第四章 三郷への追及

 土曜に行われた告別式が終わり四日過ぎた水曜日の午後、吉良達は三郷の部屋を訪ねた。

 取引先の葬儀の出席は、基本的に休日出勤とはならないらしい。だが今回は業務に近いと判断され、代休として半休を取るよう相原から指示されたという。 

 それを知った吉良達は、彼女の部屋へ入る良い機会と捉えた。そこで事件について伺いたいと連絡を入れ、今回の訪問となったのだ。当然外で会う事もできた。しかし誰が聞き耳を立てているか判らない中、事件について話すのは彼女も躊躇ためらったようだ。

 また後ろめたい事等無いと知らしめる為にも、受容した方が良いと思ったのかもしれない。それに今回も任意の為、部屋を強制的に物色等しないと聞き安堵した点も要因だろう。

 事件から約二週間が経つ。吉良達も多くの情報収集は出来たが、未だ真相解明にまで至らない。その為今回の事情聴取で彼女が抱える謎に迫り、真実を暴きたいと考えていた。

 二人はダイニングにあるテーブルへ促され、椅子に座った。一人暮らしには大きすぎる、四人掛けのものだ。

 十二月も半ばを過ぎたが床暖房を効かせているようで、室内は温かい。しかし外はとても寒かった。その為か彼女は体が温まるよう、熱いお茶を出してくれた。余り慣れていないのか、手つきがやや危なっかしい所が意外だった。

 吉良達は揃って頭を下げる。

「有難うございます」

「いいえ、あまり美味しくないかもしれませんが、温まるとは思います」

 今日は話を主導する予定の松ヶ根が、先に口を開いた。

「いいえ、お構いなく。それにしても広いですね」

 彼女はやや警戒しながら答えた。

「一人暮らしだと、そう思われるでしょうね。でも隣のように夫婦二人だったり、他の部屋のような小さいお子さんが一人ぐらいいたりすると、丁度良い広さですよ」

「いやいや、家族三人でもここは十分広い。リビングだけで十五畳はありますよね」

 三人が腰かけている場所から、カウンター越しにキッチンが見える。奥には冷蔵庫と小さな食器棚があるだけだ。リビング側にはテレビとその下の書籍等を入れた大きめの台に加え、小さなテーブルと二人掛けのソファが配置されていた。

 その横には仕事で使っているらしい机や、資料等が揃えられた本棚がある。他の物は別の部屋に置かれているのか、ここから見て余計なものは一切ない。スッキリとしている分、贅沢な空間に感じた。

「物が少ないから、そう見えるのでしょう。キッチンもありますし、ダイニングと併せれば約二十畳です。後は寝室があるだけですよ」

「失礼ですが、事前に調べさせて頂いています。この低層マンションは確か、一階に住む大家さんのお住まい以外の間取りは、ほぼ同じ一LDKですよね。一つがそれぞれ約八十㎡ある。広いだろうと想像していましたが、実際に見て思った以上で驚きました。さすが高給取りだ。安月給の公務員では、とてもじゃありませんがこんな部屋に住めません」

 中だけでなく防犯もしっかりしている。マンションや各部屋への出入りは、ICカードキーが必要なのだ。その為部屋から出入りした時間など、カード内の情報を分析すれば全て明らかになる。おかげで彼女の事件当夜の行動も、ほぼ把握できていた。

 戸数も少なく、カードの複製やピッキングでの侵入は難しい。ドアはダブルロックに加えガードプレートがつけられている為、バール等でこじ開けるのも困難だ。窓にも防犯装置が設置され、そう簡単に窃盗犯が侵入できない点も女性の一人暮らしには安心だろう。

「でも所詮は賃貸です。分譲マンションや一戸建てと比べれば、大したことはありません」

 そこですかさず彼は質問した。

「そこです。高収入の三郷さんなら十分購入できる。なのに何故賃貸を選ばれたのですか」

 少し間を置いた後、彼女は聞き返してきた。

「それは今回の事件と、何か関係があるのですか」

「全く無いとは言えません。何故なら我々刑事は、事件関係者の過去や人となりを徹底的に洗います。気分を害されるといけませんので予めお伝えしますが、これは三郷さんだけではありません」

「それは理解できますけど、私が賃貸に住んでいる事とどう繋がるのでしょう」

「失礼ですが、色々調べさせていただきました。あなたは過去に震災を経験されているようですね。そうしたことが影響して、このような低層マンションにお住まいではないかと推測したのですが、間違っていますか」

 過去を調べた上で人となりを想像し探っていると、彼女も悟ったらしい。素直に答えた。

「そうです。あれから高い部屋には、怖くて住めなくなりました」

 また分譲や一戸建てを購入しない理由も告げられた。彼はそれを聞いて深く頷いた。

「そうお考えになるのも無理はありません。実際騒音問題や近所付き合いに関わるトラブルは、決して少なくありませんからね。ここはマンションの構造上、防音や耐震構造はしっかりしている。あなたが求める条件にはぴったりだ。それでも隣から夫婦喧嘩の声が聞こえるというのだから、相当激しいやり取りだったのでしょう」

「いえ。私が音や振動に、人一倍神経質だからでしょう。余り気にしない人なら、聞き逃しているかもしれません。私がヘッドホンか何かを嵌めて音楽を聴くか、テレビを点けて音を出していれば、気付かないレベルだと思います」

「ひょっとして、どれくらいの音がするか録音などしたことはありませんか。もしそういったものがあれば、お聞かせいただければ幸いです」

 どうやら指摘が当たっていたらしく、彼女はとても驚いていた。しかし今度は直ぐには答えが返ってこなかった。

「あることはありますが、聞いてどうするおつもりですか」

「あくまで参考の為です。お隣が事件当夜、喧嘩していたことはこちらでも確認しています。ですから疑っている訳ではありません」

「録音したのは、あくまで今後トラブルになった場合に備えてです。盗聴ではありません。しかも二度ほどだけですし、事件があった日のものではありませんよ」

「それでも構いません。聞かせていただけますか」

 話題がなかなか本題に入らない為、これは長引きそうだと覚悟したらしい。ようやくリビングの隅に置かれた机の引き出しから、レコーダーを取り出し渡してくれた。

 吉良はそれを操作して音を出してみる。そこから数カ月前だという隣人夫婦による、罵り合う声が聞こえて来た。耐えがたい内容だけに、我慢できなくなったのだろう。彼女は席を立ち、リビングの 横にある扉を開けて寝室へと逃げ込みながら言った。

「聞き終えたら、声をかけて下さい。隣の部屋にいますから」

 一通り聞き終え、松ヶ根の了承を得て吉良は席を立ち、ドアをノックし声をかけた。

「すみません。もういいっすよ」

 戻って来た彼女がリビングの椅子に座り直し所で、彼は謝った。

「申し訳ありません。余計なお時間を取らせまして」

「何か分かりましたか」

 尖った態度を取ってはいるものの、これまでの彼女の調子とは違って明らかに意図的だと判った。心理的な問題だからだろう。思い出したくない嫌な過去が蘇ってくるが為に、テンションが低くなったのかもしれない。

 その為松ヶ根は、先程より柔らかい調子で答えていた。

「はい。お隣からも定期的に喧嘩をしていると伺いましたが、内容までは教えて貰えませんでした。良く聞くと、お子さんの件で揉めていたようですね」

「そういうプライベートな事は、人に話したがらないでしょうから当然だと思いますよ」

 そこで吉良は、少し空気を換えようとして口を挟んだ。

「松ヶ根さんのところが揉めていたのと、似たような話っすね。うちには子供が一人いるんすけど、作る作らないなんてあんま考えて無かったカンジっす。だからこういう事で喧嘩する人って、本当にいるんっすね」

「余計な事を言うんじゃない」

 松ヶ根にそう叱られた為、頭を下げて謝っていると彼女が彼の方を向き尋ねていた。

「あなたの家庭でも、こういう言い争いをされたことがあるのですか」

 彼は左手で肩を掻きながら、先程までとは違う態度で頷き答えた。

「実は私もバツイチでしてね。三十歳の時に、同い年の総務にいた同僚と結婚しました。彼女はそれを機に退職をしたのですが、やたら子供を欲しがっていたんです。しかし刑事となって多忙な日々を過ごしていた私は、う~、なかなか彼女の要望に応えられなかった。そこで喧嘩が絶えなくなり、三十五歳の時に離婚届けを突き付けられて別れたんですよ。だからここに録音された内容を聞いて、胸が痛くなりました。当時の事を思い出します」

 松ヶ根が女性に対し、やや苦手意識を持つ理由だ。吉良がこの件にわざと触れたのは、彼女と逆の立場とはいえ、同じ経験をしていると知らせる為だった。僅かながらでも共感を持って貰えば、彼女の懐に飛び込めるだろうと、事前に打ち合わせしていたのである。

 先程彼は、事件関係者の過去や人となりを徹底的に洗うと言った。それは彼女が離婚している事だけでなく、理由等も既に調査済みだと悟らせる布石でもあったのだ。

 彼はさらに話を続けた。

「あなたが離婚された理由も、不妊治療をしたにも拘らず、お子さんがなかなか生まれなかったことだと伺いました。私の所は不妊治療をするまでにも至らない状態で別れましたから、その辛さは良く理解できるとまでは言えません。でもあれはお金が相当かかるだけでなく、女性の体力に加え精神的な負担をかなりかけるようですね。私はそういう事などを、一人になってから知りました。男というのは馬鹿です。子供を産むという点で、女性がどれだけの苦労を背負うかなんて全く考えもしなかった。ここにいる男も同じですよ。何も考えていなかったから良かったのかもしれませんが、それはそれで大きな罪です」

