第34話 絢斗と三人とお家①
「ど、どうぞ」
「ありがとう高橋」
俺は春夏冬と御手洗にカフェオレを出し、水卜にはさらに砂糖多めのカフェオレを用意した。
水卜はとにかく甘い物が好き。
この辺りは中学の頃から変わってないな。
「それで~何するのぉ?」
「……まず動画でも見るとするか」
「ちょ、ちょっと! あんたの大好きなア、アキちゃんは禁止ね!」
「何故だ? アキちゃんを禁止にしたら今日水卜にここに来てもらった意味が無くなるだろ」
「やっぱりそういうつもりだったんすね……安心したけど呆れるっす」
青い顔をする御手洗。
なんでそこで顔色が悪くなるんだ?
アキちゃんは最高だろ?
「とりあえず、春夏冬さんの言ってるようにアキちゃんは禁止の方向でお願いするっす」
「それを何故お前たちが決めるんだ?」
「だって私たちがここにいるから」
「ここにいるのはお前らの勝手だろ! 俺の家だぞ? 俺の勝手だろ」
「勝手気ままに生きていきたいなら一人で生きていけばいいんすよ」
元々はそのつもりだったのだけれど……いや、一人でも生きていける自信は今でもあるけれど。
だがここではいそうしますなんて言ったら、また何かゴチャゴチャ言われるような気がする。
だから別の方向から言いくるめなければいけない。
「俺は自由を求めている。もし俺の自由を縛るというのなら他の誰かと付き合いたいとは思わない」
「私~、綾斗を縛るつもりなんてないよ~」
「そうか。だったら水卜とはこれからも付き合っていけるってものだな」
御手洗がウッと顔色を悪くし、汗をかきはじめた。
「じ、自分も縛るつもりはないっすけど……でもあれがあるじゃないっすか、あれが」
御手洗は助けを求めるように春夏冬の方を見る。
すると春夏冬はすかさず口を挟む。
「自由なのはいいけれど、お互いが嫌な思いをしないのは大事でしょ?」
「嫌な思い?」
「うん。お互いに気分よく生活するのって、逆に言えばお互いに嫌なことをしないということだと思うの。そういうのって夫婦だとしても大事じゃない? 自由なだけでもいいけれど、最低限の気遣いは必要ってこと」
「なるほど……だけどアキちゃんの動画を再生するのに気を使う必要はないと俺は考えている。だってアキちゃんは全人類を癒す、最強の存在なのだから」
呆れ返る春夏冬と御手洗。
「ダメっすね……絢斗先輩、アキちゃんの信者っすから常識なんかは通用しないっすよ」
「ねえねえ~、アキちゃんってどんな子なの? 私ちょっと興味あるな~。アイドル~?」
「アイドルと言うか……神に近い存在だろうな」
「言い過ぎ! 言い過ぎだから! あんなの、ただのvtuberでしょ!」
春夏冬は顔を赤くして怒鳴り出し、俺はムッとし彼女に反論した。
「失敬な奴だ……アキちゃんとは大違いだな。アキちゃんをただのvtuberと思うなかれ。彼女の輝きは太陽の光にも匹敵し、彼女の声は心の闇さえも掃滅させてしまう!」
「だから言い過ぎや! あんなんなんてことない普通のvtuberやから!」
いきなりの京都弁、ありだと思います。
春夏冬の京都弁に少し喜びを感じていた俺。
しかし彼女は顔を真っ赤にして俺を睨むばかりだ。
「兎に角、普通に遊びましょうよ、普通に。この家他に何かないんすか? ゲームとか」
「そんな物を買う金があれば全てアキちゃんに回すに決まってるだろ」
「そうっすよね……先輩、本当にアキバカっすもんね」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいよ」
「いや、褒めてないっすから」
しかしアキちゃんの動画を見る以外に何かと言われると本当に困るな……
我が家にはテレビぐらいしかないから他に遊びようがない。
いや、マジで何する?
「じゃ~あ~、高校生になってから何をしてきたか話しようよ~。絢斗のことも皆のこと知りたいし~」
「それ面白いっすね。じゃあ絢斗先輩からどうぞっす」
「なんで俺から? 強制にもほどがあるだろ。もっと公平に順番を決めようぜ」
女子三人は顔を合わせニヤッと笑い、俺の方を見る。
え、もしかして拒否権はないってこと?
女子って怖いな……一致団結したら男子一人では太刀打ちできないではないか。
「ほらほら。女の秘密を知りたいなら、男の方から話しないと」
「は、話って言っても……俺はぼっちだし高校に入ってからイベントなんて何も無かったぞ。アキちゃんの存在を知って、それからバイトの日々で……以上だな」
「イベント無さ過ぎっすよ! 他に誰かと遊んだとか……あるわけないっすね」
御手洗は俺がぼっちなのをよく知っているようで、すぐに察してくれた。
さすがはできた後輩だ。
「絢斗~、ずっと独りで寂しかったんだね~。でもこれからは私がいるから、そんな思いさせないから~」
「わ、私だっているし。私も独りにさせるつもりはないから」
「自分もいるっすよ! 二人とも抜け駆けはやめてください!」
バチバチと火花を散らす三人。
俺は変に怖さを感じ、背筋を冷やしてその様子を見ていた。
こんな怖い思いするなら独りでもいいかも。
そんなことを考えながら俺は三人から少し距離を置いた。
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