第8話 試験終了後
フィルランカが、試験を終えて、カインクムの居る応接室に戻ってきた。
カインクムは、立ち上がってフィルランカを迎えた。
「フィルランカ、試験はどうだった」
フィルランカは、カインクムに声をかけられると、カインクムに走り寄るので、カインクムはしゃがんで、フィルランカの身長に合わせて待つと、フィルランカはカインクムの胸に飛び込んだ。
カインクムは、フィルランカが自分の前で止まると思って待っていると、フィルランカは、カインクムの胸に飛び込んで抱きついた、その行為にカインクムは驚くが、フィルランカが少し震えていたのを感じると、カインクムは、フィルランカの頭を優しく撫でてやる。
(生まれて初めての試験だったな。 1人で対面式だったから、心細かったのか)
フィルランカの頭を撫でていると、フィルランカの震えもおさまってきたが、カインクムに抱きついたまま、離そうとしない。
カインクムは、そのまま、一緒に来た教師に話を聞く。
「フィルランカの試験の結果は、どうなりましたか?」
カインクムの、いつもの口調とは異なっていたのは、フィルランカが抱きついたまま、離そうとしないのが、少し恥ずかしかったので、変わってしまったようだ。
付き添ってきた教師は、微妙な顔をして、カインクムを見ていた。
「ああ、試験は、全て終わりました。 結果は、3日後にお伝えします」
そう言って、教師は、笑顔をカインクムに向ける。
フィルランカが、カインクムを抱きしめて離れようとしないのを、微笑ましく思ったようだ。
カインクムは、フィルランカが抱きついたままでいるのだが、それを振り解いても構わないのか、どうしたら良いのか、戸惑っている。
カインクム自身としたら、女の子に抱きつかれてしまい、恥ずかしさが優っているのだ。
しかし、フィルランカの事を考えると、フィルランカを振り払う行為にならないか、振り払ったことで、フィルランカに心の傷をつけてしまわないか、気になってしまって、次の行動が取れずにいる。
そんな、カインクムを見た教師は、その光景を微笑ましく見る。
「カインクムさん、フィルランカさんは、優秀でしたよ。 こちらの質問にも、ちゃんと答えられました」
「ああ、そうでしたか」
「きっと、良い結果になると思いますよ」
カインクムは、喜んだ様子をする。
「じゃあ、フィルランカは、合格したのか?」
カインクムの言葉に、教師は、困った様子になった。
「ああ、すみません。 私には、合否の決定権はありません。 結果を伝えた後に、職員会議で決定します」
それを聞いて、カインクムは、ガッカリする。
その姿を見て、教師は少し悩んだ様子をした。
「ああ、でも、私は、フィルランカさんの答えには満足できました。 私には、合否の決定権はありませんが、今日の結果を、そのまま、伝えます。 きっと、良い結果が待っていると思いますよ」
そう言って、カインクムに笑顔をむけ、一礼すると、応接室を出ていった。
カインクムに抱きついたままのフィルランカを、どうしようかと困った様子なのだが、このままにしてはいけないので、カインクムは、フィルランカに声をかける。
「フィルランカ。 よく頑張ったな。 教師の印象も良かったみたいだ。 後は、家に帰って、結果を待とうじゃないか」
フィルランカは、カインクムの言葉に反応するように、少し、抱きしめる力を強くした。
しかし、その力は、締め付けるようなものではなく、愛情表現のような心地良さでカインクムを抱いていた。
「うん。 ありがとう」
フィルランカの声が、カインクムの耳元に囁いた。
「フィルランカ。 いつまでもこうしているわけにはいかないから、手を離してくれないか。 家で待っているエルメアーナも、お前の事を心配しているだろうから、家に帰ろうか」
「うん。 じゃあ、離すけど、その前に、私をギュッとして。」
フィルランカは、カインクムに甘えるように言った。
カインクムは、少し恥ずかしそうな表情をするのだが、応接室には2人だけしか居ないので、フィルランカの言った通り、フィルランカの体を包むように両手を回して抱きしめてあげる。
フィルランカは、幸せな表情を見せる。
「ありがとう。 カインクムさん」
そう言うと、フィルランカは、カインクムを抱きしめていた手を緩める。
カインクムもそのフィルランカの力を緩めるのに合わせて、手を緩めた。
体を離すと、カインクムは、フィルランカの肩に手をのせると、フィルランカの目を見る。
「よく頑張った。 後は、家に帰って結果を待つ事にしよう」
「うん」
そう言うと、カインクムは、立ち上がって入り口に向かおうとすると、フィルランカが、カインクムの手を握った。
カインクムは、立ち止まって、フィルランカの握った手を見る。
そして、フィルランカの顔を見た。
カインクムは、笑顔をフィルランカに向けると、フィルランカが握ってきた手を、優しく握り返した。
「俺たちの家に帰ろう」
そう言って、2人は、家まで手を繋いで帰っていった。
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