第37話 絢斗と三人とお家④
「勝者――御手洗。って、言う必要もないか」
「いやー、やっぱハッキリ言ってもらう方がいいっすよ。その方が勝敗もキッチリと分かるってもんすもんね」
ニヤニヤ笑いっぱなしの御手洗に、悔しがっている春夏冬と水卜。
女の戦いは大変だな……なんて、三人の顔を見て俺は呆れていた。
そんなに大事かね? 勝ち負けなんて。
「じ、じゃあ次はどんな勝負にする? 一回だけで終わりじゃないでしょ?」
「だったら~、次はデザート対決にしよっか~」
「もういい! お腹一杯だから!」
本当は二人のデザートを食べるのが怖いだけなのだけれど。
「じゃあもうお開きっすかね。今日は自分の圧勝ってことでもういいじゃないっすか」
「あ、圧勝じゃないもん。僅差だもん」
勝ち誇る御手洗に食い下がる春夏冬。
だが御手洗の圧勝も圧勝だったぞ。
野球ならコールドゲーム。
バスケなら100点差。
将棋なら飛車角抜きで速攻負けるるようなものだ。
はなから勝負にならない。
技術に差がありすぎたな。
春夏冬はブツブツいいながら、食器の片づけを始める。
洗うのは御手洗のようだ。
彼女は洗い物も手慣れているのだろう、手際よく、効率よく、無駄なく洗っていく。
「これポイント高いんじゃないっすか?」
「関係ないから! もう勝負はしてないから! ってか、洗い物ぐらいなら私もできるし」
「私もできるよ~」
「…………」
すまないが、二人が洗い物をすると皿を割るイメージしか浮かばない。
そんなことも無いんだろうけれど、さっきの料理を食べた後では、どうしてもネガティブな想像しかできません。
三人はなんだかんだとわいわい話をしながら片づけをしていた。
俺はやることがなく、一人ポツンとテーブル席に着いたままだった。
「……よし。アキちゃんの動画でも見るか」
何もすることがないので、自分の好きなことをしておこう。
好きなこととなれば、アキちゃんしかない。
俺はリモコンを操作し、テレビ画面にアキちゃんの動画を映し出す。
リビングに甘い歌声が流れる。
俺はその素晴らしい歌声に涙を流しながら、アキちゃんの踊る姿に釘付けとなっていた。
「ってちょっと! そ、そそそ、それは無しって言ったじゃん!」
「そうっすよ。アキちゃんは今日は無しって話でしたよね?」
「そんな話をしたつもりはない! アキちゃんが無しなんてバカな話があるか!」
俺は怒りのままに怒鳴り付ける。
アキちゃんを封印するなんてバカな考えは否定せざるを得ない。
一日の始まりと一日の終わりにはアキちゃんを見ないと気が済まないのだ。
それに水卜に布教できるチャンスでもあるし丁度いい。
俺は彼女の顔を見てニヤッとする。
どうだ? 素晴らしいだろう?
アキちゃんは最高だろう!?
「…………」
「どうした、水卜? 感動のあまり声が出なくなったか?」
「ううん~、違う~」
「だったらどうしたと言うんだ?」
「これが絢斗の好きなアキちゃん~?」
「ああそうだ。これこそが、宇宙最強で最高で至高のアレキサンドロス・アキちゃんだ!」
どうやら水卜は聞き呆けているようだ。
そうだろうそうだろう。
アキちゃんは素晴らしいであろう!
俺は水卜の反応に高揚し、ワクワクして彼女に聞く。
「どうだ。最高だろ?」
「んん~最高かどうかは分かんないけど~」
「最高だろ? これを最高と言わず何が最高なんだ?」
水卜は何か引っかかっているような様子。
すると突然彼女は、信じられないようなことを口にし出した。
「これ~、春夏冬ちゃんだよね~」
「……は? 何を言ってるんだ。これはアキちゃんであって春夏冬ではないぞ」
何を言っているんだこいつは……
アキちゃんと春夏冬を一緒にするんじゃないよ。
二人は似ても似つかない存在。
日本人とインド人を間違えるぐらいそれは無理があるぞ。
俺は呆れながら春夏冬の方を見ると……彼女は何故かガチガチに固まってしまっていた。
何その反応?
「いや、確かに声似てるとは思ったことあるが……それは無いだろう」
水卜は再び、アキちゃんの歌に耳を傾け集中する。
「……ううん。やっぱり春夏冬ちゃんだよ~。私小さい頃からピアノやっててさ~耳はメチャクチャいいんだよね~」
「あ、ああ……確か、幼稚園の先生になりたいって言ってたもんな」
「うん。だから耳は自信があるんだ~。普通に話してる動画もある~」
「と、当然だ」
俺はアキちゃんのトーク動画を水卜に見せる。
春夏冬はガタガタ震え、顔を引きつらせているが……だから何だよその反応は。
「間違いないよ~。春夏冬ちゃんだよ~。口じゃ説明できないけど、喋り方の癖とか呼吸の感じとか全く一緒だもん」
「……嘘だろ? え? アキちゃんが春夏冬……?」
いまだに結びつかせることができない二人の存在。
いや、アキちゃんは……春夏冬じゃないはず……だよな?
「……あ、あはは」
「春夏冬?」
春夏冬はうっすらと涙を浮かばせ、そして赤面しているようだった。
え、本当にアキちゃんなの?
そうとしか思えない反応をしている春夏冬……
俺はただ呆然と彼女を見つめるのみであった。
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