第四十三話 我が名はアルマ

 ど探索探知器け、その空間を走ったのであろうか?徐々に彼等が向かっている方角から光が射して来た。出口に近づいて来ていると思った一行はさらに走る速さを上げると遂に出口に到着し、その穴から外へと進出して行った。

 穴から出た外の世界に足を下ろした彼等は周囲を見回し辺りを確認する。その光景はアルエディー達が知っている文化や文明とはまったく異なったモノが目に入っていた様だった。今にも天を貫きそうな程、天高くそびえ立つ建物群。しかし、そのどれもが原形を留めておらず荒廃していた。そして、ひび割れた白い線などが引かれた灰色の道には彼等が見た事も無い、放置された機械や乗り物が転がっていた。

 アルエディー達にそこに住む者達の気配を感じることは出来なかった様だ。本当にそこには誰も住んでいない。彼等が降り立った場所は言わばゴーストタウンー幽霊都市だった。更に空を見上げると赤く、黄色く輝く恒星がどんよりとしている雲の間から少しだけ地上を覗いていた。

「一体ここはどこなんだ?見た事も無い建物がいっぱいだ。しかし、どこにも人は見当たらない」

「そ探索探知器けではないですよ・・・、精霊の力をあまり感じられない」

「あっ!?本当だ、お兄ちゃんの言うとおり精霊さん達が殆どいない?」

「ここは私達が住んでいる世界とはまったく異なった場所、もしくは次元が違うのでしょう」

「でも、どうしてこのような場所にケイオシスが・・・?」

「先代達にとって何か都合がよかったのでしょう・・・多分ですが」

「皆さん、それより向こうの方から何か強い力を感じます。急ぎましょう」

 セレナの声にみなは彼女が指差した方向を目指して動き始めた。彼等が走って百歩にも満たない裡にその場所へと辿り着く。そして、目の前にはアルエディー達の住む世界でも見れるような魔導研究用の機械の様な物が設置してあった。更にそれを操作する黒色の法衣のような物を身に纏った一人の男もいた。その男はアルエディー達の存在に気付きそちらに顔を向け鼻で軽く笑ってみせと、

「フッ、お初にお目にかかるヘルゲミル、これが我の名だ。よくおいでなりましたな、我等が生まれ滅んだ世界に・・・。だが、遅かったようで・・・・・・・。もうこの桿頭を押せば全ては終わり、新たなる始まりが来よう。それでは、ご一緒に神の降臨をご覧になりましょうか」

「ヨセェエェエエェェェエェエーーーーーーーーーッ!」

『プシュッ、ウィーーーーーーーーーんっ』

 アルエディーはその場から飛び込み、その行動を止めようとした。だが、ヘルゲミルの動く指の方が早く間に合わなかった。そして、その場にあった巨大な機械が不気味な起動音を立てて振動する。配管らしき物の継ぎ目から真っ白な気体が噴出し一層とその機械の動きが激しくなった。

「ヘルゲミルといったな。なぜケイオシスを復活させようとするんだっ」

 アルエディーはホビィーに聞いた同じ事をヘルゲミルにも聞いていた。

「我等が星の世界の事など言っても貴様らなんぞに分かるまい。だから、言う気も、語る気も無い・・・・・・・。最後の仕上げは我が命をこの中に捧げる事だ。ワッハッハッハッ、短い邂逅であったがさらばだっ」

 ヘルゲミルはそう言って透明な液体の入った大きな容器の中にその身を投げいれた。

「おいっ、待てっ!」

 だが、しかし、アルエディーの言葉はヘルゲミルには届かない。そして、ヘルゲミルの体はその容器の中で一瞬にして泡となり消え去ってしまったからだ。

「アル様ッ、すぐそこから離れて下さいッ何か強大な力を感じます」

 セレナの言葉に装置の一番上に立っていたアルエディーはそこから大きく跳躍して地面へと降り立った。

「来るッ!」

 レザードの言葉と同時に液体がたっぷり詰まっていた硝子張りの大きな密閉型容器が割れ、その中から大量の液体が流れ出す。その流動物を危険な物だと思ったみんなは大きく裏に退きその流れから身を躱した。

 硝子の割れた容器の中から完全に液体が流出すると一人の男の子?年齢にして十二、三のなんとも顔の整った美形の少年が一糸纏わぬ姿で仄かな光を放ちながら現れた。その少年は辺りを見回し自分の姿を確認する。その少年は両手を軽く握り小さく何かを呟くと裸だったその身体が神々しい衣類に包まれていった。とても破壊神、邪神、混沌神とは思えぬ姿だ。そして、更にその少年は下を向いていた顔を上げアルエディー達の方を見て言葉を発し、

