第四十話 無慈悲な対決
~ メイネス帝国首都ユーラのハルモニア城軍事小会議室 ~
『バキッ、バスッ、カランカランカラァーーーンッ』
「クキィーーーっ!貴様等一体これはどういう事だ。三国最強の軍を誇っていた我が帝国のこの惨敗をどの様に説明するっ?手を抜いているではあるまいなっ!!」
メイネス帝国の宰相マクシス・キスリングは手にしていた簡単には折る事の出来ないはずの杖を真っ二つにして会議室の床に叩きつけた。そして怒り沸騰の表情で目の前に立っているイグナート大元帥、ヨシャとウィストクルス二人の元帥に罵声を浴びせた。
「それは」
「イグナート様は何も言わなくてよろしいですよ、ここは私にお任せを」
イグナートの隣に立っていたそのヨシャ元帥は宰相には届かないくらい小さな声で大元帥にそう呟きかけていた。
「マクシス宰相殿、バカ言っちゃ困るよ。何が嬉しくて我が国の大事な兵を無駄に殺すと言うのですか・・・」
「それでは一体この事態をどう説明するのだっ!!」
「僕たちが思っているよりか共和国と王国の力が強かったって事です。けして、侮っていたわけじゃないんですが結果的にこうなってしまったわけです」
「そんな事はどうでもよい、直ぐにでも挽回してみせよっ!!」
〈フンッ、戦いの現実を知らない奴のくせに良く吠えるよ内の宰相殿は・・・、ナルシア様とエアリス様が人質でなければこんな奴直ぐにでも葬ってやれるのに〉
「我々が直に指揮をとって次ぎこそは必ずや汚名を返上して見せますよっ」
「その言葉に偽りはないな?」
「それは箱を開けてからのお楽しみ・・・ウワッ、嫌な目付きで、見やがる」
「ヨシャ元帥殿何か申したか?」
「いやなんでも無いです気にしないで下さいよ」
「フンッ・・・、だったらもう行って次ぎはよい結果を報せよ」
「それじゃぁ~~~、イグナート様、ウィストクルス様、出陣の準備に取りかかりましょう」
「イグナート大元帥殿とウィストクルス元帥にはまだ話しがある。貴殿だけいかればよろしかろう」
「連合軍に勝つには直ぐにでも二人が必要なんですよ」
「いなッ、さっさと出て行け」
「ヨシャ元帥・・・」
行動に渋るヨシャを大元帥であるイグナートは目で何かを訴えた
「分かりました。イグナート様がそう命令するのであれば・・・」
「イグナート様、もしマクシスの奴が貴方様に何かしようとしたら必ずお呼び下さい。何処からでも参上いたします」
ヨシャはそ探索探知器けを小さな声で告げると淋しそうな表情で小会議室を立ち去って行った。
「して、私とウィスにどのような用事なのですかマクシス宰相」
「よもや、忘れたわけではあるまいな我が手中にイグナート大元帥。貴殿の母君と妹君があるのを?」
マクシスにはいまだ、その人質としていたはずの二人がアルエディー達によって救出されてしまったと言う事実の連絡を受けてはいなかった。無論、その事をイグナートもウィストクルスも知らない。だが、アルエディー達の少数精鋭の部隊がアレフ王の率いる部隊と合流しこの帝都に向かっていると言う報告だけはヘルゲミルの情報伝達役であったルーファ・スティンによって報じられていた。
「クッ、今度は我々に何をさせるつもりだっ!!」
「ファーティルのアレフ王とその連れがこの帝都ユーラ近くまで進撃していると言うではないか?そやつらの首、特にアレフ王の。イグナート大元帥殿、貴殿が落とし、我のもとへ持って参れ、さすれば人質一人を返してやらなくもないが」
「そして、ウィストクルス元帥よ、そちがあのアルエディーとか言う若輩の首を持ってまいれ、さすればもう一人も返してやろう」
「貴様ッ!私の親友を自らの手で殺せと言うのかっ?冗談ではなイッ」
「フフッ、そう言うのは構わんが実の親と妹、それと赤の他人である王国の人間どちらが貴殿にとって大切なのかな?クククッ、よぉ~~~くお考えなさることだな」
「グッ・・・・・・・・・・・」
「ウィス・・・」
「何をしておる、さっさと行かぬか、彼の連中が帝都まで足を踏み入れたら・・・、それが制限時間だ」
「分かった直ぐにでもそちらに向かおう・・・、行くぞウィストクルス」
「しっ、しかしわたしは・・・・」
イグナートは彼の弟の手をとって強引に引っ張り小会議室を後にした。
マクシスの命が下ってから約一週間後、ウィストクルスの率いる二万五千以上の兵達が望まなくしてアレフ、アルエディー率いる約一万七千近い王国兵団と衝突した。そして、ウィストクルスは戦場で不運にも出会ってしまったアルエディーに対して一騎討ちを申し込んでいた。
「剣を収めろウィストクルス。俺は君と戦う理由はない」
「アル、君にその理由がなくても私には・・・・・・・・・」
〈私とてこんな戦いのために貴方に剣を向けたくはない。しかし、兄上の命令に従わなくては母上も妹も・・・〉
「早まるなっウィストクルス、俺の話しを聞いてくれ」
「聞くことなどなイッ、アルエディー剣を構えろ。若し、そうしなくても私は君を斬る・・・、これ以上我が領内に進行を続けるのであれば私は君を斬る」
〈お願いです。剣を向ける事が出来ないのであればここから逃げて〉
「目覚めよ、トリニティアに宿る高貴なる精霊たちよ。ハァーーーーーーーーーーっ」
ウィストクルスの口から出る言葉と内心で語りかける言葉相反する言葉が交差する。だがウィストクルスは小さく下唇を噛み、強く剣の柄を握り締め溢れでそうな感情の浪を強引に心の奥そこに閉じ込めて目の前の親友アルエディーに刃を刺し向けた。
〈クッ、やるしかないのかっ?しかし、俺には・・・出来るのか?ウィスを止める事が・・・、駄目だ迷っていては。デュオ爺、力を貸してくれ〉
〈嫌じゃよ、わしはあのコとは闘いたくないからのぉ~~~、自分の力で何とかセイッ〉
〈やっぱりそう言うと思った・・・・・・・、俺の力か・・・〉
その騎士も決意を固めたのか?精霊の力なしで相手に大剣を構える。ウィストクルスは精神統一を終え握る剣の力を開放させた。ウィストクルスの持つ武器もウォードやアルエディー達と同じ武器の名匠ゼオードによって鍛えられた一品だった。その剣の名はトリニティア、高位の光、水、地、三つの精霊の力を宿したその元帥専用の長剣。
「覚悟はいいかアルエディー・・・。なぜその剣の力を解放しない?」
「この剣に宿る精霊がウィストクルスとは闘いたくないって言う。だから、俺は、俺の力だけで君を止めて見せよう・・・」
「私を愚弄する気かっ!・・・、いいでしょう、君のその考え後悔させてあげます。行きますよっ、ハァーーーーーーーヤァーーーーーーッ!!」
「ウヲオォオォオォオォッ!」
正眼に構えやや剣先を右に向けたウィストクルスは気合と共に前方へ勢いを付けて突進。大剣を右下に構えたアルエディーもまた同じよう気合をかけ前方へと飛び出した。そして、お互いが自分の剣を振る間合いに入った瞬間ウィストクルスは上から切り落とす様にアルエディーは斜め下から振り上げる様に武器を握る両手とそれを支える両腕を動かした。
『シュッ、ガキーーーンッ』
お互いの剣が空中でぶつかり、その衝突部分から青白い火花が飛び散った。二人は後ろへ飛び退く事はせずその場で鍔迫り合いに移っていた。精霊の力を借りているウィストクルスの方がアルエディーを押し、その騎士は徐々にその足場を押されていた。
「どうした、アルっ!私に押されているではないか?精霊の力無くしても私に勝てるのではなかったのか?」
〈力の差が分かったのなら直ぐに精霊の力を引き出し、私をその剣で・・・、それが出来ないのであれば早くここから去ってくれ〉
「戦いの最中、言葉を発するなんて君らしくないぞっ!」
「力の差を見せ付けてあげているのが分からないのか?」
「そんな物言い方はもっと君らしくないッ、本当にどうしたって言うんだ」
「そんな事はどうでもいい、本気で戦ってくれれば・・・」
宰相マクシスの使い魔がウィストクルスを監視していた。下手な動きや言動を見せれば直ぐにでもナルシアやエアリスに手を下すと言う脅しを付けていたのだ。だからアルエディー達に二人が救出された事を知らないウィストクルスはそれに従うしかなかった。それから、押される一方だったアルエディーは命一杯腕に力をいれウィストクルスの剣を払いのけ大きく後ろへと移動した。
お互いの手の内を知っていたアルエディーもウィストクルスもただひたすら何度も何度も相手に向かって四方八方から剣をはしらせていた。・・・、そして、その度に致命傷に至らなくても鎧の装甲を貫かれ、羽織る立派な外套も切り裂かれ傷付くのはアルエディーの方だった。
アルエディーも幾度となくウィストクルスの体を斬り付けてはいたのだが地の精霊の力を借りて防御力を上げていたウィスにとって精霊の力を借りていない王国騎士の攻撃は相手に当たったとしても何の効果も及ぼさなかった。それは精霊の力を借りるか、借りないのかの差を歴然と証明するものだった。
「フッ、アルエディー傷だらけではないか。精霊の力無くして本当に私に勝てるとでも本気で思っているのか?」
〈ウィスの言う通り精霊の力なくして、闘気の力だけでは君に勝てない事なんって分かっている。だが、デュオラムスは今その力を俺に貸してはくれない。それは君が・・・。だが、今出来る事だけは・・・・・・〉
遠方の間合いからアルエディーは頭上に大剣掲げ闘気を練り剣先をウィストクルスに向け突きの構えを取った。
「フフッ、その構えか勝負に出たようだな・・・、なら私も次ぎの一撃で決着を付けるとしよう」
〈あの技ならこの地の精霊の防御壁すら貫くはず・・・、相討ちならアルと一緒ならばこの命、落としても・・・〉
ウィストクルスは胸元辺りで剣を持つ右手の肘を大きく後ろに引いて左腕を真っ直ぐ伸ばしアルエディーに照準を合わせる様な格好で突きの構えの体勢を取った。互いに攻撃の機を見計らっている。二人がその構えを取ってからその場所を動かない状態が暫く続いた。そして、それを眺める両国の兵士達に緊張が走っていた。
この季節に吹く風が帝都ユーラの郊外にある草原の草花を静かに揺らし、その風はアルエディーにもウィストクルスにも靡く。ウィストクルスの長い髪が少しだけ宙に浮く。やがて二人に吹いていた風は強くなり天候は急激に変化した。空には少しばかりの雲しか出ていなかったはずなのに今は灰色の雲が頭上に有ったアストラルを覆い隠しどんよりとしてしまった。そして・・・、空から白いものが降り始める。雪。その二人の口から小さく漏れる息と一緒に白い靄が混じっていた。辺りの温度が急降下している証拠だ。空から舞い降りた雪は徐々に地表を覆い隠して行く。だがまだ二人はその場から攻撃に出ようとはしない。
『カシャッ!!』
一瞬アルエディーが身に着けていた鎧の結合部分がゆれ小さな金属音を鳴らした。その音が合図になったのか、ほぼ同時にアルもウィスも素早い動作で一気に間合いを詰め射程圏を手中に収めると剣を持つ右手を鋭く前方へと突き出した。
『ズブシュッ!!』
剣が相手を貫く音が周囲に響き渡った。その音は唯一つ。アルエディーかウィストクルスのどちらかの突きが相手の胸中を捉えた音だった。もう一方の突きは相手の首筋を微かに掠めただけだった様だ。胸を貫かれた相手の口の脇から微量に鮮血が滴り落ち小さな雫になって足元に積もった雪に赤い斑点をまばらに作った。突きを与えた方の表情は悲しみと驚愕の色を見せ、それを喰らった方の顔はどう言う訳か何故か笑っていた。口元から血を垂らす者は持っていた剣を地に落とし剣を握ったままの者の方へと体を倒した。そしてその者の耳隣で小さく呟く。
「やっぱり・・・、出来ない。君を切れるはずもない。勝てるはずがな・い・よな・・・」
「喋るなっ・・・、どうして・・・、どうして剣の軌道をそらしたっ!」
「ウィス、声が大きいそんなに怒鳴らなくても聞こえる・・・」
「君は俺にとって大事な友、国境を超えていても分かりあえた者同士だと俺は思っている。・・・、本気で・・・真剣に君と剣を交え、少しくらい傷を負わせる事は出来たとしても・・・・・・・・・大怪我や・・・まっ、まして殺す事なんかお・れにはでき・・・な・・・い」
口元から少しずつ血を垂らしながらアルエディーはか細い声であったが胸を貫かれた痛みを必死に堪えて口を動かしていた。
