第五章 共同戦線
第三十二話 あふれ出る怪物
セフィーナが王城エアから攫われてから約十日の日時が経とうとしていた。ここ、ヴァレスティン城―魔方陣が描かれた一室の中央にある寝台にファーティル王国の姫、セフィーナ・アイネスは一糸纏わぬ姿で寝かされていたが、拘束具は一切つけられていない。
「お嬢さん、今から宝玉開封の儀式を行う。しばらくお静かに・・・」
セフィーナはヘルゲミルの言葉に返事をする事も、抵抗する意思すらも示せなかった。恐怖で脅えている訳ではない。バルガス地方から戻ってきた幻術士ネアによて恍惚状態になっていたからだ。
「それでは始めるぞ、準備は良いな、ホビィーよ」
ヘルゲミルに呼ばれたホビィーは軽く頭を下げて頷くとヘルゲミルと一緒に呪文の様な物を唱え始めるとその詠唱がしばらく続く。そして、それと共にセフィーナの体の表面に魔法文字の様な光が彼女を包み込むと彼女は寝台から少し浮かび上がり、次第に光の強さと文字の濃さが増して行く。呪文の詠唱が終わるとセフィーナを包んでいた光が彼女の腹部一点の紋様に集まり球状の形を形成していった。ヘルゲミルはその光の中に手を突っ込み何かを鷲摑みに取り出すと、
「ほぉーーーっ、これが虹色の宝玉か・・・。すばらしい力を感じるぞ」
取り出した虹色に輝く宝玉を覗き込みながらヘルゲミルはその中から感じる力に驚嘆し静かに驚いていた。
「ホビィーよ、この宝玉の力、我等が神を復活させる前に少し使って試してみよ」
「それでは早速・・・。我が声に応え我等が世界とこの世界を結ぶ次元の門を解き放ち・・・」
禁術士は宝玉の力の一端を解放させる為に長らく、呪文を唱えていた。それから、大凡、十五ヌッフ程で宝玉の色彩がめまぐるしく変化すると・・・、今までハーモニア地方にしか出現しなかった異形の怪物達がペルセアの星全土に
# # #
数多くの魔物たちが姿を見せたのはアレフ達が帝国内に居ると思われる妹のセフィーナを取り戻す為に探索軍を派遣し様とした時の事であった。しかし、異形の怪物達が王国内の町々を襲撃すると言う報告が相次ぎと届けられた為、探索軍―騎士アルエディーを筆頭に編成し直した五万千六百の兵と三将侯三十二万四千の兵は新たに現れた怪物討伐の為に王国内各地に兵を派遣し、それらの対処に当たる。
更に被害が出ていたのは何も王国内ばかりではなかった。サイエンダストリアル共和国もメイネス帝国も同じ様に魔物の出現で被害を受けていた。共和国は大統領ラリーの指導の下、完全に機能が復旧した軍隊を使ってその怪物達の一掃を開始する。
† † †
それはヨシャやイグナートがメイネス帝国、帝都にあるユーラ城に到着した時の事であった。
「マクシスっ、これはいったいどう言う事だ?答えろっ!なぜ我が国の人々があの異形の物達に襲われている?アレラはお前の連れホビィーと言う者が操るモノではないのか?どうなんだっ」
「ムッ、あの者は向こうから私に協力はしてくれるがけして私の言う事は聞くことはない・・・、私が所存の知る所ではないのだよ。何だその目はイグナート大元帥殿よ。私に意見すると申すのか?エアリス皇女とナルシア皇妃がどのようになっても良いのか?ウウンッ!?」
宰相は鼻で笑うようにイグナートにそう高慢な態度で口を向けていた。
「もうその手には乗らんぞマクシスっ母君と我が妹はファーティルのアレフ王の所に居るはずだ」
イグナートは腰に携えている剣に手を当て抜刀の構えを取りながら強気にその宰相を見据えた。
「フッハッハッハッハッハッ・・・、残念だったようですなイグナート大元帥殿。二人なら我が手に戻ってきておるぞ・・・、疑いの目だな。証拠を見せてやろう」
イグナートが疑いの眼差しを向けるとマクシス宰相は鼻で軽く笑いながら指を鳴らした。すると彼の後方に二つの小さな魔方陣が描かれその中からエアリスとナルシアが現れた。偽りでない本物の二人。その二人の姿を見てイグナートは唖然となってしまった。
「イグナート大元帥殿、二人のお命が欲しくばそこを動くなかれ。フッ、どうです信じていただけましたかな?今しばらくは私のため従ってくれることを願いますよ・・・」
マクシスがその言葉を言い終えると再び指を鳴らして二人を元の場所へと返還させた。
「フッ、わたくしとて国の民に被害が出るのを望んでいるわけではない・・・、直ちに軍を動かしそれらを退治してくれたまえ。それが終わればまた共和国と王国と戦ってもらうのでしっかり働いてくだされよ・・・、それでは失礼大元帥殿」
イグナートはなぜ再び二人がマクシスの手に戻ってしまったのか大きな疑問を抱えながら共和国の遠征の帰還から休む間もなく国内に蔓延る怪物退治に全軍を持って出撃していった。
ファーティル王国、メイネス帝国、サイエンダストリアル共和国。いずれの三国も異常な数の異形の怪物達の討伐とその猛威に晒された市民の救済に時間をとられていた。魔物の動きが沈静化し始めたのは新たな出現から約二ヶ月―翼叡の月、エア王城襲撃事件から約一年経った時の事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます