第10話 学校帰りの2人
カインクムとフィルランカは、家に帰るまで、手を繋いでいた。
カインクムとしては、少し恥ずかしかったのだろう、周りの様子を窺いながら、歩いている。
途中で、手を離して歩こうとしたのだが、フィルランカが、離そうとしなかったので、仕方なく、手を繋いでいるのだ。
知らない人から見たら、親娘が、仲良く手を繋いでいる、微笑ましい光景だが、カインクムの事を知っている人たちには、カインクムの娘はエルメアーナであることが分かっているので、エルメアーナ以外の少女の手を引いて歩いているのを見られる事になる。
自分の娘ではない、フィルランカの手を繋いで歩いている事を不自然に思われるのではないかと、カインクムは気になっていた。
「ねえ、カインクムさん。 なんだか、顔が赤いけど、どうかしたの?」
フィルランカは、カインクムに、聞かなくてもいい事を聞いた。
カインクムは、渋い顔をする。
「ああ、何でもない。 フィルランカも大人になったら、理解できるだろう。 気にするな」
「うん」
フィルランカは、不思議そうな顔をして、カインクムを見上げる。
「ねえ。 私、試験を受けたけど、学校に行けるのかなぁ?」
フィルランカは、試験を受けたが、学校に行けるのか、少し心配だったようだ。
「フィルランカは、先生達の質問は、答えられたのか?」
「うん。 答えられた。 だって、エルメアーナに聞いた学校の授業は、覚えていたもん。 エルメアーナに聞いてた事だったから、直ぐに答えられたよ」
「ほーっ、それは凄いな」
(なるほど、質問の内容が、試験内容で、フィルランカが、それを答えたのか。 エルメアーナが話してくれただけなのに、フィルランカは、それを答えたのか)
「なあ、フィルランカ。 先生の質問は、難しくは無かったのか?」
フィルランカは、思い出す様に、視線を上に向ける。
「うん。 最初は、簡単だった。 だけど、どんどん、進んでいくと、少し難しく感じたけど、エルメアーナから聞いてた事を、うまく使うようにして答えた」
「ふーん。 そうだったのか」
(後の方が、難しくなったって事は、最初は、低学年から初めて、徐々に上がっていったのか。 つまづいた所で、どの学年までの学力が有るか、確認できるな)
フィルランカの話から、学校が、どのような試験をしたのか、カインクムは考えていた。
「書取りとかもさせられたのよ。 先生の言った言葉を、石板に書いていくのよ。 それがね、最初は、1枚の石板に書いてたのだけど、足りなくなってしまって、先生が、石板を何回も取りに行ったのよ。 あんなの、最初から用意しておいたら、直ぐに続きができたのに、取りに行く時間がもったいなかったわ」
教師は、言葉にした内容を石板に書いて、文字の書き取りをさせたようだが、カインクムは、何度も石板を取りに行った事が気になったようだ。
試験内容は、予め決められているのだろうが、それが予想以上だった事で、書取りが教師達の考えていた以上に書き取れたという事だろう。
(なる程、思った以上に、書取りができたという事なのだな。 そういえば、家でも2人で、時間も忘れて、石板に文字を書いていたな)
カインクムは、昨日、校長が、孤児を入れて欲しいと頼んで、渋ったのだが、今のフィルランカの話を聞いて、カインクムは、仇を取ったような気分になる。
フィルランカの話を聞いただけで、校長が、今の話を聞いてどんな顔をしているのかと考えたら、笑いが込み上げてきているようだ。
「でもね。 面白かったのは、算術よ。 エルメアーナから、足し算と引き算は、教えてもらったけど、掛け算と割り算は、少しだけしか教えてもらえなかったの。 でも、お店に、同じ物が何個もあるでしょ。 お金の計算をする時、お客さんが、何個も同じ物を買ってくれた時に、掛け算は便利だったの。 だから、出てきた算術は、とても簡単だったわ」
「そうだったのか。 時々、お店に出てくれたのが、役に立ったのか。 それはよかった」
基本的な、四則演算については、フィルランカは、エルメアーナから教えてもらっていた事もあり、それを使って、時々、店に来た冒険者と話をしていた事を思い出したようだ。
カインクムが、接客できない時に、しゃしゃり出ていって、おませな事をすると思っていたのだが、その時に、支払い金額について、フィルランカが、言い当てた事を思い出していた。
その時の計算に、間違いがあった事は、無かった。
フィルランカは、計算も間違える事なく、カインクムに答えてくれていたのだから、学校の出す問題程度なら、簡単だったようだ。
「それに、ほら、お祭りの時に、カインクムさんが、2割引で売るって言った時があったでしょ」
カインクムは、そう言われて、お祭り価格として、安く販売した時の事を思い出した。
「ああ、そういえば、2割引について、お前に聞かれて、説明したな」
「うん。 それも、試験に出たのよ。 商品の価格から、3割引になったら、もらう金額はいくらになるかとかって、聞かれたのよ。 でも、その時の事があったから、簡単だったわよ」
フィルランカは、自慢するようにカインクムに話をした。
(割引って、そんな問題が出たのか? そんな問題は、もう少し上の学年になってからじゃないのか?)
カインクムは、少し疑問に思ったようだ。
だが、それにもフィルランカは、答えられたとなったら、カインクムは、かなりの好成績をフィルランカが残した事に気がついたようだ。
「そうか、そんな問題も解答できたのか。 フィルランカは、すごいな」
「えへーん」
フィルランカは、嬉しそうにした。
カインクムは、フィルランカを連れてきた教師の話を思い出した。
(そういえば、あの教師の印象は良かったな。 そう考えると、フィルランカは、学校側が出した試験問題に対して、ほとんど答えられたって事だな。 それなら、フィルランカも学校に行ける事になりそうだな)
カインクムは、安心した表情を見せた。
それと、校長に渡した寄付金の事を思い出した。
(大した額じゃなかったが、学校への寄付金が無くても、フィルランカは、学校に行けたのかもしれないな)
カインクムは、校長に寄付金を渡した。
それは、純粋に学校の運営に使う資金の為に募っている寄付金になる。
だが、フィルランカが孤児だった事で、最初に話に行った時に校長が渋ったので、もし、ギリギリの合否判定をするような成績だった場合、寄付金が物を言うとカインクムは思ったのだ。
それで、慌てて、寄付金を用意して学校に向かったのだが、フィルランカの話を聞いている限り、試験の合格ラインは、クリアーしているように思えた。
だが、学校側としたら、その寄付金が無かったら、フィルランカの好成績に関わらず、学校の都合で不合格にしただろう。
カインクムの寄付金は、学校に対して、合格とするための判断に大きく貢献していたのだ。
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