したような表情をすると、カインクムは、このまま、畳み掛けて、フィルランカの退学の危機を逃れようと思った。
「そ、そうだよ。 お前の通学時間を短縮したら、朝からフィルランカの顔を見ながら食べられるな。 俺は、3人で顔を合わせて、食事ができることが楽しみなんだ」
「そうだぞ、フィルランカ。 私も、一緒にご飯を食べたい。 3人一緒が嬉しいんだ」
2人が慌ててフィルランカを説得しようとするのだが、フィルランカは、顔を赤くして、なんだか恥ずかしそうにしている。
(もお、カインクムさんたら、私の顔が見たかったなんて、もう、なんてことを言うのよ。 ハァ〜、私は、カインクムさんに、愛されているのね)
カインクムとしたら、エルメアーナ同様に自分の子供として、愛しているのだろうが、フィルランカには、違う感情と思われていると思ったようだ。
「フィルランカ?」
不思議そうにカインクムは、フィルランカを見上げると、その声を聞いて、フィルランカは、じーっと見られていたので、顔を真っ赤にする。
「にゃ、にゃんでもにゃい」
そういって、顔を隠すようにして椅子に腰を下ろす。
そんなフィルランカを、2人は不思議そうに見る。
「なあ、フィルランカ。 通学に使う地竜の馬車はどうする」
(あぁ〜ぁ、恥ずかしい。 もう、私ったら、顔に出てしまったし、返事も、かんでしまったわ)
フィルランカは、カインクムの話が耳に入らないようだ。
「フィルランカ?」
カインクムは、心配そうにフィルランカに声をかけると、隣に居るエルメアーナが、フィルランカの肩に手を当てる。
その手に反応して、フィルランカは、立ち上がって直立不動になる。
「な、なによ。 エルメアーナ」
「いや、父が言っている、地竜の馬車は、使うのか、どうするのかと思ったんだ。 それより、何かあったのか?」
周りの様子をフィルランカは、確認すると、2人が不思議そうにフィルランカの顔を覗き込んでいた。
それを見て、更にフィルランカは、顔を赤くした。
(えっ! ええーっ! ひょっとして、私の心の中を読まれたのかしら)
「おい、どうした、フィルランカ? 地竜の馬車を通学に使うかという話はどうするんだ。 私は、少しでもフィルランカと一緒にいたい。 朝もフィルランカの顔を見たいから、地竜の馬車を使ってくれないか?」
エルメアーナは、心配そうにカインクムの提案を、賛成するように促す発言をした。
それを聞いてフィルランカは、状況が理解できたようだ。
エルメアーナを見て、それから、カインクムを見る。
2人とも、フィルランカの答えを待っていたことを、やっと、理解できたようだ。
「はい、地竜の馬車で、学校に通うようにします」
それを聞いて、カインクムとエルメアーナは、ホッとした。
そして、フィルランカも自分の思いが、2人に知られてないと思い、ホッとしていた。
「それなら、明日にでも、駅馬車の所に手続きしておく」
カインクムは、フィルランカの気の変わらないうちに話を進める。
「時刻表を確認しておく必要がある。 エルメアーナ、明日は、石板を持って一緒に来い。 出発の時刻と到着の時刻を確認しておこう」
「おお、父。 私も、フィルランカの役に立てるのか」
「ああ、そうだ」
カインクムとエルメアーナは、フィルランカの、学校を辞めると言い出したことが、非常に気になっていた。
その理由が、2人の不摂生な生活にあったので、2人のせいでフィルランカが、学校を辞めたとあっては、申し訳がたたないと思ったようだ。
「はい。 わかりました。 それでは、よろしくお願いします」
フィルランカは、いつものフィルランカに戻っていた。
そして、学校を辞めると言った時の様子と全く違うことに、逆に2人は、心配になっていた。
そして、味の薄い料理を食べ続けたのだが、流石に、フィルランカが、薄味のため、塩を取りに行くと言って動き出した。
フィルランカがキッチンに行くと、エルメアーナが、カインクムに話しかけた。
「父! フィルランカは、なんで、あんなに穏やかになったんだ?」
「そんなの俺に分かるか! お前は、女で歳も同じなんだから、お前のほうがわかるだろ! それから、お前、明日からは、もう少し早く起きるようにしろ。 俺も早く起きる。 少しでも、フィルランカと顔を合わせるようにしよう」
「分かった、父。 私も早く起きるようにする」
聞こえないように小声で話すが、直ぐにフィルランカが戻ってきたので、2人は慌てて、姿勢を正した。
フィルランカは、小皿に塩を入れて持ってきた。
それをティースプーンで、自分の料理に加えるのだが、そのフィルランカの表情は、とても嬉しそうな表情をしていた。
(これからは、朝もカインクムさんの顔を見ることができるわ。 あー、やっぱり、朝、カインクムさんの顔を確認してから学校に行ける)
フィルランカは、なんとも嬉しそうな顔をして、夕飯を食べていたのだが、その理由を、エルメアーナとカインクムは、聞けないでいたのだ。
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