第二章 事情聴取

 これまで吉良達は様々な捜査をしてきた。現場にも何度か足を運んでいる。どうやら犯人は、意図的に足跡を残さないよう画策していた。フットカバーらしきものを履いていたと、鑑識から報告を受けている。要するに計画的な犯行だったことは明らかだ。

 今は倉庫として使用されている部屋は人が二人通れるかどうかの間隔を空け、スチール棚がびっしりと立ち並び、棚には大量の段ボール箱が積まれている。

 しかし取り出した書類等を整理したりする為には、ある程度の空間が必要だからだろう。

 その為部屋の中ほどに長机が置いてあり、その周辺約五メートル四方のスペースが確保されていた。被害者はそこで倒れていたのだ。入り口から死角にもなっていた。

 被害者の足跡が広範囲に渡り点在していたことから、走り回った形跡もあるという。犯人を追いかけたのか、追いかけられていたのかは不明だ。けれども不思議なのは、それだけ動き回っていたにも関わらず、発見された毛髪などの微物が余りにも少なかった事だ。

 倉庫とはいえ月一~二回程度の割合で寺内が訪れ、その際小まめに掃除をしていたと聞いていた。十二月の寒い時期の為、犯人が手袋をしていたことは十分考えられる。よって指紋などが採取されない点は想定の範囲内だ。汗も掻きにくいだろうから、そうした物証がないことも理解できる。

 ただそれにしても少ないと、鑑識はぼやいていた。まだ科捜研などによる分析結果待ちだが、恐らく被害者以外には出入りの多かった寺内の毛髪くらいしかないだろうという。つまり犯人は用意周到な格好で、計画的に被害者を殺害したようだ。

 その一方で、カードキーのロック手続きをし忘れるミスも犯していた。警備会社がきちんと対応していたなら、早ければ四階がロックされていないと気付いた十一時前後にでも、警備員がビルへ向かっていただろう。

 つまり犯行時刻が十時少し前なら、殺されたばかりの死体が発見されていたはずだ。そうなると早期に捜査が行われ、犯人逮捕により近づけていた公算も高かったに違いない。

 もしロックをしていれば、死体発見はもっと遅れていただろう。約一週間前に寺内が部屋へ入っていることから、早くてさらに一週間後だったかもしれない。時期的に考えても死体の腐敗臭で気付くまで、もう少しかかった可能性もある。

 更に奇妙な点は、警備会社の記録でも一階の倉庫がカードで開けられたのは、八時過ぎと判明していたことだ。それからずっと、ロックされないままの状態だったことになる。事件当夜は真の最終退出者である四階の所長が、たまたま十二時近くまで残業していただけだ。普段は十一時前後に退社しているようだが、それより早く帰ることもあったという。

 もし犯行時刻よりも前に所長が帰っていたなら、警備員が駆け付けビル全体が警備体制に入っていただろう。そうなれば犯人はもう一度ビルのドアを開ける為に、警備を解除しなければならなくなる。つまり入館時間は記録され、犯行時刻もかなり限定されたはずだ。

 よって犯人はカードキーを使って侵入しているが、ビルの防犯システムには精通していない人物かもしれない。またはそう見せかけただけとも取れる。カードキーの操作を知るものは限られるからだ。

 ちなみに現場は元事務所なので裏口ともう一つの入り口とは別に、外部から客が入る為のドアが設置されていた。しかし現在は使用していない為鍵がかかり、シャッターも閉められている。他に窓はあるが、同じくシャッターが降りていた。

 よって夜電気が点けられていたとしても、外に灯りが漏れる心配はほぼ無かった。また周囲はオフィス街の為、夜間に出歩いている人もほとんどいない。そうなるとやはり現状の部屋の状態を良く知るものが、犯行現場として利用したと考えるのが筋だろう。

 そうするとやはり三郷も怪しいことには違いないが、一階の部屋がカードで解除された時間、彼女にはアリバイがあった。つまり犯行は可能でも、ドアを開けた人物が他にいることを意味する。何故そんな必要があったかと考えれば、どうしても矛盾が生じるのだ。

 彼女に席を立たれてしまい、今日の聴取を打ち切らざるを得なくなった二人は、止む無く担当である別の参考人の元を尋ねることにした。日曜日でPA社は休みの為、最初は相原が住む部屋へと車で向かった。中警察署や彼らの事務所にも近い五階建ての高級マンションだ。入り口には常駐の管理人がいて、防犯カメラも設置されている。

 だが事前に調べた所、裏にある非常口にはカメラが無かった。鍵もICカードで無くディンプルキーだ。よって彼が顧客と外で会ってさえいなければ、アリバイは成立していなかっただろう。そう考えると逆に怪しくも見える。実行犯でなく共犯者だとすれば尚更だ。

 ちなみに所長の相原は大阪に妻子を残し、こちらでは一年前から単身赴任していた。もし顧客との会合が無ければ、一人暮らしの彼にアリバイを証明するものは無かったかもしれない。よって逆に疑わしいという見方もできる。

 マンションへ入るには入り口で部屋番号の数字を押し、モニター越しで相手から入館の承諾を得て解除して貰わなければならない。在宅しているかは確認していなかった。事前に連絡をすれば断られることもある為、こういう場合アポなしで尋ねることが多いからだ。 

 吉良は運転しながら、松ヶ根に声をかけた。

「先程の三郷ですが、顧客からの依頼内容について守秘義務があるという点は理解できますけど、敏子夫人が帰国しない理由についてまで隠すというのはおかしくないですか」

 口調は三郷と話していた時と変えている。チャラ男というのは、あくまで被疑者や参考人等から話を聞く際に使うキャラだ。馴れ馴れしく接することで相手に喋りやすくさせたり、調子を崩すことで揺さぶりをかけたりする手段として利用していた。同僚や彼のような先輩と話す際には、当然普通の言葉に戻している。

 彼は頷きながら、左手で右肩を掻きながらぶっきらぼうに答えた。

「“プライベートとはいえ、私の仕事上の守秘義務にも抵触する”と彼女は言った。何故被害者の妻が海外にいて戻らない理由までが、う~、依頼内容と関係するかが分からん」

 う~という言葉を時折言葉に挟むのは、彼の口癖だ。その為彼は陰で“う~さん”と呼ばれているらしい。ちなみに肩を掻く仕草も癖だと聞いている。だが被疑者等と会話したりする際は気が張っているからか、そうした言動をすることはまず無いという。

 まだ付き合いは浅いが、そういうものかと既に慣れていた吉良は気にせず話を続けた。

「しかも十数年来の付き合いというのなら理解もできますが、九竜家の依頼を受けたのは、数カ月前だと聞いています。その頃は既に敏子夫人が海外で入院中だったようですから、直接会ったことは無いはずでしょう。それなのに、相当信用されているというのも奇妙だと思いませんか。長い付き合いの顧問弁護士が知らない情報まで持っているんですから」

「今回の事件と関係するかは不明だが、そこに隠された秘密がありそうだ」

「海外にいる奥さんの依頼で殺した、ってことはないですかね」

「いやそれは考えにくい。夫を殺して、早く遺産を手に入れたいという余程の動機がないと。それに、う~、ただでさえ相続税対策によって会社の持ち株等を受け継いでいるから、夫人もそれなりの資産は持っている」

「でも順番からすると、普通なら一久が先に亡くなりますよね。その相続は被害者とその姪や甥達に渡るので、彼女には関係が無くなります。そうならないよう、先に手を打ったというのはどうですか」

「それも無理がある。一久の所有する資産は少ない。逆に彼が亡くなった後で被害者を殺す方が、自分の取り分は増える。今のタイミングだと、三分の一の遺産を失う。一久が今後亡くなれば、血の繋がりのない敏子夫人には渡らない。甥や姪達のものになっちまう。仮に彼女が係わっていたとしても、遺産目的とは考えにくい」

「そうですね。それに敏子夫人の両親は既に他界し、兄妹もいません。親戚関係も途絶えているので相続者はいない。だから残るは怨恨の線です。しかし今の所そういった情報は、全くありません。しかも三郷が実行犯だったとすれば、八時にドアの鍵を開けた共犯者は誰なのかがまた問題になります」

 彼はまた肩を掻きながら言った。

「動機が遺産相続絡みなら、怪しいのは被害者側の親族関係だろう」

「やはりそっちですかね」

 そこで吉良達は相原が住むマンションに到着した。二人は車から降り、入り口に立った。

「いるでしょうか」

「わからん。外れならまた夜にでも来ればいい。とりあえず呼び出してくれ」

 三郷への事情聴取が昼過ぎまでかかった為、もう夕方に近かった。休日で単身赴任だから、外食がてら出歩いているかもしれない。ただ事件について話を聞くことがある為妻子がいる大阪を含め、今週末は遠出することを避けて欲しいと依頼してある。

 アリバイはあるけれど、カードキーを持っていたことから重要参考人の一人であることは、彼も理解しているはずだ。しかも会社の顧客が殺された事件の為、PA社の本社などからの問い合わせもあるだろう。よって所長の立場で家を離れることはないと踏んでいた。

 吉良が手帳に書かれた部屋番号を確認しながら、相原を呼び出した。すると相手が出た。どうやらいたようだ。

「はい。どちら様でしょうか」

「S県警の吉良っす。相原隆道たかみちさんっすね。お休みの所、申し訳ないっす。事件についてお伺いしたいんすけど、良いっすか」

 相手の顔は見えないが、答えるまでの間とその後の声で、不快感を持っていると判った。

「またですか。もう散々話しましたよ」

「じゃあ、インターホン越しでいいっすか」

 吉良は相手が嫌がることを意図的に言った。通常なら警察が尋ねてきたと、周囲の住民達に知られるだけでも嫌なはずだ。それが殺人事件について話を聞かれているとなれば、疑われていることが広まってしまう。予想通り、彼は渋々言った。

「分かりましたよ。今開けますから、部屋まで来てください」

 入り口のロックが解除された為、二人は中へと入った。エレベーターで五階まで上がり、一番端の角部屋へと向かう。三郷が住むマンションと同じ賃貸だが戸数は多く、ほとんどの間取りは三LDKであることは事前に調査済みだ。

 単身赴任の彼が住むには広すぎる。ただ彼も三郷ほどでは無いが、相当な高給取りでその上管理職だ。家族が訪ねてきた時の為に、十分泊まれるスペースを確保したかったのかもしれない。

 部屋の前に着いたので、もう一度玄関横にあるインターホンを押した。すぐにスラリとした男が出てきた。休みだというのに、髪形などきちんと整えられている。いかにも頭のよさそうな、キツネ目のこの男が相原だ。彼はドアを開けたと同時に小声で言った。

「少し散らかっていますが、中へどうぞ」

 周囲に話を聞かれたくないからだろう。早く入れとばかりに急き立てられた吉良達は、靴を脱いで前を歩く彼について行った。廊下の先にはドアがあり、その手前の左右にもいくつかの扉があった。トイレや洗面所、浴室や別の部屋があるのだろう。

 突き当りの扉を開けると、目の前には広々とした空間が現れた。リビングとダイニングキッチンが一体となっている。大画面のテレビが壁に備え付けられ、その前には小さなテーブルと、L字型の大きな革張りの黒いソファが置かれていた。

 ざっと見渡す限り、決して散らかってはいない。昼食で使われたらしい皿なども、キッチンの流し台に洗われた状態できちんと整理されている。男の一人暮らしにしては珍しい部類に入るだろう。几帳面な分、神経質な面を持っているのかもしれない。

「こちらにどうそ」

 彼が指差したのはダイニングにある食卓でなく、奥のソファだった。言われるがまま端に座った二人から見て、斜め横に腰を下ろした彼は不貞腐ふてくされながら言った。

「今度は何をお聞きになりたいのですか。夜の事や翌日の件は、何度も説明しましたよね」

 ここでは松ヶ根が聴取の主導権を握った。吉良は話した内容で気になった点などを書き留めながら、相手の表情の変化を見落とさないよう気を付ける役目だ。

 重要なのはこれまで重ねてきた質問内容に、齟齬そごが生じていないか確認することだった。嘘をつけば、余程の度胸や経験が無いと必ずどこかで矛盾が生じる。そこを突く為にどれだけ嫌がられようと、同じ問いを繰り返さなければならない。よって彼は敢えて言った。

「申し訳ありませんが、事件の夜についての行動を確認させていただきますか」

 相原のアリバイは、完全に裏が取れている。怪しい点はなく、事件当夜に会っていた顧客との会食中も、途中席を外したのはトイレの為等ほんの少しだけだ。現場からの距離は、車で少なくとも往復十分以上かかる。よって彼が実行犯でないことは明らかだ。

 また現場の部屋が開けられた八時過ぎの時間についても、彼はその時間まで事務所にいた事が、他の従業員の証言により確認されていた。つまり彼が共犯者ならば、第三者にカードを渡した場合に限られる。

 それでもこれまでの話と違う点が無いかを確認し、新たな情報が出てくるかどうかに神経を注いだ。吉良は凡人の為、記入した捜査メモを見返さなければならない。けれど松ヶ根はそんな行動を取らなかった。彼にはメモや録音といった道具等必要ないからだろう。

 相原は明らかにうんざりした表情で話し出した。

「ですからあの日は、」

 彼による説明は、これまで聞いた経緯と多少の順番が前後しただけで変わっていない。この点も注目すべき所だった。一字一句同じ説明を繰り返していたなら、逆に怪しいと思っただろう。

 人間の記憶というものは、割と曖昧なものだ。時間が経つにつれて、多少塗り替わる事など珍しくない。前回言っていた事と多少の違いがあった方が、真実味はある。そう考えると彼のアリバイに抜け穴が見つからない事からも、実行犯だとは思えなかった。

 問題なのは、彼が実行犯にカードキーを渡した共犯者である可能性の方だ。今喋らせている流れは前振りに過ぎない。つまり被害者の周辺関係者とは、ほぼ接点が無いはずとの三郷による供述が正しいかどうか。

 または金銭問題などを抱え、今回の事件で成功報酬を受け取りたいと思わせる程の動機の有無について探る事等が、今回の目的だった。

 一通り話させ矛盾が無いと判断した彼は、予想通り本題へと導き始めた。

「分かりました。ところで被害者とは面識があったようですね。遺体が発見され、知っている人物かどうかを捜査員が確認させた時、九竜社長だと直ぐに分かりましたか」

「いえ。三郷さんのお客様でしたから、彼女はすぐに気が付いたようです。九竜社長! と叫んだので、私や寺内さんもああそう言われればそうだと判った程度です。顧客についての詳細な情報までは、担当者以外知り得ません。ただどういう顧客から依頼があったかは、社内にいる人間なら誰しもが知り得ます。それにあの方は、この地域の名士ですからね。一度だけですが三郷さんを訪ねて、事務所にいらっしゃったこともあります。ですからお顔は、比較的近くで拝見しました。寺内さんは確かあの時お茶を出してくれましたし、私も所長として挨拶がてら名刺交換をさせて頂きました」

「その時、何かしらお話はされましたか」

「ほんの少しだけです。お困りの事があれば、私でも結構ですので何でも相談して下さいとお伝えしました。すると三郷さんが良くやってくれているので、大丈夫ですとおっしゃっていましたからそれ以上は何も。PBの資格保有者は、担当毎に顧客への立案などを提出します。そこで得た成功報酬の多くはほぼ個人に入りますので、下手に他の担当者が口出しすることはありません。それは所長の立場でも同じです」

「では九竜社長から三郷さんが何の依頼を受け、どう提案をしていたか全くご存知ない?」

「はい。もちろん九竜社長の関係する、資産管理や運用のご依頼だということぐらいは判ります。ただその中身は厳密な情報管理がされているので、簡単に見られません」

「簡単にということは、見ることも不可能でないということですね」

 鋭く突っ込んだ質問に、彼は苦笑いを浮かべた。

「もちろん様々なリスク管理上、バックアップ体制も必要ですからね。例えば担当者が事故や病気で急死したりした場合、別の担当者が替わって引き継がなければならない。そうしたケースだと顧客の了承を得た上で本社のセキュリティ管理部署により、個々の担当が登録してる暗証番号の解除を行います。そうすれば、それまで得た情報や経緯、提案途中の計画書等の閲覧は可能でしょう。ただそうした処置を取るのは今ご説明したような、特殊な場合に限ってしかできません。しかもそれなりに時間がかかります。よって事実上不可能と言って良いでしょう。これは本社に確認して頂ければ分かります」

 もちろんPA社の東京本社へ問い合わせをして、既に確認済みだ。しかしそんな事はおくびにも出さず頷きながら、彼は話を続けた。

「そうですか。では九竜家の家族構成や会社関係者等も、相原さんはご存知ありませんか」

 ここで一瞬顔を引きつらせた彼は、言い淀みながらも答えた。

「いえ。多少の事は知っています。何せ九竜家と言えば、この周辺の大地主ですからね。赴任してまだ一年程の私でさえも、相当な資産の持ち主だと聞いています。私達はごく限られた富裕層を相手にしている分、そうした情報は一早く入手しなければ仕事になりません。ですから家族構成や会社関係についても、私達の事務所に所属するPB資格保有担当者なら誰しも、大まかな情報は耳にしています」

「ということは、相原所長もその中に入る訳ですね。具体的に九竜社長以外に面識がある、またはお話をされた方はいらっしゃいますか」

「いいえ。それはありません」

「事件現場に駆け付けた一久さんや家政婦の稲川さん、九竜コーポレーションの松方顧問弁護士やリフォーム部門責任者の兵頭部長とも、会ったのはあの時が初めてでしたか」

「はい。このマンションの管理会社や所有者は、あの会社と関係ありませんからね。三郷さんのマンションとは違います。あそこは所有者が個人ですけど、管理会社があの会社だったと聞いています。だから四カ月ほど前に大家さん経由で紹介があり、今回の依頼を受ける機会に恵まれたのですよ。運も実力の内とは言いますが、あんな大口を掴まえるなんて、余程ついていると感心していました。しかし今回のような事件に巻き込まれたのですから、そうでもなかったのかもしれませんね」

 その口振りから、嫉妬が含まれていると感じられた。どうやら彼は、彼女をあまり良く思っていないようだ。もしかするとあの事件現場が選ばれたのは、彼女の持つカードキーで入ることが出来たからかもしれない。

 彼女に疑いが向くように仕向けたとすれば、相原共犯説が一気に浮上することになる。自らのアリバイを固めた理由も、そう考えての行動だったとすれば合点がいく。これは彼の人間関係や経済的事情について、しっかりと洗う必要がでてきた。

 松ヶ根もそう感じたのか、他の関係者との繋がりについて質問をした。

「でしたら九竜家の家族構成で、被害者の妹の夫である長谷卓也さんや甥の智明さん、姪の未知留さんのことはご存知ですか」

「九竜社長に妹が二人いた事は、承知しています。ただお二人共既に亡くなられていましたよね。長谷さんといえば、長女の方が嫁いだ先らしいと耳にしましたが、会った事も話したこともありません。旦那さんや甥っ子さん達の名前も、今回の件で初めて伺いました」

「では兵頭部長の他に、誰かあの会社の方と会ったり話したりしたことはありませんか」

「ですから無いと言っているでしょう」

 苛立つ彼に、松ヶ根は更なる攻撃をかけた。

「話は変わりますが、ここに固定電話は引かれていますか?」

「は? いいえ。自分の携帯がありますので、そちらを使っています。仕事関係では、会社から貸与される携帯を使っていますけど」

「そうですか。でしたら今お持ちの携帯電話を、少しお借りすることは出来ますか」

「どうしてそんな事を?」

「先程名前を挙げた方々と接触が無かったと証明する必要があります。いかがですか」

 いきなりの申し出に戸惑ったのか、言葉に詰まった彼はしばらくして尋ね返してきた。

「これはあくまで、任意ですよね」

「もちろん強制ではありません。ですが捜査が進むにつれ、いずれお願いすることになるかと思います。その時は令状を持ってお伺いすることになるでしょう」

 令状と聞いてさすがに諦めたようだが、多少の抵抗を示してきた。

「今すぐにとなれば、家族と連絡を取る手段は基本的にこれを使っているので困ります。個人の携帯を預けている間、会社の携帯を使用できればそれも可能でしょう。ただし本社の許可を得ないといけないので、お答えは明日以降になりますがそれで宜しいですか」

「もちろんです。明日は会社ですよね。本社の許可が出ましたら、教えてください。出来るだけ早くお返しできるようにします。後、通話履歴の取り寄せにも協力ください」

「わ、分かりました。ですが何も出ませんよ。携帯で話したことなんてありませんから」

 どうやら彼の反応からすると、当てが外れたかもしれない。実行犯と連絡を取っていたとすれば、もっと激しく拒絶するはずだ。しかし手段はそれ以外にもある。公衆電話等を使うことも出来るし、他の通信機器を使ってネットでやり取りしたのかもしれない。

 個人のパソコンの提出も必要となる。吉良がそう考えた所で、松ヶ根が言い添えた。

「あともう一つ、パソコンの提出もお願いできますか? お持ちですよね。相原さんはデスクトップですか。それともノートパソコンですか。何台お持ちでしょう?」

「パ、パソコンもですか。一応家ではデスクトップ一台と、持ち歩き用にノートが一台あります。あと会社のものが一台ありますが、そっちは無理ですよ。先程お話したように、顧客の個人情報がありますから。もちろん携帯もそうです。私が今持っているノートパソコンなら今でもいいですけど、デスクトップまでとなるとすぐには無理です。個人で作ったファイルもありますし、ネットに繋げないと家で仕事ができません」

「それではノートパソコンを先にお預かりして、その分析が終わったらお返しします。その次にデスクトップをお借りする、というのはどうでしょうか」

「そこまで私は疑われているのですか。いい加減にしてください」

 これには彼も頭に来たらしく、激しい口調で抗議して来た。しかし松ヶ根は何食わぬ顔をして頭を軽く下げた。

「そういう訳ではありません。ただ事故現場となったカードキーをお持ちなのは、相原さんを含めた三人だけです。その内の誰かのものを使わない限り、入室できません。ですから一人一人犯人とは繋がりがある可能性を排除しなければ、真犯人まで辿り着くのは難しい。これはあくまで相原さんの無実を証明する為です。ご理解いただけますでしょうか」

 下手に抵抗すると余計に疑われる。そう判断したらしく彼は渋々頷いた。

「分かりました。少しお待ちください」

 そう言って席を立った彼は、奥の部屋に向かった。そちらに仕事関係の物が置かれているのだろう。彼は思った以上に早く戻ってきた。ノートパソコンと、それを繋ぐバッテリーコードを手に持っていた。

「預かり証はいただけますか」

「もちろんです。慎重に取り扱いします」

「早めに返してくださいよ。家では主にデスクトップを使っているので、ノートパソコンは外に持ち歩く時しか使いません。ネットに繋ぐことも余りありませんから」

 彼の反応から見ると、ここから新たな情報を得ることは期待できなさそうだ。デスクトップに関しても同じだろう。それでも何が出てくるか判らないし、可能性を一つ一つ潰していくことも大事な捜査の一環だ。

「ありがとうございます。今日はこれで失礼します」

 あまり長居をしては逆効果だと考えだのだろう。松ヶ根がそう言って立ち上がった。吉良もその後に続く。この後もう一人の重要参考人の寺内にも話を聞かなければいけないが、まだ尋ねていない点がある。それはどうするのかと思った時、彼は突然振り向いて言った。

「ああ、もう一つ。相原さんは、今お金に困っていませんか」

 不意を突かれたからだろう。彼はハッと息を呑んだ。しかし直ぐに首を横に振った。

「いいえ。おかげさまで、それなりの給与を頂いております。三郷さん程ではありませんが、私もPB資格保有者で所長という立場にいますから。それに個人資産の運用もしております。こちらでも株の売買等で、利益を出していますから。それも調べて頂ければ判ると思いますよ。経済的な問題など有りません。あるとすれば、多少出入りが激しい位ですかね。運用もそうですが、主に調査や接待等で一時的に持ち出しになる事があります。ただ成約すれば、すぐに元は取れます。トータルでは全く問題ありません」

「これ程立派なお部屋に住んでいるのですから、聞くだけ野暮でした。では失礼します」

 強張った表情を残したままの彼を残し、吉良は慎重に預かった証拠品を抱えて部屋を出た。車に戻り運転席に座ってから、口を開いた。

「どう思います?」

 肩を掻きながら松ヶ根は答えた。

「現時点だと、九竜家との繋がりが全く無いとは言えない。だがそれ以上に、三郷との関係が気になる。明らかに彼女の事を、う~、良く思っていないようだな」

「彼が共犯者なら、動機はお金より三郷の信用を貶める事だったのかもしれませんね」

「いや、金の件を尋ねた時の反応も気になる。運用で儲けている事は、調べれば分かるから恐らく本当だろう。だがその裏には、何か有りそうだ。成功報酬目的だけでなく三郷に対する悪意が加われば、十分な動機になる。だったら九竜家に近しい誰と繋がっているかが鍵だ。その点を徹底的に洗う必要がある」

「ただあの反応からすると、携帯やパソコンなどから発見するのは難しいかもしれませんね。連絡を取っていたとすれば別の方法を使って、慎重を期していたはずです。金銭関係も、銀行や証券会社の口座などを調べる必要が出てきます。海外に隠し口座など持っているようなら、相当時間がかかるでしょう」

「だが連絡に関しては今やSNS等で隠語を使い、違法取引をしているケースもある。彼もそうした方法を取っていて、バレないだろうと高を括っているかもしれない。ただ一回も実行犯と会わずに、あのような計画に乗ったというのも無理がある。その点は地取り班から良い報告が来るのを待ち、俺達は俺達のやることをすればいい。金の流れも別の班に任せて、報告を待つことにしよう」

「了解です」

 吉良は次の聴取先である寺内家に向かって、アクセルを踏んだ。



 刑事達が帰った後、相原は手汗を掻いていた事に気づく。慌てて洗面所に向かい、タオルで手を拭きながら鏡で顔を覗いた。どうやら額に汗は見られない。胸を撫で下ろしたが、油断は出来なかった。

 あの刑事の去り際に言った言葉が、まだ耳に残っている。あの件まで調べられてはまずい。一刻も早く金を手に入れ片をつけなければ、これまで危険な橋を渡ってきた苦労が全て水の泡になる。上を目指す大事な時に、こんなことでつまずく訳にはいかないのだ。

 あいつらに連絡し、何とか前金を支払って貰うことは出来ないか。そう考えスマホを取り出したが、直ぐに思い直す。この携帯は明日以降警察が回収し、履歴などを調べるだろう。そんな時に彼らと会話した形跡が残っていれば、必ず疑われると気付いたからだ。

 ここは慌てず、明日出社してから会社の電話を使った方が良い。それなら調べられたとしても、不自然ではないだろう。はやる気持ちを抑え、これからやるべきことを頭の中で整理した。

 事件に関してのアリバイは完璧な為、問題はない。しかしそれがかえって疑わしいと、警察は考えているようだ。それでもあの三郷にだけアリバイが無いという事態は、不幸中の幸いだった。

 これを機会に、目障りなあいつを貶めることが出来るかもしれない。今回の件をピンチではなく、チャンスと捉えればいいのだ。そう切り替えることで、焦っていた気分が少しずつ落ち着いてきた。

 そう。何事も考え方次第で、裏が表にもなる。これまでも様々な壁を乗り越えて来た自分を信じよう。相原は心の中で沈んだ気持ちを、そうやって奮い立たせた。



 吉良達が寺内のマンションに着いた頃、既に周囲は暗くなり始めていた。この時期だと夕方五時前には日が沈む。夜は長く気温の落ち込みも早い。松ヶ根が車から降りる前にスーツの上からコートを羽織った。吉良はラフなダウンジャケットを着こんだ。

 先程までいた相原のマンションと同じ五階建てだが、外観は全く違う。明らかにグレードの差を感じた。事前の捜査で防犯カメラの有無等の他に、間取りや家賃の相場も確認していたが、駅から徒歩十分弱なのでそれほど安くはない。

 確か彼女のご主人の会社で借り上げられた部屋だと聞いている。S県では有名な大手企業の社員だから、それなりに家賃補助などの福利厚生がしっかりしているのだろう。それでも相原とは相当な収入格差があると、直ぐに伺い知れた。

 夕方を過ぎていた為、訪問するには微妙なタイミングだ。夕飯が早い家なら、食事の準備をしている頃だろう。だとすれば彼女には忙しい時間帯かもしれない。しかしこれは仕事だ。断られれば、また日を改めて訪ねればいいのだ。

 入り口にはオートロックなど無い。よって彼女の部屋がある三階まで階段を上り、表札が出ていない玄関口にあるインターホンを押した。カメラのようなものが付いているので、一応モニターがあるのだろう。少しの間を置いて応答があった。

「はい」

 声から彼女本人だと分かった為、相原の時と同じように答えた。

「S県警の吉良っす。寺内芳美さんのお宅っすね。お休みの所、申し訳ないっす。事件についてお伺いしたいんすけど、良いっすか」

 今度も嫌がられるだろうと覚悟していたが、意外な反応が返ってきた。

「今開けますので、少しお待ちください」

 既に部屋の前まで来ている為、インターホン越しで揉めることを嫌がったのかもしれない。直ぐに扉が開かれ、彼女が姿を現した。休みの日だからか化粧は薄く、なんとなく野暮ったい格好をしている。また如何にも気だるい表情をしていた。

 彼女とは仕事中の昼間に会った事がある。また今日の昼間、同年代の三郷と長時間話したばかりだったからだろう。年相応の彼女だが、その差はかなり大きく感じられた。

「寒いでしょうから、中へどうぞ」

 後ろで控えていた松ヶ根が、扉を閉め終わった後に頭を下げた。

「こんな時間に突然押しかけ、済みません。夕飯の準備などのお邪魔ではなかったですか」

「これからする予定ですが、もう少し遅い時間なので構いません。ここではなんですから、リビングへどうぞ」

「それでは失礼いたします」

 間取りは二LDKのはずだ。玄関の左手に部屋があり、廊下の突き当りまでに見える扉の向こうは、トイレや浴室などがあるのだろう。二人は彼女の後に続き、中へと通された。

 やはりキッチンとダイニングとも一体となっている間取りだ。奥にある扉は先程とは別の部屋だろう。親子三人家族だから片方が夫婦で使い、もう一方が子供部屋だと思われる。

 彼女の夫は現在体調を崩して休職中なので、どちらかの部屋で休んでいるはずだ。娘もこの時間なら家にいるだろう。三人が揃っている中でそれほど抵抗もせず、よく招き入れてくれたものだと思った。

 彼女が事件に係わっていたなら、決して身内には聞かれたくないはずだ。つまり後ろめたいこと等、何一つない自信があるのだろうか。アリバイが証明されている点も、それを後押ししているのかもしれない。

 これまで何度か会っているが、事務員とはいえ高学歴で元大手保険会社に勤めていたからだろう。三郷程では無いにしても、比較的落ち着いた対応をしていた。今回の彼女も全く変わらない。それが逆に違和感を持たせた。

 普通の人が殺人事件の重要参考人になることなど、滅多にない。よってやましいことが無くとも、多少は動揺をみせるのが通常の反応だ。しかし三郷のように頭が良い女性というのは、肝が据わっているのだろうか。

 吉良達はリビングにある、L字型のソファに座るよう促された。相原の家にあった物とは質が明らかに違うが、形状は似ている。そこへ腰を下ろすと、彼女は斜め横に陣取って話を聞く体制を取り先手を打ってきた。

「手短にお願いします。夕飯の準備もありますので」

「分かりました。その前にご主人とお嬢さんは、今どうされていますか」

 質問されると想定していたらしい。直ぐに答えが返って来た。

「そちらでもお調べになっていると思いますが、主人は今寝室で休んでおります。娘もこ

の時間は、自分の部屋で勉強をしています」

「この部屋の隣にいらっしゃるのは、ご主人ですか」

「はい。ですがそれ程大きな声でなければ、彼には聞こえないと思います。安眠できるように、いつも耳栓をつけて眠っていますから」

 この部屋ならテレビを点けたり、食事の支度をしたりする音もするだろう。そうした雑音をシャットアウトする対策は取っているらしい。そうなると、娘は玄関近くにあった部屋にいるようだ。あの場所なら、リビングでの話声は聞こえないだろう。

 それでも話の内容には気を付けなければならない。その為松ヶ根は静かな声で質問した。

「ではお伺いします。あなたは事件が起こった日の翌朝、相原所長と三郷さんと一緒に被害者の顔の確認をされていますね。面識があったようですが、被害者以外に九竜家のご親族や、九竜コーポレーションの方々でお知り合いの方はいらっしゃいますか」

「いいえ、いません。もちろんこの辺りでは有名なお家ですし、会社もこの周辺の多くの土地を管理していますから、名前だけは知っています。ただ当社の顧客ではありませんし、九竜社長の顔を知っていたのは、三郷さんのお客様だったからです。事務所にいらっしゃった事があり、お茶をお出ししましたから何となく覚えていました。それだけです。他の方とは、現場に駆け付けられた人達の事ですよね。初めてお会いした方ばかりでした」

「長谷さんというお身内に、心当たりはありますか」

「いいえ。知りません。どなたですか」

「被害者の、一番上の妹さんが嫁がれたお家です」

「ああ、噂では聞いた事があります。かなり前に事故で亡くなられた方ですよね。私の実家はここから少し離れていますけど、結婚してから主人の会社の関係でこの周辺に長く住んでいます。もう二十年以上経ちますから、事故があった時は既にいました。だから多少騒がれていた事を覚えています。確かご主人の運転のミスが原因だったようですね」

 その通りだ。事故の原因が夫である長谷卓也の運転によるものだった為、彼らは二十年もの間、疎遠になったらしい。。

 といっても百パーセントの過失ではない。買い物に出かける為に妻を乗せ運転していた卓也は、信号のある交差点を右折する際に直進車の速度や距離の目測を誤った。その為衝突し、左の助手席に座っていた智美に向かって相手車がぶつかる形となったのだ。

 相手もややスピードが出ていたらしい。運転手とその同乗者は重傷となり、卓也氏も骨折や全身打撲の怪我を負った。

 しかし最大の被害者は、即死状態となった助手席の智美だ。警察や保険会社の現場検証では、お互いの信号が青だったことから卓也氏の過失八割と認定された。

 幸い子供達は九竜家で預かっていた為無事だったが九竜家の面々は激怒し、長谷家とは縁を切ると宣言した。特に大事な長女を失った一久の嘆き方は、相当だったらしい。

 久宗氏も悲しみはしたようだが、感情的になっていた父親を何とか宥め、長谷家との付き合いを遠ざけることで怒りを治めたと聞いている。

 また死亡事故を起こしたことで、卓也は勤めていた地元の銀行を首になった。その後は清掃業者で働いているという。

 ただ智美には九竜家にいた頃から掛けていた多額の生命保険金があった為に、当時八歳の智明と四歳の未知留の養育費などで、経済的な不自由は余りしなかったらしい。

 現在智明は県庁職員として、未知留は看護師として働いている。よって特別裕福ではないにしろ、経済的に貧窮している状態では無いようだ。

 松ヶ根は頷きながら話を続けた。

「よくご存じですね。そのご主人の姓が長谷で、息子と娘がいます。住所はこの辺りから離れていますが、息子は県庁の職員さんですからお会いしているかもしれませんよ」

「いえ県庁に行くことなんて滅多にありませんし、ハセという名前を聞いた記憶がありません。珍しい苗字ですよね。どのような字を書くのですか」

「長い短いの長いに、谷と書きます」

「長谷川という名前なら割と耳にしますが、長谷という方は存じあげません。当社の保険契約者の中でも、居ないのではないでしょうか。少なくとも私は担当した事がありません」

 確かに事前の捜査で、PA社の保険部門が担当する顧客の中に、長谷という名は見つかっていない。彼女の口調とその事実からも、その線による彼女や相原との繋がりは無さそうだ。ちなみに兵頭の名もなかった。九竜の会社でも保険を扱っているからだろう。

「どうしてそんな方の名を聞かれるのですか?」

 逆に尋ね返されたので、彼は話題を逸らして答えた。

「寺内さんが事件当夜にアリバイがあることは、確認してます。ですがあなたは事件現場へ入る為に必要な、カードキーをお持ちだ。それは間違いありませんね」

 長電話の内容は、互いの娘についての悩み相談や、愚痴だったと聞いている。二人とも同じ学校の同級生で小学六年生。関東圏でも有数のお嬢様学校に通っていた。

 学費は高いがエスカレーター式で、大学まで進学できる有名なところだ。娘の菜月なつきは勉強だけでなく運動神経も良いらしい。学内の部でバスケットをしていた時はレギュラーだったと聞いている。

 しかし進学校の為授業は既に中学レベルまで進んでおり、内容も相当高度らしい。その為ついて行くだけでも大変だからと、多くの同級生共々夜遅くまで塾に通っているようだ。けれど最近の彼女達は時折さぼり、夜の街で遊んでいるとの噂を母親達が耳にしたという。

 そこで問い正して事実であると知り、何度も叱ったという。だが二人共しばらくするとまた遊びだすなど、決して言うことを聞かないことに頭を痛めていたそうだ。

 事件があった日の夜も七時過ぎに夕飯を食べた後出かけたが、塾から来ていないと連絡があったらしい。その為持たせてある携帯にかけたけれど、繋がらなかったという。 

 その為ママ友同士で嘆き、連絡が付かないと言いながら二時間近くも話し込んでしまったのだろう。十一時頃に電話を切ったのは、寺内の娘が帰って来た為だ。ちなみに相手の娘はまだ戻っておらず、十二時近くになってようやく帰宅したらしい。

 彼女は松ヶ根の質問に頷いた。

「はい。あの場所が倉庫になってから、一番出入りしていたのも私です。だから疑われても、しょうがない事は理解できます。でも私はあの夜、事務所へ行っていません」

「それは理解してます。ただ共犯者である可能性は消えていません。つまり殺人の実行犯に、カードキーを渡したかもしれない。あなたに被害者を殺す直接の動機はないでしょう。ただ経済的な問題を抱えている事には、間違いありませんね。そうした理由もあって、車も手放されたと聞いています。よって被害者が死亡することで、多額の遺産を受け取れる人の依頼により、あなたが協力したとも考えられるのですよ」

 しかも現場の部屋が開けられた八時過ぎ、彼女のアリバイは定かでない。つまり実行犯よりも、共犯者である可能性が明らかに高い人物なのだ。

「お金に困り、謝礼欲しさに殺人に手を貸したとでも? 失礼にも程があります」

 怒ったのか大きな声になったので、彼は手の平を下に向けて宥めるように言った。

「落ち着いて下さい。余り興奮されると、ご主人やお子さんに聞こえますよ。あくまで可能性です。警察というのは因果な商売で、あらゆる事を疑ってかかるのが仕事です。その一つ一つを潰すことで、真相に辿り着きます。確かにご提出された固定電話の通話履歴から、そうした方と接触した形跡は見つかりませんでした。ところで携帯電話はお持ちですよね。あとネットで繋がったパソコン等はありますか」

 彼女は思わず口に手を当てながらも、険しい表情は崩さなかった。知能は高く喋りも達者なようだが三郷とは違い、感情のコントロールが余り上手くないようだ。夫が体調を崩してから時々喧嘩をしているような声が聞こえると、既に隣近所の部屋から話を聞いていた。どうやらこういった性格から、夫や娘とぶつかることが多いのかもしれない。

 彼女はいぶかしげに言った。

「スマホは家族三人共、一人一台持っています。最もここ最近、夫は全く使っていませんけど。パソコンは夫用のデスクトップが一台と、私が主に使うノートパソコンが一台あります。デスクトップも夫が今の状態になってから、全く使っていません。ノートパソコンは私がネットショッピングしたり、ニュースや情報の検索をしたりする為に使っています」

「娘さんも、スマホをお持ちなんですか」

「余り持たせたくはないですけど、塾で帰りが遅くなることもあるので。それに今は勉強するにもネットに繋げるものが無いと、不便なようです。コロナ騒ぎで問題になりましたからご存知ですよね。学校や塾が休みでも、ネットがあれば勉強できますから」

「なるほど。では申し訳ありませんが、あなたの携帯やノートパソコンをお借り出来ますか。ご主人のスマホやデスクトップも、お願いします。余り使われていないのなら、構わないでしょう。もちろんできる限り早くお返しするようにしますので」

「どうしてそんな事を? 今言っていた方達と連絡していたか、調べるのですか」

「そうです。これは相原所長にも、既にお願いしています。ノートパソコンは既に預かりました。携帯は今すぐでなく、会社使用のものを代わりに使えると確認してから、お渡し頂けるようです。寺内さんもそれで結構です。ただご主人のものなら、今すぐお借り出来ますよね。それが調べ終わってお返しすれば、ノートパソコンをお借りしたいと思います」

 相原が承諾していると聞いて、断れないと思ったのだろう。それでも眉間の皺は消えないまま、何か考えているようだった。その理由が次の言葉で理解できた。

「主人のパソコンを勝手に使うのは、彼が余り良く思わないので。だから私の判断だけで、良いとは言えません。主人の了承を得てからでないと難しいですね。それと娘は関係ありませんから、お断りします。あの子の携帯を私が触ることなどありませんし、絶対嫌がります。親の私でも無理ですから、警察の方に出せと言っても無駄でしょう。令状か何かが無い限り、それはできません」

 今回の依頼はあくまで任意だ。強制はできない。今の段階で令状まで取るのは、なかなか骨が折れる。しかも娘の場合、時折塾をサボって夜遊びをしていることを知りながら、言うことを聞かせられず困っているぐらいだ。母親が勝手に携帯を使ったり、ましてや覗いたりするのも無理だろう。その為彼は頷いた。

「分かりました。今回娘さんの分は結構です。ただご主人には、私達からご説明させて頂きます。それでもご了承いただけないのなら、諦めましょう」

 拒否しきれないと観念したらしい。彼女が静かに頷いたので早速立ち上がり、隣の部屋のドアをノックした。そこでベッドに横になっていた彼に挨拶をした。どうやら完全に眠ってはおらず、ぼんやりとした状態だった。そこで寺内を同席させて、経緯を説明した。

 すると意外にも彼はすんなりと頷いたので、携帯とデスクトップはその場で借りることが出来たのだ。吉良が見た所、どうやら反抗する気力も無い態度から、考える事自体を放棄している程、相当具合が悪いらしい。

 ここまでくれば後は中身を調べ、次に彼女の携帯やノートパソコンを分析する段取りが取れる。余り長居もできない為、今日はこれで帰ろうと判断したらしい。

「それではこれで失礼します。中身を確認し終わってからお返しする時、今度は寺内さんの携帯とノートパソコンを取りに伺いますので、ご用意ください」

「分かりました」

「それではこんな時間に、すみませんでした」

 そう言って二人は車に戻った。そこで吉良は尋ねた。

「どう思います?」

「彼女には金という動機がある分、共犯の線はまだ消せない。それに旦那と娘にアリバイは無い。身内ならカードキーを手にいれることも容易いだろう」

「え? でもあの男の体調では無理でしょう。それに娘もまだ十二歳ですよ」

「ああいう病気は波があるものだ。元気な時に実行したのかもしれない。念の為そっちの線も、相原同様他の地取り班に手伝って貰って調べさせよう」

 否定も出来ない為、吉良は頷いた。だが本部へ向かう前に、まだやるべきことがある。それは三郷に対する携帯とPC類の回収依頼だ。寺内家から彼女が住むマンションは近い。

 まず九竜社長の殺害された旧事務所は、三郷のマンションから歩いて三分程度の場所にある。現在彼女が勤める事務所に通う為に使う最寄り駅までと、ほぼ同じ距離だ。

 しかし方向が違う。駅は彼女の部屋から見て南西の方角にある。旧事務所は駅から南東方向へ歩いて同じく三分程度だ。つまり三郷の部屋から、ほぼ真南に位置するのが事件現場だった。つまり駅と現場と彼女のマンションを結べば、ほぼ正三角形が描ける。

 加えて事件当夜に彼女が停車していた駐車場は、マンションから南東に歩いて約三分、事件現場から見て北東に同じく約三分だ。この四点を繋げば正方形に近い菱形になる。

 これに対して寺内が住む部屋は、三郷の部屋から駅と逆方向の東に向かって歩けば五分程度の所にある。事件現場から見て北東の方角にあり、歩けば十分弱の距離だ。その中間近くに例の駐車場があった。

 だが今日の夕方近くまで取調べをしたばかりで、この時間から再び三郷を訪ねることは躊躇われた。といって彼女だけ特別扱いすることも出来ない。そこでとりあえず依頼内容を電話で伝え、相手の出方を伺うことにした。もちろんそれは吉良の役目だ。

 一応スピーカー機能を使い、松ヶ根にも彼女の声が聞こえるように設定し、反応次第で対処方法を指示して貰える準備をしておく。吉良は恐々としながら電話をかけた。

 だが彼女は素直にこちらの要望を了承し、寺内同様明日会社に出社してから受け取る段取りが決まった。通話を終えた後、身構えていた自分が滑稽に思うほど拍子抜けした吉良は、松ヶ根の表情を伺いながら言った。

「思ったよりも、簡単に話が済みましたね」

 すると彼は、奇妙な表情をしながら肩を掻きつつ言った。

「抵抗されずに済んだことは良かったが、う~、先程までの彼女と全く違った対応だな」

「まあいいじゃないですか。明日回収できそうですから」

 まだ浮かない顔をしていた彼だが、それ以上何も言わなかったので吉良は車を発進させて署に向かった。そこで本部に戻り回収して来たものを、分析担当者に渡したのだった。



 刑事達が帰った様子を確認した菜月は、静かに部屋のドアを開けた。するとリビングで両親が言い争う声が聞こえた。

「あれはなんだ。お前が疑われるのはしょうがない。だが俺にまで余計な神経を使わすな」

「ごめんなさい。でも私だって、迷惑しているのよ」

 どうやら今日の父は、機嫌が悪いようだ。その尖った声に対し、謝っているものの母の口調は反抗的だった。それが気に食わなかったのだろう。父の声がさらに大きくなった。

「そんな事は知らない。ゆっくり休ませろと言っているんだ。俺がこのまま会社に行けず辞めさせられたら、一番困るのはお前達なんだぞ!」

 父はそう言ってドアをピシャリと閉めた。あと一時間ほどすれば夕飯だ。そうなると嫌でもリビングへ行き、顔を合わさなければならない。恐らくまた喧嘩が始まるだろう。

 そのとばっちりは、必ず私の所へ来る。夜遊びはいい加減に辞めろ、とまた煩く説教が始まるに違いない。私が愛莉あいりと一緒に塾をサボって彼女のお母さんと長電話していたから、偶然にもアリバイが成立したくせに。