「アルエディーッ、君はそれでも騎士かっ!騎士であるなら真剣勝負の結果、命を奪っても、奪われても悔やむ事も気にする事もしてはならないと言うのが鉄則ではなかったのか?それに今はどのような理由であれここは戦場なのだ、アルと私は敵同士・・・」
「今は敵同士か・・・確かにそれは騎士の・・・鉄則・・・、だが相手が・・・ならそれでも良いが・・・・・・・は・・・だからな。やっぱり俺って甘いのかな?君が・・・、だから・・・」
〈ふん、ふん、小僧天晴れな考えじゃよわしゃぁちと嬉しいかな?〉
〈・・・・・・・・・・・・・・〉
「アルエディー、聞き取れない、今何って言ったのだ?」
「死に逝く者の頼みだ、聞かせてくれ・・・。どうして君はこの・・・、無意味だと分かっているはずの戦いに参加した?なぜ・・・、この戦争を止められなかった・・・」
「言うっ、言うからその様な、死ぬなんてっ、不吉な事は言わないでくれ。それは・・・」
マクシスの使い魔など眼中の外に追いやり意を決してウィストクルスがアルエディーにその真相を次げようとした時・・・、アルはウィスに寄り掛かる力すら無くなり崩れ落ちる様に倒れ純白の絨毯の上にその身を埋めた。その純白の絨毯の毛、その雪はアルエディーの体から流れ出す血を吸い赤々と染まって行き真紅の絨毯へと変貌させて行った。
「死んでは駄目だっ・・・、アルエディー?嫌ぁあぁあぁぁぁぁっ!」
メイネス帝国の一元帥の口から友のなを呼ぶ声と絶叫が辺りにこだました。少し離れた場所で戦っていたアレフ、セフィーナとそしてセレナがその場に駆けつける。その場の状態を目に映したファーティルの王とその妹の表情が蒼白へと変化させていた。
「アッ・・・ア・・ア・アルエディー・・・、アルっ、ハハッ、嘘だろうお前が負けるなんって事は・・・嘘であろう・・・、悪い冗談はよしてくれよ。ワッハッハッハハァッハッハッハ」
その王は真っ赤に燃えるような赤髪を掻き揚げ、目前の現実を否定する様におどけて笑った。そして、その隣に立つセフィーナは口を両手で押さえ声にならない声で嗚咽と一緒に頬から涙を流してその場に座りこんでしまう。セレナは急いでアルエディーのところまで駆け寄り、近くにいたウィストクルスを突き飛ばすと必死に自己犠牲の治癒魔法を唱え続ける。彼女のその魔法により、徐々に流血は少なくなってゆく。
「お願い、デュオラムス様。アル様を、アル様をお救いくださいっ!でゅおらむすさまぁあああぁぁぁぁ」
「アルの剣の宿りぬしよっ。あなたが本当に精霊王と呼ばれる存在なら、頼む、私の命などいとわない。だから、頼む、私の友、親友、彼を、彼を、アルエディーをっ、精霊王よぉぉおおぉ」
「このような事で、このような形で、アルが死んでいいはずがない。クゥグゥゥウ、だから、だから、頼みますっ、アルエディーのその剣に宿る、最高位の精霊よ。私の手で彼の命を奪ったと言うのなら、私の命を使って、アルを、アルエディーを救ってくれぇぇぇええええぇぇぇっ」
「お願いいたします、精霊王様。わたくしも、お兄様と同じ気持ち、彼を失いたくないのです。いとしいアルエディー様を、愛していますから、愛していますから、失いたくないのです。このような場所で、このような意味のない戦いなどで、ですから、お願いいたします。精霊王様ぁぁぁぁあ」
だが、しかし・・・。
〈いくら言われても無理じゃよ、今はもう精霊王ではないのじゃからな・・・、いや、わしが、精霊王でも無理なことじゃ。精霊には生命の生と死を司る力などもたらされておらんのじゃからな・・・。おぬし等の気持ちは痛いほどわかるんじゃが、どんなに願われても、叶えてやる事は出来んのじゃ・・・・・・・・・、はぁ、本当にアルエディーよ、お主はみなから好かれているようじゃなぁ。女子の泣き顔は見るに耐えんよ。今回限りじゃよ、今回限り。後でルシリアに何を言われるかわからんが、今回だけ、アルエディーに今一度、聖刻を与えてやろうとするか・・・。セレナよ、我が声を詠唱せよ〉
セレナは精霊王の言葉を聴くと、その曇っていた表情を一瞬にして輝かせて見せた。そして、デュオラムスの言葉を紡ぎ始める。