 吉良は流れに沿って言った。

「そんなことを言われても、判んないものは判んないっす。それで上手くいってるんだから、いいんじゃないっすか」

「上手くいっているかなんて何故判る。お前が勝手に思っているだけかもしれないぞ。明日にでも、急に離婚届を出される事だってある。俺の周りにも、そういう奴らは沢山いた。仕事が忙しいって理由一つでそうなる。ましてや子供がいる身で浮気などして見ろ。一発アウトだぞ。面倒も見ずに好き勝手遊びやがってと、罵られるのがオチだ。気を付けろよ」

「そ、そうっすね」

 本当に痛い所を突かれたので、吉良は大人しくすることにした。

 彼女の様子を見ると想像以上に動揺しているらしく、なんとか正気を取り戻そうとしていた。その為深く深呼吸をしてから、再度席を立ちながら言った。

「お茶が冷めてしまいましたね。入れ直します」

 三人分の湯呑みを回収し、お盆に乗せてキッチンへと向かう彼女の背を吉良は見ていた。急須に入っていた茶葉を捨て、新しいものに入れ直しポットに入った熱湯を注いでいる。その間に残っていたお茶を捨て、熱湯で湯呑みを温めていた。

 良い頃合いで湯を捨ててお茶を注ぎ再びお盆に乗せ、先程にはなかったお茶菓子が添えられ、二人の前に置かれた。

 席に戻って座り直したところで、軽く頭を下げた吉良達は静かにお茶を口に含んだ。すると何故か松ヶ根の目が一瞬戸惑いを見せ、彼女に視線を向けてから吉良の方も向いた。

 熱すぎたのだろうか、それとも不味かったのかと首を捻りながら湯呑みに入ったお茶を一口飲んだが、そうでもない。それどころか先程よりも美味しくなっていると思いながら、お茶菓子を頬張った。

 そこで突然彼が、質問を投げかけ始めた。

「ところで敏子夫人から既に聞いていらっしゃると思いますが、あなたが九竜家から依頼された内容に関して、お話頂けますか」

 今日の訪問前から事前に伝えていた事だ。しかし答えはなかなか出て来なかった。

 吉良達は告別式が終わった後、松方弁護士や由利監査役を同席させた上で、夫人と何度もコンタクトを取った。そこで事件に関わっていることが無いか調べる為にも、三郷に託した業務依頼について話すよう説得し続けたのだ。

 しかも松ヶ根は、彼女が事件の犯人で無い事を証明する為にも必要だと言ったのである。 すると夫人は、二点を除いた部分に関してなら彼女に話して良いと伝えると答えたのだ。 

 また二点の内の一点については、状況に応じて止むを得ないと判断した場合、喋っても良いとの許可を出すとまで言った。

 その二点とは何なのかが気になったが、彼女が隠してきたかなりの部分がこれで明らかになると、今回吉良達は意気込んできた。顧客からの許可が出た限り、彼女も従わざるを得ない。だからこそ今回二人の訪問を受け入れたのだろう。

 しかしようやく口を開いて出た言葉は、全く期待したものでは無かった。

「もちろん話は聞いています。ですがその前に教えて頂けますか。あなたはお通夜の日、久宗氏を殺害した犯人は犯行時間をずらした形跡がある、と仰っていましたね。事実あれから相原所長や寺内さんも含め、複数人から改めて事件当夜の行動を確認したと聞いています。どうやら当初八時半から十時半の間と言っていましたが、さらにその一時間後まで範囲を広げたようですね。それはつまり十時半から十一時半の間に、久宗氏が殺された可能性もあると思って間違いありませんか」

 はぐらかされてしまったが、焦る必要は無いからだろう。彼はその件について答えた。

「そう考えています。しかしあなたのその時間のアリバイは、既にこちらで把握済みです。十時半過ぎにこのマンションへと車で戻ってこられた後、ICカードキーを使って部屋に入った。翌朝七時半過ぎに寺内さんや相原所長からの連絡を受けてここを出るまで中にいた事は、以前提出いただいたICカードのデータから確認は取れています。マンションの防犯カメラも見ましたが、ここから出ていない。つまり鉄壁のアリバイが成立しています」

「私の事はいいです。十時半以降に犯行が行われた、確率の高さを教えて頂きますか」

 なかなか本題を聞き出せない彼は、渋い顔をしながら言った。

「断定はできません。死亡推定時刻には、元々幅があります。当初八時半から二時間の幅を持ってお尋ねしていた事からも、お判りになるでしょう。それが後ろにおよそ一時間ずれる見込みも出てきた、というだけです。よってあなたのアリバイが証明されていない、十時前後に殺害された可能性はまだ残っています」

「壊れた時計の指していた時刻が、十時少し前だったからですか」

「偽装されたのかもしれませんが、そうでないかもしれません」

「要するに、あくまで可能性でしかないのですね」

「そうなります」

「ところでどういう理由があって、アリバイ工作がされたかもしれないとお考えになったのですか。何か新たな証拠でも発見されたのですか」

 さすがに彼も、これははぐらかした。

「そういった詳細についてはお答えできません。捜査上の秘密事項に当たるものですから」

 それでもしつこく、彼女は問い続けて来た。

「では殺害されたと思われる時間帯に幅ができた事で、何か変わったことがありましたか」

 これは話していいだろうと判断したらしく、彼は口を開いた。

「相原所長は十一時まである顧客と会食しており、その後電車で帰宅しています。改札の防犯カメラや使用したカードによって確認されているので、犯行時間が後ろにずれてもアリバイは成立しております」

「寺内さんはどうですか?」

「彼女は娘さんが帰ってきたので、十一時頃にママ友との長電話を終えています。しかし遅く帰宅したことで長い間厳しく叱っていたとの証言が、周辺住民から得られました。十一時半過ぎまで続いていたようですから、彼女のアリバイに問題はないと思われます」

「要するにカードキーを持つ三人の中で、久宗氏を殺害できたのは私だけという状況は変わらない。そういう事ですね」

「そうです。しかしその三人が実行犯ではなく、誰かにカードキーを渡した共犯者である線も消えていません。そこで最初の質問に戻ります。あなたが九竜家から依頼された内容について、お聞かせ下さい。その内容如何では、被害者を殺害する動機を持つ人物がいるのか。三人との繋がりのある人物がいるか等も、明らかになると考えています」

 若干苛立ち始めた松ヶ根に対し、彼女はまだ質問を止めなかった。

「警察では、久宗氏の相続に係わる人物が疑わしいとも考えていましたね。つまり他に動機を持つ人間がいるか探しているということですか」

「そうなります。以前もお話ししましたが、現段階だと今回の事件によって将来多額の資産を相続する可能性が発生した人々は、全員疑わざるを得ない。長谷家の三人と兵頭家の二人。後は一久氏も含まれます。しかし実行犯は、必ずカードキーを手に入れなければならない。しかし今挙げた人達と、あなたを含む三名との繋がりがはっきりしません。捜査によってそれなりの情報を収集しましたが、まだ表に出ていない点はいくつかあります。その中で重要と思われる一つが、九竜家からの依頼内容です。私達の仕事は事実の一つ一つを浮き彫りにし、犯人に繋がる手がかりを探し当てることです。お話し頂けますか」

 これ以上話を逸らすのは難しいと思ったらしい、彼女はようやく頷いた。

「敏子夫人からも協力するよう、依頼されています。では何をお知りになりたいのですか」

「まずあなたが受けた依頼内容を、具体的に教えて頂けますか」

「もうお気づきになられているようですが、私の受けた内密の仕事は九竜コーポレーションの事業継承と、整理後に発生する個人資産の管理や運用です」

「やはり会社を身売りするとの噂は本当だったのですね」

「はい。お通夜の時に指摘された際は驚きました。いずれ噂は広まるだろうと覚悟していましたが、あのタイミングで追及されると思っていませんでしたから」

「失礼致しました。あの夜にああいった騒ぎが起きたおかげで、容疑者の多くが一堂いちどうかいした場所に駆け付ける機会ができました。そうある事ではないので、どうしても皆様の反応を探りたいが為、まだ裏の取れていない段階で不躾ぶしつけな質問をしたのです。ご理解ください」

「今は裏が取れたのですね」

 彼はしっかりと頷いた。

「ある程度の証言は得ています。その点をあなたに確認したくて参りました」

 単なるハッタリではないと判断したのだろう。彼女は淡々と答え始めた。

「おっしゃる通り久宗氏がご存命の時から、会社を売却する手筈に奔走していました」

「この件を知っていたのは九竜ご夫妻の他に、あなたと由利監査役だけですね」

「はい。会社の売却ともなれば、役員に相談もなく勝手に行うことはできません。ですから由利さんにだけは、内密にするようお願いした上で準備をしていました」

「あなたはお通夜の席でも、会社の業績には問題ないとおっしゃった。由利監査役にお話を伺ったり、こちらで調べたりした限りでも間違いないようです。それなのに、一体どうして売却をお考えになったのでしょうか」

「私に依頼をするずっと以前から、九竜夫妻はお考えになっていたと聞いています。ご存じの通り、現時点でお二人の後を継ぐ直系の方はいらっしゃいません。後継ぎがいなければ、現在会社を任せている幹部の中から次の社長を選び、企業存続させることは珍しくありません。しかしご夫妻は、そうお考えになりませんでした」

