第十九話 流浪の剣客
昼と夜が逆転し空には三つ子月が昇り始めた頃、アルエディー達はキャンプをたたみ王国道本線を少し外れた舗装されていない道を使って移動しはじめた。
セレナとアルティアはまだ隠行魔法の疲れが取れず※エギンの背中の上でまだ寝ている。アルエディーはセレナを支えながらレザードは妹を支えながら五羽のエギンで移動していた。林の奥の方からオウロの鳴き声が聞こえるその脇道を月明かりのみで進んで行く暗視を持つエギンは快適な速さで障害物を避け走っていた。
「みんなはここで待っていてくれ」
静かにそう言うとエギンから下りてその音の方にできるだけ静かにそしてできる限り早く移動して行った。
騎士は移動しながら大剣を出し、いつでも戦えるように体勢を整えていた。その方角に近づくと・・・、
『ガチッ、キンッ、ガチャッ、キィーーーンッ!!』
『ギュゥワェアァーーー』
音の場所に到着した時、月明かりに照らされながらこれまたアルエディーにとって見た事がない衣服をまとった男女一組が数体の異形の異形のカイブツと対峙していた。二人は劣勢を強いられている様だった。片刃の武器を持ち、赤茶けた肩ほどまで伸びた髪を
※トルーチェとは違う別の無鳥翼科のモウスト。速さはそれの二倍くらい
男は絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けてくる魔物のそれを避け、女も怪我をしながらも迅速な動きで躱していた。
「そこの二人、助けにはいるぞっ!」
アルエディーは大剣を上段に構え大きく跳躍し、一体の怪物を一刀両断する。
「助太刀、かたじけないで御座る。霧姫、お前は後ろに下がっているで御座るよ!」
その男は言葉と同時に眼前の敵を見事な突きで串刺しにした。
「雷牙兄様、わたくしだってまだ戦えますっ!」
霧姫と呼ばれる女はそう言うと何処からか晒し木綿を取り出し、血を流している所にそれを素早く巻く。そして、左中指と人差し指を右手で覆って印を作ると何かを言葉にした。すると彼女の眼前に蛇の様にクネクネと蠢いた炎が出現する。
「行け、炎蛇!そのほうの物の怪を食らい焼き尽くすのじゃ」
炎は空中をうねり一体の怪物に纏わり着くと勢いよく燃えだしそれが消えると灰になった怪物は風と共に消失した。
三人の攻撃により徐々に異形のカイブツの数が減って行く。最後の一体を助けた男が捕らえ切り倒すと待たせていたはずのアレフ達がやってきた。直ぐに戻ってこないアルエディーを心配して駆けつけたのだ。
「アル、無事か?」
「戻ってくるのが遅かったので来てしまいましたよ」
アレフとレザードの二人は言葉の届く範囲に来るとアルエディーに向かってそう声をかけていた。ちょうどアルの隣に立っていた霧姫と呼ばれる女を目にした二人は目のやり場に困り顔を赤くしていた。
「今しがた、助けていただいて有難うでござる。もう一度、礼を言わせてもらう。拙者の名前は氷室雷牙ともうす。そしてお主の隣にいるのが妹の霧姫で御座るよ」
アルエディーは隣に立っている彼女を見て確認する。流石のその騎士も霧姫の格好を見て両手を上げ驚いていた。
ハーモニア地方の一般女性は短くても膝上少し、以上の足を見せる事がない。霧姫のそれは太腿の三分の二よりも多く露出し、蘭玲の様にスリットが入っており、風が靡けばその下に穿いている物まで見えてしまうのかと言うほどの物であった。
「兄様から紹介にあずかった霧姫。助けてくださって感謝のいたりでございまする。あなた様のお名前をお教えください」
戦っていた時発していた声とはまるで別人のようなしっとりとした声で彼女はアルエディーに名前を尋ね、アルエディーは名前を告げてから他の物を紹介した。既に目を覚ましていたセレナに霧姫が受けた怪我の治療をしてくれるようアルエディーは頼み、
