終 章

第四十二話 異界の扉

 ファーティル王国とサイエンダストリアル共和国がメイネス帝国の停戦協定を受け入れて三日が経つ。各々の国は古代遺跡の文献をあさってケイオシスが封印されているという遺跡を探していた。ケイオシスが封印されたのは彼等にとってもう二千年近くも前の事、その場所を知る者は下界にはいなかった。

「見つけましたよアルエディー、今直ぐにそちらにお持ちします。待っていてください」

 ファーティル王国の商業都市リベラで彼、レザードは自分が勤めていた王立図書館の地下倉庫にて神創暦末期の事が記されている書籍を発見した。保存状態もかなり良好で字も擦り切れておらずはっきりと書かれている物だった様だ。レザードはそれを手に転送魔法でアルエディー達のいる王都エアへと向かって来る。

「よっと着地成功・・・。アルエディー、これを見てください、ここの文」

 彼はエア城のアルエディーの執務室に転送着地後しおりを挟んでいた部分を広げてアルに見せていた。

「レザード、茶目っ気のつもりか?そんなに近づけたら見えるものも、見えないじゃないか」

「オッホン、失礼。気を取りなおして・・・、ここの部分です見てください」

「・・・・・・・これは???すまんレザードなんて書いてあるのか読めないんだが」

「ああそうでしたこれは古アスタル語で魔導研究している人しか読めないんだった・・・。全文を読むのは面倒なので端折って、掻い摘んで説明します。ケイオシスが封印されている遺跡の名はディンメルング、場所はメイネス帝国の最南端グレーデルン連峰の裾野です」

「場所が分かったのなら直ぐにでもそこへ向かおう。ケイオシスが復活させられる前に・・・、俺はアレフ王とイグナート皇帝にその事を伝えてくる。レザードは出発の準備をしていてくれ」

 アルエディーは慌てる様に部屋を出ると走ってアレフのいる所へと向かった。彼が王のいる部屋に入るとそこにはメイネス帝国から来訪している新皇帝イグナートがファーティルの国王に対面して座っていた。

「アレフッ、場所が見つかった出兵許可を」

「そうか・・・、いいだろう私の同行を持って許可する。してその場所は?」

「馬鹿を言うなっ!二年近くも国王不在だったんだぞ!国民が不安がる」

「私はこの国の王だ、先頭を切ってこの国に住む者達を守る義務があるのだぞ。その私が戦いに参加しなければ国民に示しがつかん・・・、それにここまで来て最後に、この私をのけ者にする気かアルよ?」

「そんなんじゃない、ホビィーの奴等が一体何者なのか分からない現状。今向かう場所で一体何が待ちうけているのか予測不可能なんだ!そんな危険な場所にお前を連れていけるか」

「アルがいけて私は駄目?危険?それは可笑しな考えだ・・・、お前がなんと言おうと私も付いて行くからな。よし準備にとりかかろう」

「アレフ王、彼との話しは終わったか?」

「ああ、私はこれから急いで他の者達を招集し、出陣の旨を伝える」

「そうか、では私も自国に戻って直ぐに出動できる様に要請しなければならないな。何せ、ケイオシスの復活を阻止する事、それを解決する事が共和国からの完全和平協定の条件だからな・・・。それではこちらも準備でき次第連絡をいれよう」

 メイネス帝国第二十六皇帝イグナートはエア城に仮設置した小型の転送機で自国へと帰って行った。それから、約12イコット、王国と帝国、両国の出撃準備が整った。

 ファーティル王国側は一台しか存在しない転送方陣とアルテミス、レザード、アルティアの転送魔法で直接転移可能な一万六千兵が、帝国はケイオシスが封印されていると言う遺跡の近くから直ぐに出動できる兵団二万五千と中心部から転送方陣を使って送られる三万八千兵が最後の決戦に臨もうとしていた。


~   ~   ~


「よしっ、準備は整った。アルお前から皆に号令を掛けてくれ」

「どうして俺が?」

「当然の事であろう?これからこの国の軍事最高指導者になるのだからな」

「そんな大役俺には無理だ!」

「無理でもやってもらうぞ。皆もお前が上に立つ事を望んでいる・・・、これは王としての私の命令だ受け入れろアルエディー、良いな?」

「それがアレフ王の命令と言うのならば・・・従わせていただきます。みんな、聞いてくれっ!俺達は今から真の敵に立ち向かう、そしてこれが最後の戦いだ。みんな、勝利し必ずここへ、また俺達のこの国に戻ってこよう。行くぞぉおぉおおおぉっ!」

「オォーーーーーーーーーーーッ!!!!」

 アルエディーの声に整列する出撃する全兵は大声を出して賛同の意を表した。


◆   ◇   ◆◆   ◇   ◆


 ちょうど同じ頃メイネス帝国の軍事広場でもメイネスの新皇帝がその場で出陣演説をしていた。

「我が国の鋭兵たちよ、我々の国の真の平和のために今一度その力を私に貸してくれっ!!」

 イグナートの言葉に規律良く並んでいた帝国兵達は敬礼をして皇帝の言葉に答えた。

「皆、無駄に命を落とすな。それでは出撃するっ‼」

 大元帥に昇格されたウィストクルスは言葉を出し終えると転送機操縦者に装置を作動させるように合図を送った。王国と帝国でほぼ同時にディンメルング遺跡近くへと転送が開始される。


▽ 遺跡内部 △


「フッ、やっとこの場所に気付いたか?だがもう遅い今ここへ来たところで神の復活を止められはしない・・・、後九時間、九時間ここを死守すれば我々の勝ち」

 遺跡の内部で独り、佇むホビィーの前に一人の男が現れた。

「マシィーバァっ!、マシバ、ここにいたのですか・・・」

「クロイッツ・・・いや、ネクロス・・・目覚めたのか?ここでの私の名前はホビィーだ」

「・・・、そうでしたね・・・、三十年位ぶりかな君の顔を見るのは」

「そうだな・・・、ネクロス目覚めの時を間違えたのか?ここは今から戦場になるぞ」

「だから目覚めたんじゃないか、君にだけずっと任せっきりでは心もとない。僕の複製は余り役に立っていなかったみたいだからね・・・。さあぁ、行こう。僕等の計画を邪魔する者達の到着の気配を感じる」

「こちらは今ここにいる者たちが最後の戦力だ。これ以上の我々の世界の人間や生物を召喚するのは不可能のようだ」

「だったら決まりッ、出し惜しみせずにがんがん行こうよ。よぉっし、頑張るぞ!・・・・・、所で僕の助手は?」

「ネアの事か?彼女なら今眠りについている」

「そうか・・・今、彼女は使えないんだな。仕方がない彼女抜きで動こうか」

 遺跡近くの大森林に到着した王国と帝国の合計七万九千の兵が部隊を展開し、その森に群がる異形の怪物達と戦闘を開始した。ホビィー率いる魔物の軍勢は約十二万近く、目覚めたばかりの原型体のネクロスの力もその兵の数も詳細は不明。女神の力を受けた聖剣を持つアレフ達は迫り来る敵を薙ぎ倒し遺跡へと足を踏み入れその内部へと進入して行く。遺跡内部は広く天井も高かった。二千年も前に建てられた建造物だと言うのにその外も中も一切老朽化を見つける事は出来ない。

 アレフやアルエディー達はその巨大な遺跡の中で怪物と戦いながら奥へ奥へと向かって行った。ケイオシスが封印されている部屋に近づいて来たのか、壁や天井などに二神戦争やそれより以前の戦いが描かれていた。そして、その絵の終着地点まで到着すると最後にケイオシスが封印されようとしている絵が描かれた扉へと到着する。

「この先に女神ルシリア以外の神が・・・、そして、この世界を乱し、ケイオシスを復活させようとする張本人が」

「その様だな」

「一体我々が言うケイオシス、もう一人の神とは?」

「お兄ちゃん、なんか怖いよぉ」

「特に大きな力をこの中から感じる事は出来ないみたいです・・・・・・・」

「この中にマクシスをたぶらかした者がいるのだろうか・・・」

「若しかしたら、この中に宰相もいるのでは?」

「考えられなくはありませんね」

「この戸の向こうに物の怪の親玉がいるで御座るか?」

「神様って一体どんなモノあるか?想像できないあるよ」

「日天では神は二人いたと伝承されておりまする。どちらもこの世を創造したみだいでする。ここに封印されている神様とは一体?」

 その場にいたアレフ、アルエディー、レザード、アルティア、セレナ、雷牙、霧姫、蘭玲、ルナ、イグナート、ウィストクルス、その他と二百の兵、一同は一斉にその扉を見詰める。

「開けるぞ、みんな準備は?」

 一同は武器を構えアルエディーがその扉を開くのを待った。その騎士がその扉に触れると勝手に音も立てず両側に滑る様に移動した。そして、その扉が完全に開き彼等が見た者は?・・・・・・広大な空間にホビィーを守るような形で異形の怪物たちがひしめいていた。そしてその背後に巨大な空間の漆黒の色をした穴が開いていた。禁術士ホビィー・デストラは驚いた様子も見せずそこに現れたアルエディー達に笑みを浮かべ冷静に話しを掛けてきたのだ。

「フフフフッ、今頃、来たのですか?惜しかったですね・・・。私を倒した所でもう手遅れですよ。我等が新しき神の復活は目前です。私を倒した所でもう誰にも止められません」

「ホビィー、今度こそは逃がさない。ここで決着を付けてやる」

「行くぞぉーーーっ、ソリャァあぁああぁっ!」

 その黒髪の騎士は気合と一緒に魔物の軍勢の中に突進して行く。それから、それに続く様に他の者達も怪物に向かって攻撃を開始した。前進する先の敵を叩き潰しながらアルエディーはホビィーに向かって進んでいた。そして、ホビィーはその彼を高みから剣を垂らす様に持ち眺めている。数多くの異形の者を切り倒し、到頭アルエディーはホビィーのいる領域の前にその足を踏み入れた。

「辿り着いたようですね、千騎長殿・・・。いや、フフッ、多くの戦績を上げている貴方です新しい階級になっていても可笑しくはありませんね」

「そんな事はどうでもいい。なぜ、ホビィー、お前等は邪神ケイオシスの復活を望むっ」

「邪神ですか?フフフッハッハッハッハッハッこれは可笑しい事を言う。貴方たちの創造主である神を邪神と言うのですか・・・、愚かな、時の流れとはこの世界でもその真実を捻じ曲げてしまうと言うのか」

「この世界でも?一体何を言っているんだ」

〈デュオ爺、ケイオシスが俺達の創造主だって?俺達を生み出したのは女神ルシリアじゃないのか?教えてくれ〉

〈小僧、そんな事、気にしているばあいかっ!!今のこの時代に生きるもの達にその事を知る必要はない・・・、目の前の敵と戦うのじゃ〉

「フッ、精霊と会話ですか?無駄ですよ、古き者はその過去を閉ざそうとする。なんとも頑固なものですね」

「もう千騎長殿、貴方に話す事はありません。さあ、死にに逝きなさい」

「なぜ戦おうとする?お前を操っているのは誰だっ!俺にはホビィー、お前が悪人とは思えないんだ」

「なぜ戦うですか?私の考えを貴方に話したとても理解してもらいませんよ。誰かに操られているって?フッ、笑止!これは私が臨んでしている事です。私が悪人に見えない?この世に勧善懲悪など一方的なモノなどなイッ!生まれ来るもの全て価値観はそこに生きるモノに存在する‼」

「価値観の違い?」

「これ以上語ることはない」

「そうか・・・」

 これ以上の会話を続ける事が出来ないと悟ったアルエディーは彼の方からホビィーに攻撃を仕掛け、持っている大剣を振り下ろした。

「何故でしょうか・・・、私の体は貴方と戦う事を凄く望んでいる。不思議なことです違う世界に生を受けし者同士なのに・・・・・・」

 禁術士は剣を握っていない左手の指を鳴らすと新たに三本の剣が何処からか出現して、その内の一本を左手に握り、残りの二本は彼の両肩辺りに浮遊し、その剣先がアルエディーの方に向いた。アルエディーがホビィーに向かって大きく剣を振り下ろす。それをホビィーは両手に持つ剣を交差させて受け止め肩に浮遊する二つの刃を意識で操り投げつけた。王国騎士は素早く後ろに退き、それを大剣でなぎ払い叩き落とす。何度もお互いに剣を交える。激しい攻防がひたすら続く。だが、互いに致命傷を与える事は出来なかった。