 もちろん代々世襲してきた会社だからといって、そこにこだわる必要はない。一族経営してきた企業が後継者不足で悩むケースは、全国各地で起こっている。だからだろう。彼はその点を質問した。

「適当な人材が社内にいなかった事が、その理由ですか」

「そうではありません。会社名義の土地等の資産をどうするか、が問題となったからです。現在会社が保有しているものは、元々九竜家の個人資産がほとんどです。久宗氏の祖父が亡くなった際、この周辺の大地主だった九竜家の相続税は、相当な額になったと伺いました。節税対策をほとんどしていなかったからでしょう。その為多くの土地を手放し、売却されたと聞きました。九竜家ほどの規模なら、相続税は五十%近くになるので当然そうなります。その事が教訓となり、一久氏の代で個人所有から少しずつ会社に譲渡または売却しながら株主としての利益も得つつ、相続発生時における対策を取ってきました」

「それが今回の身売りと、どう関係するのですか」

「一族が社長や役員として会社の経営と資産を管理しなければ、相続対策になりません。後継ぎがいなければ、効果は無くなります。第三者に社長を引き継ぐのなら、会社の資産を買い取っていただかなければならない。そうでなければ九竜家の財産は、会社に寄付や売却しただけになります」

「なるほど。社長を譲ったとしても、株は持っていなければならない。ただその株を引き継ぐ相手がいないとなると、確かに困りますね」

「ですから社内で優秀な人材がいても、会社の資産ごと買い取れない限り社長を任せる訳にはいかないのです」

「それで外部の会社に売却する、という結論に至った訳ですね」

「はい。もちろん九竜夫妻は身売りの条件として、全社員の雇用確保が約束できる事を第一に挙げられていました。お通夜の席で兵頭部長やその他の社員が動揺したように、その点が守られなければ、これまで築き上げて来た信用も失ってしまいますからね」

 幸い会社の業績は良く、適正な価格で買い取れば社員をそのまま雇い続けても、損をすることはない。後はあれだけの規模の土地を購入できる資金の余裕を持つ会社を当たり、最も良い条件を提示してくれるよう交渉するだけだ。それが彼女の与えられた第一の仕事だったらしい。

「それはもう、決まっているのですか」

 一瞬答えに躊躇していたが、答えてくれた。

「ほぼ絞られましたが、契約締結までには至っていません。何故なら久宗氏が急死され、しかも殺されると言った想定外の事が起こったからです」

「事件が無ければ、決まっていたかもしれない?」

「はい。九竜夫妻は、売却額を少しでも引き上げよう等と思っていませんでしたから。あくまで適正価格で、しかもこれまで同様の運営を行ってくれる会社であれば良いとお考えでした。ですから手を上げた企業は、かなりの数に上ったのです。それを数社まで絞り込み、これからという時に事件が起こりました。この状況では、買い手側が躊躇するのも無理ありません。どんな経緯で久宗氏が殺されたかで、その後の会社経営に響くからです。買い取ってから実はこういう裏があった等と悪評が立てば、大きな損失となりますから」

 吉良と同様松ヶ根も理解したらしく、大きく頷いていた。

「そうですね。社員が犯人の可能性もある。よって真犯人が逮捕されるまでは、全ての社員の雇用を確保するとは言えない。また相続関係で揉めた挙句の殺人となれば、その影響も考慮するでしょう。九竜家は地域の名士ですから、その評判が落ちれば企業価値も下がる。それを恐れまだ買取に踏み切れない、と言ったところでしょうか」

「その通りです。その為私は事件を早急に解決する事も、依頼された仕事に関わります。ですから敏子夫人のご指示を受け、お二人の質問に答えて捜査協力をしているのです」

「それは助かります。しかもあなたが重要参考人の一人に挙げられ、仕事の妨げにもなった。そこでお聞きしますが、それでも敏子夫人はあなたを雇用し続けている。その理由は何でしょう。別の人に任せた方が、リスクは少ないはず。もし犯人があなただったら、取り返しのつかないことになりますからね」

 これには素直に答えることが出来なかったのか、はぐらかされた。

「信頼して頂いている事は、有難いと思っています。ですからそのご期待に沿わなければなりません」

 そこで彼も察したらしく、顔を曇らせしつこくその点をついた。

「本当にそれだけですか。何か敏子夫人の弱みを握っている、ということはありませんか」

「どういう意味でしょう」

「ご主人を殺した疑いを持たれているあなたと知り合ったのは、ほんの四カ月前です。それなのに、九竜家の莫大な資産を動かす仕事を任せるでしょうか。通常なら、担当を外されてもおかしくない。いやPA社に属する、三名しか持たないカードキーでしか入れない部屋で殺されたのです。別の会社に依頼し直すのが、普通ではないでしょうか」

 鋭く切り込んだが、やはり誤魔化された。

「理由は敏子夫人しか、お答えようがないでしょう。既にお尋ねされたのではないですか」

「しました。しかし彼女を絶対的に信頼しているの一言です。それでは納得がいきません」

「それを私に質問されても困ります」

「ですから私達は考えました。敏子夫人が担当から外せない弱みを、あなたは握っていることはないか。そこでお尋ねしたのです」

 彼女は間を置いた。喋り続けた喉を潤す為にお茶を一口含んだ。吉良達は黙ってその様子を見つめる。すると逆に質問をされた。

「人の弱み、とは何でしょうね」

「一般的には、他人に知られると困る事等でしょうか」

「そう定義するなら、敏子夫人の弱みを握っていると言われても、否定はできませんね」

 これには吉良達も目を丸くした。

「これは驚きました。そこまで正直に白状されるとは思いませんでした」

「誤解しないで下さい。私がそれを利用し、担当を変えないよう脅す真似はしていません」

「そのようですね。敏子夫人もおっしゃっていました。今回の事件が起こった後、事情を説明したあなたは、会社の売却について担当を外すよう自ら願い出たそうですね」

「そこまで確認されていたのですか。でもそう言うよう、私が脅したかもしれませんよ」

「はい。そう疑いもしました。ですがあの方の目を見て、話を聞いた私やここにいる吉良の感想からすれば、嘘だとは思えませんでした」

「それで信じて頂けるのなら助かります。しかしあなた達の目が節穴かもしれませんよ」

 ワザと挑発しているようだったが、彼は動じなかった。

「そうかもしれません。ただ脅していないとしても、弱みを握っている事は事実だとあなたはおっしゃった。それは彼女が未だ帰国しない事と関係ありますか」

 これは認めるしかなかったらしい。

「それしかないでしょう。お通夜の日に、それを確認したはずです。あの場所には九竜家の関係者全員が集まっていました。そんな中で夫人が葬儀にすら顔を出さない理由を知っているのは、私だけだとあなたは確信されたのではないですか」

「はい。そこでお尋ねします。一体何故なのですか」

「前回もお伝えしましたが、時が経てばいずれ判る事です。よって今はお話しできません。この件についてはそう答えるよう、敏子夫人からも了承を頂いております。何故ならあなた達に話したからと言って、事件が解決する類のものではないと判断したからです」

「それを判断するのは我々です。どうしてもお話頂けませんか」

「お断り致します。それ以外の依頼された件はお答えするので、別の質問をしてください」

 どうやらこれが敏子夫人の言っていた、二点の内の一点だと理解できた。だがあと一つ、状況によっては喋って良い秘密がある。そこまでは、絶対に聞き出さなければならない。

 そこで松ヶ根からのアイコンタクトを受け、吉良が質問をし始めた。

「じゃあ話題を変えるっすね。敏子夫人にお身内がいないのは確認したんすよ。ご両親も他界し兄妹もおらず、遠い親戚とも付き合いがないみたいっすね。でも九竜家は、兵頭部長や亡くなった被害者の姪っ子がいるじゃないっすか。そっちに会社を引き継ぐとは、考えなかったってことっすね」

「お通夜の時に、松方弁護士がお話されていたでしょう。久宗氏に、資産を甥や姪に残す意志は無かった。つまり兵頭部長を含め、身内は誰も後継者とは考えていませんでした。兵頭家が買い取ることなど不可能なので、他の企業に売却すると決断されたのです」

「売却したお金は、九竜夫妻が受け取る予定だったんすよね。相当な額っしょ。どうするつもりだったんすか」

「主にはご夫婦の豊かな老後を過ごす資金として、お使いになられる予定でした。もちろん一久氏もご存命ですから、そのお世話についても考えていらっしゃったとは思います。けれど以前脳梗塞を起こされ麻痺も少し残ったとはいえ、リハビリが順調だった為今はお元気です。それに一久氏個人がお持ちの資産もそれなりにありますから、不自由な思いをすることはないでしょう。久宗氏は還暦を迎えられたのを機に会社から身を引き、ご夫婦での生活を充実させようと計画を立てられたのです。人生百年時代と言われていますから」

「第二の人生を送る為に、会社を整理しようと思ったって事っすか」

「そうです。よって私への依頼は、問題なく身売りを成立させる事。その次に売却によって得た利益を有効に活用する為の節税プランはもちろん、その後の資産管理や保全と運用についての投資政策書等を作成することでした」