 共犯の疑いがまだ残っているから、刑事にしつこく付きまとわれているようだけど、あんな奴は捕まったらいいんだ。そうすれば家族はみんなバラバラになる。その方がスッキリするし、私も堂々とこの家から出ていけるのに。

 そう思いながらドアを閉めた。あと一時間だけでもいい。あいつらの顔なんて見たくなかった。明日学校から帰れば、また地獄が待っているかもしれない。いや学校に行くこと自体も、徐々に嫌気が差してきた。

 早く騒ぎが収まればいいのに。そうすればまた自由な時間が手に入る。菜月は強引に明るい未来を想像しつつ、再び机に向かって大量にある授業の課題をこなし始めた。



 真理亜は事件の事がきっかけで、触れたくない過去も絡めながら、様々な事に思いを巡らしていた。その為もう一人の自分が、気持ちを落ち着かせようとしたのだろう。お酒を飲む為に、ソファから立ち上がった。

 そんな時に電話が鳴った。どうやら相手はあの刑事らしい。これまで何度もかかって来たことがあった為、番号は登録してある。出ないでおこうかとも思ったが、相手はしつこい警察だ。繰り返しかけられても面倒だと考え直し、スマホを耳に当てた。

 聞こえてきたのは、あのチャラい刑事の声だった。

「遅くに申し訳ないっす」

 早口で説明された内容によると、どうやら長谷家や兵頭部長達などと連絡を取り合った形跡があるか確認する為、スマホやパソコンを回収したいとの依頼だった。既に相原達からも了承を得ているという。

 パソコンはノートとデスクトップの二台を所持していた。両方ともネットに繋げるが、ノートはもっぱらオフラインにして使っている。中のファイルも、顧客名や具体的な内容は省いていた。よって余程詳しい専門家が見ない限り、提案内容や個人に繋がる情報を読み取る事など出来ないはずだ。

 デスクトップも同様に、検索履歴を見た所で九竜家の秘密が暴かれる心配はない。ノートパソコンと交互に受け渡しをするのなら、仕事上にも支障はないだろう。現在最も必要としている機能は、海外にいる敏子夫人との連絡で使うテレビ電話だった。

 先方とは十三時間の時差がある為、会社にいる時間帯だと話がし辛い。朝会社に出社して午前九時から連絡を取った場合、向こうは夜の八時だ。こちらが帰社時間に近い夜の七時だと、朝の六時になる。

 九竜社長が刺殺されたと判った際、病院に緊急連絡して夫人と話をしたのが日本時間で午前十一時、向こうは午後十時だった。その時間は本来彼女の就寝時間を過ぎており、特例だから許されただけだ。

 よって最近は帰宅後の夜十時、先方が朝の九時の時点で彼女と話をすることが多かった。その手段として真理亜はデスクトップを使用していたが、ノートパソコンでも構わない。

 その上気分的にも抵抗する気力が湧かない時だった為、彼の要望する通りに明日会社へノートパソコンを持参すると約束した。またスマホも会社で使っている携帯の使用許可を得た上で渡すことを伝え、早々に会話を終わらせた。

 その後思い出したようにキッチンへ向かう。家で飲むと言っても、週に一、二日程度の頻度で赤ワインをグラス一杯ほどたしなむ程度だ。それでもつまむ程度の肴が欲しいと思い、冷蔵庫を覗いてあるもので簡単な料理を一皿作った。ワインセラーから飲み残している一本を取り出す。グラスと一緒に、ソファの前にあるテーブルの上に置いて注ぐ。

 子供の事や震災、かつての職場等について深く思いが至ると、こういう事が時折起きる。普段は仕事一筋の人間で、身の回りに頓着しない。しかしあるゾーンに入ると、極端に家庭的な事をし始めるのだ。そうして内に籠ろうとする傾向があった。

 特に職場等で子供の話題が耳に入った日の夜だと、あの頃の辛い過去がよみがえることが多かった。というのも真理亜は二十八歳の時、大学時代から付き合っていた恋人と結婚したのだが、不妊治療でとても苦労したからだ。

 関東への異動で彼との距離が縮まった機に、早々結婚を決断したのは間違いない。だが震災の影響もあったかと聞かれれば、否定できなかった。死ぬかもしれないと思う程の揺れを一人でいた時に感じたからだろう。このままではいけないとの意識が働き、誰かと一緒に居たいという気持ちが強くなった。それが結婚へと向かわせる後押しになったのだ。 

 しかし二人の関係は五年で破綻した。彼は基本的に転勤のない、東京のマスコミ関係の会社で勤務していた。収入はそれなりにあったが、まだ仕事を続けたかった真理亜の意向もあり、共働きをしていた。

 けれども結婚前、将来の人生設計に向けた話し合いを曖昧にした点がいけなかったのだろう。子供が欲しい夫と、焦っていなかった真理亜との考えがすれ違い始めたのだ。

 結婚する前の元夫は、共働きに反対していなかった。その為全国各地への異動が求められる総合職だったけれど、結婚を機に引っ越しを伴わないエリア総合職への職種変更をするつもりだった。そうすれば、彼との夫婦生活が続けられると思っていた。

 しかし仕事を続けるなら、本来もっと将来に向けて突っ込んだ話し合いをする必要があったのだ。 例えば子供を産むかどうか。産むならばいつ頃が良いのか。妊娠中やその後の仕事はどうするのか。

 真理亜は結婚後も職種変更し働くことを認めて貰った時点で、会社を辞める選択肢は無いものだと決 めつけていた。しかも子供に関し、重大な事として捉えていなかった。それが後に、大きな過ちだったと気付かされる。彼の想いとは大きくかけ離れていたからだ。

 結婚すれば子供を作ることは当然だと思っていた。また真理亜が妊娠した場合は会社を辞め、子育てに専念するだろうと考えていた。彼はそれが当たり前だと信じ込んでいた。真理亜が専業主婦になっても、生活できる経済的余裕があったからかもしれない。

 その点の思考が二人の間で全く異なっていたことに、結婚して一年も経たない頃判明したのだ。三十手前という年齢を考え、彼の両親と共に子供が欲しいと夫はねだり出した。また産むなら、少しでも早い方が良いとも言いだした為に二人は揉めだした。

 真理亜は結婚後少なくとも数年間、共働きの夫婦生活の安定を優先しながら楽しめば良いと考えていた。仕事も新しい職場に変わってまだ間がなかった為、自分なりに納得できる結果を出したいと意気込んでいたからでもある。

 そんな二人の将来像における不一致により、思いのほか悩まされた。今から二十年ほど前は、晩婚の傾向がささやかれ始めていた頃だ。しかし今ほど少子化問題について、クローズアップされていなかった時代でもある。

 一九八六年に男女雇用機会均等法が施行されたものの、丁度その頃から共働きで子供を意識的に作らない、持たない夫婦を表すDINKsという言葉が広まり出した。これは「女は家庭に入るべき」という、古い価値観を持つ旧世代への反発から生まれたのだろう。

 けれども子供を産むことは、女性しかできない仕事であることに変わりない。また絶対産まないとまで、真理亜自身が強い思想を持っていた訳ではなかった。それでも漠然と仕事は続けたい、続けられるものだと思い込んでいただけだ。

 また真理亜の五歳年上の兄が、二人目の子供を前年に出産したばかりだった。そこで同じ県だが田舎に暮らしている両親まで、そちらはどうかと言い出した。地元では二十代前半で結婚し、二十代半ばには子供を産んだ同級生が沢山いた時代だったからだろう。

 その為最終的には夫達の意向に逆らえず、結婚して翌年の二十九歳の時から妊活を始めた。しかしなかなか妊娠しなかった。そこで三十歳の誕生日を越えた時、周囲の勧めもあって病院で検査を受けた。

 すると妊娠しにくい体質だと診断された為、彼や真理亜の両親達による説得もあって、不妊治療をすることになったのだ。結果三年程病院へ通ったけれど、子宝には恵まれず、そう言った生活が苦痛になり始め、結局三十三歳で離婚した。

 その間の事は、余り思い出したくない。それ程辛かったし、精神的に追い詰められていたからだ。真理亜のそうした気持ちが、元夫に届いていなかったことも影響したのだろう。それに彼自身は、病院での検査を最後まで拒絶したことも関係していた。

 妊活は女性だけの問題ではない。不妊に悩む夫婦の内、三割から五割は男性側に原因があると言われている。主な要因として精子が少ないまたは無かったり、質が悪いまたは勃起不全だったりすることも挙げられる。その為今では男性側も検査をすることが多い。

 だが当時はそうしたケースは少なかったのだ。恐らく男性にはプライドがあり、検査内容をかなり屈辱的に感じることがあるらしく、敬遠する人も少なくなかった為だろう。

 また検査をしたことで、人によっては使い物にならなくなったとの噂があったからかもしれない。よって元夫は、頑なまで自分には問題が無いと言い続けていた。それが彼への不信感に繋がり、愛情も徐々に冷めていった。

 そうして互いの将来像における意見がぶつかり合い、交わることが無かったからだろう。心が離れ始め、三十三歳で不妊治療を辞めたその年に離婚が成立した。このことが真理亜の両親との確執にも繋がった。

