第29話 絢斗と三人とファミレス②
春夏冬の隣に座り、水卜の顔を見ないように店内の方に視線を向ける。
奥側だったら外の景色を見られるというのに……
まぁ外を見たところで雨だし、何もないのだけれど。
「ねえ絢斗~」
「…………」
「話聞いて~。私も知らなかった話~」
どうせまたくだらないことを考えているのだろう。
どうやれば俺を騙せるか。
どうやればまた俺を笑い者にできるか。
そんなことを考えているはずだ。
警戒を怠るな。
こいつは敵……そしてそんな水卜の肩を持つような二人も俺の敵なんだ。
俺は話を聞く気になれず、イヤホンを耳にさす。
そしてアキちゃんの音楽を聞こうとするが……春夏冬にイヤホンを没収されてしまう。
「話あるって言ってんじゃん」
「俺は帰りたいんだよ。どうせ俺を騙そうとして――」
「だから、そんな話じゃ無いっすよ先輩。自分らのこと信じてくれないんすか?」
「…………」
俺はいまだ彼女らに怒りを感じていたので、顔を逸らして再び店内の方を見る。
「……私たちだって敵に塩を送るようなまねはしたくないんだけどね」
「お前らがやろうとしているのは傷口に塩を塗る行為だろ」
「それが違うんだって」
春夏冬はため息をついて俺の横顔を見つめてくる。
「このまま黙ってた方がライバルも増えないからいいとは思ってたんだけど……気分の悪いことは解決しておきたい質なの」
「人と関りを持つから問題が起きるんだよ」
「人と関りを持たないで生きていける人なんていないっすよ。自分は家族を支えてますし、華族に支えられてるんっす。先輩だって家族がいるし、それに自分らがいるじゃないっすか」
「……なら、出来る限り一人でいい。俺はアキちゃんがいればそれでいいんだから」
「高橋、まだそんなこと言って――あ、もしかしてあの人?」
突如、誰かが店内に入って来たのを見て、春夏冬は入り口の方を指差す。
水卜がそれを確認し、「そうだよ~」と返事をしていた。
誰が来たのだろうと俺もそちらを見てみると……来店してきたのは、中学の頃の同級生、仲本であった。
ゾッと背筋が冷え、腹の奥が怒りで熱くなる。
「なんで仲本がここに……やっぱり俺をからかってるんだろ!」
「最後まで話を聞いてってば。怒るのはそれからにして」
「…………」
俺と春夏冬は睨み合う。
なんで今更あんな奴と会わなければいけないんだ。
もう顔も見たくないってのに。
仲本は水卜の姿に気づき、笑顔でこちらに駆けてくる。
顔をほんのり赤くし、ご機嫌で手を振っていた。
「菫! 呼び出してくれて嬉しい……って、なんでお前がいるんだ?」
仲本は俺の顔を見て驚き、キョトンとしている。
「えっと……どういうこと、これ?」
「仲本~。ちょっと聞きたい話があるんだけど~」
「は、話? どんな話?」
「……卒業式の日の話~」
卒業式という単語を聞き、少し腹の辺りがキュっと痛くなる。
仲本はその言葉を聞いて、顔を青くしていた。
「そ、卒業式って……小学校の時の? 別になんてことなかったぜ」
「んなわけないでしょ。中学の卒業式のこと話してんの」
春夏冬が鋭い視線、いつもより低い声で仲本にそう言った。
仲本は春夏冬とは初対面らしく、赤の他人からいきなりそんなことを言われ戸惑っているようだったが、春夏冬の可愛さに驚いている様子。
「あ、あんたは誰だよ……あんたには関係ない話だろ?」
「確かに私には関係ない。ごめんなさい。口を挟んでしまって。でも当事者の二人には関係あり過ぎる話だから中学の卒業式の話をしてちょうだい」
「い、いや……話すことなんてないよ」
「仲本、卒業式の日に絢斗のこと笑い者にしたらしいね~」
「うっ……ち、違うんだよ……あれは広島が言い出したことで」
仲本の様子がおかしい。
挙動不審となり、大量の汗をかき出した。
それに水卜はあの件のことを知らないような……そんな風に見える。
「ちょっと待て……水卜、お前、俺のことをバカにしてたんじゃ」
「なんで絢斗のことバカにするの~? 私、綾斗のことちゃんと好きなのに~」
「……でもあの日、俺を教室に呼び出して」
「私は屋上に来てって手紙出したつもりだったんだけど~」
水卜から俺あての手紙……確かにあれには教室に来てくれと書いていたはずだ。
お互いの話がかみ合わない。
俺は不審に思い、仲本の方を見る。
奴は顔面蒼白で、どうもいいわけを考えているような顔をしていた。
「ち、違うぞ菫……俺は関係ないからな」
「関係ないなら話して~」
「…………」
仲本は泣きそうな顔をしながら俺を睨む。
おいおい、俺は関係ないだろ。なんで俺を睨むんだ。
俺は被害者だぞ。
加害者はお前たちであって……いやだが、もしかしたら水卜は関係ないのかも知れない……関係ないと思う。
今俺は、確かな確信を得ている。
だってこれまで見たことないような顔で、おっとりしているのに珍しく眉間に皺を寄せ水卜は仲本を睨んでいるのだから。
俺はその顔を見て、彼女に対しての怒りを収めていた。
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