フィルランカの進路
第33話 学校からの呼び出し
フィルランカは、10歳の時、ひとつ下の学年に編入した。
学校側が、フィルランカが孤児だったこともあり、同学年の学力はないと、思っていたのだが、試験を行ったところ、同学年でもずば抜けた学力を持っていると、試験結果で分かった。
本来なら、年齢と同じ同学年に編入させても良かったのだが、学校側の都合で、ひとつ下の学年に編入させていた。
フィルランカは、ひとつ下の学年に入ったことで、学校の卒業は、16歳となった。
カインクムが、最後まで面倒を見て、フィルランカには、エルメアーナの代わりに、しっかりと勉強してもらっていたのだ。
そんな中、学校側が、フィルランカが最終学年に上がった時、学校からカインクムに呼び出しがかかった。
フィルランカは、家に帰ると、カインクムのところに話にいく。
鍛治仕事をしている時に話しかけるのは厳禁なのだが、今日は、カインクムは、店ばんをしていたので、ちょうど都合が良かった。
「カインクムさん、お話があるんです」
店のカウンターに座っていたカインクムに、フィルランカは、声をかけた。
「おかえり、フィルランカ。 話って、何だ?」
カインクムは、フィルランカに応えた。
「今日、担任の先生に言われたのだけど、私とカインクムさんに話があるので、都合の良い時に学校に来て欲しいって言われたの?」
フィルランカが通い始めてから、学校に呼ばれることは無かった。
しかし、エルメアーナの時のように、登校拒否をしてしまい、カインクムが、学校に呼び出された事があったので、カインクムは、フィルランカが何か問題を起こしたのかと気になったようだ。
ただ、フィルランカ自身には、そんな問題を起こした事はないので、カインクムが学校に来ることに抵抗は無いように見える。
(カインクムさん、昔、一緒に学校から帰った時、初めて、私と手を握ったのよ。 覚えているのかしら。 用事が終わったら、一緒に帰るだろうから、その時聞いてみようかしら)
フィルランカは、少しニヤけた表情をしているが、カインクムは、対照的に不安そうな顔をしていた。
「なあ、フィルランカ。 お前、学校の呼び出しの内容に、何か心当たりはあるのか?」
カインクムは、何か問題を起こした可能性を考えていたのだが、そんなふうには聞けないので、心当たりはないかと聞いた。
カインクムに質問されたフィルランカは、ニヤけた様子も無くなって、カインクムの質問の答えを記憶の中から探していた。
だが、フィルランカには、学校が、何でカインクムとフィルランカを、呼ぶのか思い当たる内容は無かった。
「うーん。 そういえば、何で呼び出すのか聞いてなかったし、それに、私、家の人を呼び出されるようなことは、してないわ」
「そうか」
カインクムも、フィルランカの性格を考えたら、問題を起こす方ではなく、どちらかというと、問題に巻き込まれる方かと思ったのだが、フィルランカの様子を見ていると、問題に巻き込まれた様子もなさそうだった。
フィルランカには、全く、思い当たる節が無いのなら、何なのか、カインクムには、理解できずにいた。
(どういうことなんだ。 フィルランカは、どちらかというと、学力も優秀な方だから、呼び出される必要はないと思うのだがな)
カインクムは、どうしようかと考えたが、今、ここで結論が出ないと思ったのだろう、すぐに表情を変えると、フィルランカに向いた。
「じゃあ、明日にでも、学校に行こう。 それと、先生は、お前と俺の2人に話があると言ったのだな」
「ええ、私とカインクムさんと言ったわ」
(なるほど、2人に話したいというなら、授業中は困るな)
「分かった。 明日、お前の授業が終わる頃に、学校に行くと、先生には伝えておいてくれ」
「はい。 じゃあ、明日、学校に行ったら、先生に伝えておきます」
フィルランカは、嬉しそうにカインクムに伝えた。
翌日、カインクムは、フィルランカが、いつも帰ってくる時間から、逆算して、授業の終わる時間を見計らって、学校に行くのだが、少し早く着いてしまった。
カインクムは、学校の玄関で、名前を告げると、事務員が、直ぐに動き出した。
すると、直ぐに校長がカインクムを迎えにきた。
「カインクムさん、今日は、わざわざ、ご足労いただき、ありがとうございます」
校長は、丁寧にカインクムに挨拶をするのだが、以前の態度を思うと、カインクムは、何でこんな低姿勢な態度をするのかきになった。
いや、驚いて、声を失っていた。
「さあ、カインクムさん。 こちらへどうぞ」
驚いているカインクムを校長は、引っ張るようにして応接室へ案内する。
「君、お茶の用意! それと、お茶菓子を用意してくれ」
校長は、応接室に向かう途中で、事務員に声をかけた。
校長は、カインクムをソファーに座らせると、ソワソワした様子で、自分もソファーに座る。
どうも様子が、前回とは違うので、フィルランカが、何か、問題を起こしたという様な事はないと、カインクムには思えたようだ。
カインクムは、その落ち着かない校長を見ながら、自分の前に出されたお茶を飲んでいた。
しばらくすると、授業が終わったフィルランカが、応接室にきた。
入ってきたフィルランカを、カインクムの横に座らせると、校長は、咳払いをして自分を落ち着かせようとした。
「実は、フィルランカさんの進路について、カインクムさんは、どう、お考えなのでしょうか?」
校長は、突然、聞いてきた。
カインクムとしたら、最終学年に上がったフィルランカなのだから、この1年で卒業して、家で働いてもらおうかと考えていたのだ。
それに、つい最近、最終学年に進級したばかりで、卒業は、1年近く先の話になる。
このタイミングで、聞かれても、カインクムにもフィルランカにも、なんのことかと思ったようだ。
「卒業後は、鍛冶屋で店番と家の中の事を頼もうかと思ってますけど」
「そうですか。 卒業後は、家でお過ごしなのですか。 家でね」
校長は、それを聞いて、少しホッとした様子をする。
「実はですね。 フィルランカさんの成績なのですが、かなり、優秀なのですよ」
「はあ」
カインクムは、フィルランカの成績については、学年末の担任との話で、優秀だったと聞いていた。
それを、また、校長が言うので、不思議に思ったのだ。
「あのー、カインクムさん。 フィルランカさんを高等学校に入学させるつもりはありませんか?」
「えっ!」
その、校長の言葉にフィルランカが驚いて声を上げてしまった。
フィルランカとしても、学校が終わったら、鍛冶屋で仕事をするつもりでいたので、校長の話に驚いてしまったのだ。
カインクムは、フィルランカの顔を見ていた。
「フィルランカさん。 君の成績なら、高等学校に行けるだけの成績はあると、学校は思っているんだ。 そんな、成績優秀なら、上の学校に進んで、もっと、視野を広げてみてはどうだろうか?」
校長の提案に、フィルランカもカインクムもお互いに驚いている。
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