「ハァー、ハァー、ハァー・・・、ふふっふっ、流石に強いですねアルエディー千騎長殿」

「フゥッ、フゥッ、ハァッ、ホビィー、貴様こそそ探索探知器けの力を持ちながらどうして正しい事に使えない」

「その事についてもう言葉にすることは無いと言ったはず。今は貴方を倒すことだけが私の目的」

「そう簡単に倒されるものかっ!ソリャァッ!」

 再びその騎士がホビィーに向かって剣を振り下ろそうとした時、彼の目の前が眩く光る。その光のせいでアルエディーは動きを止め、眩しさから眼を隠すため腕を上げた。

「盟友よ、腕が鈍ったのか?何をもたついているのです。この者と戦うよりもケイオシスの復活を止めるのが先ではないのか?」

「アルエディー、遅れてしまってごめんなさい助勢に参りました」

 光の中から一組の男女が姿を現した。眩しさが引くと腕を下ろし、その声の方をアルエディーは見た。

「イーザー、それにディアナまで・・・、どうしてここに?」

「アルエディー話は後だっ、すぐにあの穴の中に向かうぞ」

「私と千騎長との闘いの邪魔をするなっ!消え去れッ」

 突然現れたイーザーとディアナに動揺もせずに二人に剣を向けそれを振り下ろそうとした。

「邪魔はさせません。そこへおなりになりなさいっ!バインド」

 イーザーの妹である彼女は術の詠唱も魔法言語も使わずに呪文の名を口にした。

「フグッ、動けん、いったい私に何をした」

「貴方はしばらくそこで動かないでください」

 ディアナは生き物の動きを停止させる身体拘束の魔法を唱えたのだ。

「アルエディー時間が無い。早くするんだっ!」

「わかったっ」

「ヌオォーーーーーー、そちらには行かせません」

 禁術士は自らの力でディアナの魔法の呪縛を拭い去った。

「えぇえぇっ?そんなばかな・・・」

「そこには絶対行かせません。ハァーーーーーーセイッ!!」

 ホビィーはその場を強く蹴って飛びアルエディーに剣を向けた。

『ズガッ』

「アルエディー、ここは私に任せて、その先に向かえっ!イーザーがそう教えてくれた。ここは私たちが死守する。必ずその先にあるものを封印し戻ってくるのだぞ。いいな約束は絶対まもれっ!」

「まったくアレフは俺にいつも一方的に約束事をさせる・・・・・・。だけど、その約束、守らせてもらう。それじゃ行ってくるぞ」

「死なずに帰ってこい、私にはお前が必要なのだからな」

「ああ・・・」

「さあ早く、これが最後の別れではないのだ急げ」

 魔族の王の中の王イーザーにせかされてホビィーの背後にあった大きな穴へとイーザー、ディアナと一緒に走り、その中に飛び込んだ。

「えっ??、アル様どちらへ向かわれるのですかっ!!」

「アルエディーっ!!」

「あっ、お兄ちゃん待ってぇーーーーー私も」

 そして、その時その穴の付近で戦闘を繰り広げていたセレナ、レザード、アルティアはアルエディー達がその中に入って行くのを見て彼等を追う様にその漆黒の空間の裂け目へと飛び込んで行く。

「セレナッ!?それにレザードとティアまで」

「酷いですねぇ~~~。アルエディー、面白そうな事をするなら私に声をかけてくれない何って」

「私もお兄ちゃんと一緒に着いてきちゃった。アハハッ」

「駄目って言われても私は最後までアル様のお供をさせていただきます」

 みなが勝手なことを口にしてアルエディーは眉に皺を寄せ困惑の表情を作った。

「別にいいではないか魔力の高い助っ人は多いいほど仕事が楽になる」

「そうだ?どうしてイーザーがここへ。すべての争いに非干渉のお前達がなぜ?」

「確かに利権で生じる争いには非干渉です。でもケイオシスの復活となればそうは行きませんことよ」

「ディアナの言うとおりだ。それにケイオシスの封印には多大な魔力を必要とするとアルエディー等と別れた後今になってやっと古代の文書を調べ、知ったのだ。だから、急いでここまでやってきた」

「そうだったのか・・・、イーザー、君の力をみなの為に貸してくれ」

「ふっ、嫌だね」

「イーザーお兄様ッ何を言っているのですかっ!!」

「私はアルエディーお前のためにだけ、力を貸すのだ」

「イーザー・・・、ハハッ有難う」

 彼等はひたすら左右上下の分からない空中に浮かぶ一直線の回廊を駆け抜けて真にケイオシスが封印されていると言う場所へと向かって行った。

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