第6話 学校との交渉


 フィルランカの件について、孤児院のシスターと話がつくと、今度は、学校に通わせる為の交渉にカインクムは向かった。


 学校には、エルメアーナの不登校の件があるので、カインクムも、あまり行きたいとは思わなかったようだ。


 通うはずのエルメアーナが、登校拒否してしまったのだが、その理由を言わないので、カインクムも学校側も困っていたのだ。


 そんな中、カインクムが学校に来たので、なんの話なのか校長も気になったようだ。


「こんにちは、カインクムさん。 今日は、どんなご用件で、足を運んで下さったのでしょうか?」


 校長は、カインクムが何をしに来たのか気になり、表情を強張られて話した。


「ああ、今度、隣の孤児院から、1人子供を引き取ったんだ。 その子を学校に通わせたいので、その相談に来た」


 校長は、エルメアーナの事かと思っていたのだが、ホッとしたようだが、孤児院の子供と聞いて、また、困った様な顔をした。


「孤児院の子供ですか」


 校長は、少し考えるような仕草をした。


「その子は、何歳ですか?」


「10歳。 女の子だ。 名前は、フィルランカと言う」


 カインクムは、年齢を聞かれたのだが、年齢以外に名前も答えたが、校長の表情は硬くなった。


「うーん。 10歳ですか」


 校長は少し悩んでいるようだ。


 学校に入る年齢は、6歳からと決まっている。


 1年程度遅れる事は、家庭の都合で良くあるのだが、10歳だと、周りの生徒とのバランスが悪くなってしまう。


 校長は、フィルランカを6歳のクラスから入学させるのかと思ったようだ。


 そうなると、周りは、6歳で、フィルランカは、10歳となると、明らかに身長が違ってくるし、女子となったら、早い子供は、少しずつ女らしい体つきになってしまっている。


 そう考えると、校長は直ぐには、答えを出せないでいる。


「その歳まで、孤児院にいたとなると、どうなんでしょうか? 大した勉強もできてないでしょうから、同じ歳のクラスに入れる訳には行かないと思います。 1年生から入れるとなっても、周りと身長が違うので、浮いてしまうでしょうね」


 校長としては、あまり、面白くない話だと思ったようだ。


 しかし、カインクムは、フィルランカが毎日エルメアーナから、学校の授業内容を、エルメアーナが先生役でフィルランカが生徒役で、その日に覚えた事を、そのまま、聞いていた事も知っており、時々、店に来ては、計算やら木札に商品名を書いたりしており、その年齢の生徒と学力の差は殆どないと思っていた。


「フィルランカは、今まで、うちに来ては、エルメアーナから、学校で教わってきたことを教えてもらっているから、全くダメなことは無いと思います。 多分、同じ歳の生徒と学力の違いは、殆ど無いんじゃないかと思っている」


 校長は、子供が子供に教えて、どれだけ、身につくのか心配になったようだ。


 ちゃんとした教師について、教わっていたのなら、それなりに学力は有ると見て良いだろうし、もし必要なら、その教師から、どれだけの事が理解できるか確認することもできる。


 しかし、エルメアーナに教わった程度で、どれだけの学力がついたのか疑問があるのだ。


「学校は、勉強を教えます。 ただ、今の話を聞いたところだと、同学年の生徒との学力の違いが顕著に出てしまい、落ちこぼれてしまう可能性があります。 その歳から、学校に通わせるのは、いかがかと思いますが」


 校長は、カインクムの話に乗り気ではないようだが、カインクムは、引き下がる様子は無いようだ。


「フィルランカは、俺の店の商品の値段は全て覚えていて、お釣りの計算もできる。 文字を読むことも、ある程度できるから、全く出来ないというわけではない」


 校長は、多少できる自分の子供を天才のように言う親の事を思ったようだ。


 そして、カインクムが自分の子供ではなく孤児だった子供に、そんな感情を持つのかと気になったのだ。


「それは、贔屓目というのではないですか? よくあるのですよ」


 校長は面倒臭そうに答えたのだが、カインクムは、その校長の言葉に、ムッとした。


「なあ、だったら、フィルランカが、どれだけの学力があるのか、試してみないか?」


 カインクムは、思わず校長に提案してしまった。


 カインクムには、今まで、家で見てきたフィルランカが、それ程劣っているとは思えなかったのだ。


 数字も読めるし、書く事もでき、そして、計算もできるので年相応の学力は身についていると思っているので、それを証明してしまえば、この校長も認めざるを得ないと思ったようだ。


「そうですね。 ここで、当人が居ないのに、話をしていても始まりませんね。 では、その娘さんの試験をしましょう。 その結果を見てから相応しい学年を決める。 それで良ければ学校に通う事を許可するというのはいかがでしょうか」


 校長は、孤児に年齢相当の学力が有るとは思っていなかったので、試験をした結果を示したら、カインクムも諦めるだろうと思ったようだ。


 しかし、カインクムとしたら、フィルランカの学力を学校に見せつけたら確実に入れるだろうと思ったようだ。


「わかりました。 フィルランカに試験を受けさせるようにします。 それで、その試験は、いつにします?」


 カインクムは自信あり気に答えたので、校長としては、試験を受けないと言いだしてくれたら、それを理由に断ろうと思ったようだが、そうならなかった事で思惑が外れたようだ。


 そして、さっさと終わらせてしまおうとも思ったようだ。


「そうですね。 こう言った話は、早い方が良いでしょう。 明日はいかがですか?」


 カインクムも、フィルランカを早く学校に通わせたいと思っていた事もあり、校長の言った日程はありがたいと思ったようだ。


「ああ、それでいい。 明日、フィルランカを学校に連れてくる。 今日は、話を聞いてくれて、ありがとう」


 カインクムは、フィルランカの試験の約束を取り付けたので席を立った。




 カインクムが出て行った後の校長は、面倒な事になったと思ったようだ。


 孤児が、学校に通っている子供と同じだけの学力があるとは、考えられないので断る理由として試験を行う事にしたのだ。


「その子に学力が無かったら、諦めるだろうな」


 校長は、がっかりした様な顔をした。


(孤児が、簡単に読み書きできるわけないだろう。 計算ができる? 本当なのか? 数字だって読めるのか?)


 校長は、孤児の学力に対して期待はしてない。


 それより、断る理由を探していたのだ。

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