第20話 絢斗と絵麻と再会①
二人でゴミ箱を持って廊下を歩く。
俺は左側、春夏冬はゴミ箱の右側を持っていた。
「高橋……この後さ、皆とクレープ食べに行く予定なんだ」
「あっそ」
「……良かったらだけど、あんたも食べに行かない?」
「行かない」
感情を一切込めずに俺はそう言い放った。
あんなうるさいだけの連中と一緒に行動したくないし。
クレープは食べたい気持ちはあるが、それなら一人で行く。
そもそもクレープを買うだけのお金も無いから、行けないんだけどね。
「……なんでそんなに冷たいのよ」
「普通だ。大勢で行動するのは好きじゃないってだけ」
「……私と二人だったら?」
上目遣いで春夏冬は俺に訊ねてくる。
当然、行かない。
行くはずがない。
絶対に断ってやる。
と考えていたはずなのに……俺は自分でも驚くような答えを出した。
「別にいいけど……」
俺はハッとし、すぐに否定しようとした。
しかし、案外嬉しそうな顔をしている春夏冬を見て、何も言えなくなっていた。
俺は愕然とする。
なんでそんなこと言ってしまったんだと。
自分で呆れ、衝撃を受け、唖然としていた。
一体何を考えているんだ俺は……
自分自身で自分のことが分からない。
他人と過ごすことを否定しているはずなのに……どうして。
「じ、じゃあさ、皆との約束は断るから、一緒に行こうよ」
「い、いや……やっぱり止めとく」
「え? なんで……」
「あー……金が無いんだ」
「お金?」
「ああ。アキちゃんに全額投資してるからな」
ピシッと石のように固まってしまう春夏冬。
顔を引きつらせながら彼女は俺に言う。
「だ、だだ、だったら奢らせてくれないかな……?」
「いや、いい。金が無いのは俺の責任だし。後悔はしていないけど、そういう生活を送ると選んだのは俺なんだよ。俺はアキちゃんのために全てのお金を注ぎ、他の物欲は断ち切ると決めているのだ」
「……やっぱり奢らせて! なんだか悪いし!」
「な、何が悪いんだ……?」
「それは……」
俯き、何やら悩んでいる様子の春夏冬。
なんでこいつが悪いなんて感じるんだ?
もしかして、アキちゃんにでもなったつもりで俺に同情してるのか?
まぁ確かに、アキちゃんならこういうだろうな。
それぐらいアキちゃんっぽいよ、今のお前は。
って、そんなアキちゃんの気持ちになる必要ある?
何も喋ることなく黙ったまま俺たちは歩く。
すると周囲から変な話が聞こえてきたので俺は耳を澄ませて聞いてみた。
どうせ暇だし。
「ねえねえ、通り魔の話聞いた?」
「ああ、あのニュースになってるやつ?」
「うん。なんかさ、噂では美人ばっか狙ってるみたいだよ」
「へー、そうなんだ」
「美人に対して恨みを抱いてるとかなんとか……と言っても、これは予想らしいけど」
それは今朝のニュースで話していた事件のことだ。
通り魔に襲われるなんて話だったけど……そうか、美人ばかりが襲われるのか。
となれば俺が襲われる可能性はゼロというわけだ。
元から気にしてはいなかったが、これで特に気にならなくなった。
だが、隣で歩く春夏冬はどうなのだろうと、ふと気になる自分がいる。
「お前……まぁ大丈夫だよな」
「何が?」
「いや、今朝のニュース、美人ばっかり通り魔に襲われるって話だよ」
「? そんなの私関係ある?」
首を傾げる春夏冬。
俺もついでに首を傾げて彼女を見る。
「だってお前、可愛いだろ」
「…………」
春夏冬は前を向き、顔を赤くしていく。
「い、いきなり何いってんの。うち、そんな美人ちゃうわ」
「そうか? 美人だとは思うけどな」
三次元に興味は無いが、彼女のことは美人だと思う。
それは純粋な意見である。
どれだけ興味が無かろうと可愛い物は可愛いし、美しいものは美しい物だ。
主観的な意見ではあるが、それは抗うことのできない現実であろう。
「……そう思うなら、この後一緒にクレープ付き合ってよ」
「だから、俺は金が無いと――」
「だから、私が奢るって言ってんじゃん」
「いや、奢ってもらわなくてもいい」
「……行ってくれないの?」
寂しそうに俺を見る春夏冬。
俺はため息をつき、前を向きながら彼女に言う。
「分かった。一緒に行くだけ行ってやる。でも奢っていらないぞ。俺は見てるだけでいいから」
「そ、そこは奢らせてよ。じゃないと私の気が済まないから」
気が済まないって……何で気が済まないんだ。
ああ、そうか。
一緒に付き合わせておいて、一人だけ食べるのは悪いと、そういうわけだな。
そう判断した俺は、とある提案をする。
「じゃあ今度のバイト代で返す。少しの間だけ貸しておいてくれ」
「いや……だから奢らせてってば」
「なんで奢られなきゃいけないんだよ。借りはできるだけ作らない主義なんだよ」
「どんな主義なのよ……どっちかと言えば、借りを返す方なんだけど、私」
「? どんな借りだ?」
「な、なんでもない……とにかく、この後一緒にクレープだかんね」
心なしか、彼女の足取りが軽くなったような気がする。
春夏冬はアキちゃんの歌を鼻歌で口ずさみながら歩いていた。
相当アキちゃんの歌が気に入ったようだなと、俺は布教が上手くいったと喜びを覚え、彼女と同じ様に軽い足取りで歩き始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます