第二十七話 戦う姫君!?
メイネス帝国との開戦から四ヶ月、地穣、龍脈を通り闇息の月、季節は秋から冬に移っていた。ファーティル王国アルエディーの軍とキースの軍、善戦はしていたがその進行はけして早いとは言えなかった。何故なら、帝国兵と異形の怪物、その二つが王国軍の前進を苦しめていたからだった。特に怪物は昼夜問わずに奇襲に近い形で突然、王国軍の前に現われ攻撃して来たり、アルエディーやキース達の進行先にある町々で暴れたりと国側に大きな損害をもたらしていた。
アルエディーの軍は現在、ヴァレル丘陵中間地点にあるコーテの町の南西2ガロット離れたところに本陣を立て少しずつ王都の方面へ向かっていた。現在の兵数は合計三万千四百六十八、兵の補充はないが途中で合流したレジスタンスが五千加わっていた。しかし、彼等はアルエディーの指揮下に加わった訳ではないので頭数として加算する事はできない。
今までの帝国兵との大きな戦闘回数は約十八回、それに対して怪物達とは七十二回にも及んでいた。そして、今日もまた曇り空の中、数にして大よそ三千、若しくはそれ以上の異形のカイブツが何処からともなく西5ガロット先に襲来と主に諜報活動を担当している霧姫から報告が有った。その為、雷牙、イクシオス、シュティール兄妹とアルエディーの部隊そしてセレナが指揮する僧兵団を中心、約三百でその迎撃に当たった。
中央にイクシオスの竜機隊ドラグゥーン九機、左舷にレザード、アルティアの魔法兵五十とセレナの僧兵百。右舷にケリー率いる騎馬隊百二十。この戦いにはセフィーナも参加していた為にその護衛としてアルエディー下、騎馬から降り軽装した兵が三十、レザードと共にいた。
恋する乙女はなんとやら?セフィーナはその想い人のために姫と言う身分を忘れ魔法を駆使して積極的に戦いに参加していた。特に異形の怪物戦と。彼女のその想いを知ってか、知らずかアルエディーは毎度の如くセフィーナが戦いに参加することに対して不安と心配に駆られていた。そのセフィーナが主に使用する魔法は光と水そして地の精霊の力を借りた物だった。攻撃魔法と補助魔法を適度に操り戦う味方兵を上手く援護していた。
魔法を彼女に教えたのはアルティアとレザードの二人。ヒューンで有りながら魔法の知識の吸収の速さ、魔力の上手な制御、その才能にデューンとヒューンのハーフの兄妹はとても驚いていた。
「いやぁ~~~、セフィーナ姫様の魔法の才は大した物です。これも貴方の存在が大きいからでしょうか?アルエディー」
「レザード、何を訳の分からない事を言っているんだ?」
「恋する乙女はなんとやらです。貴方は果報者ですよ。ワッハッハッハッ」
「はぁっ?俺とセフィーナ姫はそんな関係じゃないぞ!」
「面白そうな話しじゃのぉ、わしもまぜておくれじゃぁ~~~」
戦いの前に召喚されていた精霊王がその話しにまざり、
「あれ?おかしいですねぇ~~~、アレフ王からは貴方とお姫様は許婚と聞いたのですけど」
「んなぁっわけあるかっ!!アレフの奴また勝手に思い込みやがって」
「なんじゃ違かったのか?てっきりわしはそうだと思っていたのじゃがなぁ」
「まぁ、そうでしょうね、貴方にはセレナさんがいますからね」
「だから何でそうなるんだっ」
「違うんですか?それじゃもしかして副官のルナさんと、フフッ」
「ルナお嬢ちゃんか?あの娘も、ええおなごじゃからのぉ、ほっほっほ」
「なんでそこで変な笑いするっ!叩き斬るぞデュオ爺もレザードお前らそんなに誰かと俺をくっつけたいのかっ!」
「そうですね、そのあと色々と面白そうですから」
「チッ、俺を餌に面白がって・・・、そう言うレザードこそどうなんだ?」
「わたしですか?・・・、あっ、敵が迫って来ましたよ!しっかりとお姫様の護衛をするように、それでは!」
「ぁあっ、逃げるなレザード!!」
言いたいことだけ口にするとレザードは短距離転送魔法を使って彼の部隊ごと消えてしまった。
「レザードの言う通り、ちゃんとセフィーナ姫殿をお護りするのじゃよ」
「言われなくたって分かっている。俺はロイヤルガードだ!それに姫に傷一つでも負われてしまっては部下に何を言われるか判ったもんじゃない」
軍の士気はアレフ王とアルエディーの信仰性により高く維持されていた。しかし、そ探索探知器けではない。セフィーナやセレナと言った象徴的存在がいた為、その効果は絶大だった。もし二人に何かあればその責任はアルエディーに問われ彼女たちを指示する兵に袋叩きにされた挙句、土の中に埋められるのは必至だった。その騎士はそんな事を悩みながらその姫のもとへ馳せ参じていた。
「姫、無理はしないでください」
「セフィーナっ!アルエディー様、何度申せば分かっていただけるのですか?それと敬語もなしですからねっ!」
「いや、しかし・・・、分かりました・・・、分かったセフィーナ、無茶しないでくれ」
姫に睨まれたその騎士は渋々それに従った。
「アルエディー様、分かりました頑張りますね」
その騎士にとって、その姫の頑張るは無理をすると言う言葉と同義語だった。彼は心中で深い溜息を吐く。
「皆様、私にその力をお貸しください」
「おっ、おぉおおおぉおおっ」
セフィーナのその言葉に周囲にいた僧兵たちは声を揃えてその意気を示し、接近して来た怪物達と戦闘が開始される。
アルエディーと彼の軽装歩兵達は魔法を詠唱中の僧兵を護るのがその役割だった。一定の距離をとって魔法を放っても空中を高速で飛来してくる物や空間を跳躍してくる魔物に詠唱時に攻撃を受けてしまう。それから護るのがアルエディーの指揮する部隊だった。
〈アルエディー様が見ていてくれます。頑張らないといけませんわねっ!〉
「nanatunohikari・・・」
姫の魔法詠唱が始まる。その間、アルエディーとその部下達は飛来してくる異形のカイブツを倒しながらセフィーナのそれが終わるのを待った。
「SEVENTHRAY!」
詠唱が始まってから14ヌッフ、セフィーナからセブンス・レイと言う名の魔法が叫ばれると、上空に色違いの七つの魔方陣が出現しそこから魔方陣と同じ色の光が放たれた。それら七本の巨大な光の筋は勢い良く地上に降下しながら螺旋状に絡み合い光の軌跡を描き密集する異形のカイブツへ突き刺さった。詠唱時間の長さに比例し、その魔法の威力は大きかった。六十体以上もの怪物を一瞬にして消滅させたのである。
「ふぅううぅ~~~。アルエディー様、少々疲れてしまいました。ほんの少しだけお休みさせてくださいませ」
姫は可愛らしく溜息を吐くと芝生の上に座りこんだ。
「セフィーナ、ずっと休んでいてくれても構わないぞ」
「フフッ、ご冗談を。直ぐにまた参戦いたしますよ」
「おまえらっ、姫が休めるようしっかり護るぞぉーーーっ!」
「了解でありまぁーーーすっ」
セフィーナが休んでいる間、アルエディーと部下達は彼女と同じぐらいの敵を倒していた。再び彼女が魔法を唱えられる状態になると先ほどと同じ物を敵陣に放ちまた休む。そして、アルエディー達がそれを護る。その繰り返しが幾度となく続いた。
遠くでセフィーナが放つ魔法を見ていたセレナは何かの感情に煽られる様に彼女もまた大魔法を何回も使用していた。セレナの護衛を頼まれていた雷牙は詠唱中の彼女を必死で護る。
「セレナ殿、その様に何度も大きな魔法を使うとお体に悪いで御座るよ!」
「いいえ、大丈夫です。雷牙様は私の詠唱の援護をお願いいたします」
「さようで御座るか・・・、分かったで御座るよ」
詠唱が始まったセレナに近づく飛翔する物の怪を脇に挿す二本の刀の一つ関の孫六・兼元と彼の技で地面へと斬り落として行った。詠唱中のセレナの周りが薄っすらと光に包まれる。
「お願い、元いた世界に帰って・・・、*****************」
相手側の中心の大きな魔方陣が描かれるとその魔法陣と同じ大きさの光の柱がその中から天空へ向かって伸びて行く。その光の先の空を見上げると空間の裂け目が現れていた。そして魔物の軍勢はそれに吸い込まれる様に上昇し、その裂け目が二、三十体の魔物を吸い込むと自然に消えて行った。セレナはそのホーリー・サークルと言う光と闇の精霊の力を借りた魔法を雷牙と複数の兵に護られ休み休み唱えていた。彼女がその魔法で葬った数はすでに二百近くを超えていた。
戦いが始まって1イコットと半が経とうとしていた。レザードとアルティアは仲間の兵に護られながらその時間ずっと魔法を放つため精神集中していた。
「皆さん、今まで待たせて申し訳ない。いきますよぉおぉお~~~、*************(アイス・スコール)」
魔法の言葉と共に右手を天高く掲げるとレザードの足元に出来ていた小さな魔方陣からその大きさの光の柱が天に集まる灰色の雲に突き刺さった。怪物直下、一点だけ灰色の雲の色がいっそう濃くなるとチラチラと雨が降り注ぎ、小さな氷交じりとなり、やがて鋭利な氷槍となりて、その空間に氷の槍が激しく降り注いだ。多くの魔物が滅多刺しになりあの世へと旅だって逝く。そして、レザードのアイス・スコールと言う魔法はあっという間に三百以上もの怪物を倒して行った。
「私も・・・、そろそろ良いかなぁ?・・・、大気に流れる水の精霊よ氷となりて天の精霊の疾風と共に踊らん」
アルティアはもっていた短い宝冠杖を器用に回しそれを前方に向けた。
「**********(コールドストーム)」
彼女がいる部隊と怪物達がいる間の距離の中間地点に小さく風が渦巻き、やがてそれは肥大し竜巻となって敵側に前進しながら天に上昇し行く。その竜巻内は氷点下百二十七度、大抵の生物は凍り付いてしまう温度だった。数百体の魔物を飲み込み、凍りつかせ天高く持ち上げている。やがて多くのそれらを飲み込んだ竜巻は動きを止め一瞬にしてその姿を消し去った。上空高く上げた怪物は地上をめがけて急速降下して、最終地点に到達すると凍り付いていた体が綺麗に粉々に砕け散って行った。約四百近、魔物は砕け散り周囲に氷の霧を作っていた。
「はぁーーーっ、ちょっと大掛かりだったかな?疲れてしまいました。お兄さん方、すいませんけどあと宜しくお願い致します・・・」
ペコリと周りにいる護衛兵達に頭を下げるとアルティアは静かに地面に座りこんだ。
「アルティアちゃんに一匹たりとも近づけるなぁーーーーーーっ!」
「をぉおおぉおおおぉおおーーーっ!!!」
彼女もまたその可愛さからアルエディーの指揮する軍の中で独自の地位を作り上げていた。
イクシオス率いる竜機隊―九機はそれら各々の性能を生かして千百体以上の群がる怪物を潰してた。彼が乗る白色のドラグゥーン、タイプΣは陸海空、全域万能型で接近戦、魔法砲撃が可能で動力は光、攻撃に火と水、天と地の精霊を場合によって召喚し使い分け、それ等を適宜、使いこなし累計二百二十の魔物を倒し、いまだに活動中だった。
「アイスニィードルッ!!」
ドラグゥーンの左指先に水の精霊が集約しそれが無数の氷の刃となって何体もの竜機と同じくらいの大きさの怪物を同時に倒して行った。
「コールド・リッパぁぁあ~~~っ」
ドラグゥーンの右に持つ剣が氷に覆われると、さらに鋭利になって相手を切り裂く。
「なんかこぉ、技の名前を叫ぶと燃えるなぁ~~~。ティークニックのおっさんが言っていた意味が良く分かるぜ」
これまで出撃回数が多かったため、新型の乗りこなしにもなれ今では魔力の調整も上手く行い長時間の戦闘も可能だった。イクシオスとは別の場所で行動していた赤いドラグゥーン・タイプΩⅠ搭乗者アルファス、青いドラグゥーン・タイプΩⅡ搭乗者オミクロス。接近戦を得意とする二体。ΩⅠは火と地、ΩⅡは水と地の精霊の力を借りて駆動していた。