「我が名は混沌の神ケイオシス・・・・・・・・・・・・。遥か昔にはアルマと呼ばれていた時もあった。我を目覚めさせたのはそなた達か?破壊の後に新たなる創造を求める者達か」

 その声は少年から発せられる物であったが口調と美しい音律はとても人が出せる物ではなかった。

「俺達はそんなもの望んでいないっ!大人しく元いた場所へ帰ってくれ」

「お願いですっ、私たちはこれ以上の争いを求めてはいないのです」

「そなたらの願い・・・・・・・・聞き入れるわけには行かぬ」

「なぜだっ、どうしてだっ」

「このように仮の肉体を持つ事は出来るが我は純然たる意思の塊に過ぎない・・・・・・、我は我の意思の望むまま行動する存在。仮令、我が思考がそれを望んでいなくとも・・・我を止めたくばそなた等の力で止めて見せよ、その我が半神の力を受けた剣でな」

 アルマはそう言うとアルエディーの方に目を向け、さらに目を細め射るようにアルエディーの背中に装着されている聖剣を覗いた。

「俺達に神であるお前と戦えって言うのか?お前を倒して封印しろと言うのか」

「出来るならばやって見るがよかろう。場合によっては私を消滅させることも出来ようが・・・・・・、それは一体どのような事なのかよく考えて我に挑め。さあ、汝らの死をもって破壊の宴の始まりとしよう・・・・・・・・・・・・・。目覚めよ我が純然たる意思の力よっ!」

 少年の姿をしたアルマは一度、両腕を胸元で交差させて力強く広げ、天に届かんばかりの咆哮を上げた。彼の持つ神の力を呼び起こそうと動き出したのだ。その時、アルマから放たれた神気によってアルエディー達は思いっきり後方へと吹き飛ばされてしまう。

「ぃいっ痛・・・、みんなケイオシスの力を引き出させるなっ」

 すぐに起き上がりそのアルエディーは大剣を構えアルマの方へと跳躍し頭上からその男神に向かって渾身の力で剣を振り下ろした。

『グギュンッ!』

 とても低く鈍い音を立てて剣撃と何か見えない膜、その間に生じた反発の力によってアルエディーはまた後方へと弾き飛ばされた。

〈駄目だ、このままじゃ。デュオ爺、お前の本当の力を俺に貸してくれ、負けたくないんたっ〉

〈うむっ、よかろう。わしとて今の世界を気に入っておる。壊されたとあってはたまったもんじゃないからのぉ・・・、相手は我を生みし神じゃどこまでこの力が通用するか試してみるのもよかろう・・・アルエディーよ、我と同調せよ〉

〈どうすればいいんだっ?〉

〈何も考えるな。魂の波長を合わせよ・・・・そして我が名を叫べ〉

〈何も考えず魂の波長を合わせる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〉

 その騎士は心を落ち着け一切の考えをなくし無我の境地へとその身を委ねようとした。そして、

〈我が名に答えよ精霊王デュオラムス。我は淵源えんげんの元素にしてすべてのエレメンティアの支配者、精霊の王。我が力、我を呼び始祖の宿主に与えん。精霊憑依ポゼッション

 今までアルエディーが魔力を媒体として借りていた力とはまったく異質の力がその騎士に流れ込んできた。

〈アルエディー、我は今お前に我の持つすべての力を与えた・・・、この状態での我との会話は不可能となる。未来を預けたぞ〉

「有難うデュオ爺・・・。行くぞッ!!」

「フウンッ??おかしいです。量は多くありませんが先ほどまで感じられなかった精霊の息吹が感じられます」

「あっ、本当だ。如何してだろう?でもこれで魔法が使えるようになったね」

 精霊王デュオラムスがその力を解放した事によりアルエディー達のいた世界から今いる世界へ少しだけ精霊を引き込んだのであった。

 アルエディーとデュオラムスの会話は僅かな時間、十数秒にも満たなかった。だがその間にアルマは神の力を引き出し、その神としての圧倒的な力をアルエディー達に見せつけようとした。

 アルマの体は巨大化し天の雲を掴むほど大きくなっていた。アルエディー達の世界の単位にして大よそ160ロット、両方の腕を合わせて計六本。背中には純白の翼が三対、漆黒の鎧を身に纏ったアルマがそこに立っていた。全面を覆う兜をかぶりその表情を窺うことは出来ない。右手上段にはメイネス帝国の国宝であった巨大化したディハードが左腕上段にはゲイヴェレットと言うアルマと同じ高さの槍を持ち、左中碗には闇の光を放つ漆黒の楯エイギスが握られている。更に何も手にしていない腕の掌は魔法でも放つのであろうかその力らしき物が渦巻いていた。そう、アルマは今まさに破壊神と言うべき姿にその身を変えたのだ。

