第十一話 再開、二人の王

 船乗りを含めてアルエディー達一行が桟橋に降り立ったのを確認するとその場所で彼等を出迎えていた人達の中の一人の男が一歩前に踏み出し挨拶の言葉を投げかける。

「皆様、遠路遥々ようこそこの島へおいでなった。アルエディー、7年ぶりくらいか」

 その男は騎士の方へ向き直り嬉しそうな顔でそう言葉にした。

「イーザー、久しぶり・・・、なんだか王としての風格が出てきたな。みんな、紹介するかれは・・・」

 アルエディーはイーザーと言う名の男を指差して彼の自己紹介を始めた。イーザー・アークフェイド。アルエディーが旅をしていた頃に知り合い、しばらく共に冒険をしたデューンの好青年。現在はこのグランディシス島の魔神をしている。

 グランディシス島、人口三万人ばかりのデューンだけが住む島。そして彼等は普通のデューンよりもはるかに魔力の力が強いとされ、世間に魔族王として呼ばれていた。そして、その者達を束ねる人物こそが魔神、この島の王なのである。それから、ここに住む者たちはその絶大な魔力を悪意に利用されないようにこの島に結界を張って住んでいた。魔神のその魔力は非常に優れていて総ての精霊を従え天候さえも操れてしまうほどであった。更にここへ来る前に遭遇した海の中での嵐も彼の手によるものだ。

「ただいまアルエディーよりご紹介に預かった。彼の盟友、イーザー・アークフェイドだ。さお疲れでしょう宿しゅくは整っておる。どうぞこちらへ」

 彼はそう言って用意していた馬車に一行を案内し、そして、まだその場に立って動こうとしていないアルエディーに声をかけた。

「何をやっているのですか?さあ、早く貴方の友が首を長くして待っているぞ・・・、それと無論、私の妹もだがな」

 それから程なくしてイーザーの住まう居城へと到着した。その場に到着すると城門前にアルエディーの見知った二人が立っていた。彼が馬車から降り、その存在を確認した二人が軽快に歩み寄ってきた。

「アル、フフッ、随分と私の事を待たせてくれたな」

 穏やかな声でアルエディーと同じ年頃のその赤髪を持つ男は声をかけ、それに答えるように、

「しょうがないだろっ、色々と大変だったんだからな・・・、それよりも元気そうでよかった」

 その騎士は目の前の男を見て安堵した表情を作って見せた。

「おひさしぶりですアルエディー、見違えてしまうほどご立派になられましたね」

 赤髪の男と一緒にやってきた女性が清んだ声で挨拶をアルエディーへと向けた。

「ディアナ、君こそ見違えるほど美しくなってるじゃないか・・・」

「まぁ~、アルエディーったらお口が達者なのは変わっていませんのね」

「アル、今の言葉、我が妹が聞いたらどんな顔をするやら」

「はあぁ??何を言っているんだアレフ?」

 そう今、彼が会話をしている男は王都、落城の際に転送方陣を使ってこの島に転移させられた新王アレフだった。そこで三人が会話をしていると船酔いから完全に醒めたアルの仲間、二人が馬車から出てきたのである。レザードとアルティアを見たアレフは顔を真っ赤にしてアルに説明を求めていた。

「アルッ、あの者達はいったい」

「ああ、二人は・・・あっ、わっ、なにすんだ、アレフ!」

 アルティアがアルエディーの後ろに到着するとアレフは友を押しのけ彼女の前に立った。

「はじめましてお嬢さん、今は簒奪され、このような身ではありますがアレフ・マイスターと言います」

 アレフはアルティアの手をとって顔を赤くしながらそう自分を紹介し、

「存じております、アルエディー様と違いまして貴方様をお知りにならなかったら非国民ですから・・・、アレフ様。アルエディー様と一緒に旅をさせてもらっていますアルティア・シュティールと言います。ティアって呼んでくださいませ」

 アルティアは目の前の位の高い者に対してとても丁寧な言葉遣いで自己紹介をした。

「???おっ、おい待て!アレフ、早まるなっ」

 アルエディーはそう口にするとアレフの肩を掴み自分の方へ引き寄せ小声で話しかけ、

「たとえ、お前がする事であっても友として、お前に仕える者としてそれを見過ごす事は出来ん。犯罪だ!ティアはまだ十四歳だぞ」

「それは一般市民に関してであろう?王である私には・・・」

「??もしやアル、貴様っ、私の妹がありながらティア殿まで手を出そうと言うのか?たとえ、誓いを交わした兄弟であっても、私の親友であっても、許す事は出来ない!この痴れものめっ貴様の君主として、そ探索探知器けは許せぬぞ!」

