第十話 嵐の向こう側
ベスタルから大よそ250ガロット西にあるサイエンダストリアル共和国の中で指折りの港町シニストラ。その場所にアルエディー達は一日も経たずして陽の明るいうちに到着していた。流石は共和国が誇る高速魔動艇である。送甲虫やトルーチェの二、三倍の速さを有していた。そして、その町の船着場で乗っていた魔動艇から降りると港の船員や船長を管理する建物へと向かっていた。
「はぁ~~~、誰もグランディシス島に船を出すって人はいないのかよっ!」
船舶管理局に入ると手当たりしだい船の持ち主だと言う者達にその島へ同行してくれないかとアルエディーは頼んでいた。だが、誰一人として、彼の言葉を受け入れてくれる者はいない。
「そうですね、誰もあの荒れ狂う嵐の海の向こうの島に行きたいって思う人はいないでしょう」
「だからそれは・・・」
「いくら、貴方がそう言っても誰も信じませんよ」
アルエディーが何かを口にしようとした時それを押さえレザードがそう答え、続けて、
「まあ、こうなる事はすでに分かっていましたから私が既に船乗りを用意しておきましたよ」
「だったら、そう言うの早く言えっ、余計な手間、かけてしまったじゃないか」
「はっはっはっ、そう言った物は最後まで取って置いた方が私は面白いと思っていましたので」
能天気な司書官は片手を頭の裏に乗せ明るく笑いながらそうアルエディーに答えていた。
「もおぉー、お兄ちゃんまたそんな事、言ってぇ、ただ、アルエディー様を驚かしたかっただけでしょぉ?」
兄の言動に呆れる様にその妹のアルティアは見据えた目でそう答えたのであった。管理局の隣にある酒場でレザードが連絡していた者をしばらく待っていた。
† † †
「きたようだ・・・、みんな紹介する。高等教育までずっと一緒だった悪友のノーツ・フロートだ」
「よろしく、今は共和国で船乗り、やっているノーツ・フロートってもんだ」
目の前の巨漢の男にセレナ、アルティアが自己紹介して最後にアルエディーがそれをしようとするとノーツはその言葉を止めさせ、
「てめぇのこたぁ~、知っているよ。だから自己紹介何ってしなくていいぜ」
「なんか行く先々、俺ってまともな自己紹介していないような・・・」
「そ探索探知器けアル様が有名であると言う事ですね」
セレナは嬉しそうに微笑みながら隣に座っているその騎士の方を向いてそう口にしていた。
「名前が知れているって言うのもあまり嬉しくないのかも・・・」
「なにを言っているんですか贅沢なぁ~~~」
「ああぁ、そうだ、そうだ有名でお前ほどの男なら女を取っかえ、引っかえできるだろがぁ」
「ばっ、馬鹿言うな、俺はそんなつもりは全然ない」
「ノーツ、アルエディーはそちらのほうは鈍いようでしてねぇ・・・」
「なあぁ~~~んだぁ、レザ、おめぇといっしょじゃねえぇか」
「オッホン、ノーツ余計な事を口にしないでください」
男三人のやり取りを可笑しそうにクスクス笑いながらアルティアとセレナは眺めていた。
「それでよぉ、アルエディー、あんたいつ出発したいんだ?」
「出来れば、今すぐにでも・・・」
「そないですか・・・、それじゃぁ~~~、行きまっかぁ。あんたらが来る前に船の準備はして置いたぜ」
何もかもレザードのお膳立てで、既に準備は整っていたようだった。故にノーツはそう言葉にすると先に酒場を後にしようとする。そして、アルエディーがテーブルに会計のお金を置くとそれに続くようにその場にいた四人も彼を追った。
† † †
シニストラから出航してノーツが従える十五人の船員と四人の搭乗者は出航した町から南南西にあるグランディシス島に向かっていた。
天候も荒れる事も無く海に生息する獰猛な海王類、クラーケン、テンタクルスやビッグロブスターに遭遇する事もなくながらく順調に航海は続いていた。しかし、出航してから九日目、穏やかだった海が突然、まるでその先の進行を拒むかの様に船が転覆してしまうかもしれないほど海が荒れ狂い、空を見上げれば澄み切った青空が灰色の雲に覆われ豪雨となり雷鳴が轟き始めた。
船室にいたセレナもアルティアもレザードも激しい船の揺れのせいで真っ青な顔つきになる。三人は始めて船酔いを体験したのだ。
そんな中、アルエディーとノーツだけが体に確りとロープを巻き付け激震する甲板に立ち、
「おいっ、アルエディー、本当にこの海、渡れるんのかぁっ‼」
「心配ない、少し待ってろっ!」
アルエディーは揺れる甲板の上で道具袋から紅玉色の様な宝石が埋め込まれた道具を取り出しそれを天に向かって高々と掲げた。そして、その宝石が赤く輝きだし一筋の光が彼らの前方へ向かって伸びて行く。すると今までの荒れ様が嘘の様に鎮まり返り、穏やかな海へと戻っていた。ノーツが澄み切った水平線を確認した時、驚愕の表情を浮かべた。
「おいっ、アルエディー、もしかしてあれがっ」
「そうだ、あれがグランディシス島だ」
既に目と鼻の先、眼前にその島が見えていたのだ。それから20ヌッフ程でその島の港らしき所に到着した。その場所に停泊させると彼等が来る事を分かっていたかのように幾人かの島の住民が出迎えに来ていた。
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