第十三話 天空の島、クレアフィスト
竜王ヴェスドラは緩やかな勾配で空へと上昇して行く。彼は飛び立つ刹那、低く呟く様に〝********〟と何かを口から発すると背中に乗っていた者達を温かな何かで包み込んだ。それに気が付いたアルティアは不思議そうな顔をしてヴェスドラの方を見て何が起こったのかと尋ねてみる。しかし、彼女の位置から彼の頭まで優に8ロットもありその声は届かなかった。そしてその疑問に答えたのはヴェスドラ本人ではなく精霊王デュオラムスだった。
ヴェスドラは空への上昇と共に変化する大気圧と空気密度から乗る者を保護するために彼のもつ力の一端でアルティア達を包んだのだと言う。そして、今の状態なら彼の背中で跳ねようが飛ぼうがしてもけして落ちる事もないと説明していた。
それを聞いたアルティアは嬉しそうに竜の背の上でピョンピョンと跳ね回り、そこから見える下の景色を眺めていた。
セレナとアルティアは竜の背の上から見える島や大陸、海を指差して今まで辿ってきた道を追っていた。そして彼女達の住んでいる辺りを発見できるととても嬉しそうな表情を作っていた。
レザードは自分が高所恐怖症だと言うのを忘れ、眼下に見える大陸や山脈、いまだ訪れた事のない地方を目に心を躍らせていた。そして〝いやぁ~~~、世界は果てしなく広い。私が今目にした所、死ぬ前には訪れてみたいものです〝と独り言を呟いていた。
アレフはハーモニア地方のメイネス帝国とファーティル王国が見えるとこれからどうするのか、どうするべきなのかを思い悩んでいた。そしてアルエディー以外の王国を支えてきた将軍達や文官達の事を心より心配していた。
皆それぞれ竜の背中から見える景色を眺めながら色々と思考している中、アルエディーだけが竜の背の中央で独り瞳を閉じこれからするべき事、彼に出来る事を考えていた。地上から飛び立ち下の景色がユーゲンレシル大陸全体を捉えられるほどの高さに達した頃、レザードが彼の中で過ぎった小さな疑問を隣にいたアルエディーに聞いていた。それは何故、竜王ヴェスドラだけが地上界に住むアスターの中で唯一、天空の島の場所を知りそこへ行けるかと言う事であった。
その答えをアルエディーが知るはずもなくその問いに返してきたのは精霊王だった。
「翼を持つものでこれほど空高く飛べる者はこやつしかおらんのじゃ・・・、しかし、そ探索探知器けではない」
そう言って一刻の間を置いてから精霊王は再び口を開き本当の事を語り始める。それはトリエス暦が始まる前、まだ世界全体、神の名の
ヴェスドラはその頃、まだ今のようなすがたをしていなかった。戦いも結末が見えた頃、精霊長としての力を使い果たし彼の姿を維持するのも難しくその存在が消えかけていた。しかし、ヴェスドラと共に今まで戦ってきた友、当時のドラゴンの王、翼竜王ディラスと融合する事により彼の存在が保たれたのだ。すべての戦いが終わり、一時は天の精霊長として女神と共に天空の島で暮らすが、また竜王でもあるがため地上に降り同じ眷属の者たちを一箇所に従え地上で暮らす事になったのである。それがヴェルザー島。今では女神ルシリアの計らいによってヴェスドラと彼の同行者だけが天空の島に降り立つ事が許されていた。無論例外もある。
質問をしたレザード以外もデュオラムスの語るそれに真剣な表情で聞いていた。そして、その話が終わりかけた時、今まで一筋も存在しなかった雲が眼前に現れたのだ。しかも刹那に現れたはずなのにそれの大きさは異常なほど大きかった。
どうして、今まで雲が見えなかったのか?・・・・・・、それはその上に天空の島が存在し、その場所の所在が分からないようにするため光の精霊がその周りの光を偏光させ、その存在を隠していたからである。
竜王ヴェスドラはその分厚い雲の中を急上昇して一気に突き抜けた。普通だったらその雲の中は雷雨で覆われているのだが彼が同行しているため、そこを通過する時アルエディー達に見えた物はただの白い靄でしかなかった。雲を突き抜けヴェスドラが平行飛行に移る。そして前方の彼方に徐々に空に浮かぶ島らしき物が見えてきた。天空の島クレアフィスト、まさしくそれである。
天空の島クレアフィスト、女神の力のよって争いの果てに世界中のフェイザだけを集め天に飛び立った島であり、ハーモニア地方からバルガス地方にかけて楕円軌道でその上空を移動していた。今まで数多くのアスターの冒険家、飛空挺乗りや大金持ちがその島を目指した。あるものは飛竜に乗りその場所を目指す。しかし、その正確な場所が分からず挫折し、ある者は有り余る金を使い巨大な超高度飛空挺を作り、その場所に挑むが雲を突き抜ける前、神の