「なっ、バカっ、アレフ何を言ってるんだっ!それに俺はそん趣味無いぞっ」

「何を言う、アルティア殿は将来必ずお美しくなられる」

 アレフは拳を握り締め、アルエディーにその様に言い切っていた。二人が小言で言い争っていると馬車から最後の一人セレナが登場してアルエティーに声をかけると、

「アル様ぁ~~~どうかなさったのですか?」

「アルさまぁ~~~だと!?アルエディー、そこに直れぇーーーっ私の妹を裏切りアルティア殿を誑かし、あのような可憐な女性までっ。私、自ら貴様を処分してくれるっ!!」

 新王アレフ、生まれて初めての暴走。その暴走を何とかイーザーとアルエディーで押さえていた。そして、冷静に戻ったアレフは軽く咳払いをして恥ずかしそうな表情でその場にいるアルエディーと共に旅してきた仲間に挨拶を始めたのだった。

「皆様、お恥ずかしいところをお見せして、非常に見苦しい思いです。申し訳ない。アレフ・マイスターだ。今は王の身ではないので身分に関係なく普通に接してくれると嬉しい」

 城の外で全員の自己紹介が終わると一向はその中へ移動し、宴の時間まで各自解散しそれぞれの行動をとった。

「イーザー、今までアレフ、俺の仕える王にして俺の親友を護ってくれて感謝する」

 アレフに使える騎士は言葉と共に目の前にいるイーザーに頭を下げた。

「アルエディー、頭を下げるな。これくらいの事、お前が私とディアナにしてくれた事に比べればたいした事無いではないか」

「そんなに恩、着る必要ない、困っている人を助けるのは騎士の勤めだからな・・・、まぁ、あの頃の俺はまだ騎士見習いにも満たなかったけどね」

 イーザー、アルエディーの二人の旧友はサロンで紅茶を飲みながら二人が旅をしていた頃の話題で盛り上がっていた。


†   †   †


 晩餐会も終わり、休憩室でアルエディーと今まで旅をしてきた者達にアレフを加えた五人とイーザー、ディアナ、それとイーザーに使える執事、長い白髭を持つハーミット・リクルーザーがそこにいた。そしてアルエディーはここへ来た本来の目的をイーザーに告げていた。

「アルエディーの力になってやりたいが私とここに住む者たちは他の国々に不干渉と言うのが掟だ・・・、それにそれ程の物であれば私と民が一丸になっても破るのは無理であろう・・・」

「そんなぁ・・・」

 絶望と言う表情を浮かべる彼にイーザーは心を打たれる。

「ハーミットよ、何かお前の知る事はないか」

「アルエディー殿の話とその映像を見る限り・・・、カラミティー・ウォールだと推測されます。・・・それは我々アスターがどうこう出来る者じゃありません・・・、その衝撃波の壁は神の力によるものです・・・・・・、アルマ・・・、混沌の神ケイオシスの復活の兆し・・・」

 彼は髭を摩りながら重々しい言葉でその場にいる者を驚愕に陥れた。

「そうでしたら私たちはどうすればよいのですかっ!お答えください!!」

「あなたは???」と不思議そうな目でそのハーミットと言う執事はセレナの事を見た。

「えっ、私が何か?」

「いや・・・、何でもございません。気にしないでくださいお嬢さん・・・、ただ爺の勘違いです。お嬢さんのお答えですが・・・、天空の島へ向かって、女神ルシリアにお会いなさい。さすれば道は開けましょう」

「女神が俺たちアスターに会ってくれるのか?」

「お行きになれば分かりますよ」

「しばらくここに滞在して魔導の研究をしようと思いましたが・・・、次ぎは天空ですか?面白そうですねぇ」

「ハーミットお爺様、どうやって私達は天空に行けばいいの?」

「それに関して心配する事はなかろう。アルエディー殿が知っておる」

「アル、そうなのか?」

「ああ、冒険している時、天空の島へも行った・・・。そこにセフィーナ姫もいる。本当は戦いが終わってからお迎えにあがろうと思っていたが・・・・・・」

「それじゃ、次の目的地は決まりですね天空の島、クレアフィスト」

 レザードは鼻をフンフン鳴らしながら楽しそうにそう口にした。こうして、ハーミットの言葉によりアルエディー達の次に向かう場所が決定したのである。


†   †   †


 翌日、それ程休む間もなく彼等はグランディシス島を出航した。その島を出る前、イーザーの妹であるディアナが彼等の旅に付いて行きたいと我侭?を言い出し、アルエディーとイーザーはそんな彼女を諦めさせるよう説得するのに時間を費やし出航したのは昼過ぎになってしまった。彼等は島から北西に進み、ヴェルザーと言う島に舵を取りそちらへと向かって行く。

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