第36話 フィルランカの決意
フィルランカは、いいお嫁さんになれればいいだけなので、高等学校に行かなくても構わないと言い出したので、校長は困った様子をフィルランカに向けていた。
フィルランカにしたら、高等学校だろうと、帝国大学だろうと、入学しても、カインクムの嫁になるには不要のことなのだ。
学校に行っている間、フィルランカは、カインクムを見ることができないことの方が重要なのだ。
もし、上の学校に行って、カインクムの役に立つのなら、行くのも構わないのだが、フィルランカには、学校に行くことで、カインクムの仕事を手伝えないし、一緒の時間が減ってしまうと思ったのだ。
「私は、カインクムさんにお世話になっていますから、この学校を卒業したら、お店で販売の手伝いをしたいと思ってます。 その方が、カインクムさんのお役に立つと思うんです。 ですから、私は、学校を卒業した後は、カインクムさんとエルメアーナが作った商品を、お店で売りたいと思ってます」
フィルランカの答えに、カインクムは、昔、学校に入れる時の事を、そのまま覚えていてくれたのだと思うと、嬉しそうな顔をした。
ここまで、5年間、無事に学校に通わせていたのだが、その間に、何か別の事に、フィルランカの考えが移っていないか心配だったのだが、フィルランカには、そんな事は無かったと思うと、ホッともしていた。
カインクムは、自分の考えていた通りになっていたので安心していたのだ。
しかし、校長には、フィルランカに高等学校に進学してほしいと、この場を設けているのだ。
カインクムには、進学させても構わないし、学費も出せると言わせているのだから、あとは、フィルランカが進学したいと言わせるだけなのだ。
校長は、フィルランカが、進学したい何かを与えなければ、フィルランカは、進学すると言わないと思うと、何かないかと必死に思考を巡らせていた。
(フィルランカの成績なら、入試も問題ないだろう。 だが、どうして、頑なに進学するつもりが無いのか分からないな。 まあ、この歳頃の女の子の考えは、何とも言えないからな)
どうしようかと、悩んだ様子の校長には、フィルランカを、どうやって進学したいと言わせれば良いのかと悩んでいた。
(卒業して、店番をしたいとは、何とも健気な。 家の事を考えてなのだな。 カインクムも養女として、良い子を引き取ったってところか。 娘のエルメアーナが、鍛冶屋を手伝って、その鍛治で作った製品を、フィルランカが、売るために店番をする。 ……。 売る。 商品を売る)
校長は、何かを閃いたようだ。
「フィルランカさん。 学校を卒業したら、店番をすると言ってたね」
「ええ、そのつもりです」
「店番というのは、お店の商品を売るということだね」
「そうです」
「たくさん売れれば、たくさん儲かる。 たくさん儲かったら、カインクムさんは、嬉しいよね。 儲かれば、お店を大きくすることだってできる。 だから、店番をしたいのかい」
フィルランカは、少し話が難しくなってきたように思った。
「ええ、カインクムさんが、喜んでくれるなら、私は嬉しいと思います」
「そうだよね。 でも、お店にお客が来なかったらどうなるかな」
「お客様が、来なかったら、お店の物は売れません」
「そうなんだよ。 売れないんだよ。 でも、商品をカインクムさん達が作って、売れなかったら、作るために素材を購入したお金を回収できないし、売らないとお金が入ってこないよね」
「そうです。 お店の商品を売らないと、お金は入ってきません」
「そうなんだよ。 作るだけじゃお金は入ってこない。 商品を売って初めてお金が入ってくるんだ」
フィルランカは、何となく理解できたような表情をすると、校長は、たたみかけるように話だす。
「お客に売って初めてお金が入ってくる。 そういった事を学ぶ学問があるんだ。 お客が来てくれない。 商品を買ってくれない。 それは、なぜなのかとか、売れる商品とは何かとか、新たな商品の開発についてとか、そんなことを教えてもくれるんだ」
フィルランカは、校長の話を聞いて、お店にお客様が少なかったりとか、売れずに倉庫に置いてある武器とかを思い出していた。
「フィルランカさんは、店番だから、ものを売る人になるなら、もっと売ることに対して、色々、勉強した方がいい。 勉強ができる人は、そういった事を覚えることもできるんだ。 進学すれば、そんなことも教えてもらえることになる」
(もっと、たくさん売ることができたら、カインクムさんもエルメアーナも、楽になるのね)
フィルランカは、何か、納得するような表情を浮かべた。
「フィルランカさんには、カインクムさんのお店の商品を、たくさん売るための学問を学ぶ機会があるのだが、その機会を、自分から放棄してしまうのか。 とても残念なことだ」
その校長の言葉にフィルランカの目つきが変わった。
「私、高等学校に行きます。 入試があるなら、絶対に合格して見せます。 高等学校で、お店の商品を売る事を、勉強してきます」
フィルランカは、カインクムと校長に宣言する。
校長は、締めたと思ったようだが、まだ、何か考えているようだ。
「ああ、フィルランカさん。 今、話したお店の商品を売るための学問は、高等学校ではなく、帝国大学で行っているんだよ。 そこに入るには、高等学校でもいい成績を取ってないと、帝国大学には行けないんだよ」
「ええ、高等学校では、お店の商品を売る学問を教えてくれないんですか? だったら、進学しても仕方ないわ」
フィルランカは、がっかりする。
「いや、フィルランカさん。 商品を売るための学問は、極めて重要な学問なんだよ。 だから、無闇に教えられないから、高等学校でいい成績をとった者だけに教えてくれるんだよ。 いわば、高等学校は、商品を売るための学問を教えても良いかどうかを見極めるためにあるといって良い。 だから、そこで良い成績を出せば、その事を学んでも良いということになるんだよ」
フィルランカは、今の言葉で、自分の行うことが決まったと思ったようだ。
隣に座っているカインクムに向く。
「私、進学します。 そして、そこで良い成績を出して、帝国大学に行きます。 そして、商品を売る方法の勉強をして、カインクムさんのお店の商品を全部売ります。 だから、進学させてください」
「ああ、わかった」
フィルランカのお願いに、カインクムは、二つ返事で答えた。
(しめた。 大学まで行くと言った。 そうなれば、フィルランカは、進学後に学年上位の成績を取る必要がある。 うちの学校から進学した生徒が、成績上位にいるなら、この学校もしばらく安泰だ)
校長もフィルランカの言葉にホッとした様子をする。
「そうか、フィルランカさん、進学してくれるか。 よかった」
「はい。 よろしくお願いします」
「そうですね。 進学するために、学校も協力しますから、一緒に頑張りましょう」
3人の話は、フィルランカが高等学校に進学する方向で決着した。
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