第二章 天空へと到る道

第九話 激闘、天雷将軍!

 アルエディー達はエストの町からディクス王国道を通り、商業都市リベラ、ナーフ王国道を経由してサイエンダストリアル共和国を目指していた。南部からの侵攻に対して軍を動かし始めたメイネス帝国。そのためファーティル王国内の帝国の活動は元王国騎士の予想通りに停滞していた。その所為もあって共和国、国境の町ベスタル付近までの道のりで帝国兵と遭遇する事は殆ど無かった。その代わり、泊まる町々で異形の怪物たちと対峙していた。異形の怪物との遭遇頻度はひにひに増してゆく様だった。だが、しかし、レザードもアルティアもアルエディーと共によく戦ってくれていた。そして、何よりもセレナがいてくれたお陰で、市内地で闘う羽目になっても住民に死傷者は出なかった。

 エストの町から旅立って総移動距離2418ガロット、日数9日間をかけベスタルに到着したのは獣連の月から季節を移し、初夏の始まりの怪爽の月、第1週目の夜だった。

 一行はベスタルの町に着くと直ぐに宿を取り、旅の疲れを癒すために遅い夕食を摂り終えたあと軽く話して直ぐに就寝する。

 翌朝、朝食を食べ終え、アルエディーが独りで出発の準備をし始めた頃、彼はけして油断をしている訳ではなかったのだがその町に駐屯していた帝国兵に見つかり囲まれてしまっていた。

「アルエディー、これはいったいどう言うことです!?」

 宿から出てきたレザードは声を荒立て目の前にいる騎士に向かって罵声を浴びせ、そしてその声を聞いた宿の玄関口に居るセレナもアルティアも顔を出してきた。

「わっ、帝国兵さんがいっぱいいます!」

 広げた小さな手を口元に当てその少女は驚いていた。

「アル様、ご無事なのですか?」と場の状況を良く理解していないのか冷静に彼に尋ねる天然な聖女。

「油断していた訳じゃないけど、しくじっちまった」

 宿の周りを囲むように100人以上にも及ぶ帝国兵がそこへ詰め掛けていた。

「よぉ~~~しっ!こ探索探知器けの人数が集まればたとえ相手があの男でも負けないはずだ!者どもいけぇーーーっ」

 隊長と思われる兵がそう高々と声を上げる。が、しかし、他の兵は剣を構えているだけであって、その声に従おうとしなかった。

「何をしている早く行けぇーーーっ!」

「しかし隊長、将軍殿はただ探すだけでいいと言っていたと思いましたが。そっそれに相手は一騎当千ならぬ、一騎当万のアルエディー千騎長殿であります」

「俺に意見するなぁっ、それは奴が、馬に乗っているときだっ!地上にいる奴など、恐れることなんかなぁ~っい!将軍が何だっ!!あの男を捕らえれば一生働かなくてもすむ賞金がもらえるのだぞ!そして手柄はわしの物、くっくっく」

 狡賢そうに笑う隊長の目に兵士たちは冷ややかな視線を向けた。

「何だぁーーーっ、貴様らその目は早く行かないとこの場で俺がお前達を処分するぞっ」

 その言葉に嫌々そうに下級兵たちが動き始め様としたその時、怒涛のように一人の将軍が現れた。

「貴様らぁ~~~っ、いったいここで何をやっているぅーーーっ」

 とんでもない怒声で周りにいる自国の兵にそう言い放つ、その男は?

「おっ、オスティー将軍殿、はっ、ハイ、アルエディー千騎長殿を見つけた所存です」

 そして、その将軍の問いに隊長ではなく下級兵が敬礼しながら答え、

「ちっ、探すだけでいいと言ったはずだ・・・・・・しかし、見つかっちまったものはしょうがない。ウィストクルス元帥には悪いがアルエディーと一度戦ってみたかったからな」

 兵士を掻き分けその大柄で朗らかそうな将軍はアルエディーの前に立ち腕を組みその目の前の騎士を見据えた。

「将軍とは・・・、とても偉い人が出てきてしまったか・・・・・」

「我はウィストクルス元帥閣下が配下、天雷将軍のオスティー・ノトスだ!」

 帝国の一将軍は張りのある大きな声でアルエディーに向かって、己を示し、

「元王国千騎長アルエディー・ラウェーズだ!俺を捕らえてなんとする!」

 オスティーに対抗するように同じくらいの声を張り上げ、その将軍に返すその騎士。

「しらねぇよっ、上からの命令で捕らえて来いって言われただけだからな。だが・・・、もし俺との一騎討ちの勝負で勝てたのならお前が共和国内でどう動こうが俺の軍は目を瞑ってやってもいいぜ。さぁーーー、どうする?」