「霧姫さん、その傷と言うのを私に見せてください・・・、**************・・・・・・、*****(プラムスト)」
祈りを込めて彼女は詠唱の最後に治癒の魔法の名を口にすると流血していた霧姫の右腕に血が止まり、見る見るうちに傷が無くなって行く。彼女の治癒魔法は以前使用していたのより高位の物だった。
「セレナ殿と申しましたね。ありがとうございまする」
「そちらの方、拙者からも礼を言わせてもらうで御座る」
その兄妹はセレナのその力に驚いて、一間置いてからそう感謝の気持ちを伝えていた。
「・・・、それより・・・、霧姫さん・・・その・・・、その姿目のやり場に困ります」
「こっ、これは失礼オホホホ」
今頃、気付いたのか周りの男の目が彼女の下半身に集中していたのを理解して赤くなりながら慌てて、一瞬の内に彼女の国の普通着を身に纏った。
「拙者はこの国の地理をあまり知っていないでござる。アルエディー殿、もしよろしければご一緒させてくださらぬか?」
アルエディーはアレフに目を向ける。アレフは彼の意図していることを理解し、頭を縦に振った。
王のその合図にその騎士は彼等の旅の目的を告げこの国の現状を異邦人の二人に教えた。
「今は、色々大変なとき、何か在ってからではまずいから雷牙さんと霧姫さんがそうしたいのであればついて来て構わない」
「かたじけない、アルエディー殿。それと拙者のことは〝雷牙〝と呼んで下されば敬称は要らんでござる」
「兄様とともにわたくしも御世話になりまする。それとわたくしも兄様同様、敬称はおやめいただきたい」
「わかった、二人とも・・・、ここにいても仕方がない移動しよう」
その騎士の言葉と共にみな移動し始めた。それから予備のエギンを連れていた為それに雷牙と霧姫を乗せ出発する。そして、移動しながらアルエディーは二人の事を聞いていた。
二人は羅泰帝國よりさらに東にある島から来たと言葉にした。ハーモニア地方では最果ての東の地、在るか無いか分からないその場所をファーランドと呼んでいた。そして、雷牙達は自国を日天と呼んでいると教えてくれた。それから雷牙と霧姫は彼等の国の文化について語って見せていた。
アルエディーは蘭玲の時と同じように自分達とは違う文化の話に驚き目を輝かせていた。隣のエギンに乗りながらそれを聞いていたアレフとセフィーナもアルと同様の気持ちになっていた。
「雷牙、君は何を目的にこの国に訪れたんだ?」
「拙者は強い者・・・、
「つわものの魂?はじめた聞く言葉だ。雷牙どういった意味なんだ?」
「鬼神の如き強く立派な心を持った者という意味でござる」
アルエディーは聞きなれない言葉に困惑する。それを丁寧に雷牙はこの国の言葉で教えてくれた。
「霧姫もその兵の何とかと戦いたくて雷牙と旅をしているのか?」
「わたくしは兄様の身の回りの世話させていただく同行しておりまする。・・・、兄様は見た目を裏切るかのごとく私生活がいい加減でおらせまするゆえ」
「アハハッ、なんだかレザードとティアちゃんみたいだな」
軽く笑いながらその騎士はその兄妹が乗っているエギンの方へ振り向いた。霧姫とアルエディーの会話が聞こえていたレザードだがアルが小バカにするように笑いながら振り向いても全然気にしていない風だった。それからまた、その騎士は振り返り、再び話が続いて行く。
蘭玲の祖国、羅泰帝國とも数少ない交流のある異文化のその場所に訪れたいとアルエディーは胸の内に秘める。
こうして雷牙、彼自身が言う彼の職業、侍と忍術使いと言葉にしていた霧姫を新たに向かえアレフの叔父のいる城塞都市へと進行して行くのであった。
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