第13話 フィルランカの食べ歩き


 フィルランカの学校は、6日通って、1日休みになる。


 休みの前の日は、半日で、昼前には帰るようになる。


 フィルランカは、カインクムから、もらったお金で、学校と家の周辺の飲食店を回るようにした。


 お昼を、お店で食べて、その料理を覚える事が目的である。


 最初は、10歳の子供が入ろうとすると、煙たがれた。


 それが、子供一人だけだった事もあったのだが、フィルランカが、カインクムの所に住んでいる事が分かると、周りの飲食店もフィルランカが、食べに来ることを楽しみにしたようだ。


 フィルランカは、時々、食べた料理について、話を聞いていた。


 その店の店員も、料理人も、時々、来るフィルランカの質問に丁寧に答えてくれた。


 10歳の子供が、1人で入って来ることを最初は驚いたが、出てきた料理を美味しそうに食べては、料理が美味いと言って、どうやって作るのかと聞いてきたのだ。


 お店も、子供の事と思って、色々と教えてくれた。


 場合によっては、店の秘伝まで、こっそりと教えてくれたのだった。


 ある時、店員がフィルランカに聞いた。


「ねえ、フィルランカちゃん。 何で、そんなに料理を食べに来るの?」


「お嫁さんになるためよ。 その時までに、沢山の料理を食べて、沢山覚えるの。 その覚えた料理を旦那様に食べさせてあげるの。 だから、今は、美味しい料理を食べて、味を覚えているのよ」


「そうなの。 えらいわね。 でも、お金は、どうしたの?」


「うん。 お金はね、カインクムさんが、食事を作ってくれたお礼と言って、毎月貰えるの。 だから、私は、そのお金で、食事を食べにきてるのよ」


 店員は、良い嫁になる為に、小さい時から頑張っている事を快く思ったことで、お店側もフィルランカに協力してくれた。


 そして、フィルランカを引き取ったカインクムは、フィルランカに料理を教えるために、飲食店を回って、食べ歩いている事が噂になっていた。


 カインクムは、フィルランカの花嫁修行の為に、料理を覚えさせるため、飲食店を回らせていると、言われるようになったのだ。




 1年かけて、学校周辺と家の周辺の飲食店を、全て回って、店のメニューを全て食べ終わった頃、フィルランカは、貴族街の飲食店に行ってみたいと考えた。


 貴族が行くような飲食店には入れないが、貴族と取引をしている帝国臣民が行く飲食店なら、フィルランカでも入れると思ったのだ。


 学校の休みの日に、フィルランカは、カインクムに出かける事を告げて、自分達の住む第3区画から、第5区画を抜けて、第1区画に足を運んだ。


 しかし、身なりが、孤児院を出た後は、エルメアーナのお下がりだったり、大したものを着ていたわけではなかった事で、入店を断られた。


 そのため、フィルランカは、その日は、第1区画で飲食店に入れなかった。


 仕方なく戻ると、途中の第5区画の飲食店で昼食を済ませる。


 初めて行く第5区画の飲食店では、子供という事もあって、店の扉を開けるフィルランカを不思議そうに見た。


 フィルランカは、料理を頼むと一緒に代金を払ったので、店員は、その料理を持ってきてくれた。


 その時に、店員は、第3区画に嫁入りの為に、周りの飲食店を食べ歩いている少女がいるという噂を思い出したようだ。


 店員は、フィルランカを面白そうにみる。


 少し話をしてみると、噂の少女と分かったので、何で、第5区画に来たのか聞いた。


「第1区画の飲食店に行ったのですけど、全部の店から入店を断られたんです」


「ああーぁ、その格好だと断られるわね。 あの辺りは、貴族も入店する事があるから、それなりの服を着てないと入れてくれないのよ。 もし、あの辺りの店に入ろうとしたら、着る物も、それなりに用意する必要があるのよ」


 その話を聞いたフィルランカは、自分の料理の腕が上がるならと、自分の服を購入しにブティックに行く事を決意した。


 だが、そんな店は知らないので、どうしようかと思ったので、困った様な顔をする。


「ああ、お嬢ちゃん。 もし、第1区画で断られない服が欲しいなら、うちの店を出て、左に5軒目のブティックに行くといいよ。 あそこで、第1区画で断られない服が欲しいと言えば、見繕ってくれるよ」


 フィルランカは、店員に言われた通りに、そのブティックに、食事が終わった後に向かった。




 飲食店を出たフィルランカは、教えれもらった5軒先のブティックに入る。


「すみません。 5軒先の飲食店に教えてもらったのですけど、第1区画の飲食店に入れるような服が欲しいのですけど」


「いらっしゃい」


 それを聞いて、ブティックの店員も、最近、第3区画で有名になった、嫁入り修行の為に、飲食店を食べ歩いている少女の事だと分かったようだ。


「ああ、あんたかい。 第3区画で食べ歩きをしているお嬢さんというのは」


「へっ!」


 フィルランカは、驚いた。


 自分の事を知られていると思うと、少し恥ずかしいと思ったようだ。


「大丈夫よ。 今度は、第1区画のお店に行くのか」


 そう言って、フィルランカを見る。


「ああ、その格好だと、第1区画のお店だと、すぐに断られるわね」


 ブティックの店員は、フィルランカの姿を見て、一般の臣民程度だと見てとれるので、断られると言う。


「あのー。 私でも入れてもらえるような服って、ありますでしょうか?」


「ええ、大丈夫よ。 それで、予算はどの位なの?」


 フィルランカは、そう言われて考える。

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