学校が始まって
第64話 フィルランカの憂鬱 再び
フィルランカは、授業が始まると、移動の時間に困った。
数日は、歩いていたのだが、出発の時間が早くなってしまい、カインクム達と朝食が取れない事に困ってしまった。
今までは、第3区画の学校だったので、大した時間では無かったので問題なく、一緒に朝食を取れたのだが、通学時間が長くなってしまったので、その分、早めに家を出るので、カインクム達が起きる前に学校に向かう事になってしまった。
フィルランカとしたら、カインクムと一緒にとる食事が楽しみなので、その楽しみの一つが失われた事になる。
それと、食事の管理が疎かになると、2人は、まともに食事をするのか気になり出した。
学校に行き始めて1週間ほどすると、不安は、的中した。
学校から帰ってきて、リビングで確認すると、2人の為に用意しておいた朝食と昼食が、手付かずで残っていたのだ。
2人の健康管理の為に、食事を用意しているフィルランカは、食べてもらえないことよりも、2人の健康が心配になりだした。
ただ、翌日は、学校から帰ると、朝食も昼食も食べていたのを確認できたので、その日だけだと思って安心したのだが、更に、1週間程すると、同じように残されてしまった。
(今日だけなら、仕方がないか)
そう思っていると、今度は、3日後、そして、その後は、1日おきに、食事に手をつけてない日が続くようになった。
ただ、そんな時でも夕飯だけは、3人で食卓を囲んでいた。
そんな日が続いているので、フィルランカのイライラは、ある日の夕食の時に頂点に達してしまった。
それは、学校から戻ってきて、2人のための朝食と昼食が取られた形跡が無く、フィルランカの作った夕食を流し込むように食べている2人を見てフィルランカのイライラは、爆発したのだ。
「2人とも、今日の料理は美味しかったですか?」
フィルランカの冷静な表情で、2人に質問する。
「ああ、うまいぞ。 フィルランカは、料理が上手だ。 今日は、いつも以上に美味かったぞ」
「そうだとも、俺は、いつも、フィルランカの料理に癒されているんだ。 いつも美味しい料理をありがとうよ」
フィルランカは、2人のその答えに、イラッとした様子をする。
「そうですか。 私には、味も素っ気もない料理に思えましたが、お二人には、とても美味しかったのですか」
その雰囲気に、カインクムは、すぐに、朝食と昼食を抜いた事を思い出し、フィルランカは、2人の不規則な食生活のことを指摘しようとしているのだと、直ぐに気がついたので、しまったといった様子をしていたのだが、エルメアーナは違った。
「フィルランカ、これは、新しい料理だったのか。 味付けを抑える料理だったのか。 お腹が空いていたから、気がつかなった」
カインクムは、そのエルメアーナの一言に、青い顔をしつつ、フィルランカの表情を、恐る恐る確認する。
(しまった。 フィルランカ、絶対に怒っている)
そう思った瞬間、カインクムは、もう、声を出すことができない。
「エルメアーナ。 私は、美味しくない料理を作ったのよ。 いつもの、あなたなら、直ぐに分かるはずなのに、何で今日は、分からなかったのでしょうか」
「ん、ああ、腹が減ってっ、えぇ〜」
エルメアーナは、答えつつ、フィルランカの顔を見た。
そのフィルランカの顔を見て、息を呑んでしまったのだ。
「ど、どう、した。 フィル、ラン、カ。 顔が、こわ、怖いぞ」
いつもおっとりしているフィルランカの顔が、般若のようになっていたのを確認したエルメアーナが言葉を失った。
いつもは、2人の食べる様子を見ながら、笑顔で食べているのだが、今は、正反対の表情をしていた。
「あのね。 今日は、あなたたちが、家でどんな様子だか、試させてもらったのよ。 そう、味のしない料理にどんな反応をするかと思ったのよ」
すると、更に、フィルランカの表情は、恐ろしい顔に変わる。
「そうですよね。 2食も抜いたら、それは、もう、何を食べても美味しいでしょうね。 空腹は、一番の調味料だって言うからね」
「いや、そのー、ちょっと、待ってほしい」
エルメアーナも、フィルランカが、ちゃんと食事を取らなかったことを怒っているのだと思ったようだ。
「そうよね。 私の料理なんて、どうでもよかったって、わかったわ」
「まった。 フィルランカ、これは、俺たちが悪かった。 起きたらもう、フィルランカが学校に行ってしまってたから、なんだか、面倒になって、つい、食べずに、仕事を始めてしまったんだ。 なっ、なあ、エルメアーナも、ちょっと、気が抜けて、つい、食べるのを忘れてしまったんだよ」
エルメアーナだけでは、フィルランカを説得できないと思ったカインクムも、フィルランカを宥めるように声をかけ始めた。
だが、その一言は、火に油を注いだようだった。
「それは、私が居ないと、あなた方2人は、食事を疎かにしてしまうのですか」
「いや、その、フィルランカが居ないと、ちょっと寂しいかなと思ったかも」
「ああ、そうだな。 フィルランカが、早く家を出て、学校に行ってしまうから、少し、気が抜けてしまったっていうか、ちょっと、面倒になって、つい」
「ほーっ! つい、ですか。 つい、で、食事を2食も抜いたのですか」
フィルランカは、わずかに震えていたようだ。
「あ、ああ、たまたまだよ。 たまたま」
顔を引き攣らせながら、カインクムは、言い訳をする。
「では、一昨日は、どうだったのですか?」
「えっ! あっ! 一昨日、ね」
カインクムは、思い出したようだ。
「このところ、しょっちゅう、食事を抜いています。 私が居ないと、こんな不摂生になってしまうのですか。 あなた達は、私が居ないと、生活不適合者なのですか。 まともに食べることができないのですか。 料理の味も分からない程になっているのですよ」
「あ、ああ」
カインクムは、困ったような表情をする。
「このままでは、2人が病気になってしまうかもしれません。 これは、私が高等学校に行くようになったからですね。 そうですね」
「いや、本当に悪かった。 これからは、ちゃんとする」
「いえ、以前にも同じようなことがありました。 私が学校の行事で家を開けた時にも有りました」
「「……」」
2人共、思い当たることがあるので、黙り込んでしまった。
「このままでは、2人の健康が心配です」
そう言うと、フィルランカは、決心した様子で立ち上がる。
「これは、私が、学校を辞めて、家に入るしかありません」
高等学校に入学して、もう直ぐ1ヶ月になろうかと言う時期にフィルランカは、学校を辞めると言い出した。
それには、2人とも、大変なことになったと思ったようだ。
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