 あくまで夫側の意見に同調していた彼らに辟易した真理亜は、離婚の話し合いを始めたことを機に、距離を置くと決めたのだ。しかし不幸はそれだけで終わらない。真理亜はその後成績至上主義の会社に嫌気が差し、顧客や取引先である代理店との板挟みにも合い、本当に病んでしまった。

 やがて入社十五年目の三十七歳の冬、うつ病に罹り会社を休まざるを得ないほど追い込まれ、三年半の休職期間を経て退職した。この事もまた親と距離を遠ざける要因となった。 

 今は完全に疎遠となり、八十二歳になる父と八十歳の母の面倒は、比較的近くに家を建てた現在五十六歳の兄夫妻に任せっきりだ。ちなみに彼らの子供は既に二十六歳と二十四歳となり、親元から離れたらしい。

 あの頃の自分は、何者にもなれないのだと相当落ち込んだ。真理亜は以前から、生きる為の指標を持っていた。それは他人に害を与えないことを大前提として、たった一人でも幸福もしくは不幸ではないと感じさせることができれば、人として存在する意義があるという考えだ。

 世の中には歌や芸術、小説やスポーツ等で、多くの人の心を揺さぶり感動させて喜びを与える人がいる。だがそんなことが出来るのは、世の中でもほんの一握りだ。多くは単に社会を動かす、歯車の一つにしか過ぎない。

 それでも世界中の人が、自分も含めてあと一人だけ人生を楽しく過ごせると思わせれば、戦争など起こらず平和に生きることが出来る。例え自分に夢が無くとも、目標を持って頑張る人を支えるだけでもいい。それで自分や相手が、幸せと感じられればいいのだ。

 そう信じて真理亜は幼い頃から一生懸命勉強し、有名な大学に入り一流と呼ばれる会社にも就職した。社会人としての役割を果たすことが、少しでも世の中に貢献できると思っていたからでもある。

 また結婚すればその人を支え、共に満足のいく人生を送ることが出来ると信じていた。しかしそうはならなかった。幸せどころか自分を含めて相手を傷つけ、周りの人々にも不快な思いをさせたのだ。その上無職となり、社会人の役割さえも果たせないと嘆いた。

 それでも人は生きなければならない。この時、体が資本だと心から痛感した。どれだけ優秀な能力を持ったミュージシャンやアーティスト、アスリートや起業家であっても、怪我や病気になってしまえば力は発揮できない。それは凡人である自分も同じだ。

 その為休職中は、体調を整えることを優先した。三年半の間、何度も大きな波を経験した。倦怠感や頭痛が酷く、最初の一年間は一日中寝込んでいた日が週に三、四日あった。

 そこから徐々に、起きている時間を増やすよう努めた。それでも体調が良く週に三、四日は日中眠らずに済んでいたかと思えば、体が重くなり寝込む日々が続くといった生活を繰り返していた。それが二年目から三年目の後半まで続いたのだ。

 起きていられる時は、精神を落ち着かせながら集中力を持続させる為に、パソコンを開いて元々持っていたPBやFPの資格にまつわる勉強を、コツコツと続けた。疲れたと感じたら、無理せず休憩するようにもした。そんな暮らしを四年ほど過ごした。

 その結果会社への復帰は叶わなかったけれど、四十一歳の時に顧客第一主義をうたっていた今のPA社へ再就職を果たすことが出来たのだ。しかも年収まで大幅に増加させられたのは、とても幸運だったと思う。

 この頃のモチベーションは、何者でもない自分からの脱却だった。身近な人を幸せにできなかった分、僅かな数でもできるだけ自分の担当顧客の満足度が高まるよう、身を砕いた。加えて自分自身の精神を安定させることにも、かなりの注意を払ってきたのだ。

 PA社の勤務地は関東の都市を中心としており、この十年間でも何か所かの異動は経験している。その度にできるだけ住み心地の良い賃貸マンションを吟味し探した上で、引っ越しを重ねてきたのもそうした理由からだ。

 出来るだけ静かで煩わしい想いをしなくて済むよう、戸数の少ない物件を中心に探した。そうすれば自ずと、低層なマンションに限定される。といって経済的な余裕はあったけれど、分譲マンションを購入する気にはなれなかった。

 大都市圏内での転勤がある事も、理由の一つだった。しかし最も大きな要因は、震災などが起きて崩壊すると、再建には居住者達の同意を必要とする為時間がかかるデメリットがあったからだ。実際阪神淡路大震災時にも、多くのマンションでそうした問題が起こったことを、目の当たりにしてきたからだろう。

 また一戸建てを避けたのは、地域住民との関係を築くことの煩わしさから逃れる為だった。例えば騒音問題等が起こった場合、物件の売買が絡んでくる為そう簡単に引っ越すことも出来ない。その点賃貸なら、環境が気に食わないと思った時点で引っ越せば済む。

 実際現在の会社に再就職してから、約十年の間に三回の引っ越しを経験してきた。事務所の異動とは関係ない。単にマンション周囲も含め、隣人や階下の騒音トラブルに我慢ならなかったからだ。それだけ住環境には拘らざるを得なかった。

 現在住んでいるマンションだって管理会社が間に入っていたけれど、所有者である大家も同じ場所に住んでいる点が気に入ったから選んだ。なぜならその前に住んでいた所では、管理会社がとても頼りなかった為に、何度か嫌な思いをしたからだ。

 所有者は遠くに住んでいる人が多く、当然任せっきりで何もしてくれないのは致し方がない。しかし問題が発生した時、そこがネックになる事を学んだ。それに比べ所有者が同じ場所に住んでいれば近所の目もある為、余計な騒ぎなど起こしたくないとの心理が働く。  

 とはいえ大家の人柄によっては、苦手な人付き合いを必要とするリスクも生じる。そう考えながら探し見つけたのが、このマンションだった。幸いここの大家は、住民達と適度な距離感を保っている方だと判り、安心して過ごすことが出来ていた。

 仕事上で支障はないけれど、クリニックには依然通い続けている。精神衛生上良くない事があれば極力排除することで、なんとか体調を整えながら今まで働き続けられたのだ。

 しかしここ最近、少しずつ頭を悩ますことが増えつつあった。その一つが隣に住む夫婦の仲が悪化した事だ。しかもこの半年の間で漏れ聞こえてくるやり取りで、何となくその原因が判った。厄介な事に真理亜が離婚した理由と同じく、子供を作るかどうかで揉めているらしい。

 隣人も共働きで、状況もかなり昔の自分達と似ていた。恐らくある一定期間は、彼らもそうした話題を避けているのだろう。だが何かをきっかけにして浮上し始めると、激しい口論になるようだ。その気持ちは真理亜にとって、痛いほど良く理解できた。

 しかも本来なら管理会社の仕事なのに、騒ぎに気付いた大家が直接隣に訪問し、注意してくれた。その後真理亜の部屋をわざわざ訪ねて来て、事の経緯を説明してくれたのだ。そこまでしてくれたのなら、住民としては我慢するしか無い。

 だからこそ隣の喧嘩が始まると、心の平安を保つ為外へ避難するようになったのだ。よってあの事件があった夜も、アイドリングに気を遣って有料駐車場だが広い場所へと移動した。それもこれまでの精神状態から考えれば、至極当然な行動だったのだ。

 真理亜を悩ませる問題は他にもある。これまでは会社の方針に共感し、同僚や上司、担当する多くの顧客に恵まれていた。それなのに最近更なる顧客拡大を目指し始めたPA社は、二年前に損保と生保を扱う大型保険代理店を買収したことで、様子が変わり始めた。

 以前とはかなり異なる顧客層をも対応するようになり、また旧代理店側の社員等との軋轢が発生した。さらに上司の所長が昨年から今の相原に変わった頃から、顧客第一主義だったはずの会社方針は、徐々に成績至上主義へと変貌しつつあったのだ。

 面倒だが住環境は、新たな引っ越し先を探せば何とか解決できる。ただ仕事場は、そう簡単にいかない。現在五十一歳という年齢を考えると、いくらこれまでの実績があるとはいえ、要望に合う職種への転職は難しい事など火を見るより明らかだ。

 PA社は東京本社を拠点に、関東ではS市とY市、他には北海道や宮城、愛知や大阪、福岡と全国八ヵ所に事務所を構えている。主に富裕層を対象とした資産保全や事業継承などの支援、金融サービスの提案や実行をするプロフェッショナル集団だ。

 現在真理亜が勤めるS市の事務所では、総勢百名ほど所属している。といってもPA社出身者は二十名余りしかいない。中ではいくつかの地区担当に別れ、マリアの所属するA地区には総勢三十名ほどの社員がいた。そこの総責任者である所長が相原だ。

 三十名の内、PA社出身は相原や真理亜を含め五名しかいない。他は元保険代理店に所属していた社員や事務員だ。よって業務内容は相当異なる。

 元保険代理店の担当社員は、顧客に自動車保険や火災保険などの損害保険、終身保険や医療保険等の生命保険を販売することで、手数料収入を得ていた。扱っているのは、二十社ほどの保険会社の商品だ。

 表向きは顧客のニーズに合わせ、どこのものを勧めるかが決められる。しかし実態は、個々の担当者の判断による傾向が強い。実入りが良いようにと、手数料率の高いものが選ばれるケースもあった。さらに出入りしている保険会社の担当者との関係や、各社が独自に行うキャンペーンなどによって、顧客の損得を二の次にした商品を勧める輩もいるのだ。 