「その仕事内容の詳細は、三郷さんしか知らないって本当っすか。相原所長なんかに、相談や報告もしてないんすよね」

「していません。運用の方法や資産状況等の情報は、全て私しか開けられないファイルに保存されています」

「それじゃあ、会社が所有する不動産の売買なんかで、揉めたりはしていないっすか」

「ありません。少なくとも身売りに関して、ネックになる不動産は見つかりませんでした。もしあれば、取引に支障をきたします。よってそう言った類のリスクが生じそうな物件があるかどうかを、全てチエックしました」

 持ち主が九竜家から他の会社に移ったことで、不利益を被る借主があれば問題だ。土地周辺に住む人達に迷惑をかける事態が起こる公算も、まず無い事は確認済みらしい。

「なるほど。だったら土地以外はどうっすか。金融資産もあったっしょ。そういう運用で、トラブルはないっすか。例えば取引先の銀行の担当者や保険会社で、身売りされたら困る所なんてあったりして。あと節税なら税理士なんかが介入したりしないっすか」

「ありません。もしあれば、徹底的に排除してからでないと話は勧められませんから。まあ強いて言えば、保険会社の中では困ると思った方がいたかもしれませんね。でも人を殺す動機になる程の事とは思いませんけど」

「どういうことっすか」

 彼女は珍しくつい口が滑ってしまった、という表情をした。若干わざとらしさも感じたが、余り気乗りしないが止むを得ないという口調で説明をし始めた。

「あの会社では、節税の為に加入した生命保険があります。約四年前に契約されたもので、当社の扱いではありません。退職者プランとして久宗氏や敏子夫人をはじめ、健康状態に問題のある人を除く部長以上が全員加入しています。一久氏や松方弁護士は会社に所属していませんので、最初から対象外です。由利監査役や兵頭部長は加入されていました」

「それはどういうものっすか」

「警察も把握していると思いますが、久宗氏はいくつかの生命保険に加入していました。殺害されたことで、多額の保険金が支払われるでしょう。個人で加入していた商品もあります。でも一番大きいのは、会社が掛け金を支払っていた逓増定期保険から、四億円支払われるものです。ただし保険金の受け取りは会社です。この商品は表向き、経営者や役員が亡くなった際の、死亡退職金や弔慰金に充てる名目で販売されています。しかしその実態は、保険の内容に応じて掛け金を会社の損金に算入出来ることから、節税プランとも呼ばれています。税務署に税金を支払う代わりに、保険会社に保険料を支払うことで合法的な流動資産を作るものです」

「ちょっと良く判んないっすね。簡単に説明して貰えないっすか」

 彼女は気乗りしない様子だったが、渋々話し出した。

「まず法人の企業活動で得た所得に課される、法人税からご説明しましょう。会社の挙げた売上収入等で得た利益から、商品等の売上原価や人件費、設備投資等でかかった経費を除いた部分に、税金がかかります。ここまではご理解頂けますか」

「大丈夫っす」

「では次に法人税を支払った残りが、会社の資産です。家計でいえば手取り収入です。その為普通ならできるだけ支払う税金を少なくし、手取りを多く残そうと考えませんか」

「そうっすね」

「それは企業も同じで、その為に様々な工夫をして節税しようと考えます。その一つとして挙げられるのが、保険会社の販売する法人契約です。別名“節税保険”とも呼ばれますが、これを活用すれば保険料の全部または一部を、損金と呼ばれる経費にできるのです。経営者や役員、幹部社員等への死亡退職金の備えとなりますが、それだけではありません。解約返戻金が高い商品であれば、それを原資として勇退した場合における退職金の備えだけでなく、会社の利益が大きく減少した場合の準備資産としても活用ができます。家計で言えば、貯金の切り崩しと考えてくだされば判りやすいでしょう」

「それがどうして、節税になるんっすか」

「保険料の支払いにより損金算入を増やせば、課税される所得を減らせるので法人税を少なくできます。つまり税務署に支払う分を、将来使う貯金に回す利点がある訳です」

「なるほどっすね。でも会社を売却した場合、それらの保険はどうなるんすか」

「基本的には解約することになります。本来は最も解約返戻金が高くなるピークに合わせて行うのですが、止むを得ないでしょう」

「久宗氏の場合はどうっすか」

「殺された訳ですから、四億円の死亡保険金が会社に支払われるでしょう。その後会社から久宗氏の相続人に対する死亡退職金として、全額遺族に支払うことになると思います。社内規定で決まっていたはずです」

 ここで意図的に話題を変えた、

「今回社長が奥様になって、株式を持っている方は一人だけになったんすよね」

「はい。久宗氏所有の会社の株は、全て奥様名義になると伺っています」

「一久氏にも三分の一は、相続する権利があったはずっしょ。それどうするんっすか」

「相続に関しては全て松方弁護士が取り仕切っていますので、詳細は私に聞かれても困ります。全て会社に寄付するか全額放棄するのではないでしょうか。あくまで推測ですが」

 ここで松ヶ根が口を挟んだ。

「松方弁護士は、会社の株以外決まっていないと言っていました。詳細は奥様が帰国されてからになるのではとも聞きました。そうなるとあなたが関係してくる。違いますか」

彼女は質問者が彼に戻ったことで、少し警戒感を深めたらしい。首を横に振った。

「違います。いつ帰国できるかどうかは、私も判りません。ただ一年や二年も先ではないので、慌てて取り分を決める必要もないでしょう。名義変更を急ぐものは一旦奥様にして、一久氏が全額寄付または放棄もしないのなら、後で手続きをされれば良いと思います。帰国されない理由を知っている事と相続とは、別問題と考えてください」

「しかし放棄や寄付もせず遺産を相続されたら、甥や姪への代襲相続分が発生します。一久氏が遺言で全額夫人や会社に渡すと残しても、遺留分が残りますよね」

「相続については、一久氏に聞いてください。あくまで私の仕事は夫人の依頼のみです」

「そうですか。では逸れてしまった話を戻しましょう。会社で加入されていた保険について、何かトラブルはありませんか。先程強いて言えば、保険会社の中では困ると思った人がいたかもしれないと、あなたはおっしゃいましたね」

 急にこちらが引いたからか、少し拍子抜けした表情をしつつ彼女は平静を装い答えた。

「はい。生命保険に加入すれば当然扱った代理店に手数料が入り、保険会社の販売成績となります。ただ早く解約されると、手数料の払い戻しが起こり、成績がマイナスカウントされます。目安はだいたい五年。手数料の支払いや解約返戻金のピークがだいたい五年から十年の間ですから、そういう設計にしているという理由も裏にはあります。ただ保険金の支払いは別です。保険会社全体からすれば、保険金を四億円支払うのは大きいでしょうが、致し方ない事です。営業成績や代理店手数料がマイナスになることは、基本的にありません。ただ単に、五年以内で解約されると困る人が出てくることは確かです」

「もう少し詳しくご説明いただけますか」

「例えば会社が結んだ大きな契約を成立すれば、扱った営業店も大きな成績を得ます。しかし解約で数字がマイナスとなれば、その影響は決して少なくありません。タイミングが悪ければ、その部署の管理職の昇進等にも関わってくる事もあるでしょう」

「代理店手数料に関してはどうですか。いくらくらい、手に入るものなんでしょう」

「保険会社や商品などで異なりますが、あの会社が契約していたものだと、大体年間に支払う保険料分の手数料を、五年または十年で受け取る形になっていたと思います。具体的に言うと、あの会社で支払っていた年間保険料は約二千万円近かった。つまり扱った代理店も、約二千万の手数料が入る事になります」

「二千万は大きいですね。それが五年以内に解約されると、マイナスになるというのは?」

「手数料受け取りが五年の契約だと、初年度に年間保険料の約六十パーセント支払われ、翌年四年で十%ずつ受け取る形になります。なので早く解約されると、手数料を支払い過ぎる事になり、戻し入れが発生するのです。逆に五年以上経過して手数料の受け取りが完了していれば、その後解約されても基本的に戻す必要はありません」

「五年以内に解約する予定があった、ということですよね」

「会社の身売りを考えた場合、それもやむを得ないからです。会社が変わり九竜夫妻も退任予定でしたから、損だと判っていても解約するしかありません。他の管理職の契約も存続させるかどうかといえば、買い取る企業の社内規定等の問題と保険料負担に係わってきますので、一旦整理する方がスムーズだとご提案しました」 

 その為九竜夫妻から今解約するとどうなるかという資料を、彼女は保険会社に請求させていたという。第三者ではできないからだ。そこで保険会社は身売りについてまで気づいていなかっただろうが、もしかすると早期に解約されると用心したのかもしれない。

 その証拠に何度も担当者や所属長が九竜夫妻を訪ね、五年経つまで待った方が得だと説得しに来たようだ。かつてある保険を扱う某有名企業で不正契約が多発したケースも、社内成績と手数料問題が発生する為に起こったトラブルの一面も含まれていたと聞いている。

 その点についても彼女は松ヶ根に説明し始め、外からは判り難いが社内では決して小さい問題で無い事を教えてくれた。納得した彼は頷いて言った。

「なるほど。ただ解約理由を説明することができなかったので、曖昧な答えしかしなかった。そこで不安に思った保険会社の中では、困ると思った人がいるだろうという事ですか」

「はい。といって彼らが九竜家の誰かと関りが無い限り、久宗氏を殺すとは思えませんが」

「いえ、何か裏に別の理由が隠れていることもあります。万が一ということもあるので、その保険会社の担当者と所属長のお名前をご存じなら、教えて頂けますか」

 すると彼女は何故か言葉を濁らせ、答えを先延ばしにした。

「全てそういった情報は、会社のノートパソコンか別保存しているデータに入っています。明日で良ければ、出社した後ご連絡します。九竜夫妻から名刺を見せて頂いた際、写真に撮影して保存してあったはずですから」

