第59話 侯爵家の四女 モカリナ


 フィルランカの周りに女子生徒が集まり出してきた。


「まさか、ここで、食べ歩きのフィルランカさんに出会えるとは思わなかったわ」


 その話を聞いて、ヒソヒソと話をする女子生徒も出始めた。


「あのー、それで、どのようなご用件だったのでしょうか? ええーと」


 フィルランカは、その少女は自分の名前を知っていたが、フィルランカは、相手の名前を聞いてなかったことに気がついた。


「ああ、ごめんなさいね。 私は、ナキツ・リルシェミ・モカリナよ」


 フィルランカは、その名前を聞いて、少し緊張気味になった。


(ナキツ? 確か、位の高い貴族様だったはずだわ。 あまり失礼の無いようにしておかないといけないわね)


 一般人のフィルランカでも聞いたことのある貴族の名前だったのだ。


 フィルランカは、スカートをつまむと、片足を下げ、そして、頭を下げる。


「これは、失礼いたしました。 私は、フィルランカと言います。 今は、鍛冶屋のカラン・レンリン・カインクム様の家に、お世話になっております」


 フィルランカは、時々行くお店の副支配人に教えてもらった挨拶をする。


「あら、礼儀作法も知っているのね。 さすが、先生が教えてくれただけのことはあるわね」


 モカリナは、その挨拶を見て、思うところがあったようだ。


 そして、モカリナも姿勢を改める。


「先ほどは、失礼しました。 私は、ナキツ侯爵家の四女、ナキツ・リルシェミ・モカリナと申します」


 そう言って、フィルランカと同じように、正式な挨拶を行った。


「私は、ナキツ侯爵家の四女ですが、姉様方のように、嫁ぎ先も決まってはいませんので、ツ・レイオイ・リズディア殿下に倣って、学問で身を立てるつもりでおります。 今後は、クラスメイトとして、仲良くしてください」


 周りの女子達が、その様子を見て呆気に取られた。


(えっ! どういうことなの? あっ!)


「いえ、滅相もございません。 私のように身分の低いものに、勿体のうございます」


 フィルランカは、恐縮しつつ答えると、モカリナも表情を崩した。


「分かったわ。 それじゃあ、これからは、クラスのお友達として、おつきあいさせてください。 なので、言葉遣いも、普通に、それに、私のことはモカリナと呼んでください」


 フィルランカは、鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしている。


「は、はい。 モカリナ様」


「何を言うのです。 モカリナです」


「えっ、はい。 わかりました。 モカ・リナ」


 最後の方は、フィルランカの声は小さくなってしまったが、モカリナは、嬉しそうな顔をしていた。


 フィルランカは、孤児だったこともあり、学校では、身分の高い人が多いこともあり、クラスメイトと話をする機会もないと思ったのだが、このモカリナとの挨拶によって、フィルランカの立ち位置が変わってしまった。


「ねえ、それで、その服は、ミルミヨルさんのお店のものなのよね」


「ええ、ミルミヨルさんが、入学式に間に合わせてくれたんです。 なんでも、学校に着ていくために都合の良い服と言っておりました」


「うん。 とても素敵よ。 ねえ、それは、その紺色のだけなの?」


「いえ、エンジ色もありました。 一緒に住んでいるエルメアーナが、今日の入学式を見にきてましたから、色違いのデザインのものを着てます」


「あら、色も用意されているのね。 ねえ、その上着を脱いでもらっても構わないかしら? ブラウスとスカートになったらどんな感じなのか見せてもらえません?」


 フィルランカ、モカリナに促されて、上着を脱ぐ。


 すると、周りの女子生徒達が、興味津々といった表情でフィルランカを見る。


 上着を脱いで、その上着をお腹の前に持つのだが、ウエストを絞るようになっている部分が、胸より下で胸を強調するように胸の下で切られており、ゆったりとした白のブラウスが、より胸を強調して見せていた。


 下のウエストを絞るスカートが、紺色でできており、上のブラウスは、反対に緩やかに造られ、そして膨張色である白が、余計に引き立って見えるのだ。


「おおーぉ!」


 思わず、後ろの方の女子が声を上げていた。


 その声にフィルランカは、少し恥ずかしそうにするのだが、周りの女子達は、近くで見ようと徐々にフィルランカに迫ってきた。


 フィルランカとモカリナの2人で話をしていたのだが、いつの間にかクラスの女子がその周りに集まってきて、2人を囲むようになってしまった。


「えっ! ちょっと」


 モカリナも周りの反応に驚いたようだ。


「ねえ、あれだと、とても大きく見えるわよね」


「ええ、上着を着ていた時も、すごく大きく見えたけど、上着を脱ぐともっとすごいわ」


 どうも、周りから、フィルランカの胸が強調されていることが気になったようだ。


「あのー。 これは、この服がウエストを絞ってくれるので、その絞られた分が、上に逃げただけで、実際は、こんなに大きくはないのです。 ミルミヨルさんが、そうなるように、デザインしてくれたので、大きく、見えている、だけ、です」


 フィルランカは、宣伝をしなければと思ったのだが、なんだか、言い訳をするようになってしまい、そして、言葉尻は、途切れつつ、声も小さくなっていた。


「これ、ミルミヨルさんの店の服なの」


「ねえ、ミルミヨルさんの店は、何処にあるの?」


「ミルミヨルさんの店は、第5区画に有るわよ。 有名だから、近所で聞けば直ぐに見つけられるわよ」


 フィルランカの言葉に周りの女子達が反応して、ミルミヨルの店について反応していた。


 そして、直ぐに、ミルミヨルの店が、第5区画にあると、クラスの女子全員に知れ渡った。


「それでは、皆様、ごきげんよう」


 1人の女子が、挨拶をすると、その輪から離れた。


 すると、徐々に、周りの女子がその輪を離れて、教室から出ていった。

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