第35話 絢斗と三人とお家②
楽しいようなピリピリしたような良く分からない空気のまま時間は流れていく。
途中で何度かアキちゃんの動画を布教しようとするも、その都度春夏冬と御手洗に阻止された。
こいつらアキちゃんの魅力に気づいたはずなのに……何故だ?
俺のプレゼンが不完全だったというわけか。
これはまだまだ改善の余地ありだな。
アキちゃんの魅力を伝えるのが俺の使命。
これまでは人と接する機会が少なかったが、アキちゃんのためにプレゼンの努力を積み重ねるとしよう。
「晩御飯はどうする? 何か配達でもしてもらう?」
「お前……なんて贅沢な! 配達してもらったらお金がかかるだろ!」
「え? そんなおかしいことかな……?」
「まぁ世間的には半々ってとこじゃないっすかね。自分は貧乏なんで頼んだことないっすけど」
「そうなんだ……」
外は夕焼けで赤くなっており、そろそろ晩御飯のことを考えなくてはならない時刻。
春夏冬は食事を運んでもらおうと提案するが……お金を持っているやつの考えはいまいち理解できない。
そんなの勿体ないだろ?
俺はそう思う。
御手洗もそう思っているようだ。
そりゃ買いに行く手間を買っていると考えることもできるけれど……でも、やっぱり俺は勿体ないと思う。
「だったら~、皆でご飯作る~? 絢斗の両親、今日は遅くまで帰って来ないんでしょ?」
「そうだけどさ……いや、そもそも配達なんてしてもらわなくても、帰って食べればいいだろ。俺は適当にカップラーメンでも――」
「よし、決まり! 今日は高橋の家でご飯を作るとしよう!」
「了解っす! ちょっと兄弟に遅くなるって連絡入れてきます!」
「おい! 勝手に話を進めるんじゃない! お前らは自由過ぎんだよ!」
だが俺の話を聞く奴はこの場にいなかった。
三人で何を作るか食材をどうするか大きな声で相談している。
もう作る気満々だな。
俺の意思は無視か?
まぁまともに食う物もないし、ありがたいって気持ちもあるんだけどさ。
でも、もっとちゃんと話をしようぜ。
ここ、俺ん家なんだからさ。
「じゃあちょっと近くのスーパーに行って来るよ。勝手に贖罪使ったら、高橋のお母さんに悪いし」
「俺の母親には悪いって気持ちはあるのに俺の気持ちはどうでもいいのかよ……」
「でも~絢斗嬉しいでしょ~」
「…………」
いや、作ってくれるのはありがたいんだけどさ。
でも気持ちを悟られてると思うと少し気恥ずかしい。
三人ともニヤニヤしてこっち見てるし。
「自分らみたいな可愛いたちにご飯作ってもらえるなんて幸せっすね、先輩」
「自分で可愛いって言うか?」
「可愛いって毎日言われるし告白されるし、ちょっとぐらいは自覚してるんす」
「いや、可愛いけどさ……」
三人は俺の言葉を聞くなり顔を赤くした。
言われ慣れてるはずなのに、まだ恥ずかしいのかよ。
美人の気持ちはよく分からん。
「と、とにかく、買い物に行ってくるから!」
走ってリビングを飛び出していく三人。
「高橋って不意打ち多いよね……」
「あれはズルいっすよ」
「だね~」
三人は何やら話をしているようだが、全く無い用は聞き取れない。
どんな話してるんだよ。
俺にも聞かせて。
「…………」
ポツンと一人きりになったリビングを見渡す。
なんだか……一気に寂しくなってしまったな。
「寂しいか……」
寂しいなんて気持ち、抱くことなんて無かったのに。
水卜が俺を裏切ってないって知って……気が緩んだのだろうか。
自分の気持ちの変化は自分でも分からない。
意外な考えをした自分自身に驚いている。
このまま誰かとまた仲良くなって人と遊んだりするのだろうか?
……しかしそれはそれでまだ自分でも想像がつかない。
まぁ結局のところ、今を楽しんだり、今を喜んだりするしかないんだよな。
将来のことなんてどうなるか分からないし、今自分の内から浮き上がってくる感情を楽しむとしよう。
そう考え、俺は食事の用意をしてくれるという三人の帰りをワクワクして待っていた。
「ただいま帰ったっす」
買い物に出かけてから三十分ほど。
御手洗の可愛らしい声がドアの開閉音と共に聞こえてくる。
「おかえり」
「ただいま」
「ただいま~」
三人がリビングに帰還し、それぞれ買い物袋を手に持っている。
「ただいまっす、先輩。これから三人別々に料理作るんでよろしくっす」
「さ、三人別々……?」
俺がキョトンとすると、水卜がニコニコしながら説明をする。
「絢斗に何食べさせてあげようかなって話してたら全員意見が分かれちゃって~、だったらそれぞれ作ろうって話になったの~」
「へ、へー……」
三人が作るのは構わないのだが問題が一つ……
お前たちの持っている買い物袋の量、一食分にしては多すぎだよね?
全部使って作るつもり?
誰が食うの?
あ、俺だわ……俺とこいつらだわ。
色々と言いたいことがあったが……彼女らはさっさと調理の準備に取り掛かり始めた。
「あ、ちなみに春夏冬さんの奢りっすから」
「あ、そうなんだ……ありがとな、春夏冬」
「え? ああいいの……ある意味高橋のお金でもあるから」
「?」
良く分からないことを言いながら春夏冬はキッチンの方へ入って行く。
と言っても、キッチンは目の前。
こうして三人の料理タイムが始まった。
「できるまで絢斗は見ないでね~」
「…………」
こんな筒抜けなのに?
俺は苦笑いしながら自室へと移動することにした。
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