ヴェスドラは彼専用の天空の島の台地、本島から切り離されたそこに降り立ち身を低くし翼を伸ばすと背に乗る者達をその場所へと下ろし、
「我はこの場所でお前たちの帰りを待とう、それまでしばしの別探索探知器」
竜王はそれを口にすると翼を閉じ、大木ほどある尻尾と首を胴体の方に丸く回し眠りに就いたのである。アルエディー一行は眠った状態の竜王に頭を下げてから島の中心部へと向かって行く。歩き出して30ヌッフ程度進むとヴェスドラが降り立った孤島と本島を繋ぐ大きな吊り橋へと到着した。ざっと見てその橋の長さは200ロット近くあった。それを見たレザードの顔が通常色から蒼白色へと変貌し歯並びの良い白い歯を〝ガチガチ〝と打ち鳴らし、足元を〝ガクガク〝と震わせ恐怖で腰を抜かしそうになっていた。
「あっあのぉ~~――あるえでぃー?こっ、この橋をわっ、渡らないとむこうが・・・がが、側に渡れないのなら・・・、わっ、私はここでまってます。さっ、さぁ~~~、気にしないで進んでください」
「レザードっ、何ガタガタ、言ってるんだっ!男だろっ!!」
「男とか女とか関係ありありません!怖い物は怖いんです」
そんな情け無い事を言っている兄を見てアルティアは首をかしげ小さく溜息を付いていた。橋の手前で動かないレザードをアルエディーは強引に引っ張り、橋の上を歩かせようとしたが数歩と進まない内にレザードはその場に座りこんでしまったのだ。
「おい、レザード確りしてくれよ。本当はこんな吊り橋無くても渡れるんだ」
その言葉の後に彼は仲間達に何故、吊り橋が無くても渡れてるのかを説明した。この島に住んでいるのは当然、フェイザばかりではない。クレアフィストが浮上する前に住んでいた空を飛ぶ事のできない多くの動物や他のアスターもいる。それらが間違って島の淵から足を踏み出しても大丈夫なように女神の力によって目には見えない壁と本島の周りの孤島の間を繋ぐ空間に見えない床が存在していたのである。吊り橋は飛べない者に対してただ心理的恐怖を軽減させる為に備え付けられている物であった。
「ほらっ、よぉーーーくぅっ、みてろよ」
そう説明が終わるとアルエディーは吊り橋から身を乗り出し、床の無い空に逆立ちや寝転がってゴロゴロしてそれを証明した。それを見たアルティアは目を輝かせ、吊り橋のロープの間を抜けちょこまかとアルエディーの周りを走り出した。
「ティア、とっても感激、新体験、新体験。お友達に自慢できちゃうぅ」
「それでは私もっ!」
セレナもそう言って吊り橋の外に出て地上では絶対できない体験をその身に受けた。
「アル、冒険の旅って私が考えていた以上に楽しいものなんだな。お前が騎士になる前、そういった旅をしていたのが羨ましいぞ」
アレフも皆と倣うようにその場に躍り出て親友の所へ歩み寄りそう口にしていた。
「そう言えば、アレフには余りその事、話していなかったな。すべてが終わったらそれをお前に聞かせてやるのもいいかもな」
みなが吊り橋の外で騒いでいる中、レザードの表情は変わる事無くその場に座りこんでいた。その場所から動かない彼の元へアルエディーは戻って行く。
「しょうがない、テイッ!」
手拳をレザードの首筋に当てると彼を気絶させ、肩に担いだ。
「アル様、それは酷くありませんか?」
駆け戻ってきた彼女は少しばかり非難の目で目の前の騎士にそう言ってきた。
「仕方ない、こうでもしないと何時まで経っても移動できそうも無いから」
「言ってくださればそのような事をしなくても私が安眠の魔法でレザードさんを眠らせて差し上げましたのに」
「ハハッ、そうだったな」
苦笑いをしてレザードを担ぎながら先に進んでしまっているアレフとアルティアを追ってセレナと共にその場を移動した。夕焼け前に一行は天空の島クレアフィストの都、天空都市シャングリラへと到着した。
人口約三十万人が住み、その六割以上が美しい翼を持つ翼有族フェイザである。文明も地上とは明らかに違う形で高度に発展していた。都市は火炎区(工業区)、清流区(居住区)、風涼区(遊楽区)穣地区(農業区)、闇政区(政治区)、市光区(商業区)。これら六つの区画に分かれていてその都市の一番中央に女神ルシリアのいる大神殿があるとされていた。
シャングリラに到着するとアルエディーは少しばかり仲間に観光案内をした後、地上界の魔動艇とは違う乗り物、車輪の無いフライヤと言う低飛空するそれに搭乗して、清流区へと向かって行くのであった。
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