第四十一話 突入、ハルモニア城

『ドサッ、バタバタバタバタ、ドスンッ』

「いったぁ~~~イッ、お兄ちゃん確りやってよぉもぉおぉ。それにどうしこんな所なのよっ??」

「私だっていつもは上手く行くとは限りません。文句を言うなら自分で唱えたらどうですかティア」

「ヴぅうぅぅうっ、ダッテ私メイネスの地理わかんないもん」

「グウォーーーーーっ!重いぞぉーーー。ティア、レザード天辺で言い争ってないでさっさと俺の上から降りてくれぇぇえっぇえぇぇっ!」

 レザードの転送着地に失敗した面々はアルエディーを下敷きに積み重なっていた。

「てへっ、ごめんなさぁ~~~イッ!」

「ハッハッハッいやぁ~~~これは失礼アッハッハ」

 アルティアは可愛らしく舌を出し、レザードは罪の意識など微塵にも見せず笑いながら積みかさなた天辺から飛び降りた。

「アル様、私はそれ程重くないですよ」

「そう言う問題じゃないっ!!」

「これは済まないアル今、降りる・・・、エアリス、母上早く彼の上から」

「フフッあらっゴメン、遊ばせ」

「あっ、私ッたら・・・アルエディー様大変申し訳に御座いませんでした・・・、私もそれ程重くないと思っていましたが」

「むっ、アルエディー様、私太ってなんかいないでスッ!」

「これはごめんで御座るアルエディー殿、ヨット、ほら霧姫、主も降りるで御座るよ」

「失礼つかまり、まする」

「アルエディー大丈夫アルかぁ~~~?」

「今以上にワタクシ体重軽減する必要あるのかしら?」

「ハハッ、悪い事をしたなアル、ホット」

『グシュッ!?』

「フげぇーーーーッ!アレフッ今お前、態と俺の後頭部、踏んだなっ!!」

「フッ、良く分かったな・・・、そんな顔するな冗談だ」

「アレフ・・・なんか嫌いだ」

「グッ、私が悪かった許せアル」

「ホラッ、そこにまだ重なっている者共、さっさと我が友の上から降りぬかっ」

「ハッ、これは失礼いたしました」

 アレフはそう言って最低列に重なっていた幾人の兵士達がアルエディーの上から退いた。

「ハァ~~~、散々な目に有ったよ、まったく・・・・・・。所でここは何処なんだウィス?」

「見て分からんのか?ここは牢獄と言う場所だぞ」

「もういイッ・・・」

『ガシャガシャガシャッ』

「鍵が掛かっているぞ?おぉーーーーイッ、誰かいないのか?守衛でてこぉーーーい!」

 しかし、返事はないこの地下牢獄を監視する者も囚人も今誰もいないようだった。

「チッ、誰もいない。なぁ~~~、レザード、ティアちゃん鍵とか開けられる便利な魔法、ってのはないのか?」

「そんなものある訳ないでしょう。そこまで魔法は万能ではないのです」

「そんなのあったかなぁ???」

「ハァ、いいよもう・・・、俺のこの剣で鉄格子を叩ききる」

「あぁあああ、ありました、ありましたっ!アルエディーありましたよ。だから何でもかんでも壊そうとしないで下さい。それでは・・・・・・オープン、セサミ。開けごまぁ~~~~~~」

 辺りは静まり返りみんなから冷たい視線がレザードに向けられた。

「いやぁ~~~ちょっとしたジョークじゃないですか次ぎは真面目にやりますよ」

「事態は一刻の猶予も許されないのだレザード今度は確り頼むぞ」

「承知・・・、******************************・・・*************(ソ・オーヴライア)」

 レザードが開封魔法を唱えると地下の牢獄の錠が掛かっていた扉が一斉に低く不気味な金きり音を立ててゆっくりと開いて行った。

「よしっ、みんな行くぞッ!!ウィス、城の案内を頼む」

「ああ言われなくても分かっている・・・、ここから上へ」

 一行は地下牢―地下六階から上へ上へと昇って行く、途中至る所に潜んでいた異形の怪物達と剣を交えやっとの事で一階へと躍り出ると、地上の階に出ても矢張り場内に異形の怪物が跳梁跋扈し帝国の兵士達がそれらと戦闘を繰り広げていた。

「一体これはどう言う事だっ!!」

「ウィストクルス様、なぜここへ????、!?ナルシア様それにエアリス様?それに貴方はアレフ王、なぜ君たちが一緒なんだっ」

「ヨシャ、説明はあと、兄上は今何処に?」

「イグナート様はマクシス宰相と大謁見の間にいるはずです・・・、皆さん案内しますこちらへ・・・」

「そこへは私とアルエディーが行こう。他の者は帝国の兵と共に魔物を一掃してくれ」

 王の言葉に従ってアルエディー以外の仲間達は城内で散り散りになり怪物の一掃に参加して行った。アレフ、アルエディー、ウィスナ、エアリス、ナルシア、それとヨシャは走って大謁見室へと向かって行く。その場に到着した時、イグナートとマクシスが何かを言い争っていたようだ。

「マクシスッ、貴様ッ、父がいなくなったと言うのはどういうことだ」

「私の知った事ではない。いつの間にか消え去っていたのだ。だから貴殿にもその事だけは教えてやろうと声を掛けたのではないか。感謝するのが礼儀であろう」

「エアリスや母を人質にとって置きながらよくその様な事が言えるな」

 その二人の会話に割って入る様にエアリスがイグナートに言葉を投げかけた。

「イグナートお兄様、私もお母様もここに戻ってまいりました。もうその者の言う事など聞かないで下さい」

「兄上!!エアリスの声が聞こえないのですか」

「!?この声はエアリスなのか?それにウィスまで・・・」

 彼は振り向き、元いた場所から駆け出してエアリスやウィスナのいる方へ向かってくる。

「ウッキぃーーーーーーーーーー、イッ、一体これはどう言う事だっ。なぜお前等がそこにいルッ」

「フッ、久しぶりだなマクシス宰相、あの襲撃の時は随分と世話になった。そのお礼ここでキッチリ、返してもらう戦犯の烙印と伴にな」

「俺の首に多額の賞金を掛けたみたいだけど残念だったな。俺はここに健在だっ!そして、エアリス皇女もナルシア皇妃さまもこの千騎長アルエディー・ラウェーズが救出させてもらった」

「貴様の悪事はここまでだ」

「ぬおぉーーーーーっっ、こうなったらイグナート、貴殿等を殺して私がこの国の皇帝となるこの国は私のものだぁ。やれっ!!!」

 宰相の言葉に隠れていた彼の派閥の兵士達が姿を見せアルエディー達を取り囲む。そして弓を構え一斉に射撃してきた。豪雨の様に沢山の矢がアルエディー達の方へ向かって降り注ごうとしていた。

「この程度の事で俺が倒されるものかよっ。アームドっ!力を貸せデュオラムス召喚」

「久しぶりに暴れるとするか」

 アルエディーの言葉に大剣と精霊王が同時に出現した。

「アルっ!力を出しすぎて城内を壊さないで下さい」

「母上、エアリス私の背に」

「ティターンよっ!槍となれ」

 ファーティル国王の持っていたティターンが剣の形から彼の身長より少し長いくらいの槍へと形状を変えた。そしてそれをアレフは回転させ飛来してくる矢を叩き落とす。

「マクシス宰相、貴方もここで終わりです潔くしてください」

 武器を扱える五人はエアリスとナルシアを囲む様にして庇い弓兵の投射が止むのを待った。そしてついにマクシスの兵の弾が切れる。五人は一斉に散開して弓兵に切りかかり、ものの数ヌッフで宰相配下の兵士達はその場に倒れマクシスを護る者はいなくなったと誰もが思った。

「マクシス、覚悟っ!!」

「フッ、甘いですぞイグナート大元帥殿、『パチッ』」

 弓兵を倒した瞬間、大元帥はマクシスに一撃しようとそちらに剣を向け前に踏み出した。その時次期皇帝継承権を持つイグナートの背に隙が生じてしまう。

「イグナート様、危ないッ!!ガフッ・・・」

 大元帥を弾き飛ばしたヨシャの胸と背中に数本の矢が突き刺さった。マクシスの伏兵がまだいたのだった。

「ヨシャぁああぁっぁあっっ!」

 イグナートはマクシスに向けていた剣を直ぐに降ろしその元帥のもとへと駆け寄り、

「確りしろっ、確りするんだヨシャ!ウィス、衛生兵をここへすぐだっ!!」

 胸と背中に突き刺さった矢を取り払いその傷口に彼の外套を押しやって止血をする。その間にアルエディーとアレフ達がその伏兵を斬り倒していた。

「アレフ、ここを頼む!俺はセレナを探してくる」

 その騎士はそう言って大謁見の間を駆け去って行った。

「イグナート様、なんって顔しているんですか?涙をお拭きください。せっかくの美男子が台無しですよ」

「ヨシャ、喋るなっ!傷に触る」

「いいえ喋らせてもらいますよ。私の命ある限り・・・、エアリス様とナルシア様がお戻りになられて良かったですね・・・・、多分ですけど逃げたところでマクシスにはもう私達に歯向かう力などないでしょう」

「いいからもう喋らないでくれ」

「嫌です、最後くらいたっぷり喋らせてください・・・、貴方は次期この国の皇帝なのです。この戦争を終わらせ必ず三国の親睦を取り戻す様にお願いします。ファーティルの国王はとても聡明で理解ある方です。彼なら私達の国の事情を判ってくれるでしょう・・・そうですよねアレフ国王様?」

 目の見えなくなった目でヨシャはアレフを探しそちらを向いてその様に言葉にした。

「それはそちらの誠意しだいだ・・・」

「きつい事をおっしゃる・・・」

「冗談だそんなことアルエディーに知られたら嫌われてしまいそうだからな。私は一国より私の友をとる。不満に思う我が国民もいようが説得して見せよう。だから停戦後は今まで通りの関係で行こうとしよう。共和国には私からも強く言い掛けて見る」

「聞きましたかイグナート様?ファーティルは今まで通り我等が帝国と付き合ってくれるといいました・・・・、後は貴方様しだいです頑張ってくださいね」

「分かった、約束しよう。だが、それにはヨシャ君の力が必要だ。だから死ぬのはもう少し後にして欲しい」

「それは難しい注文ですね・・・。あっ、毒が回って来た見たいかな?意識が朦朧、目も盲目・・・・・・、駄目みたいです。最後にお願いがあります」

「それは私のできる事か?」

 大元帥は元帥の手を強く握り締めそう聞き返した。

「イグナート様なら必ず・・・、小さな小競り合いはあったとしても平和な世界を。そして、この国の民をよき導きください。あっ・・・もう一つ私の妻と子、養女のイリスをお・ね・・が・・・いい・・・・た・・・・し・・・・・・・ます」

「ヨォーーーーシャァーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 イグナートの泣き叫ぶ声が広いその場の空間に響き渡った。そして、ヨシャ・ヤングリート元帥の命が尽きるのと同時にセレナとアルエディーとその他がこの場所へと走って現れた。

「怪我をした人はどの方ですか」

 セレナは辺りを見回しその場にいる者達の様子を伺った。アレフがその怪我を負っていた者に視線を向け彼女に示す。そして、首を振ってもう手遅れである事も示した。アルエディーも到着が遅かった事を知る。

「セレナ・・・、死んでしまったものを蘇生するのはやっぱり無理だよな」

「ハイッ・・・、無理ですそこまで治癒の魔法は万能ではありません・・・、死によって一度魂がそのうつわから出てしまえば助けるすべは我々にはないのです。ですから次もこの星の生命アスターに転生出来る様に彼のご冥福をお祈りしましょう。ルシリア様・・・、彼の者に寛大なご慈悲をお与え下さい」

 セレナは手を組んでその言葉と同時に黙祷を捧げた。そして、それに倣う様にその場にいた者全てがヨシャにも祈りを捧げる。

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