第2話隼人の元に届いた1通の新着メール(2)

「ええっと、あぁ、あったあった」


リビングに降りてきた隼人は真っ先に冷蔵庫を開け、買い置きしていた500mlサイズのペットボトルのスポーツ飲料を手に取り冷蔵庫を閉める。

ペットボトルのキャップに手をかけ、力を込めて開放方向へと手を捻るとパキッという音と共に蓋がキュルキュルと回り始め蓋とペットボトル本体が分離する。


「んぐんぐ……ぷはぁっ!!暑くて喉が乾いた時はやっぱりスポーツ飲料に限るな。」


およそ半分の量のスポーツ飲料水を一気に飲み干し、水分を求めている身体に染み渡る。

こんな時、きっとSNSではスポーツ飲料水派か炭酸水派の醜い争いが繰り広げられた事があったに違いないと隼人は思いを馳せる。


「まぁ、俺的にはどちらも甲乙付け難い問題だな」


その日その日の気分で変わるのは不思議でもない。

ただ、今日はスポーツ飲料水しか買い置きがないのもあってか、気分的にはスポーツ飲料水派に傾いた。すまん…炭酸水派の者達よ。

そう心の中で謝罪する。


「にしてもクーラーに効いてないリビングは流石に暑いな…。早いとこ部屋に避難しますかね」


額にかいた汗を腕で拭い、夏の猛威がここは危険だと肌で感じた隼人は飲みかけのスポーツ飲料水を右手に持ち、そそくさと部屋へと避難する。


すると2階へと続く階段付近に設置されている棚に自然と目がいく。

その棚はドアが半開きになっており、その隙間から何やらカラフルな箱らしき物が見え隠れしていた。

気になってしまってはしょうがないと隼人は棚に歩み寄り膝を曲げしゃがみ込むと、見え隠れするカラフルな箱を手に取る。


「何だこれ…。ええっと、萌えちゃダメなんだからねッ!!完全版…?」


手に取りカラフルな箱の表面に書かれているタイトルらしき文字を読み上げる。

そのカラフルな箱には文字だけではなく、可愛らしい少女が何人もプリントされており、俗に言うギャルゲーなる物だった。


「……あぁ、なるほど。親父の趣味のギャルゲー…だったか?ゲームに出てくる女の子を攻略していくあれか。」


成る程と納得する隼人。

親父の趣味がギャルゲーであるのは家族全員に知れ渡っている。

ただ、その事実を知らないのはギャルゲー所有者にして愛好者の親父ただ1人なのだ。

親父自身、誰にもバレていないと信じている姿を親父を除く家族全員が変態を見るかの様な哀れな視線を向ける事も度々ある。


「…こんな存在しない女の子を攻略して何が楽しいのか…。俺には全く理解出来ないな」


隼人はギャルゲーの表面を見たり、裏面を見たりとしながら親父の趣味を理解出来ないと思う。

攻略するならリアルの方が絶対にいいじゃないかと思ってしまうのは自然の摂理。

いくら架空の女の子を攻略したとしても意味なんて無い。

キスできるの?実際に付き合えるの?結婚出来るの?子供は?

そんな事、出来る筈がない。

ならば、それは無駄な時間の浪費だと感じる。

時間は限られている。

人間いつ死ぬか分からないのだから、死ぬまでに残された貴重な時間をそんな事に浪費するのは愚の骨頂。

普段ならそう思うのだが、今日の隼人は一味違っていた。


「………ま、まぁ、確かに?時間の無駄遣いだけど?これも何かの縁的な?人生経験って言うの?ちょうど夏休み期間だし?少しくらいなら無駄な時間を浪費してもいい…かな…?」


誰に言い訳しているのか分からないが、無意識に口から言い訳の言葉が溢れてくる。

隼人は誰も居ないのは分かっているが、周りをキョロキョロと視線を彷徨わせる。

そして隼人は親父のギャルゲーを持って部屋へと向かうのだった。

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