第33話 絢斗と水卜と二人っきり?

 土曜日までは飛ぶように時間が過ぎたが、その前日は妙にソワソワして中々寝付けなかった。

 遠足前の小学生か、くそっ……


 ただ水卜が家に来るだけなのに……そんな緊張することじゃないだろ。

 いや、あいつは距離が近いから俺は困惑しているんだ……その不安からこれだけ緊張しているのだ。

 だから俺は悪くない。

 緊張させるような三浦が悪いのだ。


 俺は緊張の責任転換を完了させ、そしてアキちゃんの音楽を聞くことにした。

 アキちゃんの癒しボイスを聞きながらなら眠れるはず……


 そして本当に眠りにつくことに成功する俺。

 目を覚ますと時刻は午前十時であった。

 

 カーテンを開け、輝く太陽を細めで見上げる。

 いつもよりなんだか太陽も明るく見える……どうなってんだ、これ。

 もしかして水卜が来るのを喜んでるのか、俺は?


 水卜が来るのは一時。

 昼食を終えてから彼女は来る予定だ。

 

 俺は着替えを済ませ、朝食兼昼食をとることに。

 と言ってもインスタントラーメンに残り物のご飯だけだけど。

  

 味は味噌。

 濃いめのスープの中から麺をすくいあげ、一気に食す。

 ラーメンを食べ終えるとご飯をスープの残りに落とし、それをスプーンで食べる。

 うん。美味い。

 すぐにできてこれだけ美味しいんだから、インスタントラーメンは良き文化よな。

 まさに発明品だと俺は考える。


 食器をさっと洗い、アキちゃんの動画を見ながら水卜が来るのを待つ。

 水卜にはどの動画を見せるべきか……

 どうすればアキちゃんの素晴らしさを伝えることができるのかを真剣に考え、悩む俺。


 そうこうしているうちに約束の時間になる。

 するとチャイムが鳴り、俺は動画を止めて玄関まで駆けて行った。

 なんだか喜んでるみたいだな、俺……


「い、いらっしゃい……え?」

「ちーっす。お邪魔します、先輩!」


 家の前にいたのは水卜ではなく、何故か御手洗であった。


「え、なんでお前がいるの?」

「そりゃ、ここにいるからじゃないっすか? ここにいなくてここにいるなんて不可能だと思うんすよ」

「なんかメチャクチャなこと言ってるな! 違う! なんでお前が今日ここに来てるんだって話をしてんだよ!」

「ああ。水卜さんが来るって話してたんで来ました」


 理由として全く成り立っていないような気がしますが? 

 なんで水卜が来るって言ったらお前が来るんだ?

 俺は軽いパニック状態になりながら、御手洗の顔を見ていた。


「そ、そんな見つめられたら困るっすよ」

「見つめてるわけじゃない。ちょっと見てただけだ」

「ほとんど同じ意味じゃないっすか」

「全然違う。触れたと叩いたぐらい違うことのはずだ」


 御手洗はケラケラと笑いながら家の中へと入り込む。

 いや、何故そこで入って来るんだ……招いたつもりはないぞ。


「いや、え……なんのつもりだ、お前は……」


 御手洗からの返事を聞こうとしたその時――再びチャイムの音が鳴る。

 俺は嘆息して玄関の扉を開けた。


「悪い水卜。御手洗が今……って、なんでお前まで来てるんだ!?」

「なんでって……暇だったから?」


 なんと家にやって来たのは春夏冬であった。

 御手洗に続いて春夏冬まで来るとは……こいつら、打ち合わせしてるな。

 確実にしている。

 お互いに俺の家に乗り込む相談をしてたんだ。

 

「あ、御手洗ちゃんも来てたんだ」

「ちーっす」

「お互いに知らなかった!? え、お前ら一緒に俺の家に乗り込んで来たんじゃ……」

「え? そんなわけないでしょ。なんでライバルと相談しなきゃいけないのよ」

「ラ、ライバルってなんだ? なんでお前らが敵対してるんだよ」


 意味が分からない……こいつらがどんな理由でライバル関係にあるのか皆目見当もつかない。

 あ、可愛い者同士で競い合ってるとか……いやしかし、そんな性格じゃなさそうなんだがな、こいつらは。


「も、目的はなんだ? 分からな過ぎてちょっと怖いんだが……」

「目的は……やっぱりライバル潰しっすかね」

「だね」

「お前ら、まだライバルがいるのか……?」


 こいつらと敵対している存在……どんな奴なんだよ。

 いや待てよ……ここに来ることによってライバルを潰せるということは……

 それってもしかして。


 ピンポーンとまたまたチャイムの音がする。

 今度こそ本来の来客であろうと考えた俺は、無我の境地で扉を瞬時に開き、彼女の顔をしっかりと確認した。


「こんにちは~」

「……おう」


 今度は水卜で間違いなかった。

 また別の誰か……それこそ仲本なんかでも来たのかと一瞬思ったがちゃんと水卜だった。

 俺は安堵のため息をつくが引きつった笑みを彼女に向ける。


「あの……何故か他に客が二人もいるんだけどれど……」

「客~?」

「水卜さん、こんにちわー」

「あ~、春夏冬ちゃん~こんにちわー」

「ちーっす」


 三人は顔を合わせニコニコ笑顔を浮かべている……が、春夏冬と御手洗の二人の目の奥に炎の揺らぎが見えたような気がした……

 何考えているんだ、この二人。

 

 俺は二人の気持ちが分からず、嫌な予感にドキドキしっぱなしだった。

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