第21話 絢斗と絵麻と再会②
「ごめん。やっぱ今日はいけないや」
「えー、折角絵麻と行けると思ってたのに……」
「ごめんごめん、また今度行こ、ね」
春夏冬が友人たちに断りを入れ、彼女らはガッカリしながら教室を出て行く。
俺も教室を後にし、 裏庭のベンチに座りアキちゃんの動画を見て時間を潰すことに。
アキちゃんの動画だから時間を潰すなんて表現は違うか……
素晴らしいひと時を過ごさせていただいていた。
そしてある程度の時間が経過した後、校門へと向かう。
するとそこでは春夏冬が俺を待っていた。
「じゃあ行こっか」
「ああ」
俺と行動しているのが他の学友にバレたら、彼女はこの後俺と同じようにぼっちになってしまう可能性がある。
個人的にはどうでもいい問題なのだけれど……友達の多い彼女から見れば死活問題かもしれない。
だからこうして皆との下校時間をずらし、密かに行動をすることにしたのだ。
……こんなことするぐらいなら俺と行動しなければいいのにとも思うのだけれど……この辺りは、春夏冬が何を考えているのかは分からない。
まぁ理解しがたい彼女ではあるが、今日は付き合うことにしよう。
「高橋ってさ、普段はどんな人と遊んでるわけ?」
「俺は誰とも遊ばない。いつだって一人。いつだってアキちゃんとの時間を大事にしてるだけだ」
「うっ……ま、まぁ時間の使い方は人それぞれだけど、一人で寂しくないの?」
「寂しいなんて思ったことないな。その辺は俺とお前の価値観の違いだ。友達が多い春夏冬は友達といるのが当然かもしれないが、俺は俺で充実した日々を過ごしていると思っている」
「そうなの?」
春夏冬は意外そうな顔で俺を見上げていた。
だってそうだろ?
ゲームが好きな人もいれば嫌いな人もいる。
本が好きな人もいれば嫌いな人もいる。
集団行動が好きな人もいれば嫌いな人もいる。
それらは全て人の持つ価値観の違いに過ぎない。
友達と遊ぶのを否定はしないが、それを望んでいない人もいるというのも事実。
この感覚を人は分かり合えないのだから、そういう考え方もあると認識しておくぐらいにとどめる他ないのだ。
「そうなんだよ。自分の価値感だけで判断してても、他人の気持ちは分らないぞ」
「そういうものかな」
「ああ。他人は他人って覚えておくといい。国が変われば常識も非常識になることもある」
「まぁ一理あるかな」
いまだ釈然としていない様子の春夏冬。
まだ納得してないのかよ……俺はため息をつきて前を向く。
「あ、そう言えばバイトっていつ入ってるの?」
「そんなこと春夏冬に関係あるか?」
「関係は無いかも知れないけどさ……でもほら、クラスメイトの情報は知っておきたいじゃない」
「飯田くんは月火金土の週四日入ってるらしいぞ」
「飯田って高橋の右隣の子だよね? なんで飯田の名前がここで出てくるの?」
「だってクラスメイトの情報は知っておきたいって言ったろ? この間飯田くんが友人と話してるの聞こえたから」
面倒くさそうな顔をして春夏冬は嘆息する。
「い、飯田の情報ありがとう……後は高橋のことも教えておいてくれたら尚嬉しいんだけれど」
「俺は……全日バイト希望だしてるんだけどな。でも休みを勝手に入れられている」
「……そんなバイトして何……って決まってるよね」
「ああ。アキちゃんに全額投資。それが俺の宿命だ」
「そんな宿命捨てなよ。きっとその子も求めてないんだからさ」
「この間もこんな話したよな――って」
「どうしたの?」
俺たちが歩いているのは、裏路地……住宅街のど真ん中。
人通りの少ない道を選んでこの道を来たのだが……前方にはなんと、包丁を持って一人の女学生を追いかける人物の姿が見えた。
「あれって……もしかして噂の通り魔!?」
「そうかも知れないな……」
「……間違いないって、襲われてる子、メッチャ美人だし」
随分遠くのはずなのに、見えるのかよ……
だがそんな春夏冬の視力に驚いている暇はない。
白髪に近い銀色に染められた髪のその女子は、今まさに緊急事態。
よくて大怪我、下手したら死ぬような場面に遭遇しているのだ。
こんな偶然のようなことが起きるのかよ……
自分には全く関係のないことだと思っていたのに、目の前でその惨劇が繰り広げられようとしている。
そんなの……黙って見過ごすわけにはいかない。
「助けてくる」
「ちょ、危ないって、高橋!」
「危ないのはあの子だ! あれぐらいの足なら追いつける!」
「高橋!」
俺は全力で駆け出した。
運動は得意な方じゃないが、それでも前を走る二人よりは速いはず。
息が一瞬であがりはじめるが、俺はそれを無視して二人を追いかけた。
普段、この道は人通りも少ないが、今日に限って特に人がいない。
まるで俺が助けに入るのが運命のように……いかざるを得なかった。
「このっ!」
距離を詰めるのにそんなに時間はかからなかった。
俺は背後から包丁を振り回す人物に飛び掛かる。
相手の体は軽く、簡単に倒すことができた。
俺は恐怖心を抱きながら興奮状態にあり、必死で相手の両腕を押させ込む。
幸運なことに包丁は倒した時に手放してしまったようだ。
「離せ! 離せ!」
犯人はどうやら女性のようで……歳は四、五十歳ほどに見える。
相手に腕力がないことに安堵しつつ、俺は手の力を抜くことなく襲われていた女性の方に視線を向けた。
「すぐに警察を呼んでくれ! 俺がこのまま押さえて――」
恐怖に顔を歪める彼女の顔を見て――
俺は心臓が飛び出そうになっていた。
そして放心状態に陥り、彼女の顔から視線を外すことができなくなった。
「……絢斗?」
「
まさかこいつと再会することになるなんて……
必死で俺から逃れようとする女性を押さえつつも、俺は彼女を見て思考が硬直していた。
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