 そうした顧客第一主義でない点が嫌で、前職では心を病むまで苦しんできた。その為今の会社でそうした文化を再び身近で見せつけられることに、強い嫌悪感を持っていた。それはPA社本来の業務と、大きくかけ離れていたからでもある。

 真理亜達が対応している顧客は、それこそ個人でも純金融資産額を最低一億円以上持つ富裕層だ。しかも彼らが持つ資産保全や運用支援を行った結果、成果を上げることでその一部を報酬として頂く。よって客との利益を一致させなければならず、手数料収入を得ようとするような自分勝手の提案など出来るはずがなかった。

 それでも成果連動型の給与体系なので、厳しい面がある事は間違いない。しかしそうした仕事内容が、真理亜の性分に合っていたのだろう。実際業績も上げており、以前いた会社よりずっと高い収入を得てきたのだ。

 特にここ近年、厚労省が人生百年時代と打ち出したことも影響していた。二千万円不足問題が表面化したことにより、資産運用やライフプランニング等の相談が増えたことも追い風になったのだろう。そうした時代の流れを上手く掴んだPA社は、毎年増収増益を重ねていた。

 会社が保険代理店を買収した理由や利点は、判っている。PA社同様大都市だけに展開していた点と、代理店の顧客の中には富裕層や業績の良い企業があったからだろう。

 新たな顧客と繋がりが持てれば、これまでできなかった専門性の高い更なる提案も可能だ。また資産運用や会社の節税対策において、保険は欠かせないツールの一つでもあった。

 これまでのPA社は提携する代理店に扱わせ、若干の紹介手数料を得ていた。それが自らの会社で扱う事で収益の流出を食い止め、内部留保できると考えたのだろう。その他に自動車保険や火災保険等切り替えても損失が出ないものに限り、代理店部門が順次扱うようになった契約はこの二年で多数出ている。

 全国では億超えの契約が成約したケースもあると聞く。手数料収入もかなりの額に昇るだろう。そこにこれまで外部に託していた保険を自社で扱うことで得られる手数料が加わり、大きな増収に繋がっていた。

 その上買収を機に、真理亜自身も旧代理店の顧客から選抜された資産家や優良企業の一部を振り分けられた。与えられたリスト通りに保険担当者と同行し、挨拶を済ませて依頼を受けたものもある。

 既にある企業では成功報酬が発生し、支払いを受けたという成果も表れていた。こうした結果を受け、買収自体は成功だったと言われている。会社の収益を考えればそうだろうと、真理亜も認めざるを得なかった。しかしその弊害は少なくない。

 例えば担当者が無理な切り替えを進めたことにより、トラブルに発展した話も耳にする。さらにはPA社と保険代理店部門の社員との軋轢や差別や偏見が表面化し、社内における人間関係がギクシャクし始めたという話も、そこかしこから聞こえてきた。

 担当する主な顧客層自体が大きく異なり、社員収入も社内でかなり隔たりがあった事も一つの要因だろう。所謂太い客ばかりをPA社の担当者が奪い、その成果を自分だけの手柄のように振舞う様子を見て、代理店側の社員は我慢ならなかったのかもしれない。

 一方でPA社側からも、代理店社員に対する不満を持っていた。富裕層の顧客や大きな企業と取引があるとリストを出されたからこそ、顔を出して挨拶しに行くのだ。しかし蓋を開ければ全く人間関係ができておらず、代理店担当者や加入している保険会社の愚痴を聞かされてばかりという実態が、かなりの件数に昇ったからだ。

 当然そこにはこれまでなかった、保険会社の担当者が事務所に出入りすることで新たな問題も発生していた。彼らは自分の会社の商品を、出来るだけ多く扱って貰うことが仕事だ。しかしPA社にとって重要なのは、あくまで顧客の意思や利益が第一だった。 

 そこにギャップが生じる。全ての代理店担当者がそうだとは言わないまでも、多くは馴染みの保険会社の担当者がバックについていた。だからだろう。できるだけ切り替えるのはうちの会社にしてくれと頭を下げながら訪れる事に、全国のPA社員は辟易したようだ。

 真理亜もその一人だった。前職が保険会社だったことも災いした。かつていた会社に所属する担当社員とその上司が馴れ馴れしく近づき、当社の保険を優先的に売ってくれと迫ったからだ。

 特に上司の方は支社長で、そろそろ部長に昇進するかどうかという瀬戸際らしい。だから是が非でも良い成績を上げたかったのだろう。担当と一緒に何度もやって来た。

 彼は入社二十六年目で三期下の総合職の後輩にあたる。けれど態度は酷かった。人にものを頼む立場で年下ながら、支社長というプライドからかとても横柄だった。しかも関東で在職していた頃、隣の課にいた為面識も多少あったにも関わらずだ。

 だからこそ女性総合職の真理亜を下に見ているのかもしれない。さらにうつ病に罹り休職した経緯を知っていたから、馬鹿にしていた可能性もある。

 PA社には、過去の経歴や退職した理由も全て話した上で入社していた。それでも今の職場では、所長の相原以外は過去の細かい事情など知らされていない。今は仕事上何も支障がない為わざわざ話す事でもないので、真理亜も自分から同僚に話す事など無かった。

 その事を知ったからだろう。はっきり口にしないものの、彼は折に触れて過去の話を広めて欲しく無ければ我が社で契約しろと、言外に圧力をかける物言いをしてきた。 

 その上真理亜の容姿をからかい、

「年齢不詳の女性を売りにして男性顧客の手の一つでも握れば、契約なんていくらでも取れるでしょう。現に三郷さんの成績は、この事務所内でもトップだというじゃないですか。相当数の人を手玉に取って来たんでしょうね」

とセクハラ発言までし始めた。それに腹を立て、しばらく出入り禁止を申し渡したほどだ。

 それを聞きつけた相原が間に入り、和解させようとした。だが現在まで拒絶し続けている。これにはまた別の理由も絡んでいた。真理亜は所長との相性も良くなかったからだ。

 四十二歳と九つ年下の彼は、かなり上昇志向が強い。PA社が新たな戦略を打ち出したことで、これまでの顧客第一主義から成績第一主義に方向転換し始めたと解釈したらしい。 

 その為か所長として管轄するエリアでの業績を上げることで、より上のポストに昇進できる良い機会と捉えたのだろう。その証拠に部下に対して、これまでの会社方針とは相容れない態度を取り、指示を出していた。

 例えば保険会社の意見をよく聞き、どこの商品を扱えば会社の利益になるか吟味するようにと意見した。また積極的に保険会社の担当者と接して親交を深める為、彼らが開催する勉強会などにはなるべく参加するよう、言い聞かせたりもしたのだ。

 解釈によっては、能動的に新しい情報を収集する為の行動とも取れる。だが保険会社にいた真理亜の経験からは、そう思えなかった。相原の指示に従うことは、保険会社やその担当者と必要以上に近づくことへと繋がるからだ。

 その結果顧客のニーズに応える為の、中立的立場を損ねかねない。癒着のリスクを伴い、顧客優先とは真逆の方向へと導く恐れがあると感じた。よって真理亜は、ことごとく彼に逆らって意義を唱えた。そうして様々な場面で対立してきたのだ。

 彼にとって真理亜は年上だが、あくまで中途採用の社員であり部下でもある。それでもエリアで成果を上げていた社員に対し、余り強く言えなかったのだろう。加えて時には報酬も彼を上回ることがあった為、嫉妬されていたのかもしれない。

 また彼も沼田と近い、下衆げすな思想を持つ男だった。真理亜の成績が良いのは、特殊な容姿を持っている為だと陰口を叩いていたようだ。だが異性だけでなく同性からもそう思われていたらしく、所長も含め他の同僚達や保険部門の担当者からさえ煙たがられていた。

 問題のカードキーの件だって、元はといえば彼による嫌がらせのようなものだ。以前保険事務所だった頃は、そこの所長と副所長と寺内の三人が所持していたと聞いている。PA社が買収し事務所が移動してからは、PA社の所長と保険代理店にいた元副所長と寺内が持つようになった。代理店側の所長は別の店に変わっていたからだ。

 しかし昨年所長として相原が異動してきた後、元副所長は会社を辞めた。その際家が近いというだけの理由で、余った一枚を真理亜に持つよう相原は命じたのだ。今の事務所にも所長代理の肩書を持つ人物がいるにも関わらずそうしたのは、明らかに面倒な事を押し付けたかったとしか思えない。

 そんな経緯がある中で、今回の殺人事件が起こった。相原や寺内はアリバイがあるけれど、カードキーの管理者だった事実から、重要参考人である事には変わらない。だが警察の見方と同様に、それ以外の社員達にとってアリバイのない真理亜は、最も疑わしい人物となってしまった。

 実際犯人かどうかは、彼らにとってどうでも良かったのかもしれない。いや本来なら同じ会社の社員が顧客を殺したとなれば、大きなイメージダウンとなる。よって全くの第三者であると信じたいはずだ。

 けれどもこれまでの状況から、これ幸いとばかりに真理亜を犯人扱いした。腫れ物に触るような素振りだけではない。顧客と肉体関係を持った挙句に、トラブルを起こしたのだろうと言い出す者や、公然といるだけで邪魔だといった接し方までされ始めたのだ。その為仕事場における環境は、ますます悪化してしまった。

 そこまで考えた所で、真理亜はこれ以上何かを考える事は心身共に良くないと気付く。よって今夜はこれぐらいにしておこうと、グラスや皿を片付けた。そうして寝室へと向かったのだった。

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