第28話 フィルランカの話を聞くカインクム


 2人の話が、一段落する頃、カインクムが、リビングに入ってきた。


 カインクムが、リビングに入ってきても、エルメアーナは、フィルランカが作ってくれるであろう、コーンスープのことで頭がいっぱいのようである。


 その、滑らかな舌触りがどんなものなのかと考えると、笑いが止まらないようである。


 そんなエルメアーナを気にする事なく、フィルランカは、すぐに立ち上がって、カインクムの為に、お茶を用意する。


 フィルランカの淹れてくれたお茶を、カインクムは一口啜ると、フィルランカに話だした。


「なあ、フィルランカ。 今日、お前が食べに行った店なんだが、どうやったら、あの店に入って、食事ができたんだ?」


 フィルランカは、カインクムの質問の意味がわからなかった。


 カインクムが、フィルランカの顔を見て、何を言っているのか分からなそうな顔をしているのを見て、少し困ったような表情をしている。


 フィルランカも、そろそろ、お年頃になるのだから、気に触る事を言ってしまったのではないかと、カインクムは心配なのだ。


「えーっと、お店に入って、食事をしたいと言っただけです。 そうしたら、奥から副支配人さんが出てきて、食べさせてもらえたんです」


 カインクムは、フィルランカの話を聞いていると、店に入って食事をしたいと言ったら、食べさせてもらえたように聞こえた。


「そうだったのか?」


「うん。 あそこの副支配人さんが出てきて、テーブルに案内してくれたのよ」


 フィルランカは、キョトンとした表情で答えた。


 カインクムは、その副支配人の素性を知っているので、フィルランカを何で店に入れて、食事をさせてくれたのか、気になったのだ。


「なあ、フィルランカ。 あの副支配人とは、知り合いだったのか?」


 可能性は低いが、何らかの形で面識があったのかもしれないと思い、カインクムは、質問したのだ。


「ううん。 あの店で初めて会ったのよ」


 フィルランカは、正直に話すのだが、カインクムは、難しい顔をしている。


(フィルランカは、嘘をついているようには見えないな。 でも、店に行って、食べたいと言ったからといって、本当に入れてくれたのか?)


 カインクムは、疑問が晴れずにいる。


「フィルランカ、あの店なんだがな、あそこは、簡単に入れる店じゃ無いんだよ。 テーブルマナーも知らないと入れないんだよ」


 それを聞いて、フィルランカは、何だというような表情をする。


「テーブルマナーは、副支配人さんが、教えてくれたわ。 この辺りのお店に入るなら、覚えておいた方が良いって言われて、最初から、一つ一つ教えてもらったのよ」


 その話を聞いて、カインクムの表情が、驚きに変わった。


「お前、副支配人から、テーブルマナーを教わったのか?」


「ええ」


 フィルランカは、カインクムが何に驚いているのか、分からないといった表情で答えた。


(これは、幸運だったのか? まあ、フィルランカにしてみたら幸運だっただろうな。 だが、なんで副支配人自らフィルランカに、テーブルマナーを教えた? まさか、後で、俺の店に請求が回ってくる? いや、あの店は、そんなセコい事はしない。 客に礼儀を要求するが、店も客に対する礼儀を弁えている。 子供へ、マナーを教えた勉強代をよこせと、後から言うようなことはしないはずだ)


 カインクムは、フィルランカの顔を見て考える。


「なあ、フィルランカ。 あの副支配人は、どんな人だった?」


 その質問にフィルランカは、その時の事を思い出しつつ答える。


「うん。 とっても素敵なおじさんだった。 丁寧に教えてくれたのよ。 それでね、テーブルマナーも良くできたって、褒めてくれたのよ。 あと、今の事を守れたら、第1区画のお店なら、どのお店にも入れるって、言ってくれたわ」


 フィルランカは、嬉しそうに答えたのだが、カインクムは、どうしたら良いのか分からないのか、悩んだような顔をしている。


(それはそうだろう、相手は、皇族や貴族に、テーブルマナーを教える程の人物だぞ、そんな人に教えて貰ったのだから、それを忠実にこなせば、どこの店も、お前のテーブルマナーに文句は無いだろう)


 フィルランカの話を聞いて、カインクムは、悩んだような表情をして、フィルランカの淹れてくれたお茶を一口啜った。


「そうか、あの店の副支配人さんに、そう言われたのなら、お前のテーブルマナーは、どこに出しても笑われる事はないな」


 フィルランカは、カインクムにそう言われて、心の底から嬉しかったようだ。


 今の一言が、フィルランカが、カインクムに認められたと思えたのだ。


 フィルランカには、それが、嬉しかったので、もっと、カインクムに話を聞いてもらおうと思ったようだ。


「それで、副支配人さんの歩き方を真似てみたのだけど、上手く真似ることができなかったの。 何でだったのかしら」


 フィルランカは、カインクムにお店での話を、次々と、カインクムに話し始める。


 一緒に居た、エルメアーナは、カインクムが、リビングに入ってきたとき、コーンスープの事で頭がいっぱいになっていたので、話をする機会を失っていた。


 そのため、真剣そうにフィルランカに話しかけていたので、黙って、2人の聞いていたのだが、今は、フィルランカの話だけになってしまい、時々、カインクムが相槌をするのを見ていた。


 そのフィルランカのマシンガントークに、エルメアーナは、ただただ、フィルランカの話を聞いて、時々、相槌を入れるカインクムを見るだけになってしまっていた。


 それを、どうして良いのか分からないといった様子で、2人を交互に見るだけになってしまった。


 エルメアーナは、仕方がなく、2人の話、……、ではなく、フィルランカの一方的な話を、相槌を入れるだけのカインクムを見るだけになっていた。


 エルメアーナは、コーンスープ以外の料理の話が聞きたかったのだが、フィルランカの様子を見ていると、聞いてはいけないように思ったようだ。

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