第11話 絢斗と御手洗家とお迎え①
日曜日にどちらと会うか。
あの後そんな話し合いになってしまし、二人はもめにもめた。
見かねた俺は、仕方なく御手洗と会うという約束をしてしまったのだ。
最初に言い出したのは御手洗だったし、あいつにはアキちゃんという素晴らしい存在の布教をしなければいけない。
日曜日の朝となり、俺は大きなあくびをしながら面倒くささを覚えていた。
天気は良い。
昨日アキちゃんの配信を見たから気分も良い。
だが今になって、人と会うのが億劫になっていた。
俺は友達がいない。
友達がいらない。
一人でいい。
あんなことがあってから誰かと過ごしたいとは思わなくなってしまっていたというに。
なのに他人と休みの日に過ごすことになってしまうなんて。
今更ながら御手洗と会う約束を断りたくなってきたが、約束を破るのはどうも好きじゃない。
もう腹をくくって、彼女にアキちゃんの素晴らしさを伝えるとしよう。
御手洗と会うのは午後から。
俺はアキちゃんの動画を見ながら午前中を過ごし、昼食を取ってから御手洗を家まで迎えに行くことにした。
着替えを済ませ、靴を履き家を出る。
外に出ると、日の光が俺を出迎えてくれた。
天気が良いのは分かっていたが、空には曇り一つない。
あまりの快晴に心が自然と躍る。
俺は階段を駆け下り、マンションの下に置いてある自転車に跨り御手洗の家の方角へと向かった。
御手洗は俺の家が分からないらしく迎えに来てくれとのことだ。
俺も御手洗の家なんて知らないんだから調べて来いと言ったのだが、『先輩に迎えに来て欲しいんすよ』なんてことを言いやがった。
まぁあいつは一人で外を出歩いていたらナンパなんかされたりで大変らしいから、助けてやるという意味合いで迎えに行ってもいいかと納得し、こうして彼女の家に行くこととなったのだ。
一人だったらこんな面倒なことしなくてもいいのにな、と少しため息をつく。
自転車を走らせて十分ほど。
お互いに自宅から通えるコンビニでバイトをしているということもあり、御手洗の家はそんなに離れてはいないようだ。
教えられた住所通りの場所に来たのはいいが……到着した場所を見て俺は驚いていた。
そこにはいわゆる長屋と呼ばれる建築物があり、横開きの玄関がいくつもある一階建ての古い建物があった。
通路は狭く、自転車を走らせることは不可能。
こんな所に住んでるんだな、あいつ。
ここから御手洗の家を探さなければいけないのかと考えるも、それより連絡を取って出てきてもらう方が早いと判断した俺は携帯を取り出した。
携帯に入っている連絡先は、家と母親の携帯と父親の携帯の番号。
そして御手洗と春夏冬のものだけ。
二人の番号は先日無理矢理に教えられた。
知り合いと連絡を取れるアプリがあるという話も聞いたことあるが、俺には必要無いと判断し入れてもいない。
友人が一人もいないのに必要ないだろ?
だから俺は入れない。入れる必要がない。
数少ない連絡先の中から、御手洗の番号を押す。
なんだか緊張してきた……家族以外の誰かと電話をするのはかれこれ三年ぶりか。
中学の時は友達とも遊んでいたから、よく電話はしたはずなのに……
久々となると変に戸惑う。
ドキドキしながら俺は携帯を耳に当てた。
まるで恋人にでも電話をしている気分だ。
恋人なんていたことないけど。
『もしもし』
「御手洗。多分お前の家の近くにいるはずなんだけど、どこか分からない。玄関まで出てきてくれると助かる」
『了解っす』
用件だけ伝えて電話を終え、俺はふーとため息をつく。
するとすぐにガラガラと一軒の戸が開き、御手洗が顔を出した。
「こんにちわっす、先輩!」
可愛い後輩が手を振ってこちらに笑顔を向けている。
「あ、自転車はそっちの角に置いておいてください」
「ああ、そうだな」
彼女の家の前に自転車を置いたら、人が通れなくなってしまう。
俺は長屋の端に自転車を止め、御手洗の家へ招き入れられた。
ん? なんで家に入るの?
入る必要なんてあるか?
彼女の意図を読めないまま家の中を覗くと……そこには七人もの小さな子供がいた。
全員元気一杯で、家の中で大暴れてしている様子。
女の子が三人、男の子が四人。
下は幼稚園児、上は小学生高学年といったところだろう。
皆御手洗によく似ていて、美男美女ばかり。
俺は唖然として、その様子を眺めていた。
「ほら! 姉ちゃん今日は出かけるから、喧嘩すんなよ」
「ほーい」
御手洗の怒声に子供たちが素直に返事をする。
すると玄関に来ていた俺を見て、皆がニヤ―っと笑い出す。
「このお兄ちゃん、姉ちゃんの彼氏かよ?」
「あ、分る?」
「うわー! とうとう姉ちゃんにも彼氏ができたんだー! だったら今日はお祝いだね」
「…………」
何故か自慢げに俺を家族に紹介する御手洗。
俺は突然すぎて反応に困り果て、一人固まっていた。
断じて恋人ではないはずだが……子供たちのあまりの嬉しそうな顔に俺は何も言えなかった。
御手洗も御手洗で嬉しそうな顔してるし……兄弟を騙せたことがそんなに嬉しいのだろうか?
彼女の考えは分からないまま、俺は引きつった笑顔で可愛い彼ら彼女らの顔を眺めるばかりであった。
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