第9話 学校の方針
カインクムとフィルランカが、学校から帰った後、フィルランカの試験結果について、報告が上がっていた。
フィルランカは、孤児だったこともあり、大した学力も無いと思われていたので、直ぐに不合格の判定が下されるものだと思われていた。
しかし、そうでは無かった。
試験をした教師からの報告を聞くと、10歳の同学年と同等の学力が認められたことで、断る理由がなくなってしまったのだ。
「おい、今の報告の内容だと、10歳のクラスどころか、上の学年でも問題ないんじゃないのか?」
「ああ、確かにそうだ。 このまま、10歳のクラスに入れるのは、どうなんだ?」
報告を聞いた教師達が、隣の教師達と話し出す。
「10歳のクラスか。 あのクラスには、区長の息子がいるんじゃないのか」
「ああ、あの区長、貴族とも繋がっていて、息子を主席で卒業させろって、校長にかなりの寄付金を置いていったって、聞いているぞ」
報告を受けた、教師達には、思惑があったようだ。
その思惑のために、フィルランカの成績は、邪魔になってくるのだ。
もし、フィルランカの成績が、一般的な結果だったり、合格ギリギリ程度だったら、大きな問題にはならなかったのだろうが、フィルランカは、かなりの好成績を出してしまった。
このまま、10歳の学年に入れてしまった場合、フィルランカに首席を奪われる可能性が出てくると教師達は、考えていたのだ。
それは、学校に圧力を加えて、自分の息子を主席で卒業させると、裏で約束させられている学校側には、嬉しくない話になる。
学校の運営にも、資金は、必要になる。
校舎、備品の修繕、古くなった備品は購入する必要がある。
それ以上にかかる費用は、教師達への給与の支払いになる。
生徒の学費だけでは、賄えない分は、寄付や国からの補助金といったもので、賄う事になっている。
そのために、第3区画の区長は、学校に圧力をかけていたのだ。
「とりあえず、フィルランカの成績は、10歳の学力を満たしているということで、皆の意見は一致しているようだな」
まとめ役である、教師が、他の教師達の顔を見る。
教師達には、反対の意見を出すような人は居なかった。
「では、我々の判断は、フィルランカに10歳の学力があると判断するとして、後の判断は、校長に任せる事にしよう」
それを聞いて、教師達は、ホッとする。
学校の方針に従うなら、フィルランカは、編入させない方が良い。
だが、フィルランカは、十分どころか、かなりの好成績で試験を終わらせたのだから、編入しても十分に学力はあると判断されているのだ。
学力的に断る理由が見当たらないのだ。
その判断を、校長に丸投げすることで、教師達の判断する必要が無くなった。
責任が校長に移った事にホッとしたようだ。
取りまとめ役の教師が、会議の内容を校長に報告する事になった。
校長室に、その教師が尋ねる。
校長は、たかを括っていたのか、落ち着いた様子で、入ってきた教師に声をかける。
「あの孤児の試験結果は、どうだった? どうせ、大した学力は無かったのだろう」
校長は、学力が無い前提で、入ってきた教師に話を聞く。
「はぁ」
入ってきた教師は、気のない返事をする。
「どうした? そんなに酷かったのか? まあ、仕方のない事だろう」
入ってきた教師は、歯切れが悪い。
だが、報告しないわけにはいかないので、校長に話し始める。
「実は、フィルランカなのですが、こちらの質問にも、答えられました。 読み書きについての試験も行いましたが、教師達が舌を巻くほど、流暢に読み、書き取りについても、文字の間違いもなく書けてました。 特に、算術については、計算間違いはなく、かなり、高度な問題でも解答できてました。 算術については、同学年以上といっても良い位でした」
「おい、相手は、孤児だったのだぞ。 そんな事になったら、……」
校長は、頭に何かよぎったようだ。
「校長が考えている通りです。 このまま、フィルランカを、10歳の学年に編入させると、フィルランカは、主席になってしまう可能性があります」
校長の頭をよぎった内容を、入ってきた教師が指摘する。
「ですので、教員会議での結論は、フィルランカに10歳以上の学力は有ると、判断しました。 あとは、編入させるかどうかの判断を仰ぐために、ご相談にあがりました」
入ってきた教師は、判断まで、丸投げされるのではないかと思ったのか、校長が言う前に判断を預けた。
困った顔をする校長は、先に言われてしまったことをどうするか考え始める。
(あーっ、ここにきて、とんでもない問題が発生してしまった。 区長の面子を潰せば、来年からの寄付金もだが、国の予算だって削られる。 あいつら、メンツを潰される事を嫌がるからな。 全く、考え方はヤクザと一緒だなんて、……。 まったく、臣民の為に使う税金を、自分の感情で、裁量を決めるんだから、困ったものだ)
判断を自分に振られてしまった校長は、恨めしそうに、言った相手の教師を見る。
その教師は、黙って、校長の判断を待っている。
(クソォ! なんで、この学年なんだ。 上でも下でも一つズレていたら、こんな事にはならなかっ、……、た)
校長は、何かをひらめくような表情をした。
「フィルランカは、孤児だったな」
自分で確認するのか、前に立っている教師に話しかけるのか、どちらとも言えない話し方をした。
「はい、昨日、孤児院から引き取ったと聞いております」
「そうか。 それに試験の結果は公表する必要はないな」
「はい。 ございません」
校長は、それを聞いて、ニヤリとする。
「君、フィルランカは、編入を許可する。 ただし、編入する学年は一つ下の、9歳のクラスにする。 孤児たった事もあるから、本来なら、6歳のクラスから基礎から、シッカリ勉強させる所だが、学力も高いと、言っても、全く学校に通ってないのであれば、一つ下の学年から始めた方がいいだろう。 フィルランカは、一つ下の学年の9歳のクラスに編入だ」
「かしこまりました。 では、そのように手配いたします」
そう言って、報告に来た教師は、校長室を退出していった。
(これで、どこにでも面目が立つだろう)
校長は、一息ついた様子で、教師が出ていくのを見送った。
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