第27話 滑らかなスープの話
家に帰ったカインクムは、店の入り口に閉店の看板が出ている事に気がついた。
いつもの時間より、早く閉店の看板を出している事を、不思議に思うが、それを咎めるつもりは無く、むしろ、フィルランカの話を聞こうと思っていたので、むしろ好都合だと思ったようだ。
フィルランカが、食べていた第1区画の飲食店の話を聞こうと思うのだが、カインクムは、自分がフィルランカを監視していたのではないかと思われる事が、少し、怖かったのだ。
そのため、家の方には行かずに、店で売り物の武器や防具の飾り付けを直したり、掃除をしたりするようなふりをして、フィルランカに話を切り出す内容を考えていた。
カインクムにしてみたら、娘を心配するつもりで、フィルランカの事を考えていたのだが、知り合いの、娘を持つ父親の話を聞いていたので、フィルランカに嫌われてしまうのも嫌だと思ったのだ。
カインクムは、どうやって話を切り出そうかと、店の中を物色しながら考えていた。
しかし、リビングでは、フィルランカが、エルメアーナに、今日の出来事を話していた。
初めて、フィルランカは、食事のためのテーブルマナーがある事を教えてもらえたので、その事をエルメアーナに話をしていたのだ。
フィルランカは、飲食店に着ていたドレスを脱いで、いつもの服に着替えていた。
エルメアーナは、出かける前にフィルランカの着替えを手伝っていたので、帰ってくるのが待ち遠しかったのだ。
父である、カインクムも用事で出かけていた事もあり、店番をして過ごしていた。
その時から、自分も知らない、第1区画の飲食店で、出される料理が、どんなものなのか、気になって仕方がなかったのだ。
フィルランカが、帰ってくると、すぐに、店の入り口に閉店の看板を出すと、フィルランカの着替えを手伝いに行く。
エルメアーナは、早く、フィルランカから、第1区画の飲食店が、どんなだったかを聞きたかったのだ。
着替え中もエルメアーナは、フィルランカに話を聞くのだが、フィルランカは、衣装や靴を丁寧に脱いで、汚れなどを確認していたので、半分、上の空でエルメアーナの質問に答えていた。
フィルランカとしたら、高価な衣装や靴なので、綺麗に丁寧に使いたいので、エルメアーナの質問より、そっちの方が気になっていたのだ。
だが、それも終わると、リビングに移動して、今日の出来事をエルメアーナに話し始めたのだ。
リビングに移動したエルメアーナは、待ち遠しそうにフィルランカの話を待つのだが、フィルランカは、テーブルに皿等の食器を用意していた。
フィルランカとしたら、副支配人に教わったテーブルマナーが、とても印象的だったのだが、エルメアーナは、どんな美味しい料理が出たのかが気になったのだ。
フィルランカは、エルメアーナの興味の方ではなく、自分の印象に残ったテーブルマナーから話を始めていた。
「テーブルには、食器が用意されているのよ。 一つお皿が置いてあって、その両脇にナイフとフォークが置いてあるの。 それも、その食事専用に一つずつ置いてあるのよ。 それを外側から順番に使うのよ」
フィルランカは、嬉しそうにエルメアーナに話している。
「後、料理が終わった後と、料理の途中の時の、ナイフとフォークの置き方も決まっているのよ」
「なあ、フィルランカ。 それより、第1区画の料理はどうだったのだ。 美味かったのか?」
エルメアーナは、フィルランカのテーブルマナーの話より、料理の方が気になっていた様だ。
「ええ、とても美味しかったわ。 私が作るには、塩しか使えないけど、その店の料理は、スパイスを使っているのよ。 少しピリッとするから、味を引き締めてくれるのよ。 同じ料理でもスパイスが有るだけで、全然違うのよ」
エルメアーナは、料理の味を聞いて、目を輝かせている。
「そうなのか、スパイスを使うと、そんなに味が違うのか」
「でも、市場でスパイスを見た事がないのよ。 売っていたら、今度買ってくるわね」
「ああ、頼む。 フィルランカは料理の天才だからな。 どんな料理だって、フィルランカは作れるから、スパイスを見つけたら、今度作ってくれ」
エルメアーナは、子犬が主人に餌をもらう時のような様子で、フィルランカを見ていた。
もし、エルメアーナに尻尾が有ったら、左右にプルプルと動いていたに違いない。
「ええ、見つけたら料理に使ってみるわね。 でも、コーンスープを、滑らかな舌触りするのは、布で濾すだけだから、今度、試してみるわね。 きっと、布で漉しただけでも、きっと口に入れた時の感覚が違うわ。 あのコーンスープの滑らかさは、とてもよかったわよ」
その話を聞いて、エルメアーナは、更に興奮した様子になった。
「おおーっ、ブツブツの無いコーンスープか、粒が大きいと、あれは、そのまま出てくるかならな。 食べた次の日に、出てきたものの中に形が残って入っているのを見ると、栄養をそのまま垂れ流したみたいで、切ないからな」
エルメアーナは、興奮したように話をするのだが、エルメアーナの汚い話に、フィルランカは、苦笑いをする。
だが、エルメアーナは、目を輝かせてフィルランカを見ている。
「何よそれ! ちょっとぉ、汚い話はよしてよ。 食べ物の話をしてたのよ。 エルメアーナったら、下品よ」
フィルランカに指摘されて、初めて、排泄物の中身の話をしていた事に、エルメアーナは気がついた。
エルメアーナは、興奮していたので、自分の思ったことを、そのまま、声に出してしまったのだ。
「ん? ああ、すまない。 でも、あの出てきたものを見たときに、切れてないかと気になるんだ。 それで、何だか、痛いような気がしてしまうんだ。 そうならない為にも、滑らかなコーンスープは、飲んでみたい。 同じ料理でも構わない。 だから、フィルランカ、今度、そのスープを作ってくれ」
エルメアーナの言い訳に、フィルランカは、引き攣った笑顔をエルメアーナに向けている。
「わかったわ。 なるべく早く作れるようにするわね」
(エルメアーナったら、最近は、鍛治仕事の他に、食事も気にしてくれているから、よかったけど、それ以外は、本当に何も考えてないわね。 食事の話をしていても、シモの話が平気で出るんだから、もう。 作る約束をしなかったら、きっと、延々と、シモの話にをしているわよね)
早く作ると言わなければ、エルメアーナの汚いものの話が、延々と続くかもしれないと思ったようだ。
「ああ、楽しみにしている」
そんなフィルランカの考えを知らずにいるが、エルメアーナは、フィルランカの思惑通り、次に出てくるであろうコーンスープのことが楽しみになったようだ。
そんなエルメアーナを見ているフィルランカは、早めに作る必要を感じたのだ。
そうでなければ、さっきのような排泄物の中のコーンの話が、再燃するような気がしたのだ。
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