第二十八話 天騎馬長VS闇都将軍
「そこをどけぇーーーっ、たとえアンタが僕と同じ女でも邪魔立てするなら容赦しないよっ!」
「そう言われて易々と退けるものかっ!!」
「だったら三途の川に渡ってもらっちゃうよっ!それっ!!」
天馬に乗りながら手に握るセント・ハルバードを巧みに操りミルフィーユのそれが疾風の如く相手に向かって連突された。
「フンッ、その程度!」
賢く手懐けた鷲獅子を上手に駆り、闇都将軍のイリスはそれを避ける。そして、相手の隙を見て素早い動作で何本もの弓矢を同時にミルフィーユ天騎馬長に向かって放った。
「そんな物、僕には効かないよっ!」
ミルフィーユは器用に槍を回転させてそれらを切り落とした。
「それならばっ・・・***********・・・、***********(アイス・アロー)」
短い詠唱後、イリスの掌に氷塊が発生しその中から幾筋もの氷の
「ルイっ、上手くよけてっ!」
「ヒヒイィーーーンッ」
「凍っ痛ぅぅっ」
ミルフィーユの乗るルイと言う名の天馬が氷の矢の間を縫って回避するが幾つかが彼女の腕や体を掠めた。
雪がチラチラと降る光聖の月、王国、帝国の両軍の兵達は新年を戦いの中で向かえていた。ミルフィーユ率いる天騎馬隊十五と他の指揮官達が連れる二百人近兵士と共に斥候隊として王都から約286ガロット手前のスウェル平原と呼ばれる場所で戦闘を繰り広げていた。
闇都将軍イリスは約三百の兵でそれらを迎え撃つ。その中には彼女が直々指揮を取る特殊飛兵部隊三十名がいた。その者達はみな鷲獅子を操り王国兵と剣を交える。三千近、イリスの他の兵達は南から進行して来た王国レジスタンスの討伐に向かっていた。そして、彼女と共に行動していた地龍将軍ソナトスは残りの兵を駆使し別の場所でアルエディーの副官ルナが取った作戦を阻止しようと動いていた。
† † †
イリスは備えの矢が無くなると腰に差していた剣を抜き魔法とそれを交互に使い分けミルフィーユに攻撃をしていた。それに対してミルフィーユはイリスの放つ魔法を補助魔法でかわし、槍で剣を受け止めてる。
「アンタ、しつこいわよっ!さっさとボクに殺られちゃって」
「フッ、この程度で退けるものかよ。これでも私は将軍だぁっ!たあぁっ」
『ガギンッ、ガシュッ‼』
二人の女戦士が剣と槍の打ち合う音が乾燥した空気の中響き渡る。
「アルにぃの為にもボクこんな所で負けるわけにはイカなんだよ。ハッ!!トォオォーーーっ!」
「男の尻を追うような輩に私が倒せるものか。セイッッ、ヤァッ!」
「違うっ、アルにぃはボクのお兄さん、あんたが思っているような関係じゃないんだよっ!堕ちちゃえぇーーーっ!」
ミルフィーユの槍が的であったイリスを外れ彼女の乗る鷲獅子の翼に当たる。
「クッ、卑怯なっ!それでも騎士かっ!!」
翼に傷を負った鷲獅子はその痛みに耐えゆっくりと地上に降下して行く。
「チッ、僕としたことが・・・、悔やんでも仕方がない。追えルイっ!」
空中戦を行う者同士でそれらが乗る生き物に対して攻撃をしてはいけないと言う暗黙の了解が存在していた。しかし、空戦魔動機同士では別である。ミルフィーユはルイを駆って地上へと走って行き地に足を着けたイリスに槍を振り下ろした。イリスは持っていた剣を楯代わりにそれを防ぐ。
一度槍を引き、天騎馬長は天馬から降りて、闇都将軍と対峙した。暫くの間、剣と槍の攻防が続き、お互いに防具に覆われていない場所に無数の小さな切り傷が出来ていた。
二人の決着は中々つかず平行線を辿っていた。そして、それを中断させるようにイリスの副官ミナ・サイキがその場に姿を見せ、
「イリス、そこまでよっ!それ以上の戦いは駄目。ここは私に任せて後ろに戻って頂戴」
「ミナ、何を言ってるの?そんなこと出来るわけないでしょう!」
「駄目です。イリスに何かあったらヨシャ元帥閣下が悲しみますよ」
「お義父様が・・・、しかし・・・」
「イリス将軍!将軍なら戦いの退き際くらい考えてください。無駄に兵の命を散らすのはよろしくありません。今回は私達の負けです。殿は私が務めさせていただきますので、さあ、早く」
「ミナ・・・、分かったよ、全軍こぉ~~~たぁーーーいっ!」
大声で叫ぶと近くにいた兵から徐々に後ろへと動き出す。そしてそれに続く様に彼女も・・・。
「この僕が将軍を逃がすわけないでしょ、きっちりその首獲るよっ!」
「君がイリスを獲るですと?バカバカしい十年早いわ。代わりに私が相手をして上げます」
「アンタなんかに用はないっ!どいてっ!!」
後退するイリスを追ってその場から駆け出そうとするミルフィーユにミナが半獣人かして立ち塞がった。素早く動くウサギのような半獣人化したミナに翻弄されミルフィーユはその場から動けず何回も爪の攻撃を食らっていた。そして、遂にミルフィーユの大腿にミナの爪が食い込み苦痛に顔を歪めながらその場に片膝をついて倒れこむ。
「これでおわりっ!!」
しかし、ミナの攻撃はミルフィーユに命中することなく途中で止まってしまう。ミナは攻撃していた方の上腕部分をもう片方の手で押さえ血の流れを止めていた。
「それ以上の戦いは無用だ!直ぐに退いてくれるなら命だけはとらない」
その声の持ち主が攻撃をしようとしていたミナに短剣を投げつけ阻止していたのだった。
「貴方のような人が相手ではいくら命があっても足りないわね。その言葉、受けてあげるわ」
闇都将軍の副官は脱兎の如くその場を去って行く。
「全く、ミルフィは・・・、勝ちが分かったのなら深追いはするなといつも言っているだろうがっ!」
そう言いながらミルフィーユの怪我をしている部分の止血をして腰に付けている道具袋から包帯を取り出し消毒をしてからそれを巻きつけた。
「ダッテ、だって、アルにぃ、僕、さっきもう少しで将軍を討ち取れたんだよぉ~~~。せっかくアルにぃのために頑張ったのに・・・」
軍を幾つかの部隊に分けて移動していた千騎隊はミルフィーユ達が戦っていた場所に合流していたのだ。アルエディーは散らばっていた天騎馬隊の一員にミルフィーユの位置を聞くと数名の部下と共に駆けつけたのだった。
「そうか、よく頑張ったなミルフィ。よし、よし」
「えへっ、僕って偉い?」
アルエディーに頭を撫でられた二歳下の従妹は嬉しそうな表情を浮かべそう口にしていた。
「えらい、偉い。さあ、早く帰ってちゃんとした傷の手当てを受けてくれ」
「ハァ~~~イッ・・・、ねえねぇ、頑張ったご褒美にいっぱいミルフィーユを食べさせてよぉ」
「菓子が食べたいだ?そんなもの軍の食料の中にあるかぁーーーっ!」
「うぅーーー、近くの町まで行って買ってきてよぉ~~~」
「駄々を捏ねるなミルフィっ!!」
頭を振って駄々を捏ねている従妹に向かってその兄は彼女の頭を鷲掴みにして制止させた。
「食べたいったら食べたいのぉ、買ってよぉおぉお~~~っ!」
「だったら金、渡すから自分で天馬にでも乗って買ってこい」
「ぶうぅぅーーーっ、僕怪我人なんだからそのくらいしてくれても良いじゃない。アルにぃのけち」
「ああ、分かった、分かった。全く戦いが終わるとガキの様になりやがって」
「二十二にもなる女の子にガキ何って言うなんて酷いよぉ」
「一端に体だけ成長しやがって頭の中は十二年前のままじゃないか」
「そんなこと無いもんっ」
二人のそのやり取りにアルエディーの連れていた部下達が小さく笑っていた。その会話中に戻ってきた天騎馬隊の一人、副隊長のプラチナがそんなミルフィーユを見て溜息をついていた。
「ミルフィーユ隊長、余り恥ずかしい所をアルエディー千騎長さんに見せないでください。部隊の恥です」
「プラチナか?俺はまだ他の場所でやることがあるミルフィーユを頼んだ」
「待ってよぉーーーっ、アルにぃ~~~、まだ話し終わって無いよぉ」
その騎士はプラチナの返事を聞くと何か言っているミルフィーユに向かって軽く笑いながら部下を連れて彼等が乗る馬と共に去って行った。
~ ~ ~
その頃、西から進軍していたキース公爵とアルテミス、クロワール率いる王国兵団は王都があと少しで見れるカロナ平野で魔物が入り混じる帝国兵と戦っていた。その中に混じる魔物は今まで以上に強力でさらに個体で襲い掛かってくるのではなく何体かのしっかりとした連携で襲い掛かってきていた。そんな怪物たち相手に今まで優勢であったキース達は苦渋を舐めさせられていた。
「ほっほっほ、あのモノ達も少しは賢くなってきていると言うことか・・・」
「クロワール殿、笑っていないで何か策は・・・」
「人でないあのようなモノ達に策など通ずるわけなかろう・・・、しかし、魔法には弱いようでな。魔法兵を中心に戦うしかないじゃろうて。詠唱の時間差を利用してな」
「頼りはアルテミス殿達に魔法兵団か・・・」
遠くで魔法兵団と応戦するアルテミス。彼女は護衛兵に護られながら大魔法の準備をしていた。大魔法を初めて体系化したのは何を隠そう彼女だった。
「天に輝く星々に潜む多くの光の精霊達よ、我にその寛大な御慈悲を・・・*********(エレメンタル・スターズ)」
空間に幾つかの光輪が誕生するとその輪の中から輝く光の熱源の柱が勢いよく地上に降り注ぐ。それに触れた怪物達は跡形もなく消滅して行った。
「ふぅ~~~、大魔法の連続しようは疲れるわぁ。それにお肌に悪いし・・・。もう少し効率が良くなる様に研究しないといけないわね」
「後は我々に任せてアルテミス様は裏に下がってお休みしてください」
「有難う、そうさせてもらいますわ・・・、それでは皆さんも無理をしてくださいね」
多くの異形のモノを葬った彼女は護衛兵に護られながら後退して行った。
~ ~ ~
いまだにウィバール湖で軍を展開している三将侯とそれを迎え撃つ帝国軍元帥。王国側の総数は十一万七千八百、それに対して帝国軍は七万九千八百・・・、けして三万もの兵を戦いで失った訳では無い。ソナトスやイリス の軍の援護をさせるため約二万六千の兵を水星将軍コースティアに持たせ王都方面へ向かわせていたのだ。
「はぁ~~~、向こうも中々どうして頑張るものですね・・・特にあのルデラー将軍、流石は水神と言われるだけの事はある」
「もう少し手加減してもらいたいものです」
この元帥は一人で約九万もの兵に指示を出していた。無論各部隊にはそれの命を受け指揮を上官たちは存在する。
囮の軍であった三将侯達はウィバール湖上で戦うだけであってけしてそこから前進しようとはしなかった。そして、それを知っていてあえて帝国元帥はその策に乗っていた。しかし、闇都将軍や地龍将軍たちが苦戦を強いられていると言う報せを受けると直ぐに水星将軍にもといた六分の一の兵を持たせ移動させたのであった。ウィバール湖上の戦いは純粋な兵同士の戦いで一切異形の怪物は混じっていなかった。
~ 三将侯本陣 ~
「アルエディー達はまだ王都に辿り着けないのか?コースティアの軍が南に向かってしまったぞっ!」
「しょうがなかろう。報告ではアルエディー殿たちもキース公爵殿達の軍も異形のモノどもと一緒に帝国兵を相手にしているのじゃから・・・」
「そうだぞ、ルデラー、聞けばアル坊たちは私達が戦う敵兵の何倍以上の化け物どもと戦い、それに付け加え帝国兵まで相手をしている」
「そうだったな・・・、ここで我々が踏ん張ってやらねばいかんのだったな」
「この俺がもう少し派手に動いてやるか!」
青龍侯の言葉に偽りはなく他の将侯と共にこの日よりさらに兵の指揮に力をいれアルエディーやキース達が王都近くに本陣を置く日までヨシャ元帥が指揮するの兵を半分近くまで減らしていた。
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