第4話 孤児院との話し合い


 フィルランカの意思は学校に行きたいと分かったので、カインクムは、隣の孤児院を訪れた。


 フィルランカの事について、孤児院に了解を取るためだが、孤児院のシスターは、カインクムが訪れたことが気になっていたようだ。


「カインクムさん、いらっしゃい。 今日は、どのようなご用件でしょうか?」


 孤児院のシスターは、恐る恐る、カインクムに話しかけた。


 孤児院は、国からの助成金と、寄付に頼った経営をしているので、資金的な余裕が無く、子供達に満足な生活を営ませているわけではない。


 そんな孤児が、街に出ては、時々、食べ物を盗んだりして、苦情を言われたりする事があったので、カインクムの訪問は苦情ではないかと思ったようだ。


 孤児院の横に店を構えているので、孤児院の子供の声がうるさいとか、フィルランカが、何か悪さをしたとかの、苦情かと思っているのだ。


「ああ、シスター。 今日は、お願いがあって来たんです」


「お願い、ですか」


 シスターは、苦情なのかと思ったのだが、少し様子が違うように思えたようだ。


 だが、お願いと、言うなら、苦情ではなくとも、苦情に近い事なのかと思ってか、シスターは不安そうにしていた。


 カインクムは、シスターが警戒している様子を見て、はっきり、説明する必要があると思ったようだ。


「実は、フィルランカの事なんだが、彼女を学校に通わせたいんだ。 もちろん、学費は、俺の方で支払う」


 そこまで聞くと、シスターは、苦情とは違うと分かって、ホッとしたようだ。


 最初は、フィルランカが、カインクムの店で、何か、やらかしたのかと思ったのだが、カインクムの話は、フィルランカにとって好条件の話なのだが、その理由が分からなかったのだ。


「それは、どういう事なんでしょうか?」


「フィルランカは、うちのエルメアーナと仲が良い。 フィルランカがここを出た後、うちの店で働いて欲しいと思っている。 それで、エルメアーナは、最近、学校に行かず、鍛治仕事をするだけになってしまっているので、これから先の事を考えたら、エルメアーナが鍛治仕事をしている間、店番を任せられれば助かるから、それをフィルランカにお願いしたいと思ったんだ」


 そう言って、カインクムは、シスターの様子を伺った。


 シスターは、フィルランカの未来につながる事だと分かると、安心した様子でカインクムの話を聞いてくれていたので、カインクムは更に話を続けた。


「フィルランカは、時々、遊びに来た時、店にも顔を出してくれてたんだが、その時、お客とも普通に話もしてたし、店の商品の値段も、すぐに把握してしまったし、飲み込みも早い。 エルメアーナが、学校に通っていたときは、夕方、遊びに来ては、エルメアーナから、学校の授業内容を聞いて覚えていたんだ。 物覚えも早そうだから、成人後は、うちの店で雇いたいと思っている」


 そこまで聞くと、シスターの表情も明るくなった。


 孤児院を出た後の、女子が生きる道は、限られているのだが、そんな中で、まともな職業につけるなら、ありがたい話だとシスターは思ったようだ。


「まあ、そうだったのですか。 あの子、魔法適性があったから、そっちの方にと思ってたのですけど、物覚えが悪いとかで、魔法学校から戻されてしまったので、心配してたのですよ。 でも、そう言う事なら、ぜひ、お願いしたいと思います」


 カインクムは、第一関門を通過したと思うと、ホッとしたようだ。


「ただ、孤児院から、フィルランカだけ学校に通うというのは、他の孤児からしたら、羨ましい話になってしまいます」


 孤児は、生まれて間もない子供を育てられないと思った親が孤児院に置いていく事が多い。


 ましてや、孤児院から孤児を引き取ってくれる人は少ないので、孤児院は、年々、孤児が増える傾向にある。


 寄付と、微々たる助成金によって、運営しているので、できる事なら、すぐにフィルランカを引き取ってもらえると助かるのだ。


「孤児院の中で、フィルランカだけが、学校に行くとなると、周りの子供達から、妬まれてイジメを受ける可能性もあります」


 シスターの話を聞いて、カインクムも、有りそうな話だと思ったようだ。


「つきましては、フィルランカを養女として、カインクムさんの所に置いてもらえないでしょうか?」


 その話には、カインクムも納得できたようだ。


 ただ、カインクムとしたら、まだ、家に呼ぶつもりは無かったので、向かい入れる準備ができてない事が気になったようだが、すぐに、解決策が見つかったようだ。


(あの部屋か。 あそこは、人の住める状態じゃないな。 ちゃんと改装してやらないと使えそうもないな)


 カインクムは、フィルランカを引き取る方向で、話を進める気になったようだ。


「シスター。 すまないが、今、直ぐに、フィルランカを受け入れる事はできない」


 それを聞いてシスターは、困った表情をしたが、カインクムは、直ぐに次を続けるのだった。。


「部屋を用意してないんだ。 部屋は有るが、人を住まわせられる部屋ではないから、改装して人の住める部屋にしてあげないと、フィルランカが可哀想だ。 エルメアーナと姉妹と考えるなら、エルメアーナと同じにしてあげたい。 エルメアーナが上でフィルランカが下のような格付けはしたくないんだ」


 カインクムの、フィルランカとエルメアーナを対等に考えてくれた事を、シスターは、感謝した様子を見せた。


「もったいない、お言葉です。 フィルランカも良い人に巡り会えた事を、感謝いたします」


「それじゃあ、フィルランカを引き取るのは、こっちの準備が出来てからでも構わないか?」


 そう言われて、シスターは、少し表情を変えた。


 このような話は、後で、ひっくり返ってしまい、無かった事にされることもある。


 ましてや、フィルランカは、物心ついた時から、エルメアーナと遊び、毎日のようにカインクムの家に行っているのなら、フィルランカが嫌がる事は無いとシスターは考えていたのだ。


 このまま、早めに話を決めてしまった方が、1人でも、新たな道に進ませて孤児の数を減らしたいのだ。


「できましたら、1日でも早く、フィルランカを新しい道に進ませてあげたいのです。 それに、学校へ通わせるなら、早めに養女にした方が、何かと便利だと思います」


「そうですか」


 それを聞いて、カインクムは、昨日の事を思い出した。


 エルメアーナは、今直ぐにでもフィルランカと、一緒に住みたいと言っていたことを思い出すのだった。


(エルメアーナもフィルランカも、10歳か。 部屋が用意できるまで、一緒の部屋でも構わないのかもしれないな)


 カインクムは、納得したような表情をした。


「わかりました。 それなら、フィルランカは、養女として、うちで引き取らせてもらいます。 しばらくは、エルメアーナと一緒の部屋に住んでもらいますが、部屋の改装が終わったら、フィルランカにも部屋を持たせます」


「ありがとうございます」


 シスターは、早くカインクムに引き取る方向に話が進んだことで、ホッとしていた。


 そして、カインクムにお礼を言い頭を下げた。

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