「*********************************************************************************************************。アル様に今一度、生命の息吹を・・・、アル様今お助けします、私の命を分け与えて・・・・・・、*******(プラペス)」
魔法の名を口にするとセレナの左手が黄色く眩き、左手は漆黒の闇のような光を放つ。そして、その二つの光を混ぜ合わせる様に両手を近づけた。その光は何度か七色に輝き最終的に白に近青の様な透明な光を放った。彼女はその光をアルエディーの胸部にそっと当てる。彼女の手を包むその光はやがてアルエディーの方に移り蒼白の光はゆっくりと彼の体中に浸透して行った。
騎士の全身を覆ったその光の輝きは元の状態より光を増し、より一層輝きだす。十数ヌッフ光は放ち続けそれが消え去った後のアルエディーの身体を覗くと彼が受けていた全ての傷がその痕跡を残すことなく消えていた。セレナはアルエディーの傷が癒えたのを確認した後、彼の口元に耳を近づけ息をしているのかどうかを調べ、
「・・・、大丈夫の様です・・・・・・・何とかなったみたいですね・・・」
セレナはそ探索探知器け言い残すとその場に倒れこんでしまう。彼女の使った治癒の魔法は禁術の一つで、自己の命を代償に相手を蘇生させる物であった。しかし、今回は精霊王の手助けと、他の者達も少しずつ代償を分けたために、セレナが死に至る事はなかった。だが、術者には相当な負担が掛かってしまうのはま逃れようもなく、彼女は気絶してしまうのであった。
† † †
セレナとその他多数の命でアルエディーを治癒してから9イコットもの時間が過ぎていた。現在アレフを含める王国の兵達はユーラの郊外にある帝国兵寄宿舎に来ていた。
「うっ・・・うぅぅうーーーーーん???ここは??ハハッ、あの世にウィスが一緒に来るはずがないよな・・・」
「アルっ、これは夢ではないのだな?本当になんともないのだな・・・アルエディー・・・・・・答えて欲しい。どうしてあの時、寸前で剣をそらした?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「黙ってないで答えて」
「あの時、喋った言葉、聞こえなかったのか?」
「聞こえなかったからこうして聞き直しているのではないか」
「言っただろう君は俺にとって大切な友だだから・・・、それにウィス・・・、君はその・・・・・女の子・・・だろう?」
『ビシュッ!』
アルエディーの言葉を聴いたウィストクルスは涙を流し、彼に平手打ちを浴びせた。
「ただ・・・・・・、唯そんな事の為に剣を逸らしたと言うのかっ?馬鹿にスルナッ」
更にウィスの頬に大粒の涙が零れ落ちた。そして泣く声を押さえアルに抱き付いた。
「俺にとっては大事な事だ・・・、俺はすでに尊敬するウォード父さんとリゼルグ様をこの手に掛けた・・・・・・、そんな俺に親友であるウィストクルス、君までも殺めろって言うのか?そんな事俺に出来るはずがないだろうっ!」
アルエディーはウィストクルスにどういう理由で彼の父親であるウォードと彼の国の前国王であったリゼルグに剣を向けねばならなかったのかを説明した。
「それではアルエディー、君はあの時の私の気持ちを考えてくれた事はあったのか?・・・、あの時、あの瞬間、私の剣が君の胸を貫いてしまった時のあの瞬間・・・・・あの時の手に伝わってきた感覚・・・、思い出すだけでも私の胸が張り裂けてしまうほど苦しい。嫌な苦痛を感じるのだぞ。そんな私の気持ちを理解してくれたのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「答えてッ!!」
「無い・・・、済まなかった」
「御免なさい、アルエディー・・・・・・、君が謝る事ではないのに・・・・・・・・・・・・・、知らなかったからアルがウォード様やリゼルグ王に剣を向けたって事」
