第28話 絢斗と三人とファミレス①

 御手洗がバイトを上がり、春夏冬と共にどこかへ行ってしまった。

 何故いきなり二人仲良く消えてしまったのかは分からない。

 だが雨と水卜の存在にイライラしていたから丁度いい。

 こういう時は一人の方が気が楽だ。

 と言うか一人っきりの方が常に気が楽である。

 このままでいい。

 これから先もずっと独りでいいんだ。

 今は春夏冬と御手洗と知り合って、偶然一緒にいるだけ。

 交差点で遭遇したようなものだ。

 この後は別々の道を進む。

 そしてこれから先俺は、誰かを信用したりはしない。

 春夏冬と御手洗に興味を持っているというのが正直な気持ちではあるが……それもひと時の感情。

 そこに癒しや何かを求めているわけじゃない。

 ただそこにいるだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

 一緒にいても独りなんだ。


 あの時から……ずっと心は独り。

 もう他人に何かを求めたりなんてしない。

 信じるだけバカを見るんだから。


 店長がレジを担当し、俺は裏方に回る。

 相変わらず記者が俺にインタビューを試みようとしているのだが……こいつら暇人か。

 こんな人を張ってるだけでお金がもらえるなんて羨ましい限りである。

 まぁやれと言われたらやらないのだろうけれど。

 人を追いかけ回してお金を稼ぐなんて俺の性には合わないな。

 俺だったら誰かと接することなく一人で仕事できるものを選ぶ。

 そしてアキちゃんへの奉納金を稼ぎ続けるのだ。


 アキちゃんのことを考えると胸が踊り、自然と鼻歌を歌ってしまう。

 小躍り気味で冷蔵庫のジュースの補充をしていく俺。

 こんなところ誰かに見られたら自殺ものだな。

 絶対にバレたくはないけど、こんなところ誰も入ってこないだろ。


「そろそろ上がっていいよ」

「うわぁ!」

「……どしたの?」


 店長が冷蔵庫の方に顔を出す。

 普段こんなところ覗かれないから油断しきっていた……

 俺は寒い冷蔵庫の中で顔を熱くさせていた。


「じ、じゃあ失礼します」

「おお」


 さっさと着替えを済ませ、裏口から外へ出る。

 記者の姿は見当たらない。

 ……ついでに水卜の姿も見当たらなかった。

 俺はホッとため息をつき、傘をさして帰路につこうとした。

 だがその時、俺の携帯がブルブルと震え出す。


「……何があったんだ?」


 携帯に送られてきた内容。

 それは――春夏冬からのSOSであった。


 短く『たすけて』と一言だけ生じされている文字。

 下にスクロールすると、近所のファミレスにいるということも書かれている。


「…………」


 どうするか俺は迷っていた。

 まず助けてくれってどういうことだ……

 ファミレスにいて助けを求めているということは、誰かに絡まれているってことか?

 だったら誰かが助けてくれるだろう。

 わざわざ俺が助けに行く必要はない。

 そう、ここは見て見ぬふりをする。

 これが正解だ。


 だがしかし、もしものことがあったらどうする?

 あれだけ可愛いんだ。

 最悪……誘拐されるかもしれない。

 そうなったらずっとこのことを引きずることになるぞ。

 いやだけど、俺とあいつは元々他人だったはずだ。

 だから助けることないさ。


 俺はふっと笑い、携帯をしまう。

 だが心臓はバクバクいっている。

 早く助けに行け。

 いますぐ走るんだ。

 雨の音さえも聞こえないほど、心臓の音がうるさい。


「……くそっ!」


 俺は傘をさしたまま全力で走った。

 横雨にズボンがずぶ濡れになっていくが……仕方ない。

 そんなことを気にしている場合じゃない。

 なんで自分が助けに行かなきゃいけないんだという怒りと、そして彼女は大丈夫だろうかという不安が交じり合い、俺は苛立ちを隠せないでいた。

 肌を濡らす雨は冷たい。

 だけど早く行かないと。


 ファミレスは走って五分ほどの位置にあり、入り口は二階。

 俺は階段を駆け上がり店の中へと飛び込むように入る。


「い、いらっしゃいませ……一何名様でしょうか?」

「い、いや、そんなことより……」


 俺は店内を見渡す。

 来客は……雨だが意外と多いようだ。

 会話でザワザワとうるさい店内から春夏冬の姿を探す。


 すると奥の方の窓際の席に彼女の姿があった。


「あ、高橋、こっちこっち」

「……は?」


 春夏冬はバカみたいに明るい顔でこちらに手を振っている。

 お前……助けを求めてたんじゃないのか?

 俺は状況が全く理解できず、ポカンとしたまま彼女の席へと向かった。


「お前、どういう――」


 俺の心臓がドクンと高鳴る。

 春夏冬の前の席には、御手洗と……そして水卜がいた。

 俺は焦りと憤りを覚え、春夏冬のことを睨み付ける。


「春夏冬……なんでこいつといるんだよ!」

「それ説明するからさ、とりあえず私の横に座ってよ」

「……いや、いい。俺は帰る」

「もういいから座んなよ」

「俺を騙してたんだな……結局どいつもこいつも一緒だ。人を弄んで笑って……やっぱり俺は独りがいい」

「それさ、全部高橋の勘違いなんだって」

「……は?」


 勘違い……意味が理解できない。

 こいつは何を言っているんだ。

 俺は憤慨しながら春夏冬を睨んだまま。

 だが彼女は冷静に、俺を見つめるだけであった。

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