第三章 仲 間

第十七話 帝国に潜みし影

 メイネス帝国内、ハルモニア城近くにある小さな教会。

「ヘルゲミル様、アレフ、セフィーナ、アルエディーの生存を確認しました。現在は三人ともファーティル国内を北上しているようです」

 十五歳から十六歳くらいのその少女は片膝をつき、こうべを垂れ数歩手前にいる黒色で基調された聖職者風の格好をした男にそう報告をしていた。その少女の名はルーファ・スティン。漆黒の瞳と漆黒の髪を持つ少女。

「ルーファか、ご苦労であった。フフッ、そうかやはりアレフ王もセフィーナ王女も生きておったか。フッ、はじめは捕らえて吐かせようと思っていたが・・・、あの騎士を泳がせておいて正解だったな」

 醜悪な笑みを作り、頭を下げている少女に向かってそう答えた。

「ヘルゲミル様、次のご指示を」

「ふふっ、ははっ、そうだったな。ルーファ、引き続きそやつらの動向を監視しておけ。それと戦いが始まったら機を見て大元帥を殺せ、よいな」

「・・・、御意」

 少女は頭を垂れた状態で一度、ヘルゲミルの言葉の受け入れの否定するように下唇を強く噛み、こぶしを力強く握り締めてからそう返事をした。

「さあー、何をやっている早く行くのだ、ルーファ!」

「ハイッ!」と言葉と共に立ち上がり踵を返し風のように姿を消した。

「フフッ、アッハッハッハ、クックックックッ、聖杖と魔剣は我が手にある後はあの娘が持つ宝玉だけか・・・」

〈四死戦将よ、ここへ集え〉

 ヘルゲミルと言う男がそう心の中で強く念じると転送方陣と共に男女4人が現れた。

「流石にみな反応が早い動だな」

「ヘルゲミル様、どのようがご用件ですか?」

「きっきっきっきっきっ、ヘルよ、何か面白い事でもあったのか?」

「ちっ、これからせっかく面白いところだったのに急に呼び出しやがって」

「ちょうど退屈だったんだ。仕事、くれるのかヘルヘル」

 現れた四人は呼び出したヘルゲミルにいろいろの感情を込めてそう口にしていた。

「ホビィーとネクロス。お前達二人は引き続きファーティル、サイエンダストリアルにいる帝国兵どもの手助けをしてやれ。ネア、ミストレス、貴様等二人は南部の国に入って国同士で小競り合いするように仕向けろ。いいな」

「ヘルゲミル様、アルエディー一行がカラミティー・ウォールを消し去ってしまったようですが以下がいたしましょう?」

「フッ、あれはただの時間稼ぎに過ぎぬ。無くなった所で大した痛手ではない。・・・それよりもネアよ、リゼルグ王は今どうしている」

「あぁ~~~ん?もう必要無いってヘルヘル、アンタがそう言ったから殺しちゃったわよ」

「ネア、必要ないといったが殺して良いとは言って無いのだぞ」

「別にいいジャン国王の一人や二人死のうがあたし達に関係ないんだから」

 ネアはそ探索探知器け言い残すとヘルゲミルに何か言われる前に姿をけした。

「まったくあの女は・・・。ミストレス、何をやっている早くネアを追ってお前も行け」

「ハイ、はぁ~~い、分かってるよ。まったく人使い、荒いんだから。さっきのあれ名残惜しいけど・・・、それじゃ私も行きますか」

 ヘルゲミルがネクロスとホビィーの方を再び向いた時、既に二人の姿はなかった。

「フフッ、さすがにあの二人は行動が早い・・・」

 ヘルゲミル、彼もその教会から一瞬にして姿をけし、ハルモニア城のマクシス宰相のいる部屋へと移動してた。突然のヘルゲミルの登場に部屋の中に立っていたマクシス宰相は驚き尻餅をついていた。

「きっ、貴様いつもその様に突然現れおって吃驚するではないかっ」

「フッ、その程度で驚くとはお前の小者振りがよく分かる」

 見下すように片方の唇の淵を上げながら宰相を嗤笑ししょうした。

「へっ、ヘルゲミル、一体私に何様だ!!」

「アレフとセフィーナが見つかったようだ。アルエディーと言う者共々にな」

「なにっ、それは真の事か」

「まだ貴様の所にはその情報は届いていなかったようだな。アルエディーと言う輩は殺しても構わん。だがアレフとセフィーナは無傷で捕らえるよう。軍部にそう伝えておけ」

「ヘルゲミル殿あの件はどうなっておる?」

「マクシス、貴様などに関係はない。誰のお陰で今お前はこの国を動かす事ができると思っているのだ?さっさと動け」

「クッ、判った・・・、みなにはそう伝えよう」

「ああぁ~、それと貴様は南から来る者に気を取られる必要ない。全軍を持って王国と共和国が決起する前に攻めるが良い。それ位の情報は入っているだろう?」

 キリキリと親指の爪を噛みながら宰相はエーテルリンクで大元帥、元帥二人に連絡を入れ将軍達と共に軍事会議室に来るように命じ、部屋を出ていった。

「みな、よく集まってくれた。これより我が軍は全力を持ってファーティルとサイエンダストリアルの全領域を圧制する事に決定した。皇帝自らの命だ。いいな。あぁ~~~、それとアレフ王とセフィーナ王女は必ず捕らえ皇帝の前に差し出せと命も受けている。皇帝はアルエディーを殺せとも言っておられた。そやつの首を持ってきたものには二百万エドルンの賞金を取らせよう。そうすべての兵士に伝えよ。以上だ」