「宜しくお願いします。ちなみにですが、それは杉浦さんと沼田さんではありませんか」

 驚いたようだ。既にこちらがそこまで調べ上げているとは。思っていなかったらしい。

「ご存じだったのですね。その通りです。だったらかつて彼らが所属している保険会社に勤めていた私は体調を壊し、休職した挙句退職したこともあなた達は調べたはずですね。実は彼らも同じで、今回私が九竜夫妻を担当していると知り、過去の件を探ったようです。その上で、解約しないよう進言してくれと言い出しました。もちろん私は顧客の事など全く考えず、自分達の利益を優先した提案は出来ないと突っぱねました」

「そこで揉めた挙句、出入り禁止にさせたのですね」

「そうです。ただ彼らの成績がマイナスになったとしても、首を切られるようなことはありません。ですから今回の事件のような、人を殺す動機になり得ないと思っていたので黙っていました。けれど警察は、そんな事まで疑っていたのですか」

「低いと判っていても、一つ一つ可能性を潰していくことが仕事ですから」

「でもそれ以外に私が把握している限り、九竜家の管理している資産運用などで揉めたり、どこかで逆恨みを買ったりした覚えなんかありませんよ」

「九竜家との間で無かったとしても、あなた自身にはある。今お話されていたように、保険会社の社員や所属長と揉めていた。それは本当に事件とは、関係ないのでしょうか」

 こちらの身辺調査が、想像以上に進んでいると悟ったのだろう。彼女は口を開いた。

「杉浦さんや沼田支社長と、口論になったことは認めます。それは彼らが私の仕事について口を出し来たので、厳しくたしなめたまでです。明らかに越権行為でしたから」

「彼らはかつてあなたが勤めていらっしゃった、会社の社員ですよね。彼らはあなたに要求したのは、本当に解約の件だけですか」

「他にもあります」

 心を落ち着かせる為らしく一度深呼吸をした上で、彼女は彼らから受けた言外による圧力や、セクハラまがいの発言についても簡単に説明してくれた。

「二人はPA社が買収した、保険代理店の担当者だった。だからあなたとの接点ができた。しかし九竜夫妻があなたの顧客であると、どうやって彼らは知ったのでしょうか」

「恐らく他の担当者から、情報を聞き出したのでしょう。取引の詳細は知りませんが、九竜夫妻から依頼を受けている事だけなら、少し探れば社内の人間は判るはずですから」

「つまりそういう内部情報を、彼らは聞き出していたということですか」

「そうでしょうね。もちろん彼らは保険に関しての担当者ですから、当社に出入りすることはあります。ただそれ以外の業務、特に私達が扱う顧客からの依頼についてノータッチであり、基本的に関わらないよう言い渡しているはずです」

 だがそうした社内規則を破って彼らに耳打ちした社員は、その事実が明らかになるとペナルティが課せられるらしい。またそのような行為を取った保険会社の社員も、出入りなどを制限される決まりだという。

 それが守られなかっただけでも許し難いのに、口出しして恫喝どうかつする真似をしたから怒ったのだと彼女は言った。しかも誰がリークしたか、想像がついているらしい。

 そこで松ヶ根は尋ねた。

「それはどなたですか」

「相原所長でしょう。彼らが私に接触した時点で、本来出入り制限の対象になるはずです。しかしそうはならず、黙認された状態でした。その事に対しても私は抗議しました」

「相原所長本人に、あなたは詰め寄ったのですか」

「はい。ですが彼は情報のリークに関しては、知らぬ存ぜぬを通しました。それだけではありません。保険会社の担当者が接触してきたことについても、コミュニケーションは大切だと言い出し、規則に反する発言までされました」

「そこであなたはどうされたのですか」

「本人にいくら言っても無駄だと思い、PA本社へこうした事実があると報告を上げました。おそらく本社は所長に対し、注意したはずです。しばらくして杉浦さん達が事務所に顔を出しても、私には決して近寄らなくなりましたから」

「それはいつの事ですか」

「一ヶ月ほど前です。そうしたこともあり、私は社内でより孤立しました。元々一年前から似た状況だったので、気にしないようにしていました。私の見るべき方向は、あくまで顧客で社内ではありません。その点が相容れなかった為に、前の会社を辞めたのですから」

「そのようですね。あなたは今の事務所におけるPA社の社員の中で、トップの成績を収めている。しかし保険代理店の買収を機に組織変更があり、一年前に所長として相原さんが赴任された。その直後からあなたは彼だけでなく、他の社員からも煙たがられる存在になったと聞いています」

「そういうことをベラベラと、あなた方に喋る人はどうせ八条さん辺りだと想像つきます」

 図星だったが、彼は白を切った。

「誰がどういう証言をしたか、他の方に話すことはまずありません。これはあなたについても同様です。他の人に三郷さんがこう供述していたなんて、言いませんから」

「別に構いませんけど。言われて困るようなことは喋りませんから」

「それだと困るのです。知っていることは何でも話してください。どこかで事件に繋がっているかもしれません。私達があなたを重要参考人として扱う事に、ご不満はあるでしょう。ただそれは状況からして、やむを得ないのです。もちろん相原所長も同じ立場ですよ」

「彼にはアリバイがあるでしょう」

「共犯の可能性は残っています。ですから自分は完璧なアリバイを作った上で、実行犯にカードキーを渡した。その動機は金銭関係か、弱みを握られているのかと調べました。その結果がどうだったかは、敢えて申しません。ただ今伺ったことが事実であれば、彼はカードキーを使うことで、あなたに疑いが向くよう仕向けたとも考えられます。なぜあの事務所を犯行現場に選んだのかという疑問も、顧客である久宗氏を担当しているあなたが犯人だと思わせる為だったとすれば納得できる」

「だったら何故カードキーは、ロックされていなかったのでしょうか。相原所長が共犯なら、使い方を詳しく教えていたでしょう。それとも実行犯が慌てて忘れたというのですか」

「そうかもしれませんし、そうでないのかもしれません。現時点では、あくまで推測の域を出ないのです。だからもっと多くの情報を得たい」

「それは相原所長と私の関係ですか」

「はい。それと杉浦さんや沼田さんについて、もっと教えてください。まだ話されていないことがありますよね」

 出来れば過去については思い出したくないようだったが、彼女は重い口を開いた。

「まず相原所長ですが、彼は上昇志向の強い方です。四十二歳と私より九つも下ですが、大学を卒業してすぐにPA社へ入社し、今年二十年目になる生え抜きの社員です。私は十年前に入社した中途社員ですから、彼の方が上の地位にいることは当然です。そういった事で、私が彼をねたんだことはありません」

「むしろ彼があなたに、嫉妬しているようですね」

 ため息をついて頷く。

「色々聞いて回ったようですね。本人から直接そう言われた事はありませんが、おそらくそうなのでしょう。中途入社でしかも年上の女の部下が、自分より成績もよく給与も高いので、面白くないと感じたかもしれません。彼は大阪が地元で、最近家を建てたばかりだと聞きました。また中学生になる子供さんもいるらしく、今回の異動では学校の事もあり、単身赴任でこちらに来たそうです。そうしたストレスもあるのかもしれません」

 彼女とは仕事におけるスタンスも違う為に、就任当初からぶつかる事が多数あったらしい。けれど基本的に会社では、顧客から依頼された事案についてそれぞれの担当者が判断し、その成果に応じて給与を頂く態勢を取っている。

 チームプレーでは無い分、個人の裁量が大きい。それだけ失敗すれば個人の責任が大きく、成功すれば報酬として跳ね返ってくる。だから所長と意見が異なっていたとしても、お客様が喜び成果に繋がっていれば、会社に文句を言われる筋合いはない。

 そうしたスタンスを取り続けていたので、彼にとって彼女は厄介な部下だったのだろうとの感想も付け加えていた。

「恨みを買っているかもしれない。そう考えてもおかしくないということですか」

「否定はできません。だからと言って久宗氏を殺し、私を犯人に仕立て上げようなんて考えるかは別です。個人の裁量に任されているとはいえ、あくまで私は彼の部下です。その人間が顧客を殺した等という不祥事を起こしたなら、会社のイメージを大きく損ないます。余程の理由が無い限り、彼も管理責任を問われるリスクを負うとは考えられません」

「上昇志向が強いから、ですか」

「はい。彼は私と違って顧客第一主義でなく、会社の利益第一主義です。そうして所長にまで昇りつめ、今度はその上の部長クラスを狙っています。いくつかの事務所を束ねる管理職ですが、その上はエリアマネージャーです。そこまで行けば、役員になるのもそう遠くありません。彼は私のようなPBとしてでなく、管理する側になりたかったのでしょう」

「担当者としての限界を感じていたのでしょうか。実際あなたよりも成績が劣っていた」

「そうかもしれません。だからこそ実行犯と手を組むには、リスクが高すぎます」

「他にも協力しなければならない事情が、あったのかもしれません」

「そんな事を私が知っている訳がありません。他人に弱み等、決して見せない方ですから」

「そのようですね。それでは杉浦さんや沼田さんの事を教えてください。あなたは先程彼らが口出しをするだけでなく、恫喝する真似をされたとおっしゃいました。聞き捨てなりませんね。かなりきつい言葉ですが、具体的に何を言われたのですか」

