第39話 絢斗と春夏冬と彼女の気持ち
御手洗も水卜も帰り、一人きりとなった夜。
部屋でベッドで横になりながらアキちゃんの動画を見る俺。
可愛い……それは相変わらずで……でも中身は春夏冬。
そう考えドキドキするもやはりまだ戸惑いを感じる。
いやだが春夏冬がアキちゃんだとして、それがなんだというのだ。
別に彼女がアキちゃんだったとしても、付き合うわけでもなんでもない。
ただの同級生。
ただの知り合い。
お互い顔を知ってしまったというだけの話ではないか。
これ以上深く考えるのは止めておこう。
うん……でもやっぱりアキちゃんは素晴らしい。
動画を見て興奮し、そのまま寝付けないまま朝を迎えた。
◇◇◇◇◇◇◇
「おはよー、絵麻。昨日何してたの?」
「おはよ。んん~……と、友達と遊んでただけかな」
学校へ向かうと、すでに春夏冬は登校しており、仲のいい友人と会話をしているようだった。
いつもと変わらない彼女。
俺は少し緊張しながら春夏冬の隣の席に着く。
「あ……」
俺の顔を見るなり春夏冬は固まり、そして顔を赤くする。
いや、もう気にしてないから普通にしてくれて構わないんだけど。
俺は机で眠るフリをし、アキちゃんの歌を聞きながらも聞き耳を立てていた。
音楽の音量はできるだけ低く。
これならアキちゃんの歌を聞きながらアキちゃんの声も聞けるというわけだ。
なんて素敵なことでしょう。
隣に本物のアキちゃんがいるというだけで楽しみが増えてしまった。
なんだか俺、このままストーカーにでもなってしまうのでは……なんて危惧もしつつも彼女に迷惑をかけるような真似はしないであろうという自信も持っていた。
「それで絵麻、何して遊んだの?」
「うえっ!? えっと……普通に話したりご飯作ったり……?」
「絵麻、料理できるんだ? すごーい」
できないぞ。
春夏冬は料理ができないぞ。
しかし次に彼女が料理してくれる機会があるとすれば、俺は喜んで食べることであろう。
推しが作ってくれる料理なら、たとえゴミであろうと口にしてみせる。
「あ、チャイムだ」
アキちゃんの歌と声にチャイムが鳴っていることに気づく俺。
周囲の音など全く聞こえていなかった。
担任がホームルームを始め、俺はボーッと春夏冬の方を見る。
すると彼女もチラリと俺を見て視線が合う。
「っ!」
バッと顔を逸らす春夏冬。
以前ならなんとも思っていなかったが……その反応にキュンキュンくる。
いや、可愛いとは感じていたけれど、こんな心を動かされるようなことは無かった。
見ている対象は一切変わっていないのに、俺の捉え方だけが変わって……
これがパラダイムシフトか、などと考えながらそのまま春夏冬の横顔を眺めていた。
「み、見すぎだから……」
「あ、すまん」
春夏冬は怒ったような、だけど照れた様子で俺にそう注意してきた。
確かに見すぎだったな。
動画だったらこんなこと言われることないのに。
やはり生の反応は違うな。
気怠い授業が始まり、春夏冬は授業に集中しているようだった。
俺はあくびをしながら、携帯を操作する。
アキちゃんとのメッセージを読み返していたのだ。
このメッセージのやり取りは、隣にいる春夏冬と……
ニヤニヤしながらメッセージを見返していると、俺は違和感というか、とあることに気づいてしまう。
「……あれ?」
俺の声に反応し、春夏冬はこちらに視線を向ける。
彼女の顔を俺が見返すと、再び黒板の方を向く春夏冬。
春夏冬……アキちゃんは好きな人がいるって言っていたけれど……
どうもこれ、俺のような気がしてきた……と言うか、俺!?
アキちゃんに月が綺麗ですねと言えばいいとアドバイスしたが……春夏冬から月が綺麗だと言われたことがある。
アキちゃんが好きな男の家に強引に上がったというメッセージもあったが……あれは丁度春夏冬が俺の家に上がった時のことだ。
時間はぴったり。
春夏冬は俺のことが好き……?
なんだかそう考えたら、メッセージのことがしっくりくるというか、全部つじつまが合うような気がしてならない。
俺は心臓をバクバク言わせながら春夏冬に声をかける。
「なあ春夏冬」
「な、何?」
「お前、俺のこと好きなのか?」
ガタンッ!
と席から飛び上がり、春夏冬は血よりも赤い顔で俺を見下ろす。
「な、ななな、ななななな、なんでバレたん? なんで? え? なんでやの!?」
大慌てする春夏冬にクラスメイトたちが注目する。
俺は携帯の画面を春夏冬に向け、メッセージの内容を見せた。
「あ……あああっ!! ち、違うねん……違わへんけど違うねん……」
頭から煙を出し、春夏冬は目をグルグル回していた。
その反応もまた可愛い。
なんて思いながら俺は彼女の顔を真っ直ぐに見る。
「春夏冬……」
「……き、今日は早退させてもらいます! ほなさいなら!」
目にも止まらぬ速さでカバンに荷物を詰め込む春夏冬。
そしてあっという間に教室を飛び出して行ってしまった。
「おい、春夏冬さん!」
教師が春夏冬を呼び止めるも時すでに遅し。
彼女は一瞬で廊下を駆け抜け、学校から出て行ってしまったようだ……
俺は大きくため息をつき、彼女のことを考える。
……これからどうしたらいいんだろう、俺。
水卜のこともあるし、どういう選択をするべきなのだろう。
問題が一気に押し寄せてきて、俺は少し混乱気味になり、窓の外を呆然と眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます