第3話 怪物退治の準備

 森の奥。怪物が棲んでいるという洞窟は深く、覗き込んでも奥の方は見えない。


 エリクの話によれば、怪物は夜に活動を開始して町にやってくるらしい。


 ここに来る前に、道具屋で粘土と、細く長い紐をありったけ購入した。荷物には上り下り用のロープがあるが、これからする事を考えると、それを使うことは避けたかったのだ。


 エリクは「俺も行くよ!兄ちゃんを手伝う!」とは言ってくれたが、何かあったときに守りきれる自信が無いため、町で待つように言っておいた。


 僕はブーツを脱いで裸足になる。そして洞窟に足を踏み入れた。目標は大体、僕の普段の歩幅で六十歩程度の距離だ。


 裸足になったのは足音を立てないためだ。人を喰う以上、恐らく怪物は人の足音にも反応して近付いて来るだろう。


(不安だけど、においにまで反応しないことを祈るしかないか……)


 洞窟の奥に目を凝らしながら、時折振り返って距離を測る。


 そして目標の辺りに辿り着き、僕はなるべく音を立てないように荷物から粘土と爆薬を取り出し、担いでいたロープを下ろす。


 粘土に爆薬を包み、それに紐を巻き付ける。


(あとは……)


 最後にポケットから反応晶石を取り出す。


 反応晶石は主に爆薬の遠隔的な起爆のために用いられる石だ。これだけでは特に何も出来ないし、ありふれているために無料で提供されている道具屋も少なくない。


 これを粘土に埋め込む。


(どうか、怪物が気付きませんように)


 何度もそう心の中で祈りながら、天井から長く伸びた鍾乳石に爆薬を貼り付け、紐を巻いて固定する。


 これをいくつも作って次々に取り付けていく。


 爆薬を取り付け終わり、僕は爆薬を繋いでいる紐をひとつに纏めて結ぶ。そこに更にもう一本紐を結んだ。


 結んだ紐を少しずつ解きつつ、外へと向かう。怪物が気付く可能性もあるため、地面に垂れ下がった紐には所々、石や砂を被せて隠す。


 途中で紐をが途切れたら、新しい紐を結んで延長していく。


 無事に外へと辿り着いた僕は、洞窟の入り口にも爆薬を仕掛ける。入口の上にも引っ掛かるように投げる。


 紐が足りなかったため、そこら中から植物の蔦をかき集めて紐の代わりに使った。


「つ、疲れた……」


 とは言ったものの、それは肉体的な意味ではなく、精神的な意味だ。


 魔法を使うことが出来ない今の自分では、怪物に遭遇したら決してまともに戦うことは出来ないからだ。どうしても神経を張り巡らせてしまう。


 少し休憩したら、仕上げの作業にかかろう。


 近くの小川で手を洗い、適当な茂みに姿を隠すように座り、荷物から弁当を取り出す。宿屋で作って貰ったサンドイッチだ。


「美味しい……!」


 一口食べると、野菜の味がかなり良いことが分かる。思わず笑顔になってしまう程だ。


 パンは言っては何だがかなりの安物だけど、それを補って余りあり、パンの良いところを引き立てる野菜とチーズの味に、僕は感動してしまった。


 食べ終わり、少し休憩をしてから洞窟へと戻ると、入り口に町の人と思わしき人が数人居た。


(怪物に見付かるかもしれないのに、どうしてここに……?)


 僕は茂みの中から聞き耳を立てる。


「本当に……に向かっ……か?」


「怪物……女……らの方に……」


 この位置からでは、何を話しているのか分からない。


 町人はしばらく話をした後、全員帰っていった。


 念のために、仕掛けた爆薬等の確認をしておく。カモフラージュはしてあるが、もしかしたら町人が仕掛けを解除している可能性もある。疑いたくはないが、こういうことは命が掛かっている場所では必要なことだ。


 念のために確認したが、外も中も解除された形跡は無かった。


(それじゃ、村人はどうして怪物が居るかもしれない洞窟に来たんだろう?)


 あれこれ考えていても情報が足りない上に時間も無い。仕方がないので、僕は残りの仕掛けを行い、夜を待つことにした。

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