 ここで彼女の表情が曇り始める。頭痛がするのかこめかみを手で押さえ、動悸もし始めたのか旨を抑える仕草をしながら、話し始めた。

「沼田達は私が会社を辞めたきっかけになった事などを、噂や一緒に仕事をした同僚や上司から聞いたようです。その事をネタに言うことを聞かなければ、昔の話を会社の人間達に耳打ちして回ると脅されました」

「そのネタの内容は、どういうものですか」

「前にいた会社でも、私は上司とぶつかりました。根本的なものは相原所長の時と変わりません。成績第一主義を掲げる上司に、私は顧客の意思に反してまで商品を売りつけたくないと拒絶しました。彼らが言っていたのはその件です」

「それだけだと、脅しのネタとしては弱すぎませんか」

「もう少し詳しく説明しましょう。在職中だった頃の私は、法人向けの節税プランを販売する側でした。そこで大きな契約を、何本か成約したこともあります。大きな成績を上げた事で、所属する支社は年間表彰を受けました。当時の上司の評価も上がり、鼻高々だったことを覚えています。しかしその翌年に、問題が起こりました。二匹目のドジョウならぬ、二回目のドジョウを狙った上司は、私に対し前年同様の契約成立を求めて来たのです」

「一度味をしめればその次も、と考えるのは私達警察組織だって同じです。大きな事件を解決して名を売れば、さらにもっとと欲張るのが、上に立つ人間の習性かもしれません」

「その通りです。ただ契約の成立は、あくまで顧客のニーズと提案する商品とがマッチしなければなりません。押し売りなどできないのです。ただそれが理解できない上司でした」

 しかし彼女は自分も大人気なかったと言い出した。成績を上げ続ける事が営業職の勤めだ。その為それなりに新規契約獲得の動きはしていたという。けれども上が早く結果を出せという姿勢に反発し、お客様は急いでいないと突っぱねたらしい。

 実際先方は会社の業績なども考え、契約の締結をその年度は見送る判断をしていたようだ。しかし上司はさらに上からプレッシャーをかけられていた為、成約させますと口約束をしていたと後に聞かされたという。

 結果契約が成立しなかったことを咎められた上司は、その責任を真理亜に擦り付けた上で、始末書を書かされた。その影響もあり、その年の成績は散々だったらしい。

「それが原因で体調を崩し、休職するようになったのですか」

「もちろんそれだけでは無いと思います。それまでに私は離婚も経験しました。そうした心労が重なり、脳が体に向けて拒否反応を出すよう指令したのでしょう。頭痛や動悸、倦怠感が酷くなり、会社を休みがちになりました。結局うつ病という診断が出たのです」

「その後三年以上休職した後に、退職されていますね。その事がどうしてあなたを脅すネタになるのですか」

「私が休んでいる間に、会社では根も葉もない噂が立っていたようです。使い込みをしていたのがばれそうになったとか、取引先から金を不正に受け取っていただとか、色々です」

 そういった事を聞きつけた沼田達が、真実は別にしても噂があったと広まれば仕事がやり辛くなるだろうと脅したようだ。社員だけでなく顧客の間で広まれば、仕事の依頼も来なくなる。そんな事まで言い出した為彼女は我慢ならず、事務所内で怒鳴りつけたらしい。

 吉良達が耳にしたのはこの件のようだ。そこで松ヶ根は言った。

「相当な剣幕だったようですね。普段は明るく人当たりの良いあなたなのに、人が変わったかのような態度を取って驚いたと、皆が口を揃えていましたから」

「周囲の同僚達は、私の事など良く知らないはずです。外面の良さなんて、営業職なら皆持っているでしょう。頑固で上司に刃向かう事など苦にしない。それが本来の私の姿です」

「なるほど。あなたは広められるものならやりなさい、と啖呵たんかを切った。その代わり仕事に支障をきたすことがあれば、PA社の本社だけでなく、警察に業務妨害と恐喝の届け出をするとまでおっしゃった。そこでようやく、彼らは大人しくなったと聞いています」

「松方弁護士に実際どうなるか事前に相談していましたが、十分刑事事件になり得る案件だと助言されていましたから。そうした裏付けがあったからこそ、言い切れただけです」

「まだお会いして二週間程度の短い付き合いですか、あなたらしいエピソードだと思います。本当に芯の強い方だ」

「単に気が強いだけです。そうでなければこの歳まで、こういう仕事は続けられません。この性格のせいで、多くの人を敵に回した事は間違いないでしょう。ただそれだけで沼田達が私を犯人に仕立て上げようと、所長や寺内さんに協力を依頼したとは想像できません」

「ただ久宗氏を殺害すればあなたを貶めるだけでなく、契約を解約する時期をずらすことにはなりませんか」

 彼女は頷いた。何やらある方向へと話を誘導している気もしたが、黙って聞いていた。

「確かにそうなっています。このまま身売りの件が長引けば、解約する時期も後ろにずれこむでしょう。五年が経過することで、解約されても営業店のマイナスにはならなくなるかもしれません。だからといって、それだけで人を殺すでしょうか」

「時折理屈だと説明できないきっかけで、罪を犯す人が世の中にはいます。私達もこれまでそうした犯罪者を、少なからず見てきました」

「それはそうかもしれませんが、余りにも無理がありませんか」

「もちろん彼らが犯人だと、決まってはいません。あなたと同じく現時点では、可能性があるという範囲を超えていないのです。様々な裏取りを元にさらなる捜査が必要でしょう」

「それならいいですけど。犯人を早く捕まえて頂きたいのは、私も同じです。ただ誤認逮捕だけは止めてください。敏子夫人もその点を危惧されています」

「それは肝に銘じています。いずれにしてもあなたを含む三人のいずれかの人から、カードキーを受け取る、またはこっそりと盗み出さなければ事件を起こすことは不可能です。また久宗氏を殺す動機を持っていなければならない。計画的な犯行であることには、間違いなさそうですからね」

「動機は、久宗氏の相続に絡んでいるとお考えですか。そうなると兵頭部長や日香里さん、または長谷家の方々を疑っておられますか」

「もちろん彼らも重要参考人であることは、間違いないでしょう。あとは一久氏も含まれます。ただ共犯者がいるとなれば、敏子夫人も視野に入れなければなりません。そうなるとあなたの役割は一体何なのかが、非常に興味深くなってきます」

 また話が振出しに戻ったことに苛立ちを覚えたのだろう。彼女は反論し始めた。

「疑うのは勝手ですが、私が実行犯または協力者だとしても、久宗氏を殺す動機などありません。私は彼が亡くなって困っている人間の一人です。これまで九竜夫妻が将来安心して快適な暮らしができるよう資産を処分したり、管理や運用したりするにはどうすればいいかを前提に、様々なプランを立ててきました。それが全て一からやり直しです。もちろん計画の変更にかかる費用を、請求する訳にもいきません」

「単なるタダ働きになってしまいますね」

「そうはいいません。依頼自体残っていますから、練り直した計画でご納得いただき、滞りなく実行に移すことができれば報酬は発生します。ただそれが大変だということです」

「そこまでしてでも、久宗氏を殺さなければならなかった理由などない。そうおっしゃりたいのかもしれませんが、理屈だと説明できない事が現実では起こり得ます。例えば仕事熱心で頭も良く、愛嬌があって人当たりも悪くない。そんなあなたが、別人格を持っているとしたらどうでしょう」

 予想もしていなかった松ヶ根の言葉に、横で座っていた吉良は驚きの余り目を剥いた。しかしそれ以上に、心臓が飛び出そうなほど驚愕したのは三郷だった。突然の指摘に声の震えを止めることが出来ずにいたのだ。

「な、何をいきなり言い出すのですか」

 しかし彼は表情を変えずに言った。

「あなたは解離性かいりせい同一障害ではありませんか。私の見たところ、多重人格ではなさそうですね。ただもう一人の別人格がいる。その事を、あなたはどの程度理解していますか。別人格とは、意思の疎通ができているのかどうかをお伺いしたい」

 松ヶ根が三郷に対し、別人格がいると言い出した時は正直唖然とした。一体この人は何を言い出したのか、意味を理解するまで時間が必要だった。それでも彼の説明を聞きその間における彼女の様子を見ていると、ようやくそれが単なる戯言ざれごとで無かった事が判った。

「あなたは私が二重人格者だと決めつけていますが、何を根拠にそんな事を言うのですか」

 彼女の反論に、吉良でさえ頷いてしまった。だが彼は淡々と言った。

「最初におかしいと思ったのは、会話している中で事件や仕事以外の話題に触れた時、あなたの表情や声や仕草が変わった事です。また以前電話で、スマホとパソコンの提出を依頼したことがありました。あの日はその前に会って、事情聴取をした時です。けれどもその時の声のトーンや様子は、目の前で会話を交わした時とは余りにもかけ離れていました。私の中で決定的だと確信したのは、先程です。違和感を持っていたところに、あなたがお茶を淹れ直してくれました。最初に用意して頂いたものは、正直言って余り美味しくなかった。かつて結婚されていたとはいえ、共働きで当時から仕事熱心だったのでしょう。一人になっても仕事に忙しく、家事が苦手なのかもしれない。だからそうした事に、余り得意で無い方なのだと解釈していました。けれど二杯目は全く違った。一杯目と同じ人が淹れたとは思えない程、美味しかったのです。少し拝見していましたが、茶葉を変えた訳でもない。ただ出すまでの手順が、とても丁寧だったことを覚えています。しかもお茶菓子まで用意された。まさしく人が変わったような行動を取られた」

