第27話 絵麻と御手洗と水卜

 絵麻と御手洗が絢斗の過去の話を聞いて裏口から外に出ると雨が降っていた。

 

「まさか……先輩が恋愛をしていたなんて……信じられないっす」

「でも、それだけ私たちにも可能性があるってことじゃない? 生身の女に興味ないみたいなこと言ってたけど、好きな人がいたのなら絶対無いってことはないことでしょ」

「まぁそうっすけど……でも許せないっすね、あの水卜って人」

「確かに……絢斗のことバカにして、今度会ったらぶん殴ってやろうかしら」


 雨が降るくらい空を見上げながら、絵麻と御手洗は水卜に対して怒りを覚えていた。

 人の恋心をバカにして、笑い者にして、おもちゃにして……

 話を思い出すだけでもムカムカしてくる。

 他人のことながらこんなに腹が立つのは綾斗のことだからだろうか。

 いいや、違う。

 これが誰であろうとも大勢で一人の人間を笑い者にするのを許せない。

 そう考える二人。


「……でも、高橋がなんでいつも一人で行動してるのか分かった」

「そうっすね。コミュニケーション能力だって低くないのになんでぼっちなのかなって思ってたら、あんな過去があったんすね」


 絢斗のことを思い、そしてこれからどうすべきか…… 

 どうすれば絢斗が抱いてしまった他人への憎悪を癒すことができるだろうか。

 純粋にもっと仲良くなりたいし、それにもっと人と接してほしい。

 どうすればいいのだろうか……


「あの~」

「え?」

 

 その時突然、コンビニの陰から水卜がひょっこりと顔を出してきた。

 水卜のいきなりの登場に戸惑う絵麻と御手洗。

 それと同時に殴ってやりたい衝動に駆られる絵麻。

 雨を気にすることなく、水卜に近づいていく。


「あんたね!」

「ええ~?」


 水卜の前に絵麻は立つが、彼女ののほほんとした表情に毒気が抜かれてしまう。

 だが彼女は高橋を傷つけた女……油断はしてはいけない。


「あ、あのさ……高橋、迷惑がってるから会いに来ないでくんない?」

「そうっすよ。それにちょっと異常っすよ。先輩に会いに来るなんて」

「異常かな~。好きな人に会いたいって思うのは~」

「す、好きだって……そんなの冗談にしか聞こえないわよ! 今頃のこのこ現れて……どんな神経してんのよ、あんた」


 あまりにも非常識なその思考回路に、絵麻は激しい怒る。

 御手洗も水卜に対してムカムカし、雨の当たらない場所から彼女を睨み付けていた。

 だがそんな二人を前にしても、ペースを崩さない水卜は笑顔で話す。


「二人は絢斗とどういう関係ですか~? 彼女ですか~?」

「い、いや……同級生です」

「……後輩っす」

「じゃあ二人には関係ないね~」

「か、関係あるわよ……だって私、高橋のこと好きだし」

「……自分もっす」


 頬を染めながら水卜と対峙する二人。

 綾斗が好きだからこそ、水卜のことが許せない。

 許せないのに好きだなんて言って、それ癇に障り、二人は余計に腹を立てていた。


「だからあんたを高橋に会わすわけにはいかない。好きだからこそ、高橋にしたことが許せないの」

「何が許せないの~? よく分かんない~」

「このっ……!」


 水卜のとぼけたような声に御手洗も雨の中彼女に迫る。

 そして水卜の目の前で叫んだ。


「あんたが……絢斗先輩を笑い者にしたんでしょ!? 何言ってんすか、マジで!」

「笑い者~? なんのこと~?」

「なんのことって……中学の卒業式ん時、絢斗先輩呼び出しましたよね!?」

「うん、呼び出したよ~」


 ここまで問い詰めてもまだ笑みを浮かべている水卜。

 あまりにも図太い神経に、さすがに苛立ち始める二人。

 だが、水卜の口から信じられないような言葉が飛び出す。


「でも~、絢斗来てくれなかったんだ~」

「「……え?」」


 水卜の言葉に固まる絵麻。

 御手洗は冗談を言っていると思い、さらに彼女に詰めよる。


「先輩はあの日――」

「あの日、屋上で待ってたのに、結局絢斗来てくれなくて~……」

「……お、屋上っすか?」

「うん、屋上~」

「…………」


 顔を合わせる絵麻と御手洗。

 絢斗が話していた内容と合致しない。

 話がすれ違っている……全くかみ合わない。

 これはどういうことだろうと思案するも……答えは出てこなかった。


「え、と……高橋、教室に呼び出されたって言ってたけど?」

「教室じゃないよ、屋上だよ~」

「で、でもあなたに教室に呼び出されて皆の笑い者にされたって、言ってましたよ」

「笑い者~? なんのことかよく分かんないな~」


 また顔を合わせる二人。


「これってもしかして……」

「そうっすね……この人、本当に先輩にあったこと知らないみたいっすね」

「だったら……高橋はなんであんなことに?」

「……誰かがはめた……ってことっすかね」


 水卜の方に視線を向けると、彼女は首を傾げている。

 これは……どうすべきか。

 絵麻も御手洗は絢斗が知らない事実を知り、戸惑うばかり。


「……とりあえず、どこか行かない? これ以上こんなところで話してたら風邪引きそう」

「じゃあ自分、バイト上がって来ます」

「ね、ねえ、どっかで高橋の話しようよ。いいよね?」

「……うん、いいよ~」


 水卜のことを悪女だとばかり思っていた絵麻たち。

 だが新たなる事実に困惑しつつも、これは彼女に対しての認識を改めなければいけないと感じ始めていた。

 きっとこの子は自分たちと同じ……ただ綾斗に恋をする女なんだ。

 だったら彼女を無下にするわけにはいかない。

 じっかりと、どっしりと話をしてすっきりとしなければ。

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