フィルランカの合格発表

第38話 高等学校の合格発表


 フィルランカは、学校の勧めで進学することになった。


 1年間、特別授業を追加して、補修を受けていたのだが、フィルランカの希望によって、1時間の追加だけとなった。


 フィルランカとしたら、カインクムの食事を用意することの方が、自分の進学より重要なので、それ以上の補修授業は断った。


 それでも、フィルランカは、その時間を集中して勉強をしていた。


 フィルランカは、1年間、補修授業の追加を休むことなく受け続けた。


(私は、カインクムさんのために勉強するのよ。 そして、カインクムさんのお店を大きくするのよ。 だから、カインクムさんが作った武器でも防具でも、私が全て売ってあげるため、今は、大学に行くことだけを考えるのよ)


 時間的に勉強と家事との両立、そして、週1回の外食。


 フィルランカは、目標ができたことが嬉しいのだ。


 商業の基本的なこと、経営の基本的なこと、それを学んで、カインクムの手助けをする。


 それが、フィルランカの目標になったのだ。


(高等学校に上がっても、上位の成績を維持するために、今のうちに、色々、勉強しておくのよ。 そこで、いい成績を残して、大学へ行くのよ)


 フィルランカは、時間的な余裕が無くなってしまったのだが、目的ができたことで、充実した日々を送っていると、そして、忙しくとも、目標があることで、むしろ楽しいとも思っていた。




 年度末になり、高等学校の進学のための入学試験となった。


 フィルランカは、試験を受けに高等学校に行った。


 そこには、貴族の子女、商人の子女と、誰もが、裕福そうな服を着ていた。


 フィルランカは、いつもの第1区画へ行く時のドレスで、可能な限り地味なものをチョイスして向かった。


 ただ、学校に着ていく服とは違ったことで、周りからは少し浮き気味だったが、服装的には、特に問題なく試験を受けることができた。




 フィルランカは、合格発表に向かった。


 カインクムから、第1区画に行くときのドレスを着て行くように言われた。


「フィルランカ。 発表の後に、第1区画で、3人で食事をしよう」


 フィルランカは、喜んだ。


(カインクムさんたら、それだったら、試験の前に言ってくれたら、もっと頑張ったのに、だけど、手応えはあった)


 高等学校に向かうと、もう結果発表の看板が立っており、その結果を見た受験生らしき人たちが、喜んでいたり、泣いていたりしているのを横目で見る。


 フィルランカは、恐る恐る、自分の名前を探した。


 一つ一つ、看板の名前を確認していく。


 合格者数が多いこともあり、自分の名前を見つけるには時間がかかった。


 だが、もう少しで終わりになると思ったところで、フィルランカは自分の名前を見つけた。


(あった。 私の名前。 よかったわ)


 フィルランカは、ホッとため息を吐くと、笑顔になり、その場を離れる。


 合格したので、学校の建物に入っていき、入学のための手続きを行い、学校から出る。




 校門には、カインクムとエルメアーナの2人が、フィルランカを待っていた。


 カインクムは、フィルランカの様子を見て、合格したと思ったのだろう、笑顔で迎えてくれたが、隣にいたエルメアーナは、心配そうにフィルランカを見ていた。


「フィルランカ。 お前、結果はどうだったんだ」


 エルメアーナが、心配そうに聞くのだが、フィルランカは、カインクムが、笑顔でいるのを見て、合格したことを分かってくれたことが嬉しかったようだ。


(カインクムさん。 その表情は、私が、合格した事を分かっているみたいね。 なんだか、気持ちが通じているみたいだわ)


 フィルランカは、嬉しそうにカインクムを見ていると、エルメアーナは、フィルランカが答えてくれないので、ソワソワしていた。


「フィルランカ! 合格したのか? どうだったんだ」


「合格していたわ」


「そうか。 おめでとう、フィルランカ。 お前は本当に頭がいいな」


「ありがとう。 エルメアーナ」


「おめでとう。 よかったな、フィルランカ。 向こうから歩いてくるのを見て、合格したと思ってたよ」


 カインクムは、フィルランカが合格していると、直ぐに分かってくれたことが、フィルランカには嬉しかった。


「ありがとう、カインクムさん。 でも、これからも、学費とかで、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


 そう言って、フィルランカは、カインクムに頭を下げる。


「かまわないさ。 お前が、進学してくれた事の方が嬉しい。 学費も大した金額じゃない。 今の仕事だけでも十分に賄える。 安心して勉強してくれ」


「はい。 頑張ります」


「そうだぞ。 エルメアーナ。 お前が、勉強してくれたら、店も大きくできる。 頑張ってくれ」


「うん。 エルメアーナのためにも、頑張るわ。 きっと、もっと大きなお店にしましょうね」


 フィルランカも合格した。


 そして、カインクムもいい服を着ていた。


 エルメアーナについては、学校に来る前に、フィルランカの服を着せて、お互いにドレスを着ていた。


「じゃあ、お祝いに行こう」


 3人は、第1区画のお店に食事に行くのだった。




 第1区画の飲食店に向かうのは、フィルランカが、一番最初に入った飲食店に向かった。


「いらっしゃいませ、カインクム様。 お話は聞いております。 こちらへどうぞ」


 フィルランカは、恐縮しているが、エルメアーナは、初めて入る飲食店に興味津々で、周りをキョロキョロと見回していた。


 エルメアーナは、初めて見る飲食店の中の飾りに興味がいっていたようだ。


 すると、奥から副支配人が現れた。


「これは、カインクム様、今日は、当店をご利用いただきありがとうございます」


 そう言って、丁寧に頭を下げる。


「ああ、今日は、高等学校の合格の祝いなんだ。 よろしく頼むよ」


 副支配人は、カインクムの後ろにいる、フィルランカとエルメアーナを確認する。


 カインクムは、副支配人の視線を追うと、フィルランカは、副支配人の視線を受けて、お辞儀をするところだったが、エルメアーナは、ソワソワして店の中を物色していた。


「ああ、合格したのは、フィルランカだけだ。 このソワソワした方は、娘のエルメアーナだ。 こういった店に入るのは、初めてなので、行儀が悪くてすまないが、よろしく頼む」


 副支配人は、笑顔をカインクムに向ける。


「はい、かしこまりました」


 そう言うと、フィルランカに向く。


「フィルランカ様、合格おめでとうございます」


「ありがとうございます」


(テーブルマナーを教えたとき、物覚えも良いと思ったが、勉強もできたのですね。 もう、高等学校に入学する歳になったのですか)


 副支配人は、嬉しそうに笑顔を向けた。


「では、こちらへ。 テーブルにご案内いたします」


 副支配人は、3人を奥のテーブルに案内してくれた。


 3人は、案内されたテーブルにつくと、フィルランカは、テーブルに座るところから、エルメアーナにテーブルマナーを教えていた。


 エルメアーナは、難しそうにするが、カインクムも丁寧にマナーに則って行うのを見ると、仕方がなさそうに自分もテーブルマナーに則って食べることにしたようだ。


 フィルランカとカインクム、そして、エルメアーナの、一番幸せな日々は、まだ、続くことになった。

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