第三十八話 彼(か)の者達の真相

 不用意にもルナ・ムーンライトに手傷を負わされてしまったホビィー・デストラは傷付いた体のままヘルゲミル・ボルドーの所へと戻っていた。

「戻ったか、ホビィーよ・・・、フッ、随分と手酷くやられたようだな?今治療をしてやろう」

「いえ、この程度の怪我など大丈夫でスヘルゲミル様の手を煩わす必要は御座いません」

「フッ、そう言うな、お前に倒れられてもらっては色々と困るのだよ。私の片腕であるホビィーお前がな・・・」

 その男は降ろしていた両腕をゆっくりと上げ大きく両手を開きそれをホビィーに向ける。そして魔法の詠唱を始めた。

「エステネメル、フォー、ティギル、ダナ、クラド・・・、エスアエレプ、エヴィグ、イム、ルーイ、ヘルブ、レドゥヌ、イース、レウォープ、セェッド、ダナ、ドゥー。オス、アイ、エンプロール、オット、ケア、インム、レトローブ(訳・光と闇の精霊よっ!どうか女神と神の力のもとその息吹を我に与え給え、そう我願う我が同胞の回復を!)ハァアァアァっ、フゥンンッ!キュアラスト」

 ヘルゲミルが魔法の名前を渋く低い声で唱えると彼の両手の中心から穏やかな光を放つ球体が誕生し、ホビィーの方へと吸い寄せられて行く。そして、その球体はホビィーに触れると穏やかに彼の全身をゆっくりと包みこんで行った。ホビィーを包んだその光は徐々に彼の傷を癒し完全に傷口が塞がり彼の体から血の痕跡が消失すると同時に彼を包んでいた治癒の光も消え去って行った。

「ヘルゲミル様、感謝いたします」

 ホビィーは感謝の意を彼の使える主にこうべを垂れて示した。

「他の者同様、お前は私に頭など垂れる必要など無いのだぞ・・・。しかし、この魔法と言うものは便利だな、ホビィーよ」

 その男は感慨深い表情と声で傷の癒えた彼の同士にそう問い掛けた。

「ハイ、そうでありますね。魔法と言う力が私達の生まれた世界にもあれば今の様な一途を辿らなかったかもしれませんからね・・・」

「そうであろうか?余りにも便利すぎて生きるものが堕落してしまうとわしは思うがな・・・」

「それは使い方と管理の仕方しだいだと思います。それは我々が持っていた工学技術や機械技術の管理と同じはず・・・・・・。大変聞き苦しい事ですが現状を報告して置きます。あの者達の手に捕らえていた三人は・・・、それとネクロスが倒されてしまいました。ミストレスは戦いに傷付き何処へ逃げたようです。ネアは・・・行方不明」

「ホビィーよ、お前も知っておろう。ネクロスの複製が倒されたところで本体が残っていれば何の問題もなかろう」

「はいっ、そうですが・・・」

「それにあの複製は性格に欠陥があったのだから我々の手で処分するよりは手間が省けてよかったでは無いか。複製の記憶は随時、原型に転送させている。心配は要らん。それとミストレスだが彼女は元々ここの星の者であろう。いなくなった所で支障は無かろう。しかし、今まで協力してくれた事はちゃんと感謝しておる。それから、ネアはルーファにでも探させよう」

「姫君たちは?」

「もう必要なかろう。あ探索探知器けの大勢が動いて戦っているのだ。あの者達が両国内に戻ったとしても直ぐには争いは収まらないであろうからな・・・。収まる頃にはこの世界の神が再び、降臨している頃だ。フフフッ、アァアァ~~~ッハッハッハッハッ」

「本当にそう上手く我々の計画通りいくのでしょうか・・・?」

「フフッ、案ずるな、お前の心配性は昔から変らんな・・・。我々の性格・・・、この世界に現れて随分変ってしまった様な気もしないでも無いが・・・。フッ、だが、目的が達成されればそれも些細なことか・・・。ホビィーよ、暫くしたらあの遺跡に向かう。それまでゆっくりと休息をとるがよい」

「分かりました・・・、それでは私は自室で休ませてもらいます」


 ホビィーが休息してから約6イコットの時間が過ぎ去った。万全に休眠をとり終えたホビィーはヘルゲミルに伴って何処かの遺跡へと向かったのだ。二人が訪れているその遺跡はかつて二神戦争が勃発し、その戦いに負けた男神であるケイオシスが封印された後に築き上げられた二重封印が施された建造物である。今、異界からペルセアの星の世界に現れた二人は封印遺跡の最深部に姿を見せていた。

「・・・見よ、ホビィーよ。もう少しで第一の封印が解き放たれる。この封印さえ解ければ我等が世界とこの世界は繋がり、ケイオシスは二つの世界に破壊をもたらし、その後に新たなる生命の息吹・・・、真の再生をもたらすであろう」

「ケイオシスには復活してもらわねば困ります。そうでなくては我々のして来た行いは・・・、無意味無駄になってしまう」

「フッ、しかし、このような封印をほどこした者達は一体何を考え、何を思ってこのような処置をしたのだろうか?どう思うホビィーよ?」

 この遺跡の封印解除の方法とは?それは多くの者たちが一斉に命を落とした時に放出される魔源(蒼く輝く魂)が一定の量、この遺跡に設置されている巨大な宝珠の様な物に蓄積されると開封される様になっていた。それも戦争で失われた時の魂のみと限定されているようだった。

「今までこれを調べてきた文献から考察すると・・・、この星に生きる者達が神の下に再び大きな争いを行わない様に願って、その戒めの為でしょう・・・、しかし、愚かな事です。所詮は神に作られし不完全な生き物たち、お互いが、お互いを理解でき、分かり合えなければ争いなど消える事などないのに」

 その言葉はホビィーがこの世界に現れて自ら見出した答えの一つだった。しかし、ここは彼が生まれた世界とは違うのだ。神の存在理由自体もそれによって生み出された多くの生き物もたちもホビィーやヘルゲミルのいた世界とは違う。彼の導き出した答えがこの世界でも通用するとは限らない。そして、彼ら二人もこの星の本当の創世を知らなかった。

「ハッハッハッ、お前らしい答えだな・・・、破壊の後の再生に生まれる者たちが種族、人種を越えてお互いに分かりあえる・・・そうであれば良いのだがな」

「ヘルゲミル様、それが我々の願いであるはず」

「そうであったな・・・、それより、もうメイネスの者どもと接触する必要もあるまい。もしものためにこの遺跡の周辺の警戒だけしていればよかろう」

「分かりました・・・、しかし、もう私の方の手駒、多くは有りませんよ」

「出せるだけで良い」

「仰せのままに・・・、それでは遺跡の外で召喚してまいりますので失礼します」

「ウムッ、頼んだぞ」

 ホビィーはヘルゲミルの言葉を聴くと静かにその場を後にした。

 ヘルゲミルはケイオシスの復活はもう直ぐだと言う。ヘルゲミル等にとってケイオシスは破壊と創造の神だと信じていた。そんな彼の行動に対してアルエディー達はケイオシスが復活する前に帝国との争いを止めてヘルゲミル達の計画を阻止する事が出来るのであろうか?残された時間はもう多くはない・・・。

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