第58話 入学式が終わって


 入学式が終わって、教室に戻ると、元の席に戻された。


 明日の予定を聞くと、それで、今日は終わってしまった。


(直ぐには、授業は始まらないのね。 まあ、学校の教室とかの場所とかを覚えなければ、次の授業にも進めないわね)


 フィルランカが、教師の話を聞きつつ、これからの学校生活について考える。


(私は、大学へ行って、カインクムさんとエルメアーナの作る物を、もっともっと、売らなければならないのよ。 だから、ここでは、徹底して授業を聴かないといけないわ)


「なお、ここのクラスに入った人達には、帝国大学へ進学してもらうつもりでいます。 もし、授業についてこれない場合は、別のクラスへの移動もありますので、そのつもりでいてください」


 すると、フィルランカの隣の席の生徒が手を上げた。


 教壇の教師は、その生徒を指す。


「今の話を聞くと、ここでは、帝国大学へ入学するための授業をしていただけると、考えてよろしいのでしょうか?」


「まあ、そういうことだが、授業の内容を理解できればの話だ。 授業を受けるだけでは、定期テストで合格点を取れるとは思えないがな」


(えっ! 授業を聞いただけでは、ダメなのかしら。 もっと、勉強する必要があるの?)


 フィルランカは、今の話を聞いて、少し焦ったようだ。


「わかりました。 だったら、授業内容を全て理解してしまえば、問題無いと、いうわけですね」


「そういうことだ。 授業が理解できれば、試験も問題無いだろう。 試験は、授業の内容が出されるだけだ」


 隣の生徒は、納得したような表情をする。


 教師は、その生徒からの質問が終わったと思った様子で、他の生徒を見る。


「他に、質問はないか?」


 後ろの方から、手が上がったようだ。


 教師の視線が、後ろの方に向いた。


「なんだ?」


「こちらの教室には、見たところ、随分と席が余っているように見えます。 それに、入学式の時に、他のクラスは、ここより、人数が多かったと思います。 なんで、こんなに人数の格差が出ているのでしょうか? 今後、クラス対抗の行事とかには人数が少ない分、不利かと思います」


「ああ、それは、入試の成績で、このクラスは、一定の成績以上を取った生徒だけが入れるクラスだ。 学校としても、今後、帝国大学への進学を期待している」


(ああ、そうなんだ。 このクラスは、入試の成績が上位の人だけしか入れないのか。 帝国大学へ入る事を目的としているクラスなのね)


 フィルランカは、周りの話を聞きながら、話の内容を精査している。


「それから、成績が悪いものは、別のクラスに行くことになるが、成績優秀者は、飛び級制度もある。 上手く、上級生の授業を受けて、その単位を取得すれば、早く卒業することも可能だ。 まあ、早くても、2年で卒業できる。 その場合は、帝国大学への推薦を出せる。 毎年、1人か2人、その推薦枠に入る秀才がいる。 君達からも、そんな秀才が出て欲しいものだ」


 そういうと、教師は、フィルランカを見た。


(ああ、それだと、早く、カインクムさん達のために、大学に行けるのか。 少しでも早く、そういった道に進んだ方が、カインクムさんのためにもなるわね)


 フィルランカは、ボーッと、今の話を聞いていた。


 それを見た、教師は、フィルランカに興味を無くしたのか、次の話に進んだ。


「それに、ツ・リンケン・クンエイ殿下と、ツ・レイオイ・リズディア殿下の進めている奨学金制度もある。 高等学校の成績次第では、その奨学金を受けることも可能だ。 そして、帝国大学でも成績優秀なら、奨学金の返済を免除してもらえる制度もある。 必要なものは、説明会に参加するように、説明会は明後日の放課後に行われるので、掲示板を確認しておくように」


(あら、そんな制度があるのね。 これを使ったら、カインクムさんに負担をかけなくても構わないかもしれないわね。 ふーん、奨学金制度ね)


 フィルランカは、ボーッと、言われたことを確認していたのだが、その態度が教師には、いまいち、意欲的な表情には見えなかったようだ。


「他に、何か、質問は?」


 生徒からは、特に何も無い様子だった。


「では、今日は、ここまでだ」


 そう言うと、教師は、教壇を降りて、教室から出て行ってしまった。




 フィルランカは、奨学金制度について、飛び級制度について気になっていたので、そのまま、席に座っていたのだが、周りは、もう、動き出していた。


 そんな中、後ろの席から話し声が聞こえてきた。


「ねえ、あんな奨学金制度なんて、必要なのかしら」


「そうよね。高等学校に来る生徒なら、貴族か、一般臣民でも裕福な家庭になるわ。 それ程、必要な制度とは思えないわね」


(あれ、そうなの)


 フィルランカは、教壇の方を向いたまま、後ろの席の話を黙って聞いていた。




 すると、フィルランカの席の前に1人の女性が立っていた。


 フィルランカは、目の前に立っている女性を見上げた。


「ねえ、あなた。 ちょっと、こっちに、来て、立ってもらえないかしら?」


 フィルランカは、突然、話しかけられて、呆気に取られている。


「ねえ?」


「あっ、すみません」


 そう言うと、立ち上がって、声をかけられた女性の方に行く。


「あなた、この服は、何処で手に入れたの?」


 フィルランカは、早速、ミルミヨルの服の事を聞かれたので、いつもの調子で答える。


「あ、この服は、第5区画のミルミヨルさんのお店で買いました」


「ふーん」


 フィルランカに声をかけてきた、その生徒は、フィルランカを見つつ、1周する。


「あそこの店には、10日前に行ったけど、そんな服は置いてなかったわよ」


 その生徒は、不思議そうな表情でフィルランカに言った。


「私も、受け取ったのは、3日前なんです」


「3日前? それ、ミルミヨルさんの新作ってことなのね。 ねえ、ちょっと、どういうことなのよ。 なんで、あなたが、ミルミヨルさんの新作衣装を着ているのよ」


「あ、いえ、そのー。 ミルミヨルさんの店で買わせてもらったんです。 ただ、それだけです」


 フィルランカは、困った様子で答えると、その少女は、何やら考えるような表情をする。


「ねえ。 あなた、4・5年前から、ミルミヨルさんの店の衣装を着ているわよね」


 少女は、少し自信が無さそうに、フィルランカに聞いた。


「へっ! あっ、はい。 そんな頃から、ミルミヨルさんの店から買っています」


 フィルランカは、宣伝のために、タダで貰っていると言うなと言われているので、とにかく、買ったと言葉にしているのだ。


 ミルミヨルとしたら、花嫁修行のために、食べ歩いているフィルランカが、自分の店から衣装を買ったという事にしたかったので、とにかく、貰ったは絶対に言うなと言われているので、フィルランカは、タダとは絶対に言えないのだ。


「ねえ、あなた、フィルランカさんよね」


「へっ! なんで、私の名前を知っているのですか?」


 その生徒は、やっぱりと思った様子で、フィルランカを見る。


「あなた、有名人なのよ。 今じゃ、帝都で、知らない人はいないかもしれないわよ」


「え、ええーっ!」


 フィルランカは、驚いた。


 自分は、ただの孤児で、たまたま、カインクムに拾われて、カインクムやエルメアーナが作った物を自分が売るだけの、ただの一般人だと思っていた。


 それが、今、目の前の、初対面の生徒に、自分の名前を当てられ、さらに、有名人だと言われた。


「あなた、第1区画のレストランに、1人で行くでしょ。 花嫁修行のために、食べ歩く少女、その人は、フィルランカと言うって、有名な話なのよ。 ああ、私も、あなたの話を父や、私の先生から聞いたのよ」


「は、はい」


 フィルランカは、面食らっている。


「それと、着ている服は、ミルミヨルさんの店、靴は、隣のカンクヲンさんの店、そして、髪の毛は、ティナミムさんの店でって、それで、あそこの3店舗は、急激に顧客を伸ばして、繁盛しているのよ。 そして、そのキッカケを作ったのが、そう、あなたなのよ」


 そう言って、フィルランカを指差す。


「えーっ、ちょっと待ってください。 私は、ただ、ミルミヨルさん達の服や靴で、そのまま、食べに行っただけです。 あちらのお店が、繁盛しているかどうかは、知りませんよ」


 フィルランカは、驚いて、答えたが、その生徒は、フィルランカの話を聞いて、微妙な表情を浮かべた。


 その意味することが、なんなのか、フィルランカには、よく分からなかったようだが、ただ、しばらくは、話が続きそうだと思った。


 そして、フィルランカとその生徒の周りに女子生徒が、集まり始めた。

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