 眼前の強敵と戦いたくてうずうずしているその将軍はそう条件を付け決闘を申し込んできたのだ。

「クッ、ウィスの配下と戦わなくてはいけないなんって」

「アルエディー、何を迷っているのです。それでも三国に名を轟かせた人なのですか!」

 騎士の隣に立っていたレザードは躊躇しているその彼に向かって強くそう言い放ち、決闘を申し受けるように促したのだ。

「分かった・・・、レザード、セレナとティアちゃんを宿の中へ下げさせろ、そしてお前も・・・」

「了解」

「アル様、なにを言っているのですか!」

「お兄ちゃんやめてよ、アルエディー様を止めないと!」

 その場に留まろうとした二人をレザードは強引に宿の中へ押し込めた。

「二人ともアルエディーなら大丈夫でしょう彼を信じてあげることです。頑張って下さいね。健闘を祈っています」

 そ言ってレザードもまた宿の中に入って行くのだった。

「準備は出来たかアルエディー」

 オスティーは獣人化し肩に柄の長い巨大な両刃の戦斧を抱えながら騎士を眺めていた。

「待て、俺はまだ自分の武器を出してないんだぞ」

「おお、失敬、失敬。待ってやるから早くしてくれよ」

 オスティーの言葉を聞いてから彼に向けてアルエディーは両手を突き出し、

「・・・、アァーーームド」と叫ぶ。

 アルエディーのその言葉と共に大剣がその場に姿を晒したのだった。それを見たオスティーは驚愕しながら騎士に言葉をかけていた。

「なんか便利そうだな、それ」

 アルエディーは彼の言葉に耳を貸さず、心の中で精霊王と対話していた。

〈デュオ爺、久しぶりにお前の力を貸してくれ〉

〈ほぉーーー、あのような小物に本気を出すつもりか?まあ、いいじゃろう、久しぶりにお前の持つ魔力を食らい尽くしてやるワイ。戦いが終わった後どうなっても知らんからな〉

〈俺が勝てば向こうはもう手を出さないって言っているんだ。だから俺が勝てば何の心配も入らない。それに将軍ほどの相手に全力で掛からなければ失礼だろ?騎士道違反だ!〉

 大剣を握ったまま黙っているアルエディーを不思議に思って将軍が声を出していた。

「何だぁ~~~、お前、やる気あるのか?」

「*********、デュオラムス、俺の剣の力となれ!」

 アルエディーがそう口にすると左手の手袋の精霊石が輝きだしそれと呼応するように大剣の鍔に埋め込まれている精霊石もまばゆく輝き始めた。

「オスティー将軍、無駄に時間を取らせてしまった・・・、いざ尋常に勝負されたし」

「オウ、望むところだ!うをぉーーーー行くぞぉーーーーーーーっっ!!!」

 気合と共に初めに踏み出してきたのはオスティーの方だった。巨大な斧を持ち巧みにそれを旋回させアルエディーに襲いくる。

「ハアァッーーーーッ、一撃で終わらせる!」

 アルエディーもまた気合と共にオスティー、目掛けて突進。

「ナマイキナッ!!」・・・・・・・・・・・・、決着は一瞬にしてついてしまう。

 アルエディーの大剣とオスティーの巨大な戦斧が激突するとその衝撃で物凄い音が出るはずだと周囲にいる兵士達は誰もがその様に予感していた。しかし、戦斧が大剣に触れると意図も簡単に砕け散り、オスティーがそれに驚いた瞬間、アルエディーは返す刃で将軍に一撃を加えた。闘気を込めた大剣にオスティーは7ロット近くも吹き飛ばされ、そこにいた帝国兵たちを押しつぶし気絶をしてしまった。

 そして、その場にいた帝国兵は恐れおののき、一歩も動く者はいなかった。それから、約12ヌッフの時が刻まれると気絶していた将軍が獣人化から解けた状態で目を覚ます。

「いやぁ~~~、参った、参ったぁ。獣人化している俺がこんなにあっさりとやられちまうとはな。おぉおぉ~~~お前らよかったな。こんな奴と正面、斬って戦わなくて。普通だったらあの世逝きだぁ~~~、わっはっはっはっ」