 宰相は言いたい事だけ告げるとその場にいる者が抗議する前に逃げる様に立ち去って行った。

「ああ、とうとう二国と大戦争をおっぴろげ。こりゃ大変だぁ」

「もうどうにもならんのか・・・・・・、退く事はできんのか・・・」

「本当にアヤツが言う事は皇帝が言っているのか?イグナート大元帥よ。奴の言葉は確かなのか?」

「皇帝は宰相以外会わないと申されている」

「実の息子に会わずして、あのような輩だけに会うとは甚だ可笑しいものだ」

「コースティア将軍、そう言葉にしてみても・・・。それではこれからどうなさるのですかイグナート大元帥様?」

「ヨシャとその三将軍は王国をウィストクルスとその三将軍は共和国に向かってくれ。私は状況を見て両国に軍を出す」

「さてと、ここにいてもしょうがない。それじゃ、ぼちぼち出撃しますか。いくよお前ら」

 一人の元帥はソナトス、イリス、コースティアの三将軍を引き連れ、軍靴を鳴らしながら会議室を出て行った。

「兄上!どうして私を王国側にしてくださらなかったのですか?」

「ウィスよ、お前の考えている事は判る。お前がそちらに行けば必ず手を抜く戦いをするだろう?それでは駄目なのだよ」

「オウ、オウ、何心配した面してんだ。元帥閣下?アルエディーなら、そう簡単にやられはしないってぇ~~~の。パパッと共和国全土圧制してついでに王国も・・・、その時、分からないようにアルエディーを掻っ攫えば良いだろ?そのあと偽伝令を流せばそいつは助かるって寸法よ」

「全く、そんなに上手く行くわけないじゃない何でこんな薄ら馬鹿が将軍なんてしてんだ。ここ?」

「カティア、誰が馬鹿だって?」

「耳にゴミが溜まり過ぎなんじゃないのアルマティー・ノトス・バカ将軍」

「グガァーーーッ何だとこのメス豚!今ここで犯し殺してやる!!!」

「そこまでほんっとぉーーーっに毎回、毎回・・・、いつまでイグナート大元帥閣下とウィストクルス様に醜態を晒すおつもりですアルマティー将軍。それとカティア将軍。貴女こそ学習能力が低いのでは?何回僕に同じ事を言わせるのですか?」

「ああぁ、分かったよクリス坊やに免じて今日はここまでにしておくわ。クリス坊やが怒ると怖いからね」

「イグナート大元帥閣下、ウィストクルス元帥閣下。恥を見せてしまって申し訳ない」

「フフッ、ウィス、楽しそうな部下を持ったな・・・」

「ハイ、殺伐とした軍隊も彼等のお陰で私の方の部隊は指揮が下がる事は殆どありません。それでは私も共和国に参ります・・・、情報が入り次第直ぐに連絡してください兄上」

「表立った行動に出られないから思うように情報が入ってこないが分かり次第お前にも連絡する・・・、無理をするなよ」

「はい、三人とも行くぞっ」

 颯爽と外套を翻し、規律の取れた歩き方でこの部屋を後にするウィストクルス。それに続くようにオスティー、カティア、クリスがイグナートに敬礼をしてから出て行った。そして、出て行った者と立ち代る様にイグナートの副官であるオスカー・エプリスが入室し、

「閣下幾つか情報をお持ちしました」

 彼女はそう言ってイグナートの傍まで歩み寄り彼の耳元でその情報をささやいた。

「オスカー、それの情報の信憑性はどうなのだ?」

「帝国内を探しても見つからないという事は可能性としては十分に高いと思います。如何なされますか?」

「オスカー、もうしばらく続けてくれ・・・、私も王国と共和国で軍を動かしながら探ってみる」

「それでは私は友人にそれを告げた後、閣下の元に戻ってまいります。失礼!」

 その副官は軽く一礼してからイグナートの下を去って行く。

「私も行かねばならんか・・・」

 こうして、今まで将軍などが動いていても帝国の二割がただった出兵は全軍出撃となって王国と共和国の圧制に力を注ぐ事になってしまった。この始まる戦いの行く末は?この戦いの先に何があるのか・・・。それはまだ誰も知り得なかった。そしてハーモニア地方に住む人々は何者かによって混沌の神ケイオシスが復活させられようとしている事さえも知らなかった。

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