第十八話 熱血格闘少女!

 アレフ、アルエディー一行はファーティル王国、最北端にある城塞都市キャステルを目指していた。その都市は前国王リゼルグ・マイスターの弟であり、アレフの叔父に当たるキースによって治められていた。キースは甥であるアレフの生存を知って帝国に対して完全蜂起の為に腰を上げたのである。それを知ったアレフ達はその彼に会うため北を目指していた。

 アレフ達は王国街道を堂々と通って北上していた。しかし、彼等が帝国兵の目に止まる事は殆どなかった。それはレザードと彼の妹であるアルティア二人の最新オリジナル合作魔法、隠行移動術―サイレント・インディクションと言う気配と光学偏光で姿を消す便利な魔法を完成させたからである。だが、いい事ばかりではない永続時間がそれ程ないため二人の魔力とセレナを足した三人の魔力でも一日三時間程度しか使用できなかった。

 日中はそれが使える間できるだけ移動し、本格的ない動は夜になってから。セフィーナ、セレナ、アルティアの三人の女の子にとっては少々辛いものだった。

 それはアレフとアルエディーが野宿ばかりのたびに疲れを見せ始めた彼女達の為にとある町に宿泊しようとした時の事であった。


~ 町の大通り ~

「そこの変な服を着た怪しい奴め、大人しく我々について来いっ!」

 帝国兵達は見た事もない服を着た武器すら持っていない相手に剣を構え、じりじりと囲むように詰め寄っていた。

「あんた達一体なにあるか?女の子に向かってそんな言葉酷いあるよ!」

 年の頃にして十六歳くらい、両側頭に球の様にして長い髪を束ね、太腿から足首までスリットのあるワンピース、中華礼装風を着た少女が腰を低くし拳を構え、帝国兵に対峙していた。

「黙れ、お前のように見るからに怪しい奴、女であろうと男であろうと関係ない・・・、者共、奴を捕らえろっ!」

 隊長らしき人物の声に兵士は一気に間合いを詰めその少女を捕らえようとする。

『バキッ、ドゴッ、ベキッ、バコッ、ドカッ!!』

 なんとその少女は素手と蹴りで襲い来る熟練の帝国兵をバッタバッタと薙倒して行った。

「何だ、あんた達弱いあるねぇ~~~、ちっとも歯応えないあるよ!」

 倒れた十数人の兵士を見ながらその少女はそう眼前の帝国兵に強く言い放った。

「小癪な小娘がぁーーーっ、者共、一斉にかかれぇーーーっ」

 帝国兵隊長は自ら言葉と共に突進して行く、それに怒涛のように残りの兵士が続く。数にして二十人近く、しかしその少女は一向に怯まず、相手が振り下ろす剣を絶妙な間で躱しながら一人一人、地面の上に伏せさせて行った。だが・・・、

『キュゥ~~~グルグルグルゥ~~~』

 彼女は急に動きを止め、両手で腹部を押さえ地面に座りこんでしまう。

「今だ、そいつを押さえろぉ~~~っ!」

 攻撃の手を止めた少女を見て、既に倒れてしまっている隊長に変わって別の兵がそう声を上げた。少女の危機!だがしかし天は彼女を見捨てなかった。この町に訪れていた。アルエディーがアレフと共に帝国兵の様子を探るためにこの街の中を巡回していたのだ。

「キサマラッ!多勢で婦女子に向かって恥ずかしくないのか!」

「戦いが始まってしまえば道徳と言う観念は意味を成さない物なのか・・・」

 二人は剣を取り、嫌がる少女の腕を掴み、無理やり連れて行こうとする帝国兵に切りかかって行った。アルエディーとアレフの剣の腕にかかれば一般兵など者の一刻で片がつき、

「君、大丈夫か?」と騎士は座りこんでいる少女に手を差し伸べそう口にする。

「助けてくれてどうもある。・・・、お兄さん、何か食べ物もってないあるか?」

 その少女は今まであった事などすっかり忘れ、あどけない表情で目の前の騎士に人見知りせずそう尋ねていた。

「今・・・、何も持っていないけど俺たちの所へ来るか?そこへくれば何か出して上げられる」

「ありがとある・・・、アタイ、李蘭玲りー・りんれいいうある。よろしくあるよ」

 蘭玲と言う少女は立ち上がり、軽く頭をペコリと下げながらアレフとアルエディーに名前を告げてきた。

「君、どうして俺の名前を?」

「なにあるか?アタイはお兄さんの名前知らないあるよ?」

「さっきから君、〝アルアル〝言っているじゃないか?」

「にゃはっ、これアタイの喋り方あるよ。ところでお兄さん方の名は」

「アルエディー・ラウェーズ。みんなから〝アル〝って呼ばれたりしている」

「私はアレフだ・・・アル、ここにいてはまた帝国兵らが現れるとは限らない。直ぐに移動しよう」

 アレフの言葉に従うようにアルエディーは彼女を連れ移動を開始した。アレフとアルエディー、二人は始めて聞く発音の名前と見た事のない服を着た蘭玲にその素性を移動しながら聞いていた。

 なんと彼女は誰も越えた事が無いと言われるグレーデルン連峰を通ってユーゲンレシル大陸のずっと東側にある羅泰帝國と言う国からやって来たのだと口にするのだ。男二人は驚きの顔を隠しきれなかったようだ。・・・、やがて彼等が今、泊っている宿屋へと到着する。

 そこへ着くとアルエディーはセレナに蘭玲へ何か作ってくれと頼んだ。ちょうど夕食時に近づいていた。セレナはアルティアとセフィーナの手を借り、食事の準備を始める。

 現在、セフィーナは王国の第一王女と言う身分にありながらせっせとアルエディー達の為に身の回りの世話を買って出ていた。その様な行動をする彼女に対してアルエディーは常に困惑の思いに駆られていた。

 食卓に出来上がった料理が並べられ食事が始まる・・・、蘭玲は目を輝かせ手当たりしだい食べ始めた。物凄い勢いで口に運んでいる彼女を見て一堂は目を丸くしていた。

「いやぁ~~~、とても美味しかったあるよ。満腹、満腹。謝々」

 彼女は腹部を摩りながらご満悦な表情をみなにみせた。食事を片付け終えた頃にアレフは彼女にこの国にきた理由を尋ねていた。

「蘭玲さん、貴女はどんな目的でこの地に足を運んだのですか?よりによってこの様な時期に・・・」

「アタイ、自分の国で両親が料理の店持っているあるよ。アタイの夢は世界中の料理を自分の店で出す事ある」

 彼女の故郷はとても大きく周りに異なった文化を持つ国が皆無に近かった。だから彼女は遠く、離れたこのハーモニア地方までやってきたのだと言う。ここへ来るまで多くの仲間と旅立ってきたのだが連峰を越えてから怪物の襲撃や帝国兵との争いに散り散りになってしまったのだと言う。

 アレフは蘭玲に今のこの地方の状況と身分などを隠さず彼等の目的を彼女に告げた。

「ほえぇ~~~お兄さん、この国の王様あるかぁ?決めた!アタイ、お兄さんに力貸すあるよ」

「力を貸す、って言っても・・・」

「お兄さんも地面に倒れている見たあるよね?あの場に倒れていた兵隊はアタイが倒したあるよ」

 立ち上がり蘭玲は天地陰陽の構えをその場にいる者たちに見せた。

「この国にあるかしらないあるけど。アタイの国には素手で戦う技があるよ」

 空気の流れに乗るように彼女は鮮やかな武の舞を見せた。その凄さに自然と彼女にアレフ達は拍手を送っていた。蘭玲は胸元に合掌し二、三度みなの前に頭を下げ彼女の国の言葉で有難うと口にしていた。

「どう見たあるか?これアタイの国の拳法と言う戦いの技あるよ」

「貴女がそうまで言ってくれるのであればこちらからお願いしたい。今は一人でも多く強い協力者が欲しい物だからな」

「決まりあるね。・・・、もし戦が終わったら、アタイにこの国を自由に旅できるように許可して欲しいあるよ」

「そ探索探知器けで良いのか?私はこれでもそれなりの身分だ。王都を取り戻す事ができればそれなりの恩賞を与える事ができるのですよ」

「いいある、良いある。既にアタイはお兄さん達に命救われたあるから・・・、もし向こうの方に捕まっていてたら」

 彼女は頭を横に振ってそう答えていた。

「アレフ、そんなまだ先の見えない事を口にするなよ。そう言う事は王都を奪還してから言ってくれ」

「ハハハッ、それもそうだな」

 こうして李蘭玲と言う拳法少女、新たな仲間が加わり北を目指す事になった。

 その日の夜遅く、別の町にいた帝国―地龍将軍ソナトス・タイラーの下に昼間アルエディー達と一戦を交えた隊長が報告に上がっていた。

「ソナトス将軍様!バナアの街にアレフとアルエディーが現れました」

「なにっ!それは真かっ!!ああぁ、判った。フフッ、あの騎士と一戦交えてみたかったのだ。報告ご苦労。お前には少ないが恩賞をくれてやろう。ほれっ」

 その将軍は彼の所持する小さな金庫から下級兵の三か月分くらいの給与を与えたのであった。

「よろしいのですか?ただ見つかったとご報告に参っただけなのですが?」

「あの演説から初めての情報だからこれくらいは良いだろう・・・。九頭竜に伝令しておけ、明日、明朝バナアに向かう」

 隣に立っていた伝令兵に彼はそう告げた。それから翌日、ソナトス将軍は九頭竜連れてバナアの町に到着していた。しかし・・・、既にアルエディー達は町を離れていた。情報の真偽を確かめるため簡易駐屯所へと向かいそれが本当の事であったと知るとソナトスは雄叫びと共に大きく地団駄を踏んだ。そして、彼は苦虫を噛み締めた表情でアルエディー達を追わず本来の目的のために本拠地へと戻って行くのであった。

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