第12話 フィルランカへのお小遣い
フィルランカは、孤児院のシスターの元に学校が終わった後、厨房の手伝いに行く事を、カインクムに了解を取った。
孤児院の厨房で、調理の手伝いをしながら、料理を覚える。
孤児院の手伝いが終わると、家に戻って、カインクムとエルメアーナの食事の用意をする日々が続いた。
ただ、カインクムとエルメアーナは、時々、夕飯を抜いており、気が付くと朝まで、作った食事がテーブルの上に置いたままになっている事もあった。
仕事がひと段落すると、一緒に食事を取るようになる。
最初は、カインクムもエルメアーナも、出された料理を、ただ、食べていただけだった。
それが、1ヶ月もすると、教えられた料理のレパートリーも増えてきたので、フィルランカの調理の腕も上がってきた。
また、フィルランカが学校に行っている間、カインクムもエルメアーナも、何も食べずにひたすら鍛治仕事を行なっている事が多かったこともあり、フィルランカが、食事の準備ができたと言うと、直ぐに、夕食になるようになった。
その際、カインクムもエルメアーナも、ひたすら、フィルランカの食事を食べる。
何も喋る事なく、食べる。
一心不乱に、出された料理を食べるのだった。
その食べ方が、フィルランカには、とても嬉しかった。
フィルランカは、美味しいと言われるより、その食べる姿を見るだけで、美味しいと分かる。
それを見るのがとても嬉しかったのだ。
それから後は、フィルランカは、更に積極的にシスターから料理を覚えるようになった。
ただ、シスターも教えられるレシピが無くなってしまい、フィルランカ1人でも、孤児院の料理を賄える程になり、一つの料理もなのだが、多くの量を作る事も、効率良く作る方法まで身につけてしまった。
(まいったわね。 フィルランカに、こんなに料理が上手になるとは思わなかったわ。 レシピを覚えるだけじゃなくて、効率良く作る方法まで、覚えてしまう。 いえ、自分で考えて、作り方を工夫して早く作る方法を、編み出してしまったのよね)
シスターは、このまま、フィルランカに料理を教える事で、手伝わせていたのだが、今では、フィルランカ1人でもこなせてしまう程、料理の腕を上げてしまったのだ。
フィルランカとしたら、孤児院の料理が終わった後に、カインクムとエルメアーナの料理を作る事が待っているので、早く終わらせて、家に帰って料理を作る必要があった。
そのため、孤児院の料理に時間を取られたく無いと考えていただけだったのだが、その思いが功を奏して、早く作る方法をマスターしてしまったのだ。
また、その頃には、カインクムは、考えるものがあった。
フィルランカの料理の腕が、上がってしまったこと、学校に行きつつ、帰って直ぐに孤児院の料理の手伝い、その後に、自分たちの夕食となる。
最初の頃は、フィルランカも、アタフタとしていたのだが、料理が美味しくなるにしたがって、調理の時間も早くなり、カインクムもエルメアーナも、フィルランカに合わせて食事をとるように変わっていった。
今まで、食べたり、食べなかったりの食生活だったのだが、フィルランカが料理を作ることによって、生活習慣が良くなったのだ。
そんなフィルランカに、カインクムは、何かお礼をと思い出したのだ。
「なあ、フィルランカ。 これをお前に」
そう言って、革袋に入ったお金を出した。
「えっ! 私に?」
フィルランカは、何で、自分に渡されるのかと思った。
「あのー。 私が、何で?」
「ああ、お前、養女になるのを拒んだだろ。 だから、フィルランカは、一緒に住んでいるだけだ。 部屋代と、食材代を引いて、お前の料理に関する代価だ」
孤児院から養女と言われて、フィルランカが断ったので、養女にはせず、下宿人の扱いにしてあるのだ。
「家族なら、家族のために、何かをするのに、代価は払わないが、お前は、そうじゃないからな」
「でも、10年後にお嫁さんにしてくれるって言ったなら、私も家族と一緒です」
「だが、今は、嫁じゃない。 その辺の区別はしっかりしておく。 ダラダラと成り行きで決める事じゃないからな。 それまでは、ただの下宿人だ」
フィルランカは、納得いかないと、カインクムを睨むが、カインクムは、平気な顔で話してた。
カインクムの話にフィルランカは、納得できないでいた。
「これは、フィルランカの正当な代価だから、受け取ってもらう」
カインクムも引かない。
「約束。 約束は、絶対に果たしてもらいます」
フィルランカは、反論できないでいるのだ。
だが、フィルランカは、カインクムとの約束を何としても果たしてもらおうと決意したようにカインクムに言う。
「これは、その時まで、誰にも、良いお嫁さんだと言われる為に使わせてもらいます」
カインクムは、その答えに一瞬怯む。
(そうだな。 いずれ、フィルランカも嫁に出すのだから、それまでに、料理の腕でも、裁縫でも覚えてもらえれば、嫁に欲しいと言う若者は多くなるだろう)
カインクムは、フィルランカの約束の期日までの時間が長いこともあり、それまでに心変わりをすると踏んでいた。
「そうか。 その時の為に、自分自身のスキルアップに、そのお金を使う事は良い事だ。 そういう事に使うのなら、そのお金の金額以上の価値が、お前にある事になる。 それは、俺も嬉しいよ」
「本当!」
フィルランカは、喜んだ。
カインクムの為になると思うと、これから先、カインクムの嫁になるまでに沢山の事を覚えようと心に誓ったのだった。
「私、良いお嫁さんになるように頑張る。 その為に、このお金は使わせてもらいます」
カインクムは、喜んだ。
カインクムとフィルランカの思いに違いは有ったのだが、カインクムは、将来、フィルランカを嫁に出した時、夫となる相手や家族に誇れると思ったのだ。
「ねえ、カインクムさん。 私、もっと、料理を覚えたいの。 それに、前に食べたケーキも自分で作れるようになりたいの。 どうしたら作れるようになれるかなぁ?」
フィルランカは、もらったお金の使い道について、カインクムに聞いた。
「ああ、何かを作りたいと思ったら、結果を見てから、作り方を考える。 ゴールが見えているから、その過程に何が有るか見えてくる。 結果が分かっているから、自分で作った時に、足りないものが見えてくるんだ。 結果を最初に知るから、それができるんだよ」
そこまで言うと、フィルランカには、少し難しかったかもしれないと思い、フィルランカを見るのだが、フィルランカは、真剣にカインクムを見ていた。
「ああ、要するに、作りたい料理があったら、その料理を食べるところから始めるんだ。 そして作って、食べて違いを確認する。 違いを何か考える。 そして、また、最初に食べた料理に合わせるようにするんだ」
フィルランカは、微妙な顔をする。
「ねえ、それって、ただの真似っこだよね。 それで良いの?」
カインクムは、フィルランカが、自分の話を理解してくれた事に驚いた。
10歳の子供が、今の話が通じた事に驚いた。
「あ、ああ、でもな、最初は、真似から始まるんだ。 人が出来る事が出来てから、次に進むんだ。 だから、フィルランカのような子供は、今まで有る技術を全て覚えることから始まる。 学校に子供が通うのは、今までに見つかった発見とかを教えてもらうんだよ。 基礎は大事なんだよ」
「うーん。 料理は、まず、人の作った料理を食べるところから始めるのね」
「ああ、そういうことだ」
「わかったわ。 カインクムさん。 私、美味しい料理を食べる為に、もらったお金は使わせてもらいます」
嬉しそうな顔をしてカインクムに答えた。
カインクムもフィルランカが、料理に目が向いた事でホッとした。
ただ、2人の考えには、大きな隔たりがあったのだ。
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