「ねぇ・・・・、アルエディー様、レザードお兄ちゃん・・・本当の私達はあれに勝てるの?」

「やれるだけはやって見ましょう。後悔したくはありませんからね。そうでしょう?アルエディー」

「全力を出し切る。そして勝つのは俺達だっ!」

「頑張りましょう」

「最後の封印のために私とディアナは少しくらいしか援護できん・・・、アルエディーがケイオシスを滅っせると言う自身があるのなら戦いに参加しようがな」

「何を言っているのですかお兄様っ!それは駄目です、ケイオシスを消滅させると言うことは・・・女神ルシリア様をも消し去ってしまうことになりますのよ」

「フフッ、破壊神と女神の関係とは・・・・・なるほどそう言う事ですか」

「ケイオシスとルシリアの関係だって?いったいどういう事だ」

「その話は後にしろアルエディー、今は戦って勝つことが先だろう」

「ああっ、そだったなヨオォーーーーッシ、行くぞッ!!」

「私とティアが魔法で援護します。いいですねその隙にっ。精霊の力の少ないこの場所でど探索探知器けの魔法が使えるか・・・、さぁ~~~ていきますよ。***************************************************、*********(ファイバード)!」

「幾千もの光の精霊が天に轟きし時、のもの天の精霊の力を帯、空より現れ全てを貫き喰らえ。我が名に答え其の姿ここへ示せっ、*************(サンダーバード)」

 レザードの詠唱によりアルマと彼等が立つ中間に小さな太陽のような球体が出現すると其の球体の表面を破り中から全長12ロットほどの大きさの火の鳥が大きく翼を広げ数回それを羽ばたかせると高々と空に飛翔し赤々と燃える全身をアルマに向かって急降下させて行った。そして、アルティアの魔法の詠唱が終わるとどんよりしていた雲から稲妻が何本もほとばしりそれらは空中の一箇所でぶつかり合った。その稲妻がぶつかり合った場所で電気を帯びた球体が誕生し数回大きな放電をすると大きな鳥の形を作ってから一直線にアルマへと向かって行く。

 二対の炎と雷を帯びた大きな鳥はアルマにその全ての力を放出しようと急接近する。だが、アルマは魔剣ディハードを大きく振るいそれから生じるとてつもない疾風で火の鳥を消し払い、神槍ゲイヴェレットを雷の鳥に向かって投擲するとその槍にまるで避雷針のようにその鳥を帯電させた。それが地上に落下したときには雷の魔源の本流は地上へと放電して消滅して行ったのだ。

「一刀両断っ、タァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 レザードとアルティアがアルマに魔法をかけて生じた隙にアルエディーは大きく宙に飛翔して上空から勢いに乗せて大剣を振り下ろした。

『ガツンッ!!!』

 しかし、その攻撃もアルマの持つエイギスの楯によって阻まれてしまう。そして、アルエディーはその楯に押され地面へと叩き付けられた。レザード、アルティア―慣れない場所での魔法詠唱によるしばしの硬直。アルエディーは高い場所から地面に叩きつけられた衝撃でしばしの痺れを全身に感じていた。動けない三人を見てアルマは三つの手に溜めていたその力を解放しようとした。

「*****、***、*********、*************************」

「私の魔力も貸すぞ」

「受け取ってください」

「お二人様、有難うございます。*********************(アブソリュート・シールド)」

 アルマ以外のその場にいる者、全員が透明な球体に包まれた。セレナの唱えた魔法は物理的、魔力的衝撃を遮断吸収する補助魔法だった。その衝撃吸収量は魔力に比例する。セレナが魔法を詠唱し終えたのと同時にアルマの放った強大な魔源がアルエディー達を捕らえた。神の力の前にイーザーとディアナに魔力を借りセレナが張った魔法の防御壁も効果は薄く、全員は数百ロットも、その場から吹き飛ばされた。そして、その攻撃の余波でアルエディー達は倒れた場所で気絶をしてしまう。

 一度ひとたび、アルマが咆哮を天に轟かせれば空を覆う雲から幾筋もの稲光が地上へと奔流し、彼の巨体の持つ足が地面を踏めばそこから地響きとともに多岐に亘って大地の裂け目が現れた。そして、彼の持つ魔剣ディハードを薙ぎれば、そこから来る衝撃波が今いる世界の巨大な建造物を次々と倒壊させ粉々にして行き、神槍ゲイヴェレットを投げればその直線状の物は総て灰燼と帰していった。その破壊神の力の前にアルエディー達は何度も立ち上がり、攻撃に向かってゆく。だが、矢張り掠り傷一つ与えることも出来ず、再び倒れ力が尽きかけようとしていた。その破壊の力を持ってすれば本当に世界の滅亡など容易く行えてしまいそうな畏怖をアルエディー達に見せ付けていた。

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