兄弟二人の息の合った連携で二百八十近く倒し操縦するための魔力が尽き敵のいない後方で休んでいた。ドラグゥーン・タイプΞ紫色の機体、搭乗者はベトア、タイプΞダッシュ黄色の機体にはラムダスが乗り、藍色のタイプΞダブルダッシュはカペラと言う人物が乗っていた。いずれも低空戦型タイプの物で一撃離脱を目的として作られた物。彼等の相手は主に空中浮遊する怪物たちだった。三人で二百七十六を倒した所で戦線から離脱。飛空型は他の機体より移動にいくらか多く魔力を消費する。光と天の精霊の力を借りて作動している。
「よしっ、ここの奴等はいっそう完了だ。ロークス、デートリック、二人も帰還する分しか魔力残っていないだろ?他の所も大分片付いただろうから戻って良いぞ」
「おーけぇ~~~、了解したぜ、ゼトア副隊長」
「俺は戻るけどゼトアはどうするんだ」
「私はイクシオスと合流してもう暫く戦うつもりだ」
「そう、わかった。ロー、俺達は戻ろうぜ、ここにいてもし方がない」
「そんじゃ戻るとしますかリック」
艶のある黒い機体に乗るのが副隊長ゼトア、タイプα以前イクシオスが乗っていた陸戦万能型。闇が動力で火と地の精霊を攻撃に用いていた。ロークスが動かす緑の迷彩が施されたタイプβ、近中距離支援型で水と地の精霊を借りた魔動砲で攻撃をする。デートリックの駆る藍色のタイプγは中遠距離支援型。火と地と光の精霊を駆使した火力の高い大型魔動砲で味方を支援。ティークニックの作った物で一番効率のよい魔力変換機が搭載されている。彼等三体で倒した数は五百以上。その内のゼトアが約二百十、残りを同じ位の割合でロークスとデートリックが沈めていた。
† † †
作戦開始から約4イコット、魔物の軍勢はほぼ壊滅していた。王国兵―死傷者、重傷者共になし、軽傷者三十六名ほど。こちらの損害は全体の一割程度でしかなかった。
「はぁあぁあ~。皆様、お疲れ様でした。そして、ごくろうさまです・・・、わたくしも疲れてしまいました」
セフィーナは地面に座りながら回りにいる兵士と騎士に向かってそう言っていた。
「アルエディー様、セフィーナは歩けないほど疲れてしまいました・・・、その・・・、その抱っこしてください・・・」
「せっ、セフィーナ、何を言っているそんなこと出来るわけないじゃないか。みなの前で恥ずかしい・・・」
「アルエディー隊長殿、それくらいセフィーナ姫様にして差し上げても良いではありませんか!隊長殿も姫様がど探索探知器けご健闘されたか存じているでしょうに」
セフィーナはこのたびの戦いで約二百体近くの異形の物を葬っていた。彼女が参戦した十八回の異形のカイブツ戦の内で過去最高の数だった。
「そうですよ、隊長それくらいしてあげても良いと思います僕も」
「減るもんじゃないんだからいいじゃねぇ隊長さん。姫さんが可愛そうだぜ」
「そうだ、そうだぁ~~~っ!」
「小僧、セフィーナ姫殿があれ程、頑張ったのじゃぞ。それくらいしてやることもできんのか!まったく甲斐性のない男じゃのぉ~~~おぬしは」
「デュオ爺も、お前等も好き勝手言いやがって、まったく・・・・・・。はぁあぁあ~~~」
その騎士はうなだれ溜息を吐きながらセフィーナのもとへ移動し彼女を抱えた。
「アルエディー様、どうしてそんなお顔をするのですか?もぉおおおぉっ」
その騎士が呆れ顔でセフィーナを抱えたのでそれを見た彼女は文句を言ってから膨れてしまった。
「フッ、セフィーナが二十三歳になっても我侭、言うからだ」
「わたくしが我侭を言うのはアレフお兄様とアルエディー様だけです」
「ハイハイ、そうでしたね・・・」
「なんですのぉ~~~、その言いかたぁ、ひどすぎますぅ。その様な事を言うアルエディー様の頬をこうして差し上げます」
「イテッ、あいたたたたたっ、止めてくれ、セフィ!」
姫に頬を抓られそれを痛がる騎士。その二人のやり取りを眺めていた周りの兵士達に笑われながら彼等は本陣へと帰還して行った。
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