フィルランカの入学式

第57話 入学式


 フィルランカは、カインクムとエルメアーナと一緒に高等学校の入学式に行く。


 途中、エルメアーナのたわいもない会話に付き合いつつ、フィルランカは、少し困ったような表情をしながら歩いていた。


 それをカインクムが、嬉しそうに見つつ、後ろからついていく。


 学校に着くと、生徒と付き添いは分けられてしまった。


 付き添いは、そのまま、講堂の方に行くように言われるので、カインクムとエルメアーナは、言われるがまま、講堂に向かった。


 フィルランカは、掲示板で、自分のクラスを確認すると、そのクラスに行くように言われた。


 掲示板に書かれていた自分の名前を確認すると、校舎に入って、指示のあったクラスに行く。


 そこには、もう、生徒達が入室しており、思い思いに話をしていた。


 そんな生徒達の話が耳に入ってくるのだが、どうも、以前の学校からの友人だったり、かなり、顔見知りが多いようだった。


 フィルランカは、同じ学校から、この高等学校を受験した生徒は居なかったので、当然、誰も知らない人ばかりなのだ。


 黒板には、番号と名前が書いてあり、番号の机に座るように書いてあった。


 フィルランカは、自分の名前を見つけると、名前の前の数字を確認した。


 7番が、フィルランカの番号と分かったので、7番の机を探す。


 7番は、直ぐに見つかった。


 それは、入り口から1列目の机の右側が自分の席だった。


 1番の席とは、間に1人座れる程の隙間が有ったが、そこは空席になっていた。


 フィルランカは、黙って、その席に座ると、そのまま、前の黒板を見ていた。


(このまま、いつまで、待つのかしら)


 フィルランカは、黙って前を見て、黒板に書かれている名前を眺めていた。


 全部で、33人の名前があった。


 その名前をフィルランカが見ていると、扉が開いて、生徒とは違う人が入ってきた。


「皆さん、入学おめでとう」


 その人は、教室に入るなり、そう言って、教壇の方に歩いていく。


 すると、集まって話をしていた生徒達が、自分の机に戻っていった。


 全員が席に着くのを確認すると、教壇に立った、その教師が話を始める。


「今日から、ここが、皆さんの教室になります。 そして、その席が、自分の席になりますので、授業の時は、その席を利用してください」


 自分の席の確認が取れたようなので、教壇に立っている教師は、話を続ける。


「それでは、今日は、これから、入学式、その後は、このクラスに戻って、明日からの予定をお話しします。 では、皆さん、廊下に移動してください」


 移動すると、教師は、生徒の数を確認すると、引き連れて、講堂に向かった。


 他にもクラスは有るのだが、フィルランカのクラスが、一番最初に講堂に入っていった。


 そして、講堂の一番前の席にクラスの生徒が座らされると、その後ろに、また、別のクラスの生徒が座らされた。


 クラス毎に、前の席から順番に奥の席に座らされた。


 フィルランカは、今までのように、クラス毎に縦に並ばされるのではなく、クラス毎に横に並ばされたことに違和感を覚えたが、言われたとおりに、その席に座った。


 全員が席に着くと、入学式が執り行われ、校長先生、来賓の祝辞、在校生の挨拶、そして、新入生代表の挨拶が続いた。


 その中で、新入生代表が、一番手前に座った、フィルランカのクラスから出て、行われた。


 予め、その新入生には、話が通っていた様子で、滞りなく挨拶が行われた。


 フィルランカは、それを、ただ、緊張気味に聞くだけだった。




 その様子を講堂の一番後ろの席からひっそりと、カインクムとエルメアーナが見ていた。


「なあ、父。 フィルランカは、一番前の席に座ったな」


「ああ」


「さっきの話では、成績の良いクラスの順番に前の方から座ると言っていたじゃないか」


 エルメアーナは、周りの父兄達が話していた事を思い出して、カインクムに聞いた。


「フィルランカは、一番前の列に座ったのは、成績が良かったからじゃないのか」


「そうみたいだな」


 カインクムとエルメアーナは、フィルランカより先に講堂に案内されたのだが、その間に、周りの話を聞いていたのだが、その中に、クラス分けについての話があったのだ。


 学校側は、入試の成績の良かった順番にクラス分けをしているとの事だった。


 そして、入学式の席順も成績の良いクラスが手前と決まっているのだと、周りが話しているのを聞いた。


 入学式の席順が、入試の席順だというのだった。


 それを聞いていたので、2人は、フィルランカが、一番前の席に座って、少し驚いていた。


「フィルランカは、頑張ったのだから、良かったじゃないか。 大学を目指すなら、上位のクラスに入れたほうがいいだろう」


「ん? 父、フィルランカは、大学を目指すのか?」


「ああ、フィルランカは、店の商品を売るための勉強がしたいと言って、高等学校に入学したんだ。 だから、ここでも、いい成績をとる必要がある。 だから、入試も頑張ったんだよ」


「ふーん。 そうだったのか」


 エルメアーナは、初めて聞いた様子で、カインクムの言葉を聞いていた。


「フィルランカは、俺やお前が作った物を売るための勉強がしたいと言っていた。 店を大きくしたいなら、俺たちのように、ただ、作るだけではダメだからな。 ちゃんと売るための方法があるんだ」


「父、売るための方法とは何だ?」


「ああ、お前達が、ミルミヨルさんや、カンクヲンさんの商品を身につけているだろう。 あれも、立派な売るための方法なんだ」


「おお、そう言えば、そんな事を言ってたな。 フィルランカが宣伝してくれたから、売れたと言ってた」


「そう、それだ。 それを、フィルランカは、勉強したいと言っていた」


「そうか。 父や私の作ったものを売るために、フィルランカは、勉強するのか」


「そういう事だ」


 エルメアーナは、納得した様子で、フィルランカの方を見つめる。


「なあ、父。 鍛冶屋にも、そんな学校が有ったらいいのかもな」


「どうだろうな。 俺は、師匠に弟子入りして、そこで、鍛治仕事を覚えた。 今更、鍛治仕事を学校で教わるなんてことは、考えてもなかったな」


 鍛治は、金槌の使い方、竈門の使い方、温度の見方などを、師匠の仕事を見て覚えたのだ。


 それを、学校に行って勉強するようなことが、起こるのだろうか、カインクムには理解できない様子で、エルメアーナを見ていた。


「そうだな。 もし、そんな学校が有ったら、お前も、ちゃんと学校に行ってくれたのかもな」


 カインクムが、エルメアーナの登校拒否について話を振ると、エルメアーナの表情は硬くなってしまった。


 エルメアーナが、黙り込んでしまったので、カインクムは、それ以上、エルメアーナの登校拒否についての話は止めた。


 2人は、気まずそうに、フィルランカの方を、ただ、見つめるだけになってしまった。

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