 彼女は明らかに動揺していた。

「そ、それは偶然でしょう。最初の時は上手くいかなかっただけで、お茶菓子も途中で気が付いただけです」

 しかし彼は問い詰めるのではなく、諭すように言った。

「隠さなくてもいいのですよ。解離性同一性障害というのは、それほど珍しいものではありません。様々な理由で起こると聞きますが、あなたの場合は過去に震災を経験されたショックや、子供の件などで苦悩された事等が原因でしょう。話を伺っている限りだと、後者の件が最も大きな要因になっていると思います。今でもクリニックに通われているようですが、それは前に会社を辞めた際に発症した、うつ病の治療だけではありませんね」

 彼女が言葉に詰まったことで、吉良もそうなのかと疑ってみた。松ヶ根の指摘したお茶の味は、言われてみればそうだったかもしれない。お茶菓子も二杯目の時に出された事で、ようやく警戒心が解けたのかと思ったけれど違ったらしい。

 だが彼女はなかなか認めようとはせず、上ずった声で否定していた。けれど明らかに挙動不審な姿は、これまで堂々としていた態度とは全く様子が違う。

「治療内容に関するデリケートな事なのに、よくもそんな決めつけた言い方をされますね。プライバシーの侵害にも、度が過ぎます」

「お気持ちは判りますが、我々も遊びでこのような話をしているのではありません。人一人が、殺されているのですよ。しかもあなたが担当されていた、大事な顧客ではありませんか。この事件について真犯人を探す為の捜査に協力するよう、敏子夫人からも言われていますよね。あなた自身もそれを望んでいる。だったらいつまでも、重要参考人のままでいてはいけない。あなたが無実だというのなら、全てをさらけ出してください。あなたは疑われているのですよ。そこに来て二重人格である疑いが出てきた。それならこれまで話してきた人格と別人格との間で、意思の疎通ができているかどうかは、重要なことです。あなた自身が預かり知らない無意識の中で別人格が行動を起こし、久宗氏を殺害した可能性だってある。だが二重人格といっても二人の間で話したり、記憶などを共有したりするケースもあると聞きます。あなたはどちらなのですか。その答え如何では、逮捕状を請求することも視野に入れなければいけません。これまでは任意の取り調べでしたが、容疑者として徹底的にこの部屋の家宅捜索を行い、強制的にあなたの周辺全てを洗いざらい調べることになります。それで良いのなら、そうしますが」

 今までにない口調で迫る彼に、彼女の表情は硬直していた。それはそうだろう。吉良さえもおののいたぐらいだ。事前の打ち合わせで、このような追い込み方をするとは聞いていなかった。しかし彼女が二重人格だと気付いた為、ここで勝負に出たのだろう。

 彼女は俯いて吉良達から視線を逸らした。しばし沈黙が続く。どう答えるか二人でじっと待った。個人的な見解ではあったものの、正直言えばこれまでのやり取りの中で、彼女が実行犯だという確信が持てていなかった。共犯ですらないと思っていたほどだ。

 けれども松ヶ根の言う通り、二重人格者となれば話は大きく変わる。吉良達が見てきた彼女と別の人格が存在するのなら、これまで抱いてきた印象など、全く当てにならない。返答によっては、強硬策を取らざるを得ないだろう。

 彼女がなかなか口を開かない為、彼はさらなる追求の一手を出した。

「あなたを厳しく問い詰める理由は、他にもあります。あなたは私達に嘘をつきましたね」

 彼女は口を噤んだまま、首を傾げた。心当たりがないのか惚けているのかは不明だったからか、彼は話を続けた。

「以前私達が事情聴取をした際、あなたは寺内さんとは合併してからの付き合いでまだ二年程度だと言いました。だがあなたの過去を調べた所、ずっと以前に彼女と接点があった」

 彼女の体がピクリと動く。しかし顔は伏せたままだ。

「あなたがかつて結婚していた頃に不妊治療していた病院に、寺内さんも通っていました。その時期は重なっています。そこで彼女を見かけていたはずでしょう」

「会話を交わしたことはありません」

 そう小さく彼女は呟いた。聞き逃さなかった彼は言った。

「やはり会っていましたね。でも話したことが無いので、相手は覚えていなかった。でもあなたは気付いた。それは何故ですか。しかもどうして我々に隠そうとしたのですか」

 ようやく彼女が顔を上げた。すると驚いたことに、これまでの表情とは明らかに異なっていた。人が変わったかのように見えるとは、まさしくこの事だ。二重人格の話が出ていなければ、何かが突然憑依ひょういしたかと勘違いしたかもしれない。

 恐らく今まで話していた彼女とは、別の人物が表に出て来たのだろう。その人格の主らしきものが口を開いた。

「年齢が近かったからです。何度も病院へ通う内に、他の看護師さん達との会話から私より一つ年下だと漏れ聞こえてきました。その為一方的に、親近感を抱いていたのです」

 彼女の口調がこれまでのはきはきとした喋り方とは違い、おっとりとした声色に変わった事に気づく。その上声の調子も若干低く小さい。これまでが明瞭だった分、少し暗く大人しい感じがする。

 そういえば先程お茶を入れ直しましょうと言った時の彼女は、こういう話し方をしていたかもしれない。おそらく特殊能力を持つ松ヶ根は、そこでも気付いたのだろう。やはり二重人格という読みは当たっているようだ。

 彼は声を落として尋ねた。

「それはどうしてですか」

 彼女はポツポツと喋り出した。

「彼女も私同様、妊娠し辛い体質だったようです。時には旦那さんが連れ添いに来ていた様子も見ました。何らかの結果を聞き、一喜一憂している姿も三年の間に何度か目にしたことがあります。私より若い彼女を見て、頑張らなければと弱気になっていた気持ちを奮い立たせたこともありました。また旦那さんと一緒にいる様子に、嫉妬を覚えたことなど数え切れません。私の元夫は、ほとんど同席することが無かったからです」

 その後不妊治療を辞めて病院通いをしなくなった為、寺内夫妻と会うことは無くなったようだ。よって彼女の事など、正直すっかり忘れていたらしい。それが二年前に再会し、当時十歳の娘がいると聞かされた時はとても驚いたという。

「彼女はあれからも治療を続け、その努力が実を結び三十七歳の時に菜月ちゃんを授かったと耳にしました。私が三年で挫折した事を、八年以上も続けていたと知った時は、素直に尊敬の念を持ちました。何物でもない自分と違い、大切な人の存在がいたからです」

 けれど当時特に親しくはなかった為、会社で彼女に対する勝手な想いを伝えた事など無いという。それは彼女の属するPA社社員と、保険代理店社員との間に壁があったことも一つの要因だったのだろう。

「それでも時折何かの都合で、菜月ちゃんが事務所に顔を出したことがあります。その姿を見た時、私は自然と目が潤みました。自分が成しえなかったことを彼女はやり遂げ、あれほどまで立派に育て上げたのだと思うだけで、涙腺が緩んだのでしょう」

 寺内と同じ事務所で働くことになり、彼女の経歴や家庭事情が少しずつ明らかとなった。どうやら彼女と同様、以前は保険会社の社員だったと判った。といっても会社は違うし、職種も事務職だった。だが偶然にも同じ病院で苦しんだ寺内の心情を考えると、とても他人事とは思えなかったのだろう。そこから彼女はいきなり話題を変えた。 

「あなた方が私をいつまでも疑っていらっしゃるのは、事件当夜のアリバイに穴があるからですよね。申し訳ございません。これまで隠してきましたが、八時半過ぎから駐車場を出るまでの約二時間、私は車内にいた確たる証拠がございます」

 期待していた答えとは全く異なる証言が飛び出したことで、吉良達は驚きを隠せなかった。しかし彼は新たな供述に対し尋ねた。

「確たる証拠とは何ですか?」

「ドライブレコーダーの映像です。事件の日の夜、駐車場にいた私の姿が映っています」

 彼は首を捻った。

「それは既にご提出いただき、上書きされてしまった事を我々が確認していますよね」

「申し訳ございません。あなた方にお渡ししたものとは別の、SDカードが存在します。そこにはこのマンションを出てから、駐車場を出るまでの間の映像が残っています。もちろん運転席に座る私の姿も映っていますので、間違いありません。念の為別のUSBにも保存した後、両方ともドレッサーの引き出しの中に隠してあります」

 これには松ヶ根の方が動転したらしい。身を乗り出して詰問した。

「謝って頂いても困ります。どういうことですか。もう少し詳しくご説明頂かないと、理解できません。とにかく無いと思われていた、あなたのアリバイは証明されるのですね」

「はい。後でお渡しします。実はあの駐車場にいた際、私は見てはいけないものを目にしました。その時の様子が、ドライブレコーダーによっても撮影されていることに気付いたのです。そこで迷いましたが、後々の為に証拠として残そうと考えました。だから上書きされ消えてしまわないよう、駐車場から出る前に予備のSDカードと差し替えたのです。するとその翌日に想像もしていなかったあの事件が起こり、幸か不幸か自分の車を出すことになりました。その途中で久宗氏が殺害されたことを知ったのです」