 オスティーは自分の部下たちに大声でそう笑い、そして、それを聞いた兵士たちは苦笑する事しか出来なかったようだ。

「オスティー将軍!約束は守ってもらえるんだなっ?」

「もちろんだ、将軍の名に掛けてそれは守らせてもらう。おらっ、おらぁっ、者ども退くぞぉ、ホライケイケッ」

 その将軍の言葉に従うように一斉に宿屋の周りを囲んでいた帝国兵が散開して行く。戦いが終わった事を感ずいたアルの仲間たちは宿屋を飛び出し、彼の元へ駆け寄ろうとした。しかし、それとほぼ同時にアルエディーは地面に崩れ落ちて行く。

「アル様ぁーーーっ!」と騎士の名前を叫びながらセレナは彼に駆け寄り地面から起こす。

「アル様っ確りしてください!!」

 抱えた彼を揺すってそう呼ぶがその騎士は何の反応も示さなかった。

「いやぁ~~~これはまったくすごい魔力の放出ですねぇ。相当の力を使ったのでしょう」

「わぁ~~~本当だぁ~~~この魔力の量だとお兄ちゃんより凄いんじゃないのかなぁ?」

「セレナさん、彼は今、魔力の使いすぎで眠っているだけですから早く宿の中に入って休ませましょう」

 レザードはそう言ってセレナからアルエディーの手を引きそれを肩に乗せ歩き出す。

「ティア、引きずってでもいい。そこに転がっている大剣を持ってきてくれ・・・」

 彼は妹にそう言うと返事も聞かず宿の中へと入って行った。


◇   ◆   ◇◇   ◆   ◇


 アルエディーと一戦交えた後、オスティー将軍は直ぐに転送方陣を使って本国に戻り、

「ウィストクルス元帥閣下、オスティーただいま帰還した!」

「どうしたのだオスティー将軍、そのようにあわてた様子で?」

「アルエディー千騎長、その男と一戦交えちまった・・・・・・」

 その言葉を聞いてウィストクルスの表情が変容し、握った拳を強く机に叩きつけ、その勢いのまま立ち上がって、

「オスティー、きっ、貴様ッ!アルに手を出したのか!?」

「わっわっわっ、元帥そんなおっかねぇ~顔しないでください。あっさりと負けちまいましたよ」

「そっ、そうか・・・、それで彼は今どこにいる」

 平静を取り戻し彼はそう将軍に尋ね、

「あぁ、今、共和国のベスタルの町、中央の大きな宿屋にいる。暫くはそこにいるんじゃねぇのか?わかんねぇけど」

「分かった。オスティー、もう下がっていいよ」

「なあ、元帥。元帥は本当にあんな化け物じみた男と渡り合えるのか?」

「彼をそんな風に言うな!・・・・・・・、あぁ、もちろんだよ。彼とは三国闘技大会で優勝を争っている。それはオスティーも知っているでしょう?・・・、でも、彼が私に対してちゃんと本気を出してくれているか分からないが・・・」

「元帥が強いのは俺だって知ってるけどな・・・、やっぱあの男は化けもんだ」

「オスティー将軍、用が無いのなら早く下がりなさい」

「ハイ、ハイ、分かりましたよ。それじゃ失礼致します」

 将軍は元帥に敬礼をしてからその場を立ち去った。

「アルエディー・・・、無事でいてくれたのですね・・・」

 ウィストクルスは首に掛けてあるペンダントを見ながらそう呟き、握り締める。そのペンダントは幼年学校を卒業する時にアルエディーから渡された友の証の印を込めた半分に欠けたペンダントだった。そして、その一対をアルエディーが持っている。


◆   ◇   ◆


 オスティー将軍との決闘から約半日、アルエディーは三人の仲間に見守られその中で目を覚ました。

「みんな心配、掛けたようだ、悪い」

「アル様、私とても心配したのですからね・・・」

「だから悪いって・・・」

「まあ、まあ、セレナさん、無事目を覚ましたのだからアルエディーにそんな心配そうな顔しなくても」

「そうだよ、セレナおねえちゃん、こういう時は笑顔で向かえなくちゃ!」

「ふふっ、そうですね」

 アルティアの言葉に笑顔を作り微笑ましい笑い声を口にした。

「俺こんな状態になっちまったけど、将軍に勝てたから暫くは帝国の追っては無くなるはず。だから少しは気楽に旅が続けられると思うぜ」

 その騎士はにこやかの表情でその場にいる三人にそう告げたのであった。

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