ウィストクルスの言葉遣いが感情の起伏の所為なのか男性口調と女性口調が入り混じっていた。その事にウィス自身は気付いていない。
「私だってアルが私を大事だって思ってくれる本当の気持ちを知っていなかったのだから・・・」
「今度は俺が質問する。どうしてあの時、俺の言葉に耳を傾けようとしてくれなかったんだ」
「それはこの国の宰相マクシスの・・・・・・」
アルエディーに帝国の現状とマクシス宰相に母親と妹が人質になっていると言う事をありのまま全てを語るウィストクルス。
「あの時俺が口に出してでも言うべきだったのか・・・・・・、ハハッそうすればウィスに殺されずに済んだのかも」
「どう言う事なのですアルエディー?・・・一体、貴方が何を知っていると言うのです?」
「今、ナルシア皇妃様もエアリス皇女様も俺が保護している・・・」
「アルエディー・・・・・・・・・・・・それは真実なのだな?」
「なんでそんな事で嘘をつかなければいけない?それとも俺の事が信用できないのか?会いたいなら直ぐにでも会わす事だって出来るぞ・・・」
「そんな事はない、私が貴方を信用しない事、そんな事はない・・・」
「ウィス、俺の腰に付けていた小さな袋、知らないか?」
「これのことか?」
アルエディーはウィストクルスから渡された小袋を自分の物だと確認すると中から小さな通信機のような物を出した。そしてそれの電源を入れるとそれに向かって声を出した。
「レザードか?アルエディーだ」
「如何したのです?戦いに私の魔法が必要なのですか?今高貴な人達の警護をしていて大変忙しいのですよ」
「そうじゃないんだけど、その二人を今俺がいる場所にレザードの魔法でパパッッと送れないか?」
「無論、可能ですけど」
「どのくらい時間かかる?」
「数ヌッフで大丈夫ですよ・・・、それじゃ転送方陣魔法の詠唱を始めますのできりますっ」
「あっ、レザード場所分かるのか」
しかし、アルエディーの問いにレザードからの返事は返ってこなかった。渋る顔のアルエディーにウィストクルスが不意に言葉をかけてきた。
「アルエディー、何時から貴方は私が女である事を知った?答えてくれ」
「えっ?うん、それは・・・その俺と君が士官学校にいた時のことだ」
「幼年学校の時は全然気にしていなかったのだが・・・・・・、その何時も着替えとか俺や他の生徒とも一緒にしないウィストクルスが気になって・・・つい、その悪って思っていたけど・・・・・・・・・」
「それで私が着替えている所を覗いたのか?」
「・・・・・そう言う事になる」
「痴れ者めっ・・・破廉恥」
「ウグッ・・・」
ウィストクルスの言葉に返す言葉を見つけられずばつが悪そうに赤面するアルエディーだった。
「フッフッフハッハッハ、冗談だ気にするなアル・・・、君になら見られても・・・・・・構わない。それではなぜ今まで貴方は私が女である事を聴いて確認しなかったんだ?」
「それは聴いてはいけない事情でもあるかもしれない、って勝手に思ったからずっと黙っていた」
「・・・・・、そうかアルはずっと私の事を気遣っていてくれたんだな」
「ベッ、別にそう言うわけではないのだが」
「そうか知っていたのか・・・・・・・だったら私が貴方の前でもう自分を偽る必要もないのか?」
「なにをだ?」
「私の本当の名はウィスナ、ウィスナ・レインフォース。メイネス帝国皇帝ラウス・フィルデリックの本当の第一皇女・・・、でも王位継承権は持っていない」
「でも、どうして男だと偽る必要があったんだ?良かったら聞かせてくれ」
「構わない・・・・」
アルエディーの問いにウィスナは簡単に説明した。その理由とは皇帝の子は男子二人を必ず大元帥と元帥にすると言う決まりがあった。はじめの子供は喜ばしく男だった。しかし、後から生まれてきた二人はどらも女でエアリスが生まれた後、次の跡取りを望むことなく長女であったウィスナを強引にウィストクルスと名前を変えさせ男として育て上げてきた。そして、現在に至っている。
「女性なのに男性として過ごしてきて今まで辛い思いしてこなかったのか?」
「そんなこと一度も感じた事ない・・・、それどころか父上が私をそう育てようとしてくれたお陰で私はアルエディー、貴方に出会う事が出来た・・・それに・・・」
~ ~ ~
アルエディーとウィスナが他の部屋で会話している時、別室にいたセレナが目を覚ます。
「あれ、あれ??ここは何処でしょう」
「お目覚めになられましたか?ここはウィストクルス元帥閣下が監督する帝国第八装甲歩兵団の寄宿舎です。あっ、大丈夫です危害を加えるつもりはありません」
「・・・、有難う御座います。倒れた後ここに寝かせてくださったんですね・・・、あのお聞きしたい事があるのですが」
「ハイ、どのような事でしょうか?」
「アル様・・・言え、えっと、アルエディーと言う方は今何処に?」
「その方が居る場所までお連れいたしましょうか?」
「お願いいたします」
セレナはその兵士に連れられてアルエディーがいる部屋へと向かって行く。
~ ~ ~
「えっとウィスナでいいんだな?それで今、俺に何を言おうとしたんだ?」
「だからその私はアルエディー、貴方の事がスッ」
『ガチャッ!!』
ウィスナがアルエディーに何かを口にしようとした時、二人がいる部屋の扉が突然開き彼の無事を目に入れた扉を開けた者がアルエディーの前に駆け寄ってその存在を抱きしめて確かめる。
「アル様、アル様ッ、ご無事でしたのね。よかった、本当によかった」
「あっ、セレナ急にその抱きつかれても困る・・・」
「それでは急でなかったらよろしいのですか?」
「いやそれも・・・、セレナ今回も君が俺の命を救ってくれたのか?」
「ハイッ、そうです。私は何度だって私がどうなってもアル様のためなら貴方の事をお助けして差し上げます。だって私、セレナはアル様の事が大好きですから」
臆面もなく満面の笑みでアルエディーに彼女の抱く想いを言い切った。それを聞いたウィスナは複雑な心境に駆られていた。
「えっとだなぁ・・・、俺はなんって答えたらいいんだろう・・・」
「答えをくれなくても良いんです。アル様の傍に居させてくれるだけで・・・」
「セレナ・・・俺は・・・」
そこで突然、彼等のいる部屋の床に転送方陣の紋様が浮かび上がり辺りを眩しく照らした。
「転送完了。ただいま到着しましたよ???あれッ一体どうしたんですか?もしかして間とか悪かったですか?」
アルエディーがセレナの言葉に何かを返そうとした時、レザードがナルシアとエアリスを連れ魔方陣から現れた。そして、なぜかレザードの登場で一瞬ウィスナは胸を撫で下ろし、アルエディーは、
「あっ、いやそんな事ないけど・・・ご苦労だったなレザード。むぅっ、むしろたすかったかも・・・」と最後に何かを呟いていた。
「本当に母上とエアリスなのか?これは現実なのですね?」
「心配させていたようですね・・・、この方達のおかけでもう大丈夫です」
「ウィスナお姉さま・・・・」
ウィスナは妹であるエアリスを自分の方へ引き寄せ透き通るような妹の髪を撫でその存在を確かめた。
「エアリスッ、エアリスぅーーーっ!」
「フフッ、お姉さまがお泣きになるなんって生まれて初めてこの目にしました」
「よっ、余計な事は言わなくていいのだぞエアリス」
「ウィスナ、感動の再会を邪魔したくないのだが・・・、もう俺達と君の国が戦う事はなくなった。直ぐにでも停戦協定を出してくれっ!!」
「私の一存では・・・、この無事を兄上、イグナート大元帥に伝えなければ」
「だったら直ぐに彼の所へ向かおう。イグナートさんは今何処にいる」
「ハルモニア城にいるはずです」
「そうか分かったレザード魔法できるか?」
「準備万端、何時でもどうぞ」
「フッ、準備がいいな、ウィスナ、アレフ様達は今何処にいる」
「アレフ王なら客室に・・・、君アレフ王たちをここへお連れしてくれ」
「ハッ、ただいま」
それ程経たない内に客室で寛いでいたアレフ王と以下彼等の仲間を連れレザードの転送方陣魔法で一ッ飛びでハルモニア城へと移転して行った。
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