「ちょっと待ってください。そうなると上書きは、意図的にした事なのですか」

「はい。刑事さん達から色々質問をされる内に、状況が判ってきました。自分が後に疑われるだろうと理解もしていたのです。けれどもいざとなれば、私にはアリバイを完全に証明できるSDカードがある。だから容疑がかかっても、無実を明らかにできると考えました。それより問題の映像を、あの時点で警察に見られることに抵抗がありました。そこで思案した結果、関係者への連絡や打ち合わせがあるとの口実を作ったのです。そうしていつも以上に車を走らせ、ドライブレコーダーに記録される時間を稼ぐことに成功しました」

「だから私達が見た映像は上書きされており、アリバイの証明にはならなかったように見えたのですね。おかげであなたは重要参考人として、何度も事情聴取を受ける羽目になった。それなのに今まで隠さなければいけなかった理由は、一体何なのですか」

 そう話した所で、何かに気付いたようだ。吉良もどうしてなのか、時系列を追いながら頭の中で整理してようやく思い当たる。それと同じ事を彼は口にした。

「なるほど。あなたは一久氏を見たのですね。あの時間、彼は九竜家が所有する旧米蔵にいたと証言している。実際彼が乗っていた車のドライブレコーダーに、その姿が映っていました。ただそれでは確認できない何かを、あなたは見てしまった。しかもそれを映像として捉えていた。そういうことですね」

 当たっていたらしい。彼女は静かに頭を下げた。

「申し訳ありません。現場で聞かれたアリバイの時間帯から、事件とは関係無いと思ったのです。だから明らかにする必要も無いと判断しました。重要参考人になることを、できれば避けたいとも考えました。けれど最終的には、隠そうと決めたのです。しかしここまで来れば、隠し通すことで捜査を妨害しかねません。また映像の件は、敏子夫人にだけ報告をしています。夫人からは警察からの追及が厳しくなったなら、証拠を提出するようにと言われました。逆に言えば、できるだけ九竜家の名を傷つけないようにして欲しいと、依頼されていたとも言えます。ですからお話しすることが遅れました。その辺りの事情をご理解いただければ幸いです。大変申し訳ございませんでした」

 ここで吉良も腑に落ちた。そこまで九竜家の為に動いていたからこそ、敏子夫人から絶大な信頼を得ることが出来ていたのだろう。いくらこれまで信頼を得て来たとは言っても、相手はここ一年近く日本にいなかった人だ。

 それなのに久宗氏殺害の重要参考人として名を挙げられている彼女を、何故顧問弁護士の松方さんや役員の由利さん以上に信用しているのか、不思議でしょうがなかった。

 だが今の話によれば、彼女にアリバイがある事を知り、少なくとも実行犯ではないと判っていたからだとすれば、これまで抱いてた疑問は多少なりとも解消される。

 戸惑う吉良達に向かい、彼女は言った。

「信じて頂けましたか」

 松ヶ根はそれに対し、やや残念そうに答えた。

「正確に言えばSDカードをご提出いただき、こちらで詳細に分析した上であなたのアリバイを確認してからになります。ただそれだけだと、共犯者で無い事は証明できません。あなたが実行犯に、カードキーを渡していないとは限りませんから」

「それでも結構です。それでは早速SDカードをお渡ししますね。寝室に置いてありますので、少々お待ちください」

 彼女はそう言って席を立ち、隣の部屋へと消えていった。その後ろ姿が消えたことを確認してから、吉良は松ヶ根に囁いた。

「二重人格だと良く気付かれましたね。彼女はまだ肯定していませんが、間違いないでしょう。小説や漫画で読んだことはありますが、現実でそういう人と会ったのは初めてです」

「俺だってそうだ。最初は信じられなかったよ。だが考えれば考える程、俺が持った違和感を説明できるのは、それしかないと思ったんだ」

 小声で話している間に、彼女は戻って来た。手には小さなプラスチックケースを持っている。それを松ヶ根に渡した。受け取った彼はその中身を空け、中にSDカードが入っていることを確認し、吉良にも見せてくれた。その上で彼は言った。

「有難うございます。後程こちらで、中身を確認させていただきます。ところで最初の質問に戻りますが、あなたは解離性同一障害者ですね」

 しかし彼女は、穏やかな声で答えた。

「私がメンタルクリニックに通院していることは否定しません。ただそれはうつ病を発症したからであり、その経過観察を兼ねたものです。こうした病気は完治したとの判断が難しく、また今でも時折動悸や頭痛に襲われることがあります。ただ仕事に支障をきたすまでには至りません。ですがいつ再発して症状が重くなるかも判らないので、薬の服用と通院を続けているに過ぎません」

「否定なさるのですか」

「私の個人的な病状について、これ以上ご説明することはお断りします」

 彼女は気付かれていると認識しながらも、まだ認めるつもりはないらしい。もちろん診療情報は、重大な個人情報だ。それでも裁判所の許可を得ての令状とまではいかなくても、警察内部での文書で情報開示請求する事は、刑事訴訟法第一九七条二項により可能だろう。

 それでも病院側から本人の同意がない限り開示できないと言われれば、強制はできないし罰則規定もなかった。今回のようなケースなら、拒否される可能性は高い。といって令状を取る段階かといえば、かなり難しい判断になる。

 だからか彼は、それ以上深く掘り下げる事を諦めたらしい。そこで方向転換を図った。

「そうですか。それでは質問を変えます。あなたは敏子夫人に、ドライブレコーダーの映像を見せたと言った。ですが時間を考えると、事件が起こる前からSDカードを隠そうと決めている。しかもその後殺人容疑がかかる恐れがあると知りながら、行動を変えようとはしなかった。そこまでされた理由は何ですか。何故そうしようと考えられたのですか」

「映像を見て頂ければ判ります。ただ個人的には一久氏を守ろうとしたというより、一緒にいた人物の事を考えての行動でした」

 これは新たな、しかも重大な証言だ。彼はさらに追及した。

「それはどういう意味ですか」

「今はこれ以上お話しする気にはなれません。映像を確認されてからにして頂けますか」

 彼女は苦しげな様子を見せた。別人格が現れた事と、何らかの関係があるのかもしれない。詳しくは知らないが、解離性同一性障害とは一般的にストレスや心的外傷が関係していると、何かで読んだ記憶がある。

 人間の記憶や意識、知覚やアイデンティティは一つにまとまっているのが通常だ。しかし辛い体験によるダメージを避ける為、精神が緊急避難しようとして発症するのがこの障害ではなかったか。感覚をまとめる機能の一部を一時的に停止させることで、二重人格などが現れると吉良は理解していた。

 松ヶ根はその様子を見て、再び話を戻した。

「あなたの話を疑うつもりはありませんが、念の為かかりつけの医師から話を伺う事や診断書をご提出いただくことは可能ですか。こちらも上に説明する必要があります。もちろんお預かりしたSDカードを精査しあなたにアリバイがあるとなれば、少なくとも実行犯でない証明はできます」

「それでも共犯者の可能性は、排除できませんよね。そうなると、仮に私が二重人格者だと証明されれば、より疑わしくなりませんか」

 彼女の言い分は正しい。捜査本部がこの情報を入手すれば、彼女への疑いはより強くなるだろう。彼も否定できず素直に頷いた。

「確かにそうです。今後は実行犯と繋がりがない証明が、必要となるでしょう」

「動機がないことも、ですね。しかしないことを証明するのは、いわゆる悪魔の証明でしょう。かなり難しいことになりませんか」

「もちろんこれまでお話し頂いていないことも、全て明らかにしていただく必要があるでしょう。あなたは他にも、我々に隠していることがありますね」

 松ヶ根は再び厳しい口調に変わった。しかし彼女は怯まなかった。

「何から何まで話すことなど、不可能でしょう。ただ事件に関係していることならできる限りお話しするようにと、奥様からも申し付かっています。何か隠しているという漠然としたものでなく、具体的なご質問をして下さい。そうでないとお答えようがありません」

 吉良はおやっと思った。先程までの大人しい口調から、以前の明朗な受け答え方に戻っていたからだ。もしかすると、再び人格が入れ替わったのかもしれない。彼も当然気付いているだろう。容赦なく質問を続けた。

「でしたらお聞きします。先程財産分与について、久宗氏が亡くなられたことで一久氏にも渡る話になりましたが、あなたは関与しないと言いました。それは矛盾していませんか。会社の株が、敏子夫人に全て渡る点は理解できます。ただ久宗氏が所有していた資産の三分の一は、一久氏が放棄などして手放さなければ移行します。あなたは九竜夫妻の資産管理や運用を任されていた。つまり三分の一が欠けることになる。相当な額です。あなたがこれまで設計して来た計画に、大きく影響するはずなのに関与されないのは何故ですか」

 彼女は即答した。

「あくまで私の依頼者は、九竜夫妻だけだからです。一久氏は含まれていません。もちろん会社を整理する件は、先代である彼に九竜夫妻からそれとなく説明されていたようです。しかし高齢であり、会社から退いて十年経つからでしょう。全て一任するとの意向だったと聞いています。よって具体的な事は、全て夫妻と私と由利監査役だけの間で話を進めてきました。その後の財産整理や運用管理等も、全て九竜夫妻名義のものに限定されています。よって一久氏の所有財産についての依頼が無い現在、私は関与できません。よって今となっては敏子夫人が受け継ぎ、所有されるだろう資産についてのみ考えるだけです。もちろん久宗氏がお亡くなりになられましたから、計画の変更はまぬがれないでしょう」

「それだけですか。他に意図があっての発言のように、私は受け取りましたが」

「どのような意